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総合評価

116件)
4.1
30
57
23
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    猪口艦長が私の地元の出身なので、なんとなくの興味で読んでみました。 戦艦武蔵については名前を知っている程度で、建造の経緯や実像については全くと言っていいほど知りませんでした。 本書を読んで、想像をはるかに超える壮絶な歴史に今は少し放心です。 特に驚かされたのは、現在では誰もが一度は耳にしたことのある武蔵や大和が、当時は終戦までその存在すら徹底的に秘匿されていたという事実。図面の管理や建造現場の目隠しはもちろん、実際に建造に携わる人でさえ全貌を知らされないという徹底ぶりは、考えられないほど厳格で、当時の緊張感がそのまま伝わってくるようです。 後半、武蔵が戦場へ赴き、最期を迎えるまでの展開は息つく間もなく、一気に読み進めました。 敵機からの集中攻撃、戦火の中での判断と猪口艦長の決意、そして沈没へと至るまでの描写は胸に迫り、ページをめくる手を止めることができませんでした。 名前しか知らなかった武蔵に、「実在した巨大な艦」としての姿と、そこに関わった人々の熱い思いが重なって見えました。 だけど、決して美談ではない。膨大な人と労力を費やしてまで建造した武蔵とは何だったのか。。。 少し重たい、読了後の余韻が続いています。

    7
    投稿日: 2025.11.21
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    吉村昭は信頼している作家であり好きな作家の一人である。 本作も期待を裏切らなかった。 記録文学というらしいが、かなり綿密に調べてあり、フィクションというよりほぼノンフィクションの趣である。 武蔵が完成するまでが作品のおよそ七割を占め、残りの三割が実際の戦争での記録になる。この配分がポイントの一つであり、武蔵の完成までは正に「プロジェクトX」の趣きである。日本人の一つのことに取り組む粘り強さと緻密さがよく描かれ、職工たちの平均的な質の高さがよく分かる。 実際の戦争に投入されてからは、割とあっさり書かれている。 海軍上層部が船の諸元性能の情報が漏れるのを恐れるあまり、船を戦闘に積極的には投入せず、ただ停泊させていたり、出撃してもすぐ撤退させてしまう様は滑稽でもある。レイテでの最初で最後になる戦いも一方的にやられるばかりでほぼ役立たずのまま、戦前の国家プロジェクトは終わってしまう。その後の武蔵の艦員の最後も記されているがなんとも無残なものである。 続けて「戦艦武蔵ノート」も読もうと思う。

    17
    投稿日: 2025.08.24
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    戦艦武蔵の建造から沈没までの記録。 当時の技術の粋を集めて、史上最大の戦艦を建造するストーリーはさながらプロジェクトXのようで、困難に立ち向かう技術者達の姿はビジネス書で取り上げられるようなサクセスストーリー。 一方、当時、すでに戦艦の戦力に航空機が代替され始めており、実際に戦場では戦艦武蔵は敵の飛行機による攻撃になすすべなく、沈没。 その最期を知っている後世の我々からすると、前半のサクセスストーリーも少し方向性が違う努力に思えてしまう。 しかしながら、それこそが人間なのかな、と思わせる話。

    0
    投稿日: 2025.07.12
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    戦艦の専門用語と軍役職と名前が詳細に書かれており、固い文面で読むスピードが落ちる。 これだけ莫大な人員、材料を投入し数年の月日を費やして建造した巨艦武蔵、その甲斐もなく人を巻き込んで沈没した運命は、やりきれない悲しさと虚しさがある。

    1
    投稿日: 2025.04.11
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    終始、客観的な視点で物語が進むせいか「何でこんな馬鹿なことをしたんだろ」という感想がまず初めに湧いた。 冷静に後から振り返れば、とてつもない大きな船を造ることには人員もコストも材料も膨大なものになるし、出来たら出来たでまた人員や燃料が必要になり、挙げ句の果てに航空機からの格好の的になって総攻撃を浴びて沈没するという悲惨という他ないプロジェクトのように思えた。

    2
    投稿日: 2024.11.22
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    漁網に使う棕櫚の繊維が誰かに買い占められたことを書き出しに使うのがプロの技。いや、取材の賜物というべきか。 尋常ではない巨大戦艦を造るための苦悩や苦心を書く前半が本書の面白いところ。 だから、竣工した武蔵を海軍に引き渡した瞬間に部外者にとなって、呉工廠を後にする三菱造船所の面々というシーンまでがあれば本書は十分だと感じた。 まあ武蔵の生涯という意味では就役後、撃沈されるまで書かないと落ち着かないというのはわかるが。 そして、設計図を焼いてしまったN太郎の話はやっぱり考えさせられる。 選ばれて極秘任務に抜擢されたものの、最年少なので下働きしかさせてもらえず、その間に同期生は仕事を覚えていく。 それに焦って不祥事を作り出したが、意に反して大事件となり任務にあたった同僚たちは拷問を受けて再起できなくなった人もいるという。 このエピソードを書くからこそ吉村昭だと思う。

    0
    投稿日: 2024.11.11
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    その当時の日本における造船技術の叡智を集めて、秘匿の内に産み落とされた戦艦「武蔵」の生涯の記録です。かの有名な戦艦「大和」の2番艦、いわば次男坊にあたります。 「武蔵」の生い立ちとその後の運命に見る光と影は、世界の潮流にもがく戦時中の日本の姿そのものであり、単なる戦記とは違う凄みを感じる作品です。また、飾り気のない文章で綴られる惨烈を極めた戦闘の描写と乗組員のその後には、心がえぐられます。 否が応でも戦争について考えさせられる、とても悲しい話です。

    0
    投稿日: 2024.10.03
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    戦争をテーマにした吉村昭の小説。 直接の関係者数名以外は家族にも漏らすことを禁じられ、極秘裏に計画を進めた巨艦武蔵の建造に携わった技師や軍人の数年間と、むなしく海に沈んだ戦艦武蔵の悲しい運命。 この虚しさはいったい何だったのかと思いつつ読了した後、本棚に同じ本があったのを見て何とも言えない気分になった。

    0
    投稿日: 2024.08.01
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    1973年第21回菊池寛賞 「戦艦武蔵」「関東大震災」など一連のドキュメント作品に対して 大日本帝国海軍 最後の戦艦(でいいのかな?) 武蔵のその建造から最期までを  記録文学の新境地 解説者曰く 日本人の集団自殺を思わせる 巨大な戦艦を ものすごい技術だと思うのだけど 材料の調達から造船まで愛国心と根性で作りあげてしまうような 狂気に近い当時の状況 進水してからは 建造から戦闘へと記録が変わる 作者のあとがきから 戦艦武蔵の建造日誌を友人から借用したとのこと 建艦に携わった技師が焼却するべきものを秘蔵していたものだとのこと 建造に関わるあらゆる種類の多くの数字が 現場に近い記録から起こされた小説 記録された数字と当時の日本軍の行動から見えてくる 資源、時間、人材の強引な召集 最期は、「退艦用意、自由行動をとれ」 レイテ沖で

    73
    投稿日: 2024.07.31
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    漁具である棕櫚が日本全国から消えるという一見戦艦とは関係なさそうな話から始まり、2/3を建造まで、1/3を進水してからシブヤン海で沈むまでを描く本作。 世界最大の主砲を有する戦艦を建造しておきながら、最後までほぼ出番がなく、雷撃隊の前に海中に没した最期は、戦艦の能力云々の前に、巨艦大砲主義に邁進し、戦略・作戦・戦術レベルで語られる際の戦略レベルでの決断に誤りがあったことが痛いほど伝わってくる。

    1
    投稿日: 2024.05.03
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    太平洋戦争直前、米英日の不公平な軍縮条約は国際連盟脱退につながり、日本海軍が大型軍艦造船に舵を切る。第2号艦として長崎で建造される武蔵を、まず造船大国日本の技術力の面から記述。艦建造の各段階における担当者・作業員たちの群像である。しかし、時代は航空兵力が中心になり、戦艦ではなく空母が海洋戦の主力になると山本五十六大将などが予見していたにも関わらず大型戦艦が建造された。戦隊に編入後はさして活躍することなく米航空兵力によって撃沈される、悪手といえる軍の戦略に翻弄されていく戦艦武蔵の最期は読んでいて辛かった。

    1
    投稿日: 2024.02.27
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    戦争に突き進む心理を描かれたことは、設計構想の話を期待して手に取ったのでだいぶ不意打ちであった。しかし、きちんと練られており面白い

    1
    投稿日: 2024.02.14
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    長崎で建造が始まった第2号艦。その地形や造船に関わる人数を考えるとその存在を秘匿するのは容易ではない。前半は数々の困難を乗り越えて巨艦を完成、引き渡しまで。後半は戦艦武蔵と名付けられ戦線に合流するも時代は航空戦力が主になりその能力を発揮できない。 読みだしたら止まらない。 知っている最後に向けて話は進む。撃沈。 しかし話はまだ続いた。 武蔵沈没の露見を恐れた海軍中枢部は生存者をほぼ邪魔者扱い。内地に送られた者は輸送中に敵魚雷で沈没。生存者はほぼ軟禁状態。 現地に残された者はほぼ全滅。 過酷すぎる。

