【感想】WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン) 心が軽くなる「脳」の動かし方

ジル・ボルト・テイラー, 竹内薫 / NHK出版
(14件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
3
4
7
0
0
  • 「4つのキャラ」全員の息を合わせる

    自分のなかの感情や思考はどうしてこうも複雑なのだろう。
    時に相反するような、入り交じったものになるのはなぜだろう。
    それは脳のなかに2つの感情と、2つの思考を司る細胞群があるから。
    それら2つのペア同士は完全に独立しているばかりか、まったく正反対の方法で情報を処理している。
    例えば左脳の処理は、過去から現在へというように順序立ててつなぐような時系列処理を行ない、そこから推論や言語、時間感覚や自我が育まれるが、逆に右脳は過去も未来もない、「今ここ」という瞬間の同時処理を行なっているため、全体との一体感を育んでいる。
    その結果、一つの頭の中に相反する二面性が生まれるのは仕方のないことで、我々が左脳と右脳の自律的な視点が引き起こす対立に苦しむのも無理はない。
    もし心と頭が別々のことを言っているのだとすれば、それは脳の違う部分同士が争っている時なのだ。

    人生をよりよいものにしていくには、左脳の「キャラ2」とどう健全な関係を築けるかにかかっている。
    痛みや悲しみ、恨みといった負の感情とどう折り合いをつけていくか。
    右脳のオープンでフレンドリーな「キャラ4」や好奇心旺盛で積極的な「キャラ3」だけになってしまえば、人生は豊かで楽しくなりそうだが、それは著者が自らの病を克服して得た教訓ではない。
    怒りや恐怖はなくなったが、しゃべることも理解することもできず、意味を持った文字や数字も見分けることもできない生活。
    もっと言えば自分が誰なのか、アイデンティティも喪失した状況。
    心穏やかで果てしない感謝の気持ちに包まれた右脳支配の脳だけでは、とても人としての正常な営みを送れない。

    多くの人は、黙っていても左脳の「感じるキャラ2」が優先となって、悲観的に感じ考えてしまうもの。
    しかしキャラ2の感情的な苦痛に耳を傾けないでいると、そのうち身体的な病として表面化するだろう。
    私たちの心身の健康の鍵を握っているのは、この「感じるキャラ2」であることが多い。
    いつも不平不満や泣き言を言っているように見える「キャラ2」は、進んで外部の脅威に立ち向かってくれているスーパーヒーローだとも言える。
    時にはどうしようもない自己破壊的な五歳児にも変貌するのだが。

    著者は、自分のなかのギャラ2をよく理解して、「脳の作戦会議」を通じて、他の3つキャラたちと一緒に育てていく方法を学ぶべきだと語る。
    弦楽四重奏を演奏するように、どのキャラが欠けても、メロディは完成しない。
    あるキャラが暴走しはじめたと感じたら、速やかに一時停止し、90秒の間をあけて脳内の化学物質を一度中和する。
    さすれば「4つのキャラ」全員の息も合わせやすくなると。

    外からの情報を処理するのに我々は、生物学的に必ず、まずは感情に関わる細胞が処理をしてから、高次の思考中枢に送られる。
    ゆえに人間はいかに「考える葦」だと思っていても、我々が「感じる生き物」であるという前提を無視するのは大間違いだ。

    薬物やアルコールなどの依存症からの脱却においてもそうで、左右の感情・欲望中枢の細胞である〈キャラ2と3〉の両方を参加させないかぎり、決してリハビリは成功しない。
    著者が本書で何度も繰り返す、「私たちは感じることもできる”考える生き物"ではなく、考えることもできる”感じる生き物"である」という主張の根本はここにある。
    道理を説いて頭でわかっても、感情的にも降参させなければ、必ず依存症は再発する。
    これは依存症患者だけの問題ではない。
    彼らを支える周りの家族や友人もそうなのだ。
    自堕落で破壊的な素行を目にすると、どうしても〈ハードなキャラ1〉に変貌してしまい、厳しいルールを作って管理してあげたくなってしまうが、それが相手をさらに追い込んでいることに気づかない。
    もっと言えばそれが実は、自分の「キャラ2」の痛みや苦しみを隠すために「キャラ1」に変身していることに気づかない。
    とりもなおさず依存症患者の問題ではなく、周りの人たち自身の問題でもあることを肝に銘じる必要がある。

    「愛する人を見捨てたくない、かなわない夢だとあきらめたくない。家族や友人の〈キャラ1と2〉は必死に希望をもちつづけます。しかし、充分に苦しみを味わい、〈キャラ2〉が打ちのめされ、不安になり、落ち込んで、すっかり無力感と敗北感にのみ込まれると、〈キャラ1〉がリングにタオルを投げ込みます。〈キャラ1〉が希望にしがみつけばつくほど、さらにリスクの高い、次の段階の修羅場へ発展させる許可を依存症患者に与えてしまいます」
    続きを読む

