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戦艦武蔵
吉村昭 / 新潮社
「国家秘密」と「巨大建造物」と、その異様さについて。
4
戦略上その存在が国家秘密とされた戦艦を、一民間企業である三菱重工業が作るという歪み。
三菱重工側に作っているものの全体像を知る者が数人しかいないという異様な状況の中で、
建造が進められる…そんな中での…虎の子の46cm砲に関わる図面の紛失事故…。
元外務省の佐藤優さんが秘密保護法の議論の文脈の中でも引き合いに出していましたが、
「国家秘密」について書かれた本です。
そして、秘密であることと矛盾する「巨大建造物」について書いた本でもあります。
建造当時は、おそらく人類史上の最も巨大な人工物の1つであったと思いますが、
造るにしろ、動かすにしろ多大な資材と労力が投入されました。
シュロ(繊維材料の植物)が九州の市場から消えるところから始まりますが、
「巨大」であるものが「秘密」であると、こういう異様なことになるのかと。
この冒頭の章から引き込まれます。 続きを読む投稿日:2014.07.06
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邂逅(かいこう)の森
熊谷達也 / 文藝春秋
自然の中に身を置くことについて
4
自分がこれまで読んできた小説の中で、最も好きな小説が
トールキンの「指輪物語」と本作「邂逅の森」です。
自分は登山が趣味で年間30日ぐらいは山にいますが、
「指輪物語」からは黙々と歩き続けることにつ…いての
「邂逅の森」からは自然の中に身を置くことについての、
それぞれ厳しさと同時に美しさのようなものを思い起こさせます。
山で辛い登り出くわすと「指輪物語」のことを、
山で寒さや風で辛い夜を明かすことになると「邂逅の森」のことを思い出します。 続きを読む投稿日:2014.07.16
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雑談力が上がる話し方
齋藤孝 / ダイヤモンド社
正直、ちょっとだけ雑談力が上がったかも
3
「雑談は結論がなくてもいい」とのことです。
当たり前のようですが、自分には目からウロコでした。
振り返ってみると、自分の雑談は「オチ」を意識しすぎで、
なんとなく頑張ってオチに向かってストーリー立て…て話したりしてましたが、
その割りに話が上手いわけでも、
日常に面白い出来事があふれかえっているわけでもないので、
中途半端につまらない話を相手に聞かせていたなあと…。
この本を読んで、雑談なんて到達点なんて気にせず、
話を転がせばよいのだなあと気づかされました。
おかげで、同僚・上司と20~30分電車に乗るような時間がだいぶ楽に。
生活に実益があったので☆5。
数十のトピック・テクニックが書かれているので、1個でも自分に引っかかれば
読んだ意味があるかと。読みやすい書きぶりなので、一瞬で読めるのも良いです。 続きを読む投稿日:2014.07.06
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屍者の帝国
伊藤計劃, 円城塔 / 河出文庫
たぶん色々な仕掛けのある小説
2
ドストエフスキーは生前、「カラマーゾフの兄弟」に続編があることを示唆していましたが、
ドストエフスキーの略歴・思想や書き残したもの、当時の時代背景などから推測すると
「アリョーシャが、コーリャらと共に…革命家になり皇帝暗殺(新たな父殺し)を謀る」
という筋になるらしいです。本作はこの続編を意識して書かれていると思います。
本作は歴史や他の創作(フランケンシュタイン、ワトソン、グラント米大統領etc...)などを絡めていますが、
こういった分かる人には分かる仕掛けがところどころにあるんだと思います。
自分は亀山郁夫さんの「『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する 」という本を読んだことがあったので、
この部分だけ「ははーん、あれね!続編ね!」となりましたが、学のある人が本作読むともっと色々気づくことがあるんだと思います。
我こそは知識人!という方は是非読んでみてください。
続きを読む投稿日:2014.07.16
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ラブコメ今昔
有川浩 / 角川文庫
ラブコメってなんだっけ?
2
あまーい、あまーいという前評判を聞いてから読みましたが、まあ評判どおりでしたね。
しかし、図書館戦争など有川さんの以外で小説で、こういうのって他にあるんでしょうか?
普通の恋愛小説とは違うし、ライト…ノベルや少年誌の漫画に通ずるものもありますが、
それとも若干趣きが違うし…。ラブコメってなんでしったけ? なんかよく分からなくなってきました。
著者が自衛隊に深い敬意を払っていることも、行間によく伝わってきます。
いろいろなことが言われる組織ではありますが、こういうエンタメから入ってみるのはいかがでしょうか? 続きを読む投稿日:2014.07.06
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ヤマケイ文庫 梅里雪山
小林尚礼 / 山と溪谷社
37歳の村長がいい人 - 遺体捜索と麓の村人との交流の記録
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チベットの信仰対象の山であり、それまで登山が許可されなかった"梅里雪山"に
初登頂を目指して日中合同隊が挑んだ結果は・・・大雪崩により17人全員遭難。
本書は、雪崩に流され氷河に埋まった遺体・遺品の捜…索に、数年かけて取り組んだ記録。
著者は捜索にあたり地元のチベット(地理的には雲南省)の人々の生活に深く入り込み、
協力を得ながら捜索を進めましたが、
本書の面白いところは、その交流の記録が克明に綴られているところ。(+著者の写真)
特に、著者の捜索活動に積極的に協力をしてくれ、そして著者の親友にもなった
村長のチャシ氏にはとても魅力的な人物。
霊山を侵そうとした(←表現が微妙ですが)遭難者の遺体は忌み嫌われる中、
若き村長の協力の元で捜索を進められた経緯には、敬意を感じます。
「チベットの村長」というと白髭の老人を思い浮かべるかもしれませんが、
30歳台の壮年の男性です。若くして村を背負ってたつ人物の人間性の深さなどを感じます。 続きを読む投稿日:2014.07.06