    4
    投稿日: 2024.01.03
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    2023年11月読了。 「造船小説」ともいうべき内容だが専門的な用語を駆使して衒学的な内容に陥らずに、「人間の営為の行き着く先が科学の進歩や合理性の極地では必ずしもなく、至って間抜けな崩壊になることがある」ということを、戦艦武蔵という巨物を通じて描いていると私は読んだ。 安易な戦争回顧やその逆の安易な戦争批判ではなく、人間を描いているところに凄みを感じる。 61ページ 営業部門としては、長崎造船所が民間企業であるかぎり、第二号艦の建造も一つの受注と考える以外になかった。たとえどのよな重要なかんであろうとも、請負う仕事は、その一つ一つが会社にりじゅんをもたらすものでなければならないはずであった。 →呉の海軍工廠で建造された大和はさておき、武蔵は発注⇄受注の関係で建造された商品である。 133ページ 所員たちには、一つの確信があった。自分たちのつくっているこの巨大な新型戦艦が海上に浮べば、日本の国土は、おそらく十二分に守護されるだろう……と。かれらは、この島国の住民の生命・財産が、自分たちの腕にゆだねられているのだという、強い責任感に支配されていた。そのためにも、かれらは一刻も早く、しかも完璧な姿でこの巨艦を戦列に加えたいという願いをいだきつづけていた。 →結果はどうあれ建造のプロセスにおいてそれぞれの役割を担った人々の気持ちを無視してはいけないと私は思うし、後の世から非難だけしているのは簡単なことだろう。 192、3ページ 呉工廠に転任する梶原監督官から渡辺建造主任宛に出された別れの挨拶文。 建造した船が船台を滑っていく様子を愛児に誕生に準えるのは今も昔も変わらないものですね。 248ページ 「この艦は絶対に沈まない。沈んだ時は、日本の終わりなのだ。国の終わりなら、死んでも一向に悔いはない」そんな論法が、乗組員たちの間に、一種の信仰のような根強さでひろがっていった。 →ファナティックな群衆になった時こそ冷静でいたいと思うがなかなかそれは難しいのだろう。 300ページ 武蔵が沈没する際に猪口艦長が下僚に託した手帳に書かれた戦闘詳報的なメモの一部の抜粋。沈没時を想定して御真影や軍旗を艦外になんとかして持ち出すことがメモされている。命よりも大切な写真と旗ということなのだが、このあたりの心境は当事者でないと分らない感覚ではないだろうか。 306ページ 「調査を進めるうちに、私には、なにか戦艦武蔵が、戦争を象徴化した一種の生き物のように思えてきた。」

    1
    投稿日: 2023.11.19
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    巨大戦艦時代が終焉をむかえる中、最後の巨大戦艦になるのかな。 宝の持ち腐れみたいに、機密にしていた戦艦やけど、いざ、使う時には、もう負け戦確定的… 何か、悲しさ満点やな。 こんな巨大なもの作るのには、その機材を運ぶのも大変で、巨砲運ぶ為に、運ぶ船作らなあかんとか… 巨大戦艦建設の最大の難関は、進水なんか… 武蔵の建造から、沈むまでの話やけど、ほとんどは、戦いまでの話が中心。 実際に、もう時代は、戦闘機中心の時代に移行して、不沈艦と歌われた武蔵建造の帝国海軍の夢と野心は… 何か、神話が一人歩きしてる感じ。 その神話が崩れた時、武蔵本体の運命は知らんけど、乗組員の運命が悲惨… 神話という夢は、いつか醒めるのに… 夢のままなんかムリやのに… じっくりと真実を見て、 じっくりと考えて、 早急に対処する。 戦時の異常心理か知らんけど、ちゃんとして〜

    69
    投稿日: 2023.11.14
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    注ぎ込まれる精神、人命、物資、技術の膨大なエネルギーの壮大さやそこで発露される様々な美しさと、それらが結果的には無意味に浪費されるという、戦争の対照的な両側面を、世界最大の戦艦の建造から沈没までを通じて描いている。

    1
    投稿日: 2023.05.27
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    国を挙げた一大プロジェクト、超大型戦艦武蔵の起工から最期までを克明に記しあげたノンフィクション。 手に余った巨大戦艦が辿る海上での末路は壮絶の一言。60年代にここまで緻密な調査を行い、当時の日本の愚かさやひたむきさを迫力と共に描き、花火のように終わる本作は記録文学として圧倒的な位置にいると感じた。

    9
    投稿日: 2023.03.17
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    巨大戦艦「武蔵」の建設計画から、進水、戦歴、沈没に至るまでの7年間を描いた歴史文学。著者の吉村昭は、軍人や乗船兵でもなければ、造船会社の関係者でもなく、戦時中は少年だった。ある意味「第3者」という立場からフラットな目線で、「戦争に突き進み、敗色濃厚でも戦争を続けてしまう」当時の日本社会に迫ろうとしている。 膨大な人命と物資、金銭と時間を浪費するだけなのに、なぜこのような非合理的な「愚行」が国としてまかり通り、社会に根強く残ってしまうのか。筆者は強い疑問を持っていたのだろう。 実は、本書はページ数の過半数が、武蔵が建造される期間に割かれている。さすがに戦場、特にレイテ海戦における沈没までの正確な記録は残っていなかったのだろう。ただし、一般人(作業員や長崎市民)という視点から見た「武蔵」に対するイメージは緻密な取材に基づいており、大変興味深い。 ・何を作るのか知らされないまま、造船所での過酷な強制労働に携わる作業員 ・造船所がある港を見ることすら許されない長崎市民 ・漁業で使う材料が一斉に無くなり、狼狽する漁師 ・愛着を持って建造した戦艦を海軍に引き渡した直後、あっけなく退去命令をくらう造船会社の幹部 今の時代も、建設現場などでは「国を代表する大プロジェクト」に携わることに対して、技術者や作業員の間でプライドや連帯感は存在する。 身近なところでは、ワールドカップでの熱狂だって似ていると思う。 人々の間で「神話」を夢見る気持ちの高ぶりが、現実から離れて非合理的な集団行動を取ってしまうのだろうか。この本質に毎回迫ろうとする吉村文学、これからも沢山読んでいきたい。

    13
    投稿日: 2023.02.23
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    戦艦武蔵が建造されてから沈むまで。 見つからないように隠して建造するのは大変だし設計図の管理も厳重。 大変な思いをしてできた船が沈むのは悲しいですね。 その戦闘シーンも生々しくて実際にその場にいるような感覚にとらわれました。 とにかく読みごたえがあり読みだしたら止まりません!

    0
    投稿日: 2023.01.07
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     初版は1971年9月、新潮社より刊行。  綿密な聞き取り取材と資料調査にもとづき執筆された記録文学作品。戦争小説というよりは、当時の技術の限界に立ち向かった巨大プロジェクトの記録という体裁で、いかにも高度経済成長期の作品という感じである。解説の磯田光一が、この作は「一つの巨大な軍艦をめぐる日本人の“集団自殺”の物語である」と看破したのは慧眼という他にない。この小説には、「なぜこの巨大戦艦を作るのか?」「戦艦建造をめぐる過程で、どうしてそこまでやらなければならないのか?」という問いが根本的に欠けているからである。つまり、戦争や軍事をめぐる価値判断が停止されている。

    0
    投稿日: 2022.11.26
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    「吉村昭」のノンフィクション作品『戦艦武蔵』を読みました。 「吉村昭」作品は昨年7月に読んだ『零式戦闘機』以来なので約1年振りですね。 -----story------------- 日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」――。 厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か?  非論理的“愚行”に驀進した“人間”の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか?  本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。 ----------------------- 第二次世界大戦中に建造された大日本帝国海軍の「大和」型戦艦の二番艦「武蔵」の建造から沈没までの運命と、それに関わった人々のことを描いたノンフィクション作品、、、 宇宙戦艦にまでなってしまった「大和」に比べ、やや知名度の低い「武蔵」ですが… 最近では、沈没から2015年(平成27年)にシブヤン海の水深1,000mの海底で発見されてニュースになったことが、記憶に新しいですね。 大艦巨砲主義の時代… 大日本帝国海軍の象徴的な戦艦だし、高度な技術を詰め込んだ巨大メカとしてロマンは感じる建造物ですが、、、 その戦闘力が時代遅れとなりつつあったこともあり、連合艦隊旗艦となっても戦いの最前線に立たなかったことから、当時の将兵達が「大和」を「大和ホテル」と揶揄していたように、「武蔵」も「武蔵御殿」と陰口を叩かれ、目立った戦果は挙げられないまま1944年(昭和19年)10月24日にレイテ沖海戦で撃沈… と、実戦では、期待された戦果を挙げることができず、太平洋戦争での兵器としては印象が薄いんですよね。 既に航空機が主役の時代になっていたんですよね… 本作品においても、 ドック内の建造ではなく、船台上で建造されたため進水作業に精力を削がれたことや、 棕櫚で船台を覆ったことに象徴されるように機密保持の点で必要以上の労力を割かれ、作業の進行が妨げられたこと、 度重なる工期短縮の要求、艤装工事での仕様改正要求による苦労等、 建造過程でのエピソードに過半が割かれており、完成するまでの展開が強く印象に残りましたね。 そして、もうひとつ印象に残ったのは沈没後の生存者の運命、、、 乗員2,399人中1,376人の生存者がいたようですが、武蔵が沈んだことを秘匿するため、生存者の半分は内地送還が許されず、現地に残された生存者は現地軍に武器も無いまま投入されて玉砕したそうですし、輸送船で内地へ向かうことのできた生存者は米潜水艦の魚雷を受け120人しか生存できず、帰国後は瀬戸内海の小島で軟禁生活を強いられとか… うーん、悲惨な現実です。 日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」ですが、、、 軍艦にも関わらず、戦場での活躍はあまり印象に残らず、建造過程や沈没後の生存者の運命の方が強く印象に残る作品でしたね。

    0
    投稿日: 2022.11.11
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    白い航跡の吉村さんの著書。軍人の氏名・階級など無意味な記載も多いが、極秘建造された武蔵の難しい状況が上手に描写されている。第3、第4の巨大戦艦も造られ始めていたことを初めて知った。

