【感想】ヨルガオ殺人事件 下

アンソニー・ホロヴィッツ, 山田蘭 / 創元推理文庫
(130件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
43
57
16
1
2
  • けっして偶然など存在しない

    いまから数年後に、”ムササビ”だか”アサガオ”だかが出て、すっかり本作の内容も忘れてしまっているだろう未来の自分に向け書いとくと、上巻まではほんと面白かった。
    本好きの人間にとって、現実の殺人事件の謎の解明に、過去のあるベストセラー推理小説がヒントを与えてくれていると聞いたら、一も二もなく読んでみたくなる。
    しかも、舞台が違えば、凶器や犯行もまったく異なり、その本の編集者でさえ事件との関連性に気づかないほどなのに、読む人が読んだらたちどころに犯人がわかってしまうというのだから俄然興味が湧いてしまうではないか。

    下巻の途中までの、ピュントシリーズの作中作を読んでいる時は楽しかった。
    作者もよっぽど自信家なのか、『愚行の代償』を読み終えた主人公に、「満足の吐息をつかずにいられない」とか、「生き生きと胸のうちに湧き上がる」などと感慨にふけらせ、自分で自分の作品を公然と褒めているのだが、確かにまぁ面白いんだよな、前半までは。
    おまけに巻頭の絶賛レビューなんかも、何をわざわざとか、そこまでしなくてもなんて思ってたら、きっちりそれも後で振りになっているという小憎らしさ。

    ただ、なんでホロヴィッツの作品は作中作の方が面白いと感じるんだろうかという、上巻で抱いた疑問は解けた気がする。
    クリスティへのオマージュとして捧げられたピュント物のほうが、変態的な性的志向やら、現実の暗い側面やドギツイほうに向かわない安心感があるのもさることながら、やっぱり主人公が正真正銘の探偵だというのが大きい。
    現場に行ってピュントがフンフンと頷いているだけでも、”わぁ、なんだろう"って妙に高揚感に満ちてくるが、スーの行き当たりばったりで目算もない、聞き取りなんだが喧嘩を売りに行っているんだがわからないような道中記を読まされても、彼女の偏見に満ちた(かなりイギリス人らしいシニカルな)予断や印象に付き合わされているだけで、ひたすら我慢しながらページをくるしかないのだ。

    延々と付き合わされた挙げ句、実は『愚行の代償』の中身ではなく、1ページ目の献辞に、一番の謎が隠されていたとわかった時には、椅子から転げ落ちそうになった。
    いやさぁ、なんかこう、もっと深いところで関連付けておいてくれよと。
    それで星座がどうとか知らんわ、もう。
    ピュント物でも、事件現場で見せる秘書のわざとらしい小芝居も何なんだろうね。
    頭にでっかいフラグが立ったまま、その後でピュントが一人「この事件に関わるべきでなかった」なんて独白させたら、もう答え見えてんじゃん。

    “それまで砂糖だと思っていたものを塩に変える”など訳はない作者のこと、それこそクライマックス近くで真相や犯人でさえ突然と差し替えることもお手の物であろう作者のこと、もう少し”えぇ!!”とビックリさせる大団円を迎えられなかったものか。
    「犯人はヤス」と言われても、「うん、知ってた」と言う他ないし、思わせぶりな容疑者も、あとで振り返ってみれば雑な賑やかし程度の脇役にしかすぎなかったわけで、読んですぐ忘れるレベル。
    カササギ読んだのに、スーって誰だっけだったし、アンドレアスに至っては読み終えてなお、記憶にない。
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    投稿日:2022.03.26

ブクログレビュー

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  • chanaobook

    chanaobook

    「ヨルガオ殺人事件」は、「カササギ事件」の続編なので、前作を読んでから本作を手に取ることをお勧めします。

    前回作が好きなら、今作はもっと好きになるはずです!