    投稿日:2024.03.22

ブクログレビュー

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  • かっきー

    かっきー

    面白かった。筆者の考えでは、自分自身のキャラは左脳的なキャラと右脳的なキャラだけでなく、左右それぞれを皮質と辺縁系のあたりを境として上下に分割することで、上下と左右の組み合わせから成る4つのキャラに分けられるのだという。これらのキャラは、解離性同一性障害のような精神疾患ではなく、誰もが実感できるものであり、状況や状態によって目まぐるしく変化していることがわかる。
    『奇跡の脳』でユングに触れられていたため、本書でも序盤から期待しながら読んでいたが、やはり4つのキャラは元型(ペルソナ・シャドウ・アニマ/アニムス)および自己と対応しているとのことで、我が意を得たりという思いである。
    続きを読む

    投稿日:2024.02.20

  • グンジョ

    グンジョ

    脳出血で左脳の機能が停止し、右脳優位になって至福の時間を過ごした経験のある神経解剖学者が書かれた本。

    人の脳には4つのキャラがある。今まで無意識にそのうちの1つのキャラに引っ張られ不幸だった人に、意識的に他のキャラを選ぶ事によって幸せになる事を勧める。ある負の感情に襲われた時に、自分の思考の癖に気づく良いキッカケになりそうだ。

    英語の和訳本は冗長なことが多いが、この本もご多分に漏れず。まず最初に訳者あとがきを読んで、気になった箇所の本文を読むと時間セーブになると思う。
    続きを読む

    投稿日:2023.10.27

  • gbh10103

    gbh10103

    脳の仕組みについて、左脳が麻痺した経験のある脳科学者が体験をもとに分析。
    脳には、考える脳と感じる脳の領域が左脳、右脳にそれぞれあり、4つのキャラを演じている。
    人間関係において、この4つのキャラとどう付き合って行くが大事。また、ミレニアム世代、Z世代など世代別のキャラの特徴を捉えるなど、人間の特徴を捉え対応するのに、4つのキャラの理解は、人生を生きやすくする。続きを読む

    投稿日:2023.10.22

  • harmonixy

    harmonixy

    WHOLE BRAIN. ジル テイラー NHK

    脳には左脳と右脳それぞれに思考と感情を司る四つのキャラが潜み
    それを読み解いた稀有な体験を持つ
    ジルテイラーは実に幸運な人である
    神経解剖学を通して人間の何たるかを
    見つめていた彼女は
    釈迦に次ぐ大冒険の快挙を
    意図せずして楽しく成し遂げ
    無限大のお土産を手にし九死に一生を得て
    帰還することができたのである
    居合わせた私たちも思わぬお土産にあずかり
    同じ幸運に浴せたと言えるだろう
    誰もが持つ一つの脳内に
    左脳の三次元時空間に偏った
    五感による部分感と
    右脳の無限を視野にした唯一無二の
    全体観を並列させて
    そのそれぞれに思考と感情の個性を備えた
    四つの分身による共同作業で
    私の一瞬一瞬を描きだしていく構造に
    付帯する気づきをもたらしたのである
    ジルテイラーは緩やかな脳内出血によって左脳が休眠状態となり
    右脳を通して無限なる集合意識に浴する
    チャンスをものにしたらしい
    ある種の臨死体験と言えるのかもしれない
    私たちは四つに分断された体験から学び
    全体観を目指す成長の過程にあり
    この私の脳内にある四つの個性が
    お互いの機能に気付けずにいがみ合えば
    競い争う混沌状態となり
    お互いが俯瞰し合うことで
    相手を知り輪になれれば
    切磋琢磨が起こりその相乗効果は
    計り知れない幸運をもたらすだろう

    惜しいかな
    日本語の文脈になっていない翻訳のまずさで読みにくいのが難点だ
    続きを読む

    投稿日:2023.09.28

  • miwa

    miwa

    おもしろくて一気読み!
    TEDをみて購入。
    自分の脳を内側から観察できるなんて。
    右脳、左脳が本当にぱっくりと
    綺麗にわからているのはTEDを見て知った。
    そしてこの本を読むと
    右と左で全く違う処理をしていることが
    よくわかる。
    頭の中の4人の自分。
    この本を読むと
    どんな話をしてるのか、
    俯瞰的に眺めることができそう。
    続きを読む

    投稿日:2023.08.21

  • すす

    すす

    4つの脳のキャラクターのどれがどんな状況で活動するか、自分の癖を知ること。
    左脳の不安キャラが優勢になったら、90秒呼吸に集中し4キャラ会議。右脳の楽しみキャラ、安心キャラが活動しやすいよう、自然との関わりや純粋な楽しみを大切にしたい。続きを読む

    投稿日:2023.07.26

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