    1
    投稿日: 2022.06.26
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    表題どおり、第二次対戦の時代の戦艦武蔵建造にまつわる話です。 軍の要求と圧力を受けながら、必死に設計と建造にあたった男たちの奮闘ぶりが淡々と描かれ、ぐいぐいページが進みます。 なるほど、巨大なものを建造している事実とを隠すのって難しいんだな、と気づかされました。

    0
    投稿日: 2022.04.17
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    非常にリアリティのある『戦争』という一場面を武蔵という存在を通して知ることができました。 人は、集中してしまうと、その意味を忘れてしまう。 そのことを改めて警戒しておかなくてはと思わされました。

    0
    投稿日: 2022.01.06
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    武蔵の造船、進水が長崎造船所を舞台にしており、長崎を最近旅した事もあるので、この本はとても身近に感じました。事実を淡々と描く作風で「熊嵐」「漂流」「破獄」がかなり好きな作品、戦争について読みたいので、他の戦争について書かれた作品も今後読みたいです。

    0
    投稿日: 2022.01.01
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    戦艦大和と同型で、大和進水後、二号艦として進水した戦艦武蔵の話だ。 武蔵は、大和進水後、大和の不都合な点を出来るだけ改善して艤装されたもので、言ってみれば大和よりも性能的には良いとも言えるだろう。 武蔵は長崎の三菱重工長崎造船所で作られた。進水までは、その製作を秘匿しておく必要があり、それにかなりの労力を費やしたようだ。 武蔵は、太平洋戦争が勃発した時はまだ艤装中で、作業員達は、休日返上で夜遅くまで働いた。 武蔵は多数の魚雷などを受け沈没し、助かった乗組員も、各地に転戦し、特攻、自爆攻撃など壮烈な最期を遂げたものが多い。

    0
    投稿日: 2021.09.02
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    日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」―厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か? 非論理的“愚行”に驀進した“人間”の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか? 本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。

    0
    投稿日: 2021.06.27
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    詳細な下調べに基づく事実を順を追って記載しているのみであるが、だからこそ感じさせる異常性と虚無感がすごい。解説が絶妙に言い表している。

    0
    投稿日: 2021.06.10
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    このレビューはネタバレを含みます。

    太平洋戦争の最中、当時の技術を結集して作られた最強の戦艦武蔵の建造とその最後を描く。 前半では、超機密裏のうち、多大なる資源、時間、労力が投入され、製造されていく武蔵が描かれている。 その裏には巧みな機密保持工作や造船技術者の苦悩があった。 武蔵は完成後、あまり実戦に出るチャンスが無く、最終的には米軍の航空隊と魚雷攻撃の集中砲火でコテンパンにやられて沈没する。 前半で描かれていた機密保持や技術者の苦労は一体何だったのか…というほどのあっけない最後であり、なんとも言えない虚しさが残る。 吉村氏特有の冷静で客観的な表現で描かれており、とても読みやすい。

    0
    投稿日: 2021.04.11
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    引き篭もりの年末用に用意していた一冊。あっという間に読んでしまいました。プロジェクトの全容もほとんど知らされず、時には軍や警察からの理不尽な仕打ちを受けつつも御国のためと奮闘する三菱造船所の技術者たちの思い、制海権を争うにはすでに時代遅れの長物となった軍艦の迷走、あくまで客観的な視点で進む物語が逆にリアルを引き立てる。Wikipediaを引きながら旧日本軍の戦略の愚直さ、組織の腐敗を再学習できます。

    0
    投稿日: 2020.12.30
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    最近、吉村さんにどハマり。これもまたよし。絶妙なタイミングで図書館で見つけた。戦艦武蔵の闘いより、建設過程をよく描いた珍しい作品。戦闘自体はあっさりした感じ。しかし、冒頭からワクワクさせる描写は見事やなあ

    0
    投稿日: 2020.10.06
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    このレビューはネタバレを含みます。

    ノンフィクションを読みたいと言ってた Fの常連さんに、吉村昭をお勧めしたら どハマりしてるようだったので 私も久々に、ご相伴にあずかろうかと 笑 速筆の吉村氏、とにかく著作が多い もう既に、他界されてるので これ以上、増えることは無いにしても 制覇するには、気が遠くなるなぁー (^-^; しかし、好きな作家のデビュー作は しっかりと押さえて置かないとね 学生時代からの短編や 同人誌などを含めたら、ちょっと違ってきますが… 「記録小説」というジャンルを確立させたという意味では 本書は、デビュー作と言っても過言ではないようです 日本帝国海軍からの極秘依頼で 三菱重工長崎造船所で造られた戦艦武蔵 過去に建造した戦艦と比べても 飛躍的に大型だった為 船台拡張を含めた、技術の向上が求められた 軍の最高機密である、戦艦建造は 三菱重工社内でも、極秘扱いとなり 機密に対する警戒は厳重を極めた 設計者から艤装員に至るまで 厳重な身元調査を経て、誓約書にサインをさせられた 長崎は、地形上 三方を山で囲まれているため 外部から武蔵を隠す必要があった 巨大な戦艦を覆い隠す為に 漁具に使われる棕櫚を簾状に編んで 前面に張り巡らせた また、長崎住民に対する監視も 厳しく行われた 造船所を見下ろす山の中に 警備の警察を配置し 造船所方面を見つめたりしただけで 逮捕された 高台にある、イギリスやアメリカの領事館から 建造中の様子が窺い知れないよう 目隠しの為に、倉庫を建造したり グラバー邸や、上海銀行を 三菱重工が買い取ったりした 厳重を極めた中 図面が紛失する事件が起こる 設計部軍艦課に、特別に作られていた 設計場兼図庫から 一枚の設計図が消えてしまった その部屋は、完全に独立していて ただ一つの出入口も、鉄製のドアで締められ その外には、守衛が控えている 入退出時には、守衛の管理している 出入者名簿に都度、署名捺印させられるほど 徹底されていた 設計図がの管理も、念入りに行われていたにも関わらず 一枚の図面が紛失した 6名の技師と2名の製図工は 憲兵に連れ去られ独房に留置 個別に、特高の刑事から厳しく尋問された 二週間に及び 家宅捜査や、身辺調査も行われ 調査結果と、答弁に齟齬があると 数人がかりで暴行、拷問を加えた 製図工の少年が、職場から逃れたい為に 図面を一枚持ち出して 焼却してたと白状する 少年は、その後裁判にかけられ 刑を受けると、密かに満州に送られ 家族も長崎から姿を消した その他、技術的にも困難を極めた 戦艦武蔵の建造は 1940年11月1日進水の日を迎えたが 船体が、外部に露呈してしまう為 住民の外出を禁止した あまりにも巨大な戦艦だった為 進水時、周辺の海岸に高波が発生し 逆流した河川では、水位が上昇して 民家に流れ込んで床上浸水になった 厳重な機密保持を経て建造された 戦艦武蔵だったが 戦闘機中心となっていた 太平洋戦争では、思いの外戦力にならなかった 巨大な船体を活かした 物資輸送と、実践訓練 山本五十六連合艦隊司令長官の遺骨を 本土に運んだ事 その後、「捷」作戦に参加 アメリカ軍による被弾、被雷を受け沈没した 本書では 戦艦武蔵の発注から沈没までを描いているが 建造中の出来事が中心となっているので 戦艦の知識が皆無な私でも 手に汗握りながら、読み進めることができる まさにプロジェクトX 武蔵は、残されてる画像や映像が ほぼ無いので 全体のイメージがしずらかったけど このご時世、YouTubeで検索すると いろいろ出てくる 戦艦武蔵の最期をCGで見る事もできる 大勢の人が、必死の思いで作り上げ 大勢の人が、犠牲になった 言うまでもなく、戦争は最悪な事である事は 間違いない 平時では、全く想像が及ばないことが 平然と行われる 人は歴史に学ばないといけない と、しみじみ感じ入ってたところ あとがきを読んで、愕然とした 「戦争は、一部の者が確かに扇動して引き起こしたものかもしれないが 戦争を根強く持続させたのは 無数の人間たちであったに違いない あれほど、膨大な人名と物を消費した 巨大なエネルギーが 極一部の者だけで 到底維持できるものではない」 なるほど… 「戦争中に、人間たちが示したエネルギーが 大量の人命と物を浪費したことに 戦争というものの本質があるように思っていた」と まあまあな数、いろんな角度から書かれた 戦記モノ読んできましたが この一文を読んで、至極納得した #戦艦武蔵 #吉村昭 #三菱重工長崎造船所 #太平洋戦争 #時代遅れの巨大戦艦 #心血注いで造った割に #使われ方がお粗末過ぎる #吉村作品にハズレなし

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    投稿日: 2020.08.22
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    2015年3月、マイクロソフトの共同創業者の故ポール・アレン氏の捜索プロジェクトチームが8年がかりで、シブヤン海底に眠る武蔵を発見した。本書を読みながら発見時のテレビの衝撃的な映像を思い出した。 大和は海軍の施設である呉海軍工廠で造艦されたのに対して、武蔵は三菱重工長崎造船所という民間企業が造ったことは初めて知った。 武蔵の起工から竣工までが造艦に関わる人間ドラマとともに完成するまでの過程が克明に記されており記録文学の傑作と言える名著だと思う。 造船所から海軍に引き渡されるまでを前編、海軍が所有してから沈没までを後編として、最新の映像技術でぜひ映画にしてほしい作品。豪華キャストに実力派の監督が手掛けてくれればヒットは間違いないと思う。映像化されれば万難を排して見に行くだろうと思わせてくれる作品だった。