    物語は、ミステリ作家アラン・コンウェイが書いた架空のミステリ小説「愚行の代償」を軸に進行し、小説の中に小説がある構造が特徴です。

    「愚行の代償」を読んだ女性が、過去の殺人事件の真相に気づいた後に失踪します。アランの元編集者は、失踪した女性の家族から依頼を受け、過去の殺人事件と失踪事件の謎を解明していきます。

    作中作の構造は前回と違うアプローチで、多少読みやすく感じました。現実世界の登場人物たちの行動や言動、身体的特徴の描写は、海外ミステリで鉄板の事件解明の鍵となります。

    「愚行の代償」に入るまでに、ある程度容疑者は特定できましたが、それを確定するための決定的な手がかりは「愚行の代償」からは見つけられませんでした。アナグラムはミステリの鉄板ヒントですが、英語名になると日本人として解くのが難しかったです。

    最後に伏線が次々と回収される様子は痛快で、読んでいて非常に楽しかったです。
    内容を忘れたら、また再読したい一冊!
    次は慎重に読んで、「愚行の代償」内のヒントに気がつきたいです。
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    投稿日:2024.05.26

  • 鴨田

    鴨田

    アンソニー・ホロヴィッツ作品を読むのは4作目。
    作中作「愚行の代償」単独でも十分に高品質なミステリーなのに、それが現在(設定は2016年)の事件と共鳴しあって、8年前に結審した筈の殺人事件と今の行方不明事件が同時に解決する、という、またまたアクロバティックな展開に今回も脱帽です。
    独特な性癖のひとが多めに出てくるのは、少々食傷気味ではあるけれど、アティカス・ピュントものとして続く限りはある程度避け難いのかも。

    これだけ制約がある中、続編で同じクオリティを保てるのかしらん、と次が心配になるくらいの傑作でした。
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    投稿日:2024.05.07

  • りりーちゃん

    りりーちゃん

    素晴らしかった!
    何度見でもできる。本の中の本を読むなんておかしな話だけど。。。
    何年も前になる殺人事件の容疑者が、実は逮捕された人間と違うのがミステリー『愚行の代償』を読んで分かった。そして読んで知らせてくれた娘が失踪した。

    どこに犯人だと分かるヒントがあるというのか。
    なめるように読んでしまったけど1回では到底わからず。

    というかそれ伏線だったんかーい!というのもちらほら。

    個人的には、最も不幸な探偵役ともいえるスーザンが今回報われて良かった。そしてアンドレアスが今回も鋭いしかっこいいのでギリシア人の評価爆上がり。
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    投稿日:2024.05.04

  • 翠

    いやはや、すごいよねー。
    そうくるか。
    そう絡めてくるのか。
    え?ちょろい読者選手権の結果?
    それは秘密。

    投稿日:2024.05.03

  • どんぐり

    どんぐり

    ウ~ン、面白かったッス。自由自在の筆ですね。
    こんなに面白いのに、あんまり「好き〜!」てさせないのは、(売れすぎてるのはあるけど)作者のとんでもないバランス感覚のたまもののように思える。
    めちゃくちゃ緻密な頭脳がないと絶対書けない作品群なのに、ホーソーンシリーズでは自分は凡庸で鈍いキャラだし。
    一人の人間がこんなの書けるんでしょうか。まったく。
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    投稿日:2024.04.28

  • ピッピ

    ピッピ

    この小説の肝ともいうべきアランの作品「愚行の代償」もきっちり載せているのですから、“ひと粒食べて二度美味しい”というどこかのお菓子メーカーのキッチフレーズを思い出します。改めてホロヴィッツの書くミステリーの凄みを感じました。
    主人公のスーザンの思うようにこのアランの作品を読んでも、この中身でどうしてヨルガオ館の殺人事件の真犯人がわかるのかという疑問が残ります。
    しかし、最後には様々な伏線を回収し真犯人が顔を出します。スーザンがポアロばりに関係者を集めて犯人を言い当てる下りは、やっぱりミステリーの醍醐味です。それにしても、途中スーザンが危ない場面でまたアンドレアスが何故か登場し彼女を救います。うーむ劇画風だと思いつつもほっとする場面でした。
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    投稿日:2024.04.11

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