私たちは長崎にいた
永井隆(編著)
/アルバ文庫
作品情報
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原子野に残されたものは、灰とわずかに生き残った者たちと、その心に深く刻み込まれた「ひび」だった。命をながらえた者は生き残ったがゆえに、「私は隣人を見殺しにした」、「私は仕方なく盗みをした」といった、生涯消えることのない心の痛みを抱え、さらにはこの「私」を「彼」に置き換えた記憶も引きずることになる。
本書は、死の間際にある永井博士が編者となり、生存者の壮絶きわまりない体験で構成された「平和への叫び」である。
証言者の中には、博士の2人の子も含まれ、妹カヤノの感想は、お母さんも一緒に天に昇ったのだから「原子雲は、あんなにきらきらと美しかったのです」で結ばれる。
一方、兄誠一の話は、次の一節で締めくくられている。「刀をふり上げてぼくを切ろうとする人から、刀をもぎ取るもよいが、刀を持たせたまま、柔らかく胸に抱きこむ勇気と知恵を、ぼくはほしい」
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商品情報
- シリーズ
- 私たちは長崎にいた
- 著者
- 永井隆
- 出版社
- サンパウロ
- 掲載誌・レーベル
- アルバ文庫
- 書籍発売日
- 1997.02.01
- Reader Store発売日
- 2015.05.16
- ファイルサイズ
- 38.5MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 5.0 (1件のレビュー)
-
(2014.08.12読了)(2013.06.28購入)
「原爆生存者の叫び」
「長崎の鐘」の著者永井隆さんが自分の娘や息子、近所の人たちに原爆投下前後の話を聞いてまとめたものと思われます。生々しい体…験が綴られています。
原爆の光を直接浴びた人たちは、一週間ぐらいの間にほとんどなくなっていますので、この本に収録されている人たちは、たまたま出かけていたとか防空壕に逃げ込んだとかで、原爆の光を直接浴びることを免れた人たちです。
とはいえ、家の下敷きになったとか、爆風で壁にたたきつけられて負傷したとかで、すぐには動けなかった人たちもいます。
原爆投下の後には、火事が発生したり、油のような雨が降ったりで、このために亡くなったり、後遺症のもとになったりということもあったようです。
原爆で吹き飛ばされたり、火事で焼かれたりで、多くの方がなくなっていますが、どの遺体又は遺骨が誰のものかの識別が難しく、遺体のとりあいになった事例もたくさんあったとか。
助かった方たちは、しばらくは、また、原爆投下があるのじゃないかということをおそれて、原爆投下の現場を見に行くのは見合わせたようです。そのために、身内や近所の方をすぐ介抱してあげることができなかったと悔いている方もいます。
とはいえ、ある程度時間が経ってからは、肉親がどうなっているかを確認しに行かないわけにはいかないので、放射能が濃厚に残っている現場に足を踏み入れて捜し歩くわけですので、ある程度の放射能は浴びてしまうことになります。
原爆投下直後は、命があった人達でも、原爆の光を直接浴びた人たちは、数日のうちに亡くなってゆきます。生き残った人たちは、亡くなった人たちの遺体処理をしないといけないし、自分たちの住むとことを確保しないといけないことになります。
原爆投下が8月9日ですが、8月15日には、ポツダム宣言の受諾が発表されていますので、とりあえず、空襲の心配がなくなって、ほっとするとともに、原爆投下の前に戦争が終わってくれていたら、ということも思われたようです。
「原子雲の下に生きて」永井隆編、とともに、この本は、読むことをお勧めいたします。
【目次】
序文 田中澄江
原子戦争がもし起これば 永井隆
永井カヤノの話
永井誠一の話
松本フジエの話
浦田タツエの話
森内マツさんの話
森山貞子の話
浦田礼子の話
深堀悟の話
ひび 永井隆
石も叫ぶ 永井隆
編著者紹介
●原爆投下後(35頁)