    4
    投稿日: 2020.08.04
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    戦艦武蔵の建造から最期までを、ある意味淡々と描いている。 誰かに感情移入する事もなく、事実を事実として緻密に描き切っている。 敵国である米英だけでなく、日本国民にも秘密とされた大和、武蔵。すでに航空機での戦争へと移行しつつあった時代に敢えて不沈艦として大型戦艦を建造する意味とは何だったのか。 日本海軍の象徴としてなのか。武蔵建造にかける人達の盲目的なまでの情熱。出来てからの活躍が難しいと何となく理解していても、完成させる事が目的となっていた当時の人達の情熱。 完成してからの描写があまりにも悲しい事と対比すると、 何と無駄なものに時間と労力と人を投資していたのか、と思ってしまう。 吉村氏はそれをある意味淡々と、そして冷静に冷徹に描いている。戦争の愚かさ、無意味さを大上段から批判せずに我々に提示している。何とも悲しい小説である。

    0
    投稿日: 2020.07.15
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    さすがの著者の記録文学。前半は若干冗長だが、中盤から後半にかけての悲哀が半端ない。だが、著者独特の淡々とした筆致から戦争に邁進する人々の狂気や妄信を詳らかにしていく...。日本海軍の旗艦的な存在である戦艦と、その戦艦の造船や操船に携わった人々の想い...。ちょっとワクワクしてしまう自分はまだまだ修行が足りないなぁ。

    1
    投稿日: 2019.10.01
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    棕櫚が市場から消えたことに関する書き出しは秀逸。何か巨大な動きがあるという期待と不気味さの入り交じった雰囲気と、最後の生存者の気の毒な末路との対比がなんとも言えない。

    0
    投稿日: 2019.09.22
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    とてつもない、とほうもない、徒労。 人と、資源と、資材と、時間の、なんという無駄遣い、なんだろう。 人間て、こんなことが出来ちゃうんだ。。。 人々のエネルギーに、圧倒された。

    0
    投稿日: 2019.08.14
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    目的に向かって集中される熱量、困難さを克服してゆく英知、そしてそれらの結集により造られたモノがあっという間に消えていく虚しさ。記録文学と言うよりも、武蔵という船に携わった人間たちの伝記と言うべきなのかもしれない。 武蔵とそれを使ったヒトの多くは失われたが、武蔵を造った経験とそれを造ったヒトの記憶の多くは残り、それが戦後の復興の礎になったのだと思う。敗戦で全てを失いゼロベースからのスタートだったとよく言われるが、そんなことは無い、モノは無くても知識や経験や技術は健在だったのだ。国破れて山河ありと言うが、国破れてもヒトありなのだ。

    0
    投稿日: 2019.01.22
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    綿密な取材を元に圧倒的なリアリティを持った記録文学。誰も作ったことのない巨大戦艦を作るという男のロマン的な要素もありつつ、戦時下の日本を描いた歴史文学でもあり、文句なく面白い。 世界一の戦艦を作るという狂気は、それを可能とする日本の技術力と技術員の質の高さに尊敬の念を抱かずにはいられないが、時代遅れの巨艦巨砲主義に突っ走り、それ自体が目的化するのは日本人の特質をよく表しており、まさに解説にも書かれている日本人の"集団自殺"行為そのもの。 沈没しながらも全乗員2399人中生存者が1376名いたことも驚いたが、生存者の多くがその後に非業の死を遂げているという点も、山本七平の言う日本が人を大切にしない点をよく表している。

    0
    投稿日: 2018.12.06
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    戦艦武蔵がフィリピン沖で見つかったというニュースを受けて、長らく積ん読棚に鎮座していた吉村昭『戦艦武蔵』を手に取った。 この類のニュースが流れたり、あるいは戦艦大和のように映画化されたりすると、当時の乗組員やその遺族にスポットが当たるが、それだけではないということを本書は教えてくれる。本編270ページの中で、海軍大佐から三菱重工業長崎造船所長に「第二号艦」の受領書が手交されるのは198ページ目。つまり、本書の3/4はその製造に焦点が当てられている。 「第一号艦」大和を建造した呉のドックはサイズも十分で、かつ最大の国家機密を隠すには問題のない設備だった。一方、「第二号艦」武蔵の製造現場は長崎の造船所。ここは呉と比較して規模も小さく、造船所のある港を見下ろすような地形になっており、そこには地元住民に加えて英米の公館もあった。また、入り組んだ港の形状ゆえ、艦が着水するやいなや方向を変える必要もあった。 こうした幾多の難問に対して、設計者や製造者が血のにじむような努力と創意工夫を重ねてできあがったのが戦艦武蔵なのだ。これを(当時の)日本叡智の結晶と言わずして何と言おうか。艦と共に散った乗組員に思いを寄せるだけでなく、海軍から受領書を受け取った時点で民間会社の社員に戻った暫定海軍隊員達にも思いを寄せたい。

    0
    投稿日: 2018.11.18
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    ・『戦艦武蔵』は、極端ないい方をすれば、一つの巨大な軍艦をめぐる日本人の“集団自殺”の物語である ・“集団自殺”が第三者から見て“愚行”と見えるように、“武蔵”の建造もまた“愚行”であるという批評眼を、つねにこの作者は失っていない ・“武蔵”の進水式の前後の状況は、人間の偉大と卑小の二重性を興味深くとらえている。海軍の側からすれば、機密の護持と艦の完成だけが緊急事態である。“武蔵”がどういう運命をたどるかについては、ほとんど顧慮が払われていない。それは不沈艦でさえあればよく、またそれは神話的な存在であるがゆえに、疑念をいだく余地さえないのである

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    投稿日: 2018.11.04
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    このレビューはネタバレを含みます。

    戦艦武蔵の建造からその最後までを描いた一冊。2/3くらいは建造について書かれている。虚しさを残す壮大なプロジェクトXだ。造船の専門用語が出てきたりしてイメージしにくい場面が少々あったけど、興味深く読んだ。とにかく関係者の執念と労力は伝わってきた。 吉村昭は、まるで自分の目で見てきたかのように書く。可能な限り簡潔に。気の利いた言い回しや比喩は一切ない。そこにアイデンティティがありそうな作家もいるけど、その手のエゴはない。感傷や叙情もほとんどない。ただ事実の積み重ねを丹念に描写する。硬質な文章だけど、なぜかスルスル読めてしまう。書き手のエゴがあるとすれば、事実の積み重ね方なんだろうけど、その巧みさの前に読者は事実の海に放り出される。どう受け取るかは読者に委ねられる。 九州、西日本にかけて漁具に使われるシュロ繊維が姿を消した。冒頭はそんな、およそ戦艦武蔵とは関係なさそうな話から始まる。読み手は「それと武蔵と何の関係が?」と思う。つかみはバッチリだ。シュロ縄に覆われた造船現場がどんな様子だったか気になったので検索してみたけど、当然ながらそんな写真はネット上になかった。 この本の武蔵を最初から最後まで貫いているのは「隠し通すこと」。建造を隠す。存在を、戦力を隠す。沈没の事実を隠す。そのためには労を惜しまない。武蔵を隠すためにいろんな人が犠牲になる、戦闘ではない戦争の嫌な面をリアルに感じた。 後から振り返ってみれば、巨艦巨砲時代の終わりと航空機時代の到来を見誤った、ということになるんだろう。しかし、戦争という事態への向き合い方として、何かを取り違えている気がしてならない。戦力としてより精神的支柱としての意味の方が大きかったのでは?とすら思ってしまう。武蔵は戦争に囚われた日本男児のモノのメタファーだったんだろうか。そりゃ隠すのも、事が済んで虚しさに襲われるのも無理はない。武蔵は完成してから1年以上極秘戦力として温存されて殆ど何の貢献もなかったのに、果てる時は呆気ない。戦闘機や魚雷に襲撃され、史上最大の巨砲は意味を成さなかった。あんなに労力をかけて建造して、たくさんの人が亡くなったのに。ずいぶんスケールのでかいオナニーだった。 でも当時は武蔵や大和といった象徴的な存在、シンボルを作り上げることが、たくさんの人を束ねるために必要だったのかもしれない。そのためなら死も覚悟できるような存在。そんな、死も覚悟できるような存在にはそれなりの説得力が必要になる。大きいものには有無を言わさぬ説得力がある。目に見えないものには神聖さが宿る。人間は主に視覚から情報を得る生き物だ。見えることと、見えないこと。相反する要素を実現するために、巨大化し、隠して神聖化する。武蔵は図らずも、隠すことで神聖化してしまった。巨大仏を秘仏にするようなものだ。ご神体である武蔵を隠したシュロ縄はまるでしめ縄だ。この本の冒頭はシュロ縄を束ねるところから始まっているけど、本当は別の何かを束ねていたのかもしれない。共同体を束ねるためにシンボルを作り上げ、隠して神聖化し、祭り上げること。これは普遍的なことなんだろうか。

