【感想】夜の少年

ローラン・プティマンジャン, 松本百合子 / 早川書房
(13件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
2
6
4
1
0
  • どれほどの夜が必要か

    病気で妻を亡くし、幼い息子2人と懸命に生きる父親が物語の語り手だ。
    内に不安や怒りを溜め込みつつも、やること全てが不器用で、周りが見かねていろいろと救いの手を入れるほどのもどかしさ。
    彼の視点とシンクロさせているのか、本書は驚くほど改行が少なく、会話も本文に織り込まれている。
    数えてみると約160ページ中に改行はわずか70以下という少なさで、先日読んだ日本の小説なんか5〜6ページで達してしまうほど。
    自らが傾倒する政党とは真逆の連中とつるむ長男に対し、頭の中ではとんでもない折檻を想像するのだが、実行には移さない。

    家族の間でお互いに距離を保つ様がいじらしい。

    「フスとわたしはまともに話すことなく伝えるべきことだけ伝えて、あとは息をつめてじっとしていた。足の置き場が残っているところにおそるおそる足をつくという状態だった」

    「まるで舞台の上で演技をしているようだった。距離を保ち、同じ廊下ですれ違わないように、出かける時間、帰宅のタイミングを調整していた。バスルームの小さな洗面台の前に所狭しと集まって、押し合いへし合いしながら歯を磨いていた時代はもう終わっていた。わざと邪魔し合ったり、触れ合ったり、やさしく小突き合ったりしながら手っ取り早く皿洗いを済ませていたのは過去のことになってしまった。今ではわたしたちの動きは用心することがたくさんありすぎて重苦しく、ぎこちないものになっていた。余白をたっぷりと残しておかなければならなかった。一人が入ってくる前に、できれば、もう一人が出ていって場所を空けられるように。ずっしりと重い潜水服でも身につけて忌々しい放射能ゾーンの上でも歩いているかのように」

    田舎に暮らしながら勉強を頑張り晴れて中央を目指そうとする弟が、家計を案じ下宿先を地方に決めようとすると、すぐさま「ふざけんな、高いところを目指せ!パリに行くチャンスがあるんだから、パリを選べよ。父さんとおれでおまえの寝床くらいどうにかするさ」と励ます兄のフス。
    一瞬の逡巡を恥じる間もなく、一気に涙腺が崩壊する父親の描写がたまらなくいい。

    「頭のてっぺんまで満潮になって、しなびた鼓膜がズキズキして、大きな玉のような涙がこぼれた。車を走らせながら泣けるだけ泣いて、墓地に着くとベンチに腰かけてまた泣いた。妻の墓のすぐ側ではなかったけれど、そんなことはどうでもいい、墓地にいることが大事だった」

    原題は、「(人生の彩りを再び見出すために)どれほどの夜が必要か」で、詩の一節から取られている。
    訳者は勘違いしているのか、この"夜"を、人生の"闇"や"トンネル"と解釈してしまっているが、本文にも出てくるように"記憶"や"夢"、"逡巡"や"後悔"など、"身悶えつつも乗り越えていく時間"を象徴しているように思う。
    だから、『夜の少年』というタイトルよりはそのまま、『どれほどの夜が必要か』でも良かったんじゃないかと感じた。
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    投稿日:2022.11.07

ブクログレビュー

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  • 湖永

    湖永

    父親の苦悩と悲しみが波のように襲ってくるように感じた。
    ひとことで言うと辛い、だろうか。

    妻を病気で亡くした後、二人の息子を育てる私、というように父親のひとり語りで始まる。

    父親の気持ちが切々と綴られていて、父親の視点でしか知り得ない物語だったが、ラストの父さんへというフスの手紙で胸を締めつけられた。

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    投稿日:2023.07.05

  • kei1122

    kei1122

    このレビューはネタバレを含みます

    些細な出来事の連続の先は夜だった。

    ささやかに生きてきた真面目で朴訥な男性が、病気で妻を失い優しい長男との関係が少しずつ狂っていく。

    毎日が「あのときこうしていたら」「ああしたほうがよかった」の連続で生きている。どこに生まれ生きていてもそれは不変なのかも。

    フランスは政治が日常生活に密着していますね。読み始めは面くらいました。

    帯文は重松清さん、重松作品が好きな人に読んでもらって感想を聞いてみたいなぁ。

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    投稿日:2023.04.02

  • koringo

    koringo

    父親の気持ちが痛いほど伝わり苦しくなる。息子とどう接したら良いのか分からない父親の葛藤、逡巡が手に取るように分かる。
    子どもと一心同体の蜜月時期を過ごした経験のある者ならば、子どもが見知らぬ他人のように理解できない存在になってしまう哀しみ、寂しさに共感してしまう。
    子どもが親の求める姿の許容範囲を越えた時、失望し言葉を失う、会話は途絶え、沈黙…けれど見捨てることなどできない。親だから、子どもだから。
    その関係は哀しい、けれど愛しい。
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    投稿日:2023.01.24

  • 白湯

    白湯

    このレビューはネタバレを含みます

    父親も長男も不器用でなんだか切なかった。ちょっとずつ道を逸れていった結果あんな大事になるなんて。みんながジルーやジェレミーのように生きられるわけじゃないから…

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    投稿日:2023.01.22

  • yuru1165

    yuru1165

    フランスの文化もわからんし
    とにかく親父の考え方が
    全く1ミリも共感できなかった
    なんじゃこの親父は…
    って腹立ったし
    とにかく読むのがめんどくさかった
    うちのとーちゃんと
    全然ちがうからか
    謎すぎてストレスたまった

    人にオススメすることはないから
    星1つか?と思ったけど
    読み終わったから2つにしとく
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    投稿日:2022.12.05

  • 陽子の本棚

    陽子の本棚

    読みごたえのある本。
    幸せに暮らしていた四人家族が、母親が癌で亡くなってから、長男に変化が起こる。
    3年の間、休みは母親の見舞いで過ごし、成績も下降し、苦労している父親に迷惑をかけないように、地域の短期大学に進学する。極右の仲間と付き合い、父親とも距離を置く。
    ある日事件が起こる。彼が殺人を犯してしまう。
    裁判、判決と、父親の心は揺れ動く。どうすれば良かったのか、どう子どもと向き合えばいいのか、父親の心理を詳細に描写している。
    続きを読む

    投稿日:2022.09.28

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