間もなく谷の下の方から、川沿いの道を、ぞろぞろと行列が上ってきました。それは鳥の丸焼きの行列でした。時々「水を……」などと言うので、鳥ではなくて、人間の丸焼きだと知りました。
●山里小学校(38頁)
十月のある日、僕は学校へ行ってみたら、先生が三人と生徒が三十人ほど集まってきました。先生が二十五人、生徒が千二百人死んだとのことでした。先生がもう一人と、生徒が三百人ばかりは、怪我をしたり、原子病で寝ているのでした。僕の組は六十人ばかりいましたが、来ていたのは四人でした。あまり少ない人数なので、先生は声が出ず、お互いに顔を見て、礼をして別れました。
●残留放射能(74頁)
人々の噂によると、浦上の焼跡を南から北にぬけると三マイルありますが、それを歩いて通っただけで下痢が起るとのことでした。死体を沢山片づけると、ひどい目にあって、下痢をしたり、血を吐いたりの、重い病気にかかるそうです。
●浦上は火の海(100頁)
三十分以上たってから、一人の青年が、浦上の方から、よろよろと上ってきました。シャツもズボンもずたずたにちぎれ、顔も胸も両手も皮がペロペロむけ、全身に土ぼこりを被ったのか、まっ黒でした。その黒いほこりの上に、赤い血が流れていました。
●畑で(105頁)
畑へ出て働いているところを光に射たれたとのことでした。あの光に射たれると、服も皮も一瞬に焼け焦げ、次に来た爆風でぼろぼろとちぎれて、吹き散らされてしまった、と言いました。
●善人(148頁)
「あたしたち生き残ったものは、よほど神様から愛されていたのね! 自分では別に善人と思っていなかったけれど、特別な恵みをいただいて、無傷で助かったのだもの……。あたし、うれしいわ。焼き殺されたり、今死にかけて苦しんでいる人たちは、よっぽど神さまの怒りに触れたのでしょうね?」
●原子戦争(154頁)
これまでの戦争は、どんなに激しくても、人間が隣人の生命を尊び、死体を大切に取り扱いました。むしろ、戦争のときに、隣人愛は平常よりも美しく輝いたものです。ところが、原子戦争は事情がまったくちがいます。―死人があまりにも多すぎます。ごくわずかの生き残りでは、まったく手が出ません。
●妊婦は(161頁)
「このあたりの妊婦で助かった者は、ほとんど皆、流産か早産よ。原子爆弾は、腹の中の赤ちゃんまで殺すのかねえ! ひどいものです。」
●トンボ取り(174頁)
向こうの砂の上に、子どもが四人倒れていました。さっき大喜びでトンボを取っていた、藤田君、西沢君たちでした。これも真っ裸にされて、皮が引き裂かれて、はがれていました。手の皮が、ちょうど手袋を裏返しになるようにぬいでいって指先のところで止めたように、くるくるっとひきむかれて、爪のところでひっかかり、わずかに付いているのを見て、ぞっとしました。
●防空当番(188頁)
あのころは、六十歳以上の老人と、小学生以下の子供と、病人と、赤ちゃんのあるおばさんたちだけが、防空責任がなくて、どこへ行ってもよかったのです。あとの元気な大人は、男も女も、自分の家に踏みとどまって、町を守らねばなりませんでした。
☆関連図書(既読)
「長崎の鐘」永井隆著、中央出版社、1976.06.20
「この子を残して」永井隆著、アルバ文庫、1995.04.20
「原子雲の下に生きて」永井隆編、アルバ文庫、1995.08.25
「明日―1945年8日8日・長崎」井上光晴著、集英社文庫、1986.07.25
「ナガサキ消えたもう一つの「原爆ドーム」」高瀬毅著、平凡社、2009.07.11
(2014年8月15日・記)
(本の表紙より)
原爆は、一瞬のうちに、すべてを奪い去ってしまった。残されたものは、灰とわずかの生き残った者と、そして心の中に深く刻み込まれた「ひび」であった。
生き残った市民一人ひとりは、「私は彼を見殺しにした」、「私は生きるために盗みをした」といった、生涯消えることのない苦しみを背負っていたのだった。
本書は、自らも被爆した永井博士が、死の間近でありながらも、生存者とともにつづった、全世界に向けての「平和への叫び」である。続きを読む投稿日:2014.08.15
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