    0
    投稿日: 2018.10.25
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    現実の事件・事象をめぐる事実をふまえ,文学的に 構成した作品を記録文学という。吉村昭はその代表的 書き手。記録文学を因数分解すると、ノンフィクション ルポルタージュ・実録・裏話…になるかな。 僕の中では吉村作品は「プロジェクト小説」である。 「羆嵐」は巨大羆との壮絶な格闘記、 「漂流」は無人島に流れ着いた男の生還記、 「破獄」は11年間に4度も企図した脱獄記、 「零式戦闘機」は設計者・技師・操縦者の哀歓の記録。 善悪・良否という二元論では片付けられない目的を 果たすために狂おしいほどの熱情と知恵を注ぎ プロジェクトを完遂させる様を丹念に描く。 さて本書。戦略的都合上、徹底した機密保持の下、 当時日本最大の造船設備を誇っていた三菱重工長崎 造船所が4年の歳月をかけて建造した「戦艦武蔵」。 まさしく世界一の攻撃力に加え、最強の防御力を誇る 不沈戦艦。その建造過程を全ページの内、200ページ 余りを費やし仔細に記述。 残りのページは、武蔵が参戦時には日本の戦況を 覆すのは厳しく、不沈戦艦武蔵の使い道は遮二無二に 突撃し、肉弾特攻戦に向かうという捨て鉢状態。 米軍機による波状攻撃を受け、持ち得た能力を発揮する ことなくレイテ沖で爆発四散し深海に沈む。 乗組員2,400名の内1,000名以上が戦死。 動機と結果の不一致という無様な終焉を迎える。 戦局の趨勢を握るのは戦艦ではなく航空機に移っている ことを軍部は知りつつ、なぜ建造に至ったのか? 著者は抒情性を一切排した筆致で遺漏なく製造過程を 丹念に描くことで、軍部の無計画さと戦略の無さを 浮き彫りにしていく。 世界一の戦艦を持つことの意義・意図が不明確であり、 非論理の上に建造が決定される。そこに屹立するのは 不沈艦を持ちさえすれば日本の国土は十二分に守護 できるのだという「神話」のみ。 山本七平の「空気の研究」にある「思考停止」状態が 壮大な愚行を生んだのか? 武蔵と大和。一卵性双生児の様な「巨艦不沈戦艦」。 いずれも重油の確保もままならず、護衛航空機をつける ことができない状況下に出撃し、壮絶な最期を迎えた。 思考停止・非論理・神話の屹立…。 70有余年前、目を背けたくなる壮大な愚行を日本民族 がしでかしたことを教示してくれる貴重な記録。

    3
    投稿日: 2018.09.12
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    日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」――厖大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か? 非論理的“愚行"に驀進した“人間"の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか? 本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。(アマゾン紹介文) 文章は平易で専門用語も少なく、思っていたよりも読みやすいことに驚きました。 ただ、内容自体はすこぶる重く、ところどころ息をつきながら読み終えました。 あくまで記録文学であり、大仰な感情表現はないんどえすが、にもかかわらず、進水と沈没のシーンは、胸に来るものがあります。

    0
    投稿日: 2018.07.09
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     昭和19年10月24日レイテ沖海戦での沈没の描写も見事だったが、この作品の大半は三菱重工長崎造船所での開発建造シーンの詳細な描写にあてられています。昭和13年の起工から完成まで4年をかけているうちに、巨艦大砲主義が時代遅れになり航空戦に移行していたというむなしさ。奇しくもそれを証明したのが日本の真珠湾攻撃という皮肉。極端な秘密隠匿の数々も武蔵の最期を知りながら読んでいるので滑稽に思えます。司馬遼太郎は戦争突入時の昭和日本を嫌っていた様子ですが、読んでみると皆まんざらではありません。とはいえ、なんか違うなというか、非合理が蔓延していた時代ではあったようです

    0
    投稿日: 2018.03.30
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    全長263mもの超大型戦艦を外部の誰の目にも触れさせずに作り上げるという超難問に挑戦した男たち。 作り上げた戦艦がたった一回の海戦で沈没してしまったと聞いたときはどんな思いだったろうか。 これが、戦争というものなのだ。 たった一回のために何年もの歳月を費やし最新の技術を投入した戦艦がアメリカ空軍の前では、なす術もなかった。 武蔵の沈没の場面は、今まで読んだ本の中でも最も印象に残った場面だった。

    0
    投稿日: 2018.03.14
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    なかなか進水しない。でも建造と進水までを丁寧に書いてくれたおかげで武蔵に感情移入できた。最後は涙でそうになる。 この場合ネタバレもクソもなく沈没するんだけど、不沈艦の最期と、乗組員のその後はとても…

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    投稿日: 2018.01.24
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    これほどの巨艦を70年以上前に手計算で設計した技術力はすごい。また徹底した守秘の中での建造も印象的であった。 技術力や資金力もその方向性を誤ると全てが無駄になってしまう教訓と感じた。 それにしても吉村昭の調査と現実に忠実な描写にはいつも引き込まれる。

    0
    投稿日: 2018.01.03
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    ずっと積読にしていたものをやっと読んだ。 色々な本を読み、いろいろな経験を積み、今だからこそ読めたのだし、武蔵から受け取ったものも大きかったと思っている。 建造から沈没、生き残った武蔵の乗組員の最期まで。 行間から溢れてくるとてつもないエネルギーに飲まれてしまって、泣きそうになる。 読んでいる間、私は造船所の作業員になったり、長崎の町の人になったり、夜の海に沈んだ兵になったり、もう一度「死ぬことになった」兵になったりした。 でも、一度たりとも現代人になって読むことはしなかった。 吉村昭の小説を読むとき、今の私は必要ない。

    0
    投稿日: 2017.09.06
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    その造船の始まりから沈没まで、武蔵の一部始終が書かれている。個人の視点からのものではなく、あくまで中心は「武蔵」。しかしその淡々とした語り口からも、歴史に名を残してはいないが、当時確かに存在した人々のエネルギーが感じられた。これが本著が記録文学の大作と言われる所以なのだろう。 淡々としているとはいえ、記されている現実は過酷だ。海軍の、日本の期待を一身に背負い秘密厳守で進められた武蔵造船、しかしその建設途中に戦いは既に戦艦戦から空中戦(空母戦)に移り変わっていた。規格外の大きさ、強度で「不沈艦」とまでいわれた本艦も最期には大量の魚雷と空からの攻撃に耐えることかなわず沈没する。 日本海軍最後の一塁の希望を懸けた武蔵は、もはや戦力どうこうというよりかは、私たちには武蔵がいる、武蔵があれば日本は負けない、など、当時の日本の精神主義の象徴であったのだろうかと思わせる。解説でいう、夢と現実との不一致ということだろう。しかし、そこにある人間のかけるエネルギーというものへの着眼点を本作は失なっていない。 武蔵、そして姉妹艦の大和は日本の太平洋戦争における栄枯盛衰を想起させるようで切なくなる。 「武蔵が沈没するとき、それは日本が負けることを意味する」というのも、あながち間違いではなかったのかもしれない。

    0
    投稿日: 2017.08.03
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    設計から沈没まで、それぞれに関わった人物の視点より語られる戦艦武蔵の生涯。鉄の塊である戦艦が一個の人格のある存在のように思えてくる。

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    投稿日: 2017.05.27
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    記録文学の金字塔。 主観を排除し、徹底して事実を拾い、構成している。 戦争がテーマの小説は、時に感傷的で、涙を誘うもので、美談に仕立て上げれているようで苦手だと常々感じている私にとって、それはとても好感の持てる態度だった。 大和や武蔵が戦列に参加する頃には、航空兵力が海上兵力に対して優位であることは既に自明であり、しかもそれを証明したのが他ならぬ日米開戦の火蓋を切った真珠湾攻撃であったことは皮肉としか言いようがない。 しかし、この「時代遅れの」巨大戦艦に投じられた膨大な資本(ヒトモノカネ)や時間、秘匿性がこの戦艦を神話的な存在にしてしまった。 A:武蔵は不沈艦である B:武蔵が沈まない限り日本は負けない A、Bが成立するならば「日本は負けない」ということになる。 日に日に戦況が悪化し、日本の敗戦が濃厚になればなるほど、その神話は膨張していく。 そして武蔵にとってはじめての戦闘となる「捷」一号作戦の最中に武蔵は敵機の執拗な攻撃により沈没。 呆気ないほどの幕切れ。 武蔵沈没から生存した乗組員たちも、その多くが、その後の戦闘で終戦までに命を落としている。 あとがきにこうある。 「私は、戦争を解明するのには、戦時中に人間たちが示したエネルギーを大胆に直視することからはじめるべきだという考えを抱いていた。そして、それらのエネルギーが大量の人命と物を浪費したことに、戦争というものの本質があるように思っていた。戦争は、一部のものが確かに煽動してひき起したものかも知れないが、戦争を根強く持続させたのは、やはり無数の人間たちであったにちがいない。あれほど膨大な人命と物とを消費した巨大なエネルギーが、終戦後言われているような極く一部のものだけでは到底維持できるものではない」 この巨大戦艦に関わった人々が発したエネルギーの渦のようなものを、この小説を通して私は確かに感じた。 この小説は、この巨大戦艦に関わった「無名の」「無数の」人々のエネルギーを掬い上げることに成功していると思う。 ものすごいものを読んでしまった。

    1
    投稿日: 2017.05.04
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    前半の得体の知れない大きな化け物を作り出す過程にわくわくとして、後半の破滅に向かう姿に胸を突かれた。すごい。これがほんの数年の間の話で、現実のことだなんてすごい。 これだけの規模のものを作り出してどうして破壊してしまうのかという思いと、でもこの時代背景がなければ作り出されることすらなかったのだなという納得が交互にきてぐるぐるしました。 吉村さんの本、やっぱり面白いなー。

    0
    投稿日: 2017.01.26
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    このレビューはネタバレを含みます。

    1971年(底本1966年)刊。◆大艦巨砲主義を体現した戦艦武蔵。防諜に神経を擦り減らし続けた建造秘話と、戦闘に参加せず(油の節約目的)、移動時のついでに輸送業務に従事する落差が…。費用対効果の視点の欠落がどうにも?。本書の、煽った表現なしに透徹した視線が戦争の一面を切り取るのは著者らしい。なお、著者あとがきに描かれるのは、一般人が「武蔵」関連情報を著者に開示(漏洩という自意識かも…)することへの怯えが、戦後20年でも残存していたこと。これは特高・憲兵の民衆への心理的影響を暴いている気がしないでもない。

