【感想】ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス

春名幹男 / 角川書店単行本
(9件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
2
5
1
0
0
  • ロッキードをめぐる数々の陰謀説を一刀両断

    ロッキードのコーチャンと田中角栄、躓きのきっかけは当人からすれば寝耳に水のような話だった。
    外国での不正な販売工作を行なっていると追求されていたのは実は別の米会社で、その会社の会長が何を思ったのか公聴会で突然「この商法のモデルはロッキード」と口走ったのが、疑獄事件の始まりだった。
    この会社(ノースロップ社)も元々はニクソンへの違法献金から問題が発覚し、つまりはウォーターゲート事件の調査から端を発している。

    事件が発覚し、外国政府高官の名前を含んだ資料の提出を求められ弱ったコーチャンは、社の顧問弁護士に相談する。
    弁護士は彼に、国務省を説得する材料として、この名前が漏れたら公表禁止の保護命令を出してもらえるような決定的な資料はないかと問い、コーチャンはよせばいいのにわざわざ高官の実名入りの金の支払いを示すメモを探してくる。
    それを提出して、キッシンジャーは司法長官あてに意見書を提出し、「これでわれわれは保護された」気持ちで一杯でいたのだ。
    確かに国務省は公表禁止の意見書を提出した。
    ただしその禁止対象に角栄は含まれていなかった。

    角栄が、キッシンジャーから蛇蝎のごとく嫌われたきっかけも、本人からすれば些末なものだった。
    角栄の第一印象はそれほど悪くなかった。
    特にニクソンは、角栄の娘のエピソードを引き合いに出して、むしろ好印象を持っていた。
    それが会談を重ねるごとに悪化する。
    その端緒は、キッシンジャーが求めた交渉の密使を立てる提案を、田中が拒んだことだった。
    別に彼からすれば何も含むところはなく、アメリカとの意思疎通は良好にしておきたいと考えていた。
    ただそれに仲介役はいらないと考えただけだ。
    しかしこれは失敗だった。
    一対一の会談で常にお互いの真意を交わせるというのは幻想だった。
    事実この後、日米双方とも思いの行き違いが頻発することになる。

    田中にアメリカの意向を無視した独自の外交を志向する気はさらさらなかった。
    ただ彼は、直面する諸問題に対して、他の政治家よりは機敏に、前例にとらわれず動いただけだった。
    しかもいちいち事前にキッシンジャーに伺いをたてているのだが、了解とも取れるような曖昧な回答しか返ってこない。
    この面ではキッシンジャー自身の陰湿な狡猾さが関係していて、どちらかと言うと、日本人全般をバカにしている印象。
    石油危機では日本に、米国の中東戦略に協力しろと言うが、その裏で何の手当も講じていないのだから、まさに「同情するなら、油をくれ」だった。

    果たして、ロッキードでの田中逮捕の裏に、キッシンジャーの陰謀があったのか?
    著者はその見立てだが、どうかな。角栄を公表禁止の対象者に含めなかったこと、そして彼を嫌い復権を望まなかったというのは、資料から確かなのだろうが、確実に政治的に抹殺したかと言われると違うだろう。
    そもそもキッシンジャー自身が、逮捕後の角栄に三度も会いに行っていて、最後などは病に倒れる直前だった事実は見過ごせない。
    著者はキッシンジャーが追い込んだ男の末路をただ眺めに来たと書いているが、むしろ政治的な必要があったからと考える方が自然だ。
    続きを読む

    投稿日:2021.01.01

ブクログレビュー

"powered by"

  • spica2015

    spica2015

    15年の長期取材による本書。数々の公文書等を丹念に調べておられ、説得力があった。
    重苦しい気持ちになった。
    「ロッキード事件なんて昔の話をなんで私は読むのか」と思ったが、「昔の出来事」と、そこで途切れているわけではない。当たり前か。
    これはアメリカと日本の政府、自民党、政治家、今も続いていることなのだろう。アホみたいに、アホみたいな戦闘機を大量に買わされて多額の支払いをかかえる今の日本。
    自民党政府が続く限り仕方がない。反米の政治家はアメリカによって潰される。アメリカの国益にかなう政治家しか勝てない。まあ、そうでない政治家を立たせる、選挙の力で、というところまでも今の日本国民はできていない。いつまでもこのままでいいのか。こんなことでいいのか。
    続きを読む

