百年前の日本語 書きことばが揺れた時代
今野真二(著)
/岩波新書
この作品のレビュー
平均 3.1 (23件のレビュー)
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明治期日本語の"虫"瞰図
サブタイトルに「書きことばが揺れた時代」とあります。これを見ると、百年前≒明治期に、それまで安定していた日本語の書きことばが「揺れた」という本なのかと思います。しかし読んでみると話は少し違っていて、そ…れまで揺れ続けていた日本語表記が標準化に向かったのが明治期だったということです。
明治より前の日本語では、漢語は外来語であると(今よりかは)強く意識されていました。それがますます和語に溶け込んでいくのが明治期以降の流れで、ほかにも印刷物の普及や、学校教育による標準化で、現在の書きことばが出来上がっていく様子が描かれています。むかしは崩し字の活字まであったとか、トリビア的な要素も多くて楽しめます。
本書で少し気になるのは、とにかく事例が多く取り上げられているのですが、それらを総括して大きな流れを考察したりするところが少ない点。著者もあとがきで、自らの研究スタイルを「虫瞰」と称しています。ワタクシ個人としても、やたら声高だったり大風呂敷を広げるスタイルより、事実に語らせる「虫瞰」スタイルが好みですが、一般向けの新書であるので、さすがにもう少し説いて聞かせるようなアプローチでもよい気はします。続きを読む投稿日:2014.01.06
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このレビューはネタバレを含みます
今から約100年前の日本語は、現代の日本語と比べどのような相違点があり、現代に至るまでにどのような変化を遂げてきたかを、明治期の日本語をもとに述べられている。また、副題にある「揺れ」というのは「豊富…な選択肢があった」ことを意味しており、この時代の日本語はこのように称される通り、手書きによる一つの文章の中で書体が混在したり(夏目漱石『それから』の自筆原稿が具体例として挙げられる)、外来語に対する表記の仕方に対しても様々な選択肢(漢字をあてて書くか、仮名で書くかなど)があった。しかし現代においてそれらの「揺れ」は見られず、むしろ様々な選択肢を内包していた表記体系は排除され、一定の規定(平成3年に内閣告示された「外来語の表記」や、平成22年に同じく告示された「改定常用漢字表」など)のもとに成り立っている。明治期の日本語を具体的に様々な用例から推測し、どのような変遷をとげて現代に至るのか、そのルーツをたどり現代の日本語のすがたを改めて見つめ直すことを目的とした内容になっている。
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明治期の日本語は様々な選択肢を内包していたという点についてだが、それは漢字の字体や書体、語形やその書き方においてにまで及ぶ。例えば、手書きのみならず活字においても、楷書体・行書体・草書体が混在しており、これは明治期の活字印刷において手書きの文章を印刷においても再現しようと意識されていたことが示されている。室町時代末期から江戸時代初頭にかけて行われた「古活字版」は、手書き文字を精密に再現しようとした技術がみられるが、それらの意識は明治時代までも受け継がれており、現在の「印刷されているように手書きする」(本書、p.2)といった印刷物を手本の文字として捉えている考えとは正反対のものであると考えた。また、外来語の書き方においても明確な規定はまだ無く、様々な方法(外来語に漢字をあて、片仮名による振り仮名を施す方法や、片仮名のみで書かれたものがあった)でそれらを書き表しているが、一つの文章の中で書体が混在しているように、外来語の書き方においてもそれは同様に行われることを学んだ。続きを読む投稿日:2022.02.16
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