    1
    投稿日: 2017.01.20
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    NHKスぺシャルで武蔵沈没の謎を放映していたんで、積読本の中から見つけてきた本。  不沈艦武蔵の建造から最期まで追った記録文学。  同型の大和とともに帝国海軍の秘密兵器として建造に着手された武蔵。当初の呼び方は2号艦(大和が1号艦)全くの同型ながら呉で建造された大和のほうが進水は早い。武蔵は長崎の三菱造船で建造されたため、湾の地形の特殊な事情から、その秘密保持、進水の際の困難が加わり、建造以外に神経をすり減らすことが多かった。  この本はどちらかというと武蔵建造の苦労や困難を題材にしたものなので、戦線に出てからのことはあまり書かれていない。そっちを期待すると若干拍子抜けする。でも巨大艦建造にかける男たちの熱意と秘密保持に関わる緊迫感のバランスはとても面白い。  武蔵沈没の謎としてNHKスペシャルで放映していたのは、沈没の要因のひとつとして機関部への浸水を挙げていた。40センチの固い鋼板に覆われ、魚雷をいくら受けても破られないと思われていた動力の心臓部への浸水はなぜ起きたのか。  それは鋼板を溶接ではなくリベット(鋲)で接着させたため、被爆の衝撃でリベットが外れて、鋼板が緩み、そこから浸水したのではないかというもの。確かに鋼板が破られたわけではないので、強度は想定内だったのだろうけど、まさかリベットが致命傷になったなんて。  戦艦決戦時代の仇花みたいな扱いされる大和や武蔵だけれど、建造に着手したのは昭和12年だし、ミッドウェイ前に戦列に加わってたら、それなりの脅威にはなっていたと思う。  主砲の46センチ砲の射程距離は40キロを超し、命中精度は16%くらいと言われているから6,7発に1発は当たる計算。横浜港に停泊していても対岸の木更津が余裕で射程距離に入る。諸外国のそれは、それぞれ30キロ、3〜6%くらいだったというから確かに戦艦としては史上最強だった。    でも建造中に時代は航空機が主力の時代を迎えてしまった。皮肉にもそれは真珠湾で日本が世界に向けて宣揚してしまったことだった。海軍も馬鹿じゃないから、1号、2号に続けて3号、4号と作るはずだったのを、3号は空母に計画変更、4号は解体した。    現役の海上自衛隊最大艦は全長250メートル弱の護衛艦「いずも」だが、大和と武蔵はそれより15メートルくらい長い。   戦艦としての巨大船はもう必要ないので、何か違うことで日本の技術の粋を集めて巨大なものを作ってほしい。

    0
    投稿日: 2016.12.09
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    巨大プロジェクト完遂物語であると同時に戦争文学の傑作。実質的に無意味だった巨大戦艦の建造に関わった多大な労力と資材、その後の無聊の日々と呆気ない最期。 見事な文学的筆致によって描かれた淡々とした描写は、軍事という非生産性の極地に振り回された時代への批判を文間から明確にあぶり出している。

    0
    投稿日: 2016.09.28
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    なんともいえない読後感。深いため息が出るが、読んでよかったと思う。一生の間に一度は読むべき本ではなかろうか。いろんなことを考えさせられる。

    0
    投稿日: 2016.09.10
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    戦艦武蔵が作られてから終わるまでの話。 中国人という理由だけでスパイ容疑で拘束された時代。 秘密保持のために見張りを徹底。その規模がすさまじい。 紛失した設計図面は仕事を辞めたい若者が燃やしたからという日本らしい欠陥。 終わりが分かっている話ではあるが、改めて最後を読むと戦争の悲惨さが再認識させられる。

    0
    投稿日: 2016.05.06
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    カテゴリは小説としたものの、「記録」といってもよいのではないか。巻末の解説にも記載されているが「客観的かつ即物的」に、戦艦武蔵の建造、戦場での動き、そして沈没までを描いている。感情の起伏を求めていると物足りないかもしれないが、非常に現実的な描かれ方だと感じた。 長崎に住んでいるため、対岸の大浦、南山手からどのように隠すか、また幅がそれほど広くない長崎港でうまく進水をする方法、ドックそのものまでリアルに感じることができ面白かった。また、読み終わった直後に柳川市の北原白秋記念館を訪問したところ、思いがけずこの小説に登場する「古賀技師」(後の長崎造船所長、柳川市出身)の展示がありびっくりした。

    0
    投稿日: 2016.02.22
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    戦争の哀しさを著している名著だと思う。創る熱量に比べて、運用の稚拙さが心に残る。図面を燃やした少年や生き残った武蔵の乗員の末路は、戦争の愚かさをきわだたせている。

    0
    投稿日: 2016.01.12
  • 大艦巨砲主義とともに沈んだ武蔵。

    主人公はあくまで「戦艦武蔵」であり、そうである以上結末は見えていたけど、極秘新型戦艦がどのように建艦されたのかが描かれてあり、興味深く読めた。 もっと紙幅を増やしてもいいように思えるが、足りないということはない。ただごく限られた有名人以外登場人物の名前を覚えることはできなかった。 第二次世界大戦で日本は完膚なきまでに負けたが、要所要所の技術力では克っている場合も少なくなかった。その運用の拙さと生産性がものをいう物量の差で負けたといえる。 大和、武蔵でなく大型空母を作っていたらという気持ちを抱かずにはいられなかった。

    0
    投稿日: 2015.11.09
  • たんたんと記される事実が重い

    戦艦武蔵の建造から沈没までが記されています。建造や建造中の機密保持の様子に、全体の3分の2強が割かれており、戦記というより記録文学です。 主役はいません。あえていえば戦艦武蔵です。文中、登場人物と著者の主観はほとんど見当たらず、たんたんと事実が記され続けます。それが逆に、当時の造船所や町や軍や国が、戦争に進んでいくしかなかった様子を感じさせます。 あとがきより。 「私は、戦争を解明するのには、戦時中に人間たちが示したエネルギーを大胆に直視することからはじめるべきだという考えを抱いていた。そして、それらのエネルギーが大量の人命と物を浪費したことに、戦争というものの本質があるように思っていた」 「戦争というものの本質」を描くために、驚くほど緻密かつ膨大な取材がなされています。 個人的に戦中戦後の製造業の現場の様子が知りたいと思っていたので手に取りました。 知りたいことが知れたという意味では星5つ。ただ、あまり興味のない人には、とっつきにくい内容だと思います。

    2
    投稿日: 2015.09.21
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    造船所で造られ、そして戦地で沈んでいくまでのまさに戦艦武蔵の人生が記録的に描かれている。後半の戦争シーンは苦手で読むのが辛かったが、前半の武蔵が造られていく過程は面白く読めた。存在自体が軍機密だった武蔵。一般市民に見られないようすだれで覆った中で製造作業を行い、その作業に携わる人々も、その全貌は知らされなかったという徹底ぶりが凄い。進水成功のシーンには感動しました。多くの職人たちの技術とエネルギーと時間をつぎ込み造り上げたのに、そもそも武蔵を造るということが時代遅れで作戦ミスだったというのがとても虚しい。

    0
    投稿日: 2015.06.26
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    戦艦武蔵、戦時中のこの大いなる無駄に費やされた膨大なエネルギーに圧倒された。解説に「集団自殺」との言葉があったが、なるほどと納得。吉村氏の渾身の作品だと思う。大和といい武蔵といい、確かに神話である。

    0
    投稿日: 2015.06.12
  • モノづくりの可能性

    「光る壁画」、「高熱隧道」と並んで個人的に吉村昭の”モノづくりシリーズ”と呼んでいる。 先頃、艦体が発見されたのは喜んでいいのか、分かりかねるが、場所がはっきりした事は良かっただろう。 ところで、一説、自動車は部品点数1万点オーダー、飛行機は100万点オーダー、ロケット・スペースシャトルはそれ以上、と言う。そして、日本人のモノづくりは藤本隆弘のいう「擦り合わせ」が有効範囲の制約により部品点数1万点オーダーの自動車までに優位性がある、とも言うらしい。 が、しかし。本書の武蔵建造の物語は、日本人のモノづくりに無限の可能性を感じさせる。 試行錯誤の繰り返し。執念ともいうべき、その繰り返し。そこにモノづくり能力の核心を見る。 飛行機やロケットがこれまで苦手だったのは、開発が禁止されていたため実績、経験が不足していたからで、出来ないわけではない、と思う。 本書は完成後の武蔵の運命も含んでいるが、やはり建造過程が非常に魅力的である。作者が何故、大和ではなく武蔵を選んだのか読めばお分かり頂けるだろう。 蛇足であるが、本書の中で個人的に一番印象に残っているのは、工費が膨れ上がったことを受けて三菱が発注主である海軍に追加費用を依頼する場面である。弊社としても株主に利益責任がある、と主張に海軍も交渉に応じる。戦況が逼迫する以前かも知れないが、狂気の時代でも経済が機能していたことが興味深い。どんな状況でも経済は止まらないもののようだ。昔、東証の職員から聞いた話だが、終戦直前に平和関係銘柄が軒並み値を上げたそうだ。商人畏るべし。

    2
    投稿日: 2015.06.05
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     第二次世界大戦の日本で建造された超弩級戦艦「大和型」の二番艦「武蔵」の誕生から死没までをまとめた記録小説。本来ならば、起工から轟沈まで、と書くべきなんだろうけど、吉村昭は武蔵を、人の手によって作られた鉄の怪物、と見ている節が随所に見受けられ、あえてこう書いた。  この小説は、戦争を扱ったものと解釈できるのは当然として、人間のすごさとショボさを同時に描いたものとも言えそう。アホみたいなデカさの戦艦を作るのに執念を燃やせるのも人間だけど、アホみたいなことしてその戦艦を沈めてしまうのもまた人間。執念が結実した瞬間の進水式のシーンをかなり入れ込んで書いてたところからも、それが読み取れる。  あと、個人的に武蔵が沈む様は、あっけなさよりもすごみのほうを感じたかな。こんだけぶちかまされてもまだ沈まないっていうバケモノぶりのほうを感じ取った。

