
総合評価
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powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
「読後感」という言葉があるように、物語を読み終えた後には様々な感情が渦を巻く。爽やかさ、悲しみ、怒りなど、感情的な余韻が残ることが多いが、本作品を読み終えた私は、何より「小説っていいな」という気持ちになった。 エミルとジョアンヌの旅は下巻に入っても止まることなく続いていく。新しい土地、新たな出会いを重ねる中で、私も彼らと同じように新鮮な気持ちと高揚感を味わった。しかしそれと同時に、エミルのブラックアウトの回数も増えていく。当初は混乱し、パニックを起こしていた彼も、次第にその現象を受け入れ始める。その姿がとても寂しく、切なく映った。 彼の目で見た風景、肌で感じた温度、ジョアンヌや旅先で出会った人々との思い出は、ジョアンヌと読者の記憶として確かに残っているのに、当事者であるエミルの中からは消えてしまう。その現実が痛ましく、やるせない。そんな中、最期の記憶として彼のそばに居続けたのが家族だったことに、深い愛の存在を感じた。 下巻で最も印象に残った場面は、エミルがジョアンヌに「なぜ指輪を二つはめているのか」と問いかける場面。彼女の探るような、誰も傷つけないやりとりと、彼の純粋な言葉が切なくも愛おしい。この場面を最後に、彼の中から「ジョアンヌ」という人物の記憶が消えていく。彼女のそれを受け入れる覚悟と、彼に対する深い愛情が、あの短いやりとりに凝縮されていたように思う。 二人は一旦別々の道を歩むことになる。けれど、エミルにはトムが、ジョアンヌには生まれてくる子どもと旅の中で出会った人々が寄り添っている。だから、きっと寂しくはないだろう。 二人が見た景色、紡いだ思い出は、私たち読者の記憶の中に蓄積されていく。それによって、私自身も彼らの旅の同行者になれたような気がした。
0投稿日: 2025.11.12
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ベタなプロットではあるが、邦画によくある「お涙頂戴モノ」とは一線を画す物語に最後まで魅了され続けた。 最後、ジョアンヌはエミルと心中するつもりで山に入ったはず(違うかな…?)だが、その心中の変遷が描かれていない。 レオンとその両親は究極のヒールであるが、…
0投稿日: 2025.11.08
powered by ブクログ今年の読書体験ベスト1は「両京十五日」かと思っていたが、違った。この本が暫定1位になった。なんと美しく、愛おしい物語だろう。圧倒された。 エミルは26歳。若年生アルツハイマーにかかり、余命2年を宣告されてしまう。 残りの人生を医療機器に繋がれ、家族の負担になって過ごしたくないと考えたエミルは、家族にも告げずキャンピングカーで旅に出て、1年で60年分の経験をしようと決心する。 ただ、自分の身体のことを考え、同行者が必要だと思い、ネット掲示板に「最後の旅」の同行者を求める投稿をする。誰からも反応はないだろうと思っていたところ、ジョアンヌという29歳の女性からそれに応じる旨返事が来る。 エミルが半信半疑で待ち合わせ場所に向かうと、そこで待っていたのは大きな帽子を被り、くるぶしまである黒いロングワンピースを着て、大きなリュックを背負った、表情が乏しく口数の少ない小柄な女性だった。 ぎごちない会話を交わしながら旅を始めた2人が向かったのはピレネー山脈だった・・・。 人生の終わりに向かうエミルと、人生を先に進めようとしているジョアンヌの物語が、美しいピレネー山脈の風景を背景に進んでいく。スマホもネットもない世界での2人の生活は、心のデトックス。 Googleマップで2人が訪れた地をひとつずつ検索し、ストリートビューや写真で彼らが見たと思われる風景を辿りながら読み進めた。そうせずにいられなかった。読んでいて、2人にこの時間をいつまでも過ごさせてやりたいとさえ思った。 少しずつ消えながら人生に別れを告げるつもりだったエミルだったが、ジョアンヌと旅を続けるうちに再び毎日が輝き始める。だがそれが生への執着を甦らせ、逆にエミルを苦しめることになってしまう。 やがて2人は気づく。過去は忘却の彼方へと去り、未来も残されていないエミルにとって、心の平安を得るには「今」を生きるしかないことに。でも、これって結局のところあらゆる人間に当てはまることではないだろうか? 人生と死を正面から見つめる物語。 ラストには暖かい涙が流れた。