    0
    投稿日: 2015.05.31
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    最近の発見ニュースに感化され初めて読む。 巨大建造物に憑かれ全てを見失う人間の奇怪さをあくまで淡々とした語り口で描き出す。 ここには美化の余地などなく、ただただその振る舞いへの哀しみだけが見て取れる。反戦の意思表示の一つの形です。

    0
    投稿日: 2015.05.20
  • 民間建造に面白さが。

     ここのところ急に脚光を浴びている「武蔵」。ご存じ「大和」の姉妹艦だが、民間で建造されたところが面白い。著者の事実に基づく取材力には今さらながら驚くばかり。紆余曲折から現場の大変な苦労で完成させた「武蔵」だが、その戦果は寂しいばかり。戦争の儚さを知る。

    1
    投稿日: 2015.04.11
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    このレビューはネタバレを含みます。

    日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武 蔵」―厖大な人命と物資をただ浪費するために、 人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質と は何か?非論理的“愚行”に驀進した“人間”の 内部にひそむ奇怪さとはどういうものか?本書は 戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造か ら壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌 を明らかにした記録文学の大作である。

    0
    投稿日: 2014.12.30
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    このレビューはネタバレを含みます。

    吉村昭の文章は緊迫感と臨場感にあふれている。 この「戦艦武蔵」の場合も同様で、特に進水式に至るまでの責任者・作業員の緊張たるや想像するだけで心拍数があがるようだ。だからこそ進水式が成功に終わった場面では思わず涙がこぼれてしまった。 戦闘に参加した後の武蔵については、吉村昭ならではというのか、客観的な文章で記されているだけに、置かれた状況や艦の最期など痛々しく、切なさを覚えた。

    0
    投稿日: 2014.10.16
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    大和の起工は昭和12年、武蔵は昭和13年である 真珠湾攻撃が昭和16年の12月12日 大和の就任がその4日後、昭和16年12月16日だった しかし昭和17年4月には、早くもアメリカの爆撃機が日本上空に飛来 初の空襲を行っている 武蔵の就任はさらに4か月後…昭和17年8月のことであった 真珠湾で日本のひきおこしたパラダイムシフト 日本じしんがそれに乗り遅れた格好となったのである 短期決戦を主張する山本五十六と 長期戦を計画していた軍令部の、方向性の食い違いは ミッドウェー敗北の遠因になったとも言われる (役所広司主演の「山本五十六」がそんな話だった) 軍令部がそれほど自信を持っていた背景に、大和と武蔵の存在があったことは 想像にかたくない これらの超大型戦艦は、日本のものづくり精神の粋をこらした… まさに、「魂」のこもった存在だったのである 山本などにしてみれば、そんな前近代的な精神論で 現代戦に勝ちぬけるわけはないという認識だったろう しかし、「和魂洋才」でここまできた日本とは、そういう国なのである そこに山本の計算違いがあった 吉村昭の「戦艦武蔵」は、武蔵の起工から沈没までを 極力、客観的な視点にしぼって書いたルポルタージュだ 日本全国で棕櫚(しゅろ)の繊維がなくなるところから、物語ははじまる その不気味な前兆は、まさしく「胎動」と呼ぶべきものだった

    0
    投稿日: 2014.09.04
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    武蔵建造に際しての機密情報保持の徹底ぶりは 異常なまでに行なわれていたことが、この小説でよくわかりました。

    0
    投稿日: 2014.08.21
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    このレビューはネタバレを含みます。

    終戦の日に一気に読み上げた。 著者の作品は詳細な取材、史実に基づいたもので本当に引き込まれる。当時の国力を注ぎ込んで、多大な労力と年月をかけて完成させた巨艦の出来るまでの男たちの生き様と、あっけなく撃沈してしまう不沈戦艦の対比。終戦69年もたったが、日本人が狂気的なエネルギーで何よりも優先させた戦争の本質をリアルに感じさせてくれる作品。

    0
    投稿日: 2014.08.17
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    筆者はあとがきに「厖大な人命とモノを消費した巨大なエネルギー」が戦争を継続させ、戦艦武蔵は「戦争を象徴化した一種の生き物」と書いている。 前半の物資と人員を投入した武蔵の建造と、後半の人命と重油や物資を消費した戦地での武蔵、つまり武蔵のすべては戦争とは巨大な消費なのだという一種の儚さが垣間見られる。

    0
    投稿日: 2014.08.04
  • 「国家秘密」と「巨大建造物」と、その異様さについて。

    戦略上その存在が国家秘密とされた戦艦を、一民間企業である三菱重工業が作るという歪み。 三菱重工側に作っているものの全体像を知る者が数人しかいないという異様な状況の中で、 建造が進められる…そんな中での虎の子の46cm砲に関わる図面の紛失事故…。 元外務省の佐藤優さんが秘密保護法の議論の文脈の中でも引き合いに出していましたが、 「国家秘密」について書かれた本です。 そして、秘密であることと矛盾する「巨大建造物」について書いた本でもあります。 建造当時は、おそらく人類史上の最も巨大な人工物の1つであったと思いますが、 造るにしろ、動かすにしろ多大な資材と労力が投入されました。 シュロ(繊維材料の植物)が九州の市場から消えるところから始まりますが、 「巨大」であるものが「秘密」であると、こういう異様なことになるのかと。 この冒頭の章から引き込まれます。

    4
    投稿日: 2014.07.06
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    戦争って、本当に、大変なんだなあ! と、強烈に胸へ焼き付けたのは、「工期短縮」の四文字でした。 いやいやもう連日深夜までやって休日もなしでどうやってそれ以上短縮出来ちゃったの?? と思うのだけど、戦場で命を落としている人がばんばんいた頃なのだし、最終的には「こっちも倒れて死ぬまで休めない」みたいになっちゃうのかなあ。 予算も労力も時間もいっぱいつぎ込んで、いろんな人がいろんな意味で犠牲になって、でも出来たときにはもう戦況がだいぶ違ってきてしまってる。 悲惨だ、とか感情的なことではなく、莫大なコストがかけられて金モノ人命が失われていく様子が淡々と描かれて戦争の難しさが浮き上がる。 貸してくれた人が言うように「もっと読まれるべき」本だろうなと思います。 艦これやってから「武蔵の建造期間、実際には4年」なんて知ると、素直にびっくりできるし。

    0
    投稿日: 2014.06.29
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    戦艦武蔵の建造プロジェクトにこれだけの労力がかかったとは、本当に驚きでした。戦争の多面性が少し理解できたようです。兵器、戦術について、変化の激しい時代だったのだろうと改めて思いました。

    0
    投稿日: 2014.03.13
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    このレビューはネタバレを含みます。

    超巨大戦艦「武蔵」の建造から撃沈までを描く記録文学。綿密な調査による文章で臨場感が半端無い。 多くの技術的困難を乗り越えて二年八カ月にわたる船体工事が終わり、轟音とともに進水していく武蔵を、号泣に近い「バンザイ」を唱和しながら作業員が見送る場面にはちょっと泣けた。

    0
    投稿日: 2014.03.09
  • 史上最大のデスマーチ

    第二次大戦中、日本軍の総力を結して作り上げた巨大戦艦の誕生から、海の底に沈むまでを描いた記録文学の傑作。 過剰な表現を避け、事実を淡々と記したこの作品には、文面からにじみ出る戦争の悲惨さが伝わってくる。 武蔵の誕生と同様に、この作品の誕生にも著者の熱い執念のようなものが感じられた。

    4
    投稿日: 2013.10.05
  • 活躍の場を与えられなかった不幸な戦艦

    敵の軍艦砲撃が届かない距離で、砲撃するためには、敵よりも巨大な砲塔とそれを支える戦艦が必要だ。そんな発想で長い年月の末、完成した巨大戦艦。しかし、時代は戦闘機による空中戦が主流。時代遅れとなった武蔵は大量の燃料を消費しながら、活躍の場を探し続ける。

    1
    投稿日: 2013.09.28
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    このレビューはネタバレを含みます。

    武蔵の着工前からの異常なまでの警戒、不可思議な棕櫚の買い付け、 着水へ向けての工夫・緊張感、巨大艦完工後の関係者・乗員の喜び、そして無用の長物として全く役に立たず右往左往、燃料食い(大飯食 い)、寂しい最期の沈没場面(巨大艦としてはタイタニックの最期に 似ています)、あまりにも多くの人間として扱われないかのような犠 牲者たち、武蔵自体が生き物のように哀れな姿に書かれ、実はとりも直さず、人間そして日本軍の愚かさを示しています。 期待に違わぬ素晴らしい傑作です。

    1
    投稿日: 2013.08.26
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    このレビューはネタバレを含みます。

    武蔵の大きさに圧倒される思いだった。 吉村昭は読んでいていろんな意味で安心感があって とても好きです。 でもこの武蔵の製造から沈没まで、この薄い本一冊では 足りないのでは。分厚いの上下2冊ぐらいにして欲しかった 気もする。 子供の頃武蔵のプラモデルを買って貰った記憶がある。 なんとか作り上げた記憶もあるが、よく覚えていないし その後どうしたのか。 この本を読んだら、また欲しくなった。

    0
    投稿日: 2013.06.16
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    たんたんと事実を積み上げることで時代を正確に描いていると思う。兄弟艦の大和に比べて地味な存在だが、長崎で作り上げたこの巨艦に親近感を感じる。ドッグを見るたびに、在りし日の姿が目に浮かんでくる。

    0
    投稿日: 2013.03.31
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    淡々と事実のみを積み上げていくだけで、戦争の異常さを表現している。吉村昭作品は「破獄」以来だがどちらも甲乙つけられない。こちらの方が重いテーマで、臨場感も高い。戦争について考えるなら一度読む価値がある作品だと思う。

    0
    投稿日: 2013.03.25
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    このレビューはネタバレを含みます。

    物語は棕櫚繊維が忽然と姿を消した九州の田舎町から始まる。工員にすら全容を明かさぬまま極秘裏に作り上げていく世界一の巨艦、その張り詰めた空気と周囲の険しい背景が伝わる中盤。そして戦渦に巻き込まれ、豪快に、無念のまま沈む武蔵を骨太な表現で描き切り物語は終わりを迎える。 工事過程で図面が1枚紛失し、犯人探しに奔走する本部と巻き込まれ不運を辿る関係者たち。人がまるで紙切れのように甲板から散って、消えていく武蔵最期の瞬間。印象に残るシーンは多く、肩に力の入る作品だった。 さらに著者のあとがきもまた面白く、戦争記録に創作意欲の湧かなかった筆者が何故、造船技術の起訴も知らぬ筆者がどうして、この物語を描き切ることに傾倒したのか、わずかながらも豊かに書かれている。

    0
    投稿日: 2013.03.07
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    武蔵の偉大さ華々しさと、払った犠牲と恩恵のバランスがうまく図れなくて、悲しくなってしまいました。 武蔵にもっと有名になってもらいたい…!今までもこれからも目にすることない戦艦武蔵に愛が芽生えてしまいました。 吉村昭さんの物書きのスタンスがすごく好きです。 あと、造船所って素晴らしいところだなと思いました。機会があれば造船所見学してみたいです!

    0
    投稿日: 2012.12.29
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    吉村昭の世界に引きずり込まれる1冊。傷つき、果てていく武蔵にわが身のような痛みを感じずにはいられませんでした。 とうとうプラモデルの「戦艦武蔵」を作ってしまいました。

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    投稿日: 2012.09.17
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    戦艦武蔵の起工から沈没までを描いた小説。 意外だったのは武蔵の戦場での様子より、工事から出航までの様子が長かったことです。というものの武蔵は実際の戦場では、ほとんど戦争に参加しなかったからみたいですね。そのこともこの本で初めて知りました。 絶対秘密裏の中での世界最大級戦艦の工事は困難の連続で、そこを技術者たちがどう乗り越えていくのか、といったことも興味深く読めましたし、そこに賭ける男たちの熱い感情も想像することができました。それだけにクライマックスでの沈没シーンと前半の人々の熱気の対比が非常に悲しい。 戦時下が舞台の小説や映画・ドラマは数を絞って登場人物たちにに焦点を当てているためか、死というものがとてもドラマティックに描かれていてそれはそれで悲劇だと感じますし、改めて戦争の愚かしさを教えてくれます。しかしそのドラマティックさがその手の作品を悲劇性のあるエンターテイメントにいい意味でも悪い意味でも変えてしまっているような気がします。 それに対しこの小説は特定の人物に焦点を当てるわけではなく三人称の淡々とした語り口が続き、ラストの武蔵の沈没間際の凄惨な描写が続くシーンも作者の感情を挟まず淡々と語られます。 そのシーンの人の死は決してドラマティックで美化されうるものではなく本当にただただ悲惨でした。死とは本来そういうものだと思い知らされ打ちのめさせられた思いでした。こういう描写が戦争の真実の姿に近いと感じます。 普段は行間を読むようなことはあまりない自分なのですが、今回の小説は自分から積極的に読み取らなければ、という思いに駆られた作品でした。

    1
    投稿日: 2012.08.22
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    悲劇通り越して悲惨。最初は国家機密って面白いねぇで読んでたけどタイタニックを上回る悲しいお話だった(T_T)

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    投稿日: 2012.07.14
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    プロマネの参考になるというので読んでみた。 一言で言うと「情報を隠し続けた」。 建造中のこと。 山本五十六が死んだこと。 武蔵が沈んだこと。 必死になって隠したけどそれが活かされれなかった。 竣工するまでの話は、引き込まれるように読みました。

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    投稿日: 2012.05.04
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    巻末解説で文芸評論家が、吉村昭の文学にみられる人間観を「愚行」というキーワードから説いているが、そのとおりの作品だと思った。人間はときに、その行為が愚行であればあるほど、とり憑かれたように膨大なエネルギーを注ぎ込むのかもしれない。たんなる戦記文学ではない、「人間」を深く描いた傑作である。

    0
    投稿日: 2012.04.10
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    特に進水の場面になると涙が出てしまう。 撃沈の場面で運よく沈没寸前の武蔵から海面に脱出できる少数の乗組員はそれでも艦底を滑る際、牡蠣殻で傷ついたり、巨大なスクリューに叩きつけられたり、広がった重油の厚さ50センチのなかに浮遊している生存者も次第に力尽きてゆく。一面の星空の海上で300人ほどの環ができ、・・・・・

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    投稿日: 2012.03.27
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    ひたすら隠しに隠して建造された戦艦『武蔵』。棕櫚スダレや造船所の周りに設置された監視所、新たに造られた倉庫や進水したばかりの商船を使用する奇策には当事者は真剣そのものだったろうが、私には滑稽に感じられた。米軍機の数次にわたる攻撃による艦上の様子は凄惨を極めたが、わずかに生き残った乗組員達は武蔵の乗組員だったことを隠すために、方々の戦地に配属されたり、軟禁同様の生活を強いられたことは実に哀れであり、軍部は彼らの犠牲のうえ最後までおのれ達の保身に努めたのである。

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    投稿日: 2012.03.24
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    戦艦武蔵の建造から沈没するまでの壮絶な記録が客観的に綴られている。 驚いたのは長崎市という狭く高台の多い不利な地形の港で極秘中に長きに渡って建造されていたこと。 建造に関わった造船所の人々の並々ならぬ苦悩と苦労が伝わってきた。

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    投稿日: 2011.11.11
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    記録文学の傑作の呼び声高い作品。謎のベールに包まれていた「武蔵」建造に関わった方々や、乗組員達の貴重な体験談が綴られており、毎年お盆が近づくと読みたくなります。

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    投稿日: 2011.11.08
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    当時の日本造船技術が結集して作り上げた巨大戦艦。その苦労は造船そのものだけではなく、造船を極秘にすること、浸水させること、と多方面にわたる。 そうした多大な努力の末、無事完成した武蔵。が、巨大46センチ砲で次々と米艦隊を沈没させる光景を描いた夢は叶わなかった。 完成したとき、すでに日本は敗戦濃厚。巨大戦艦を動かす燃料は不足し、巨大ゆえに戦闘機攻撃には弱かった。 結局、扱いに困った日本軍はおとり艦として武蔵を使い、これという戦果をあげることなく、武蔵沈没。

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    投稿日: 2011.09.17
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    世界最大・最強の戦艦を作るために命をかけた長崎の男たちの執念が伝わる。確かに時代遅れの長物だったかもしれないが、それでも武蔵を作った偉大な功績は消えない。著者の意図とは違う読み解き方だとは思うが、そう感じた。

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    投稿日: 2011.09.01
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    感情に左右されたような文章が無く、調査した事実(と推察される内容)を淡々と書いてあるが故に、これが現実なんだな~ということがひしひしと感じられた。『零式戦闘機』でも書かれているが、着手から最後までが、一定の調子で進められている。ただ、『零式戦闘機』と違うのが、あまりの規模の大きさ、そして作ることの条件の難しさだった。何で条件のすごぶる悪い長崎で作成せざるを得なかったのだろうか。経費も余計かかるだろうし、全くわりにあわないと思う。『零式戦闘機』の、牛車で運んだ逸話と似たものを感じる。長崎の人もとんだとばっちりだったろう。戦時下で統制されていたとはいえ、この頃の日本人はよく耐えていたな~と本当に感心した。 この作者の作品『零式戦闘機』『桜田門外ノ変』を読んだことがあるが、いずれも事実(と推察される内容)を淡々と書いてあるものであった。ただ、前者がそれが故に、戦争という広大な虚無のようなものの恐ろしさを味わえたのに対し、後者は、一藩の一侍の、一つの事象をはさんでの一生涯という、サイズの小さいものであったので、事実ではあるのであろうが、あまりゆりうごかされるものがなく、大変読みにくかった。このような書き方は、幕末の志士の生涯を書くには(それも正直あまりパッとしない)ちょっと向いてないのかもしれない。

    0
    投稿日: 2011.08.31
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    武蔵が完成してから沈没するまでの話かと思っていたら、半分以上は建造にまつわる話。 確かにあれだけどでかいモノを秘密に作るのは、大変だったろうな。 大和そして武蔵。さらにもう2艦計画されていたとは! 不沈艦武蔵も最期は悲惨でしたね・・・ 時期が悪すぎた。 しかし日本の戦艦は美しい。

    0
    投稿日: 2011.08.28
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     本作も当然の☆☆☆☆☆    宇宙戦艦にもなった大和は有名だけど、実は同じような戦艦がもう一つ建設されていた。しかも大和より武蔵のほうが後に作られたからより改善されている。  武蔵は世界最大の戦艦という以上に日本帝国海軍の夢が託されていた。それは性能への期待ではなく存在への期待であり、連合艦隊司令長官への畏怖と同じような偶像崇拝であった。  いったいどれだけの金をつぎ込んだんだと思うくらいに徹底された巨像は、その期待ゆえに戦火から離され、いざ戦火にさらされたときは、その巨像ゆえに真っ先に攻撃された。  非常に物語がある鉄の塊。  謎の男が日本中の棕櫚を買いあさり、日本から棕櫚が無くなったという枕ではじまるところがいつもの吉村昭らしくて心が騒ぐのだ。

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    投稿日: 2011.06.27