0投稿日: 2025.11.05
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本の中には度々瞑想やマインドフルネスをしてみる場面が度々あったが、私もこの本を読んでいると深く息ができるような、瞑想状態にあるような不思議な感覚を味わうことができた。 恐らく風景の描写が本当に綺麗で目に浮かぶようで、心を穏やかにすることができたのだと思う。 すごくすごく美しくて、悲劇的で、でも泣きながら笑顔になるような作品だった。 1番好きなシーンは、エミルが恐らく最後に落ち着きを取り戻して、微笑みながらジョアンヌの結婚指輪をいつまでもくるくる回すシーン。 なんだか愛を感じてしまって、このシーンを思い出すと泣いてしまう。
0投稿日: 2025.11.02
powered by ブクログティッシュ一箱いりませんでした だけど、ポケットティッシュぐらいは使ったかもしれません 本作は決して悲しみの涙だけの作品ではありません 悲しみを上回る温かさや優しさをあたえてくれる作品だと思います なので、ティッシュも一箱ではなくポケットティッシュでいけたのかもしれません 上巻から始まったエミルとジョアンヌの「最後の旅」 最初はぎこちなかったふたりだったが、旅を続けていくうちに互いに心を開いていくようになる 自分自身を見つめ直し、さまざまな出会いとともに心の安らぎを取り戻していくふたりだが、非情にもエミルの病気は進行していく また、ジョアンヌの悲しい過去も明らかになる そんな中、物語は「生きることの意味」「生の素晴らしさ」を伝えようとしてくる 「死」から「生」へ、「過去の悲しみ」や「未来への不安」から「今この瞬間の幸せ」へと そして、物語はクライマックスへと向かっていく (ここからはポケットティッシュが必要だろう) 余命2年と宣告されていたエミルは楽園から旅立つ エミルにはエドモン・ジャベス(フランスの詩人)が残したこの言葉を贈ろう 『真の旅立ちの前にはどんな言葉もいらない。』と そして、ジョアンヌはエミルが残したプレゼントと共に人生という偉大な旅を続けるであろう もうこれ以上は書かない! あとはティッシュ片手に本書を読んでください。゚(゚´Д`゚)゚。 箱ティッシュかポケットティッシュかはあなた次第です!
63投稿日: 2025.10.29
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今年読んで良かった本、間違いなく堂々1位です。 下巻で変わっていく、主人公エミルとジョアンヌの関係性。 旅先で出会う人々との交流。 少しずつ明らかになっていくジョアンヌの過去。 そして号泣した最終章とエピローグ。 全てが良かった。 私にはジョアンヌのような優しさや強さはないけど、妊娠出産育児で自分自身と重なるものがあり、 息子のトムが、私の自閉症息子と重なるものがあり、ジョアンヌと一緒に喜んだり、泣いたり、怒ったり、すごく感情移入してしまいました。 トムの髪の毛を勝手に切ったシーンはめちゃくちゃキレました。健常の子では何ともないことだけど、自閉症の子にとってはおおごとなんですよね。 ジョアンヌの父親は専門家でもないのに、自閉っ子の接し方の本質みたいなのを分かっていて、本当に賢い人だったんだろうなと思います。 ジョアンヌ、ラスト3ページでびっくりしたけど、最後の最後まで、よくエミルを支えたね、頑張ったねぇ…(泣) どうか幸せになってほしい。もう、一人ぼっちじゃないはず。
1投稿日: 2025.10.18
powered by ブクログ読み応えがありそうなページ数なので、 数日に分けて…と思っていたら物語に引き込まれて一晩で読み終えてしまいました。 瑞々しい風景の描写、懸命に生きる人々の美しさや愛。旅先で出会うひとの暖かさ。 私の琴線に触れました。彼らの旅に自分も加わっているような、そんな錯覚を覚えます。 エミルの生きた軌跡を読んでほしい。 記憶を失っていくエミルのそばに居続けた ジョアンヌのことを知ってほしい。 エミルは記憶を失っていきつつも、ジョアンヌに大きな力を与えた。それはジョアンヌの希望となり生きる糧となっただろう。願わくばジョアンヌが幸せに暮らしてほしい。読み終えてそう思いました。
1投稿日: 2025.10.13
powered by ブクログ私、なんて意味のない人生を送ってるのでしょう。 【人間讃歌は勇気の讃歌ッ!人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!!】 パソコンとにらめっこしてるあなた。 メンタルやられてるあなた。 注射が怖いあなた。 今すぐ読みなさい。読み終わる頃には、あなたの戦闘力は53万になるでしょう。
4投稿日: 2025.10.10
powered by ブクログお互いに何も知らない二人が始めた旅。 初めて訪れる数々の場所。大切な人たちとの出会い。素晴らしい景色。味わったことのない感動や震えるほどの不安。愛情や共有。生や死への思い。 全てを通して、エミルとジョアンヌは変化していく。 お互いが巡り合ったことは、まさしく運命のようなものだったのだろう。 過去や未来に囚われず、今を生きること。 読み続ける中で、二人の幸せをただただ願い続けた。
0投稿日: 2025.10.05
powered by ブクログ下巻に入っても2人の旅は続いている。が、エミルの病状が進行して、失神やブラックアウト(記憶喪失)が頻繁に起きるようになる。そのため語り手はジョアンヌに引き継がれ、合間に彼女の過去が明かされていく。これが絶妙にうまい。登場したときの不審な様子や、そもそもなぜエミルと旅に出たのかに説得力を与えている。 2人ともに喪ったものがあり、それが旅を通して癒やされていく。大いなる喪失と再生の物語を、大好きなロードノヴェルという形で読めてとてもよかった。エピローグのサプライズにも涙が溢れた。 本年度のベスト入りは間違いない。
2投稿日: 2025.10.02
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「もっとも悲劇的な旅立ちは、結局はなされなかった旅立ちである」 たとえそれが終わりのための旅立ちであったとしても、その旅の終わりに必ず悲劇が訪れるとしても、それでも 最期まで生き続けるための旅立ちだったんだな。 若年性アルツハイマー。20代でその宣告を受けるという絶望。 夢も希望も失って、ただ二年という余命を治療に費やすという選択もある。けれど、それってなんのため? 家族であれば一日でも、一時間でも長く生きて欲しいと願うだろう。たとえ、病院でたくさんの管につながれた命であったとしても。 けれど、それで生きていると言えるのだろうか。一日、一時間の延長のために、何十何百何千という時間を費やすのか。 エミルの選んだ道は、家族にとってはある意味裏切りなのかもしれない。勝手な選択だと、責めたくなるだろう。 けれど、自分の残りの人生を、自分で決める自由は、誰にでもある。 病院で一日の延長を待つより、たとえ二年より短くなったとしても、自分の時間を自分で生きるために旅立つ自由を選びたい、だってその旅は命の始まりへと続くのだから、きっと。 エミルの最期の旅の同行者、ジョアンヌもまた、旅を必要としていた。 二つの魂が出会い、二つの旅が重なったのは、必然。 「世界ではいつだって、誰かが誰かを待っている」のだから。 長くて短い二人の旅をずっと一緒に感じていた。 青い空と、青い海。いつか終わるその旅を私も共に走っていた。 そばで苦しみ、そばで悩み、そばで笑った。かけがえのない時間をありがとう。 つながっている。空も海も。はてしない青が。こんなに悲しくうれしい最期をありがとう。 私の大切な人たちもそこにいるから、きっとみんなで楽しめると思うよ。 あおい世界で永遠の旅を。
5投稿日: 2025.09.18