    投稿日:2024.01.25

  • 大前 徹

    大前 徹

    熟練の国際ジャーナリストがロッキード事件について15年かけて洗い直した作品。以下の大きく5つの陰謀説を中心に米国で公開されている資料にも丹念にあたってその真贋の検証を中心に展開されている。
    1.ロッキード社の秘密資料(ピーナッツの領収書とか)が偶然誤って議会に配送されて事件が発覚した。
    2.ニクソンが自分の意に沿わない田中角栄を嵌めた。
    3.三木武夫が政敵である田中角栄を葬るために強引に追求を行った。
    4.田中角栄が資源外交で米国から睨まれて嵌められた。
    5.キッシンジャーが意に沿わない田中角栄を嵌めた。
    こうして書くといくつか重なっているように見えるが…興味深かったのはこの米国そのもの、またはニクソンかキッシンジャーの虎の尾を踏んで嵌められた、というのは伝聞というか噂話をもっともらしく田原総一朗が広めたものらしくそれだけでも彼がジャーナリストを名乗る資格が無いことが分かる。実際にはニクソンやキッシンジャーが意に沿わない田中角栄を嫌っていたことは事実のようだがかなり厳しく対応を検討していて陰謀と言えるようなことではなかった、ということがよく分かる。当時経営不振に陥っていたロッキード社が地元にあるニクソンはロッキード社への融資に国の保証を無理矢理付けていた。なのでなんとしても倒産だけは避けたく販売不振の旅客機をなんとしても日本に売りたかった。つまり陰謀を巡らせるようなゆとりはなかった。また融資に保証をつけていた関係で議会はその経営をチェックする必要があり監査法人から正式に提出された資料に領収書などが含まれていた。キッシンジャー率いる外交筋は日米関係に亀裂が入るのを恐れて日本の政治家の名前が分かる資料を日本の司法当局に渡すことにむしろ難色を示していた。三木は強硬に資料の公開を迫ったがあくまで司法当局の者だけが見られる、という条件をつけられ強引な追求はできなかった、などなど面白おかしい陰謀説が次々と検証されていって本当はどういう事件で誰が一番悪かったのか、が暴かれていく。キッシンジャーがかなりとんでもない奴だということもよく分かるのだがそれを超える巨悪がいる、という展開でかなりのページ数も苦にならず読めてしまった。日本にもこういう時代あったんだな、としみじみ思わせられた。あっと驚く展開こそないけれども非常に面白い作品。おすすめです。
    続きを読む

    投稿日:2021.10.26

  • bookkeeper0

    bookkeeper0

    キッシンジャーによる選別で、児玉ルートの先は隠蔽され、田中は切り捨てられた。
    面白いストーリーではあるが、田中をそこまで追い落とす理由が、やや説得力に欠けるように感じた。

    投稿日:2021.10.07

  • grandbor

    grandbor

    日本昭和史の中で、大きな事件となったロッキード事件の調査記録。客観的な事実、記録を踏まえて、真実に迫っているため、説得力を感じた。地道な調査に基づくアプローチの仕方に共感した。
    巨悪と評した内容までは容易に迫る事ができなかったが、巨悪の輪郭を伝えてくれたおかげで、曖昧だった近現代の歴史を、流れと全体像で理解できた気がします。続きを読む

    投稿日:2021.09.24

  • ucym100

    ucym100

    p48 誤配はなかった

    p61 砂防会館のエレベータに乗り込むとき、大勢の警視庁SPがいる前で、「おい、朝賀、トライスターってなんのことだ」 朝賀 飛行機の種類らしいですね

    このようにして田中は無関係という話が広がっていった。または、田中自身が意図的にそんなうわさを広げたとみていい

    p154 キッシンジャーは、いかに姑息なことをしても、我が身を振り返って反省するような人物ではない

    p177 現実の結果を先取りして言えば、田中角栄の名前を記した文書を日本側に渡している。それは、日米関係に過度のダメージを与えないという判断を国務省がしたからだ、ということになる。その反面、日米関係に回復不能なダメージを与えると想定された文書は渡さなかった、ということになる

    p214 日本側に提供されなかった資料の中に、「有償軍事援助(FMS)」による軍用機の対日輸出関係の文書が多数含まれていてもおかしくない

    巨額のFMS代金。その一部が右翼の児玉誉士夫や、政治家の懐に入っていたことが証拠付けられれば、日米安保体制は危機に瀕する、と国務省が恐れた可能性がある
    チャーチ小委の主席顧問ジェロームロビンソンは筆者に「小委の調査がインテリジェンスの領域に入ったので、調査は終了した。」と明言していた


    p268 どんな陰謀も動悸なしに企むことはない。動機があるから企みを実行する。動機はしばしば、怒りから生じる。怒りは突発的なものであり、時とともに鎮まって、忘れてしまえば、雲散霧消することもありえる
    だが、怒りは度重なると憎しみとなり、さらに復讐の動機を生む。復讐のための陰謀を企むと、純粋性を失い、さまざまな計略を考える 哲学者の三木清は、そんな人間の業を教えてくれる

    p271 キッシンジャーとニクソン大統領が、政治家田中の外交政策を嫌悪していた  アラブ寄りと独自の日ソ外交も

    p374 田中は、キッシンジャーの要求をはねのけて、「米国の戦略に従わず、親アラブの中東政策を発表、自主外構を貫いた

    p431 キッシンジャー 正義と混乱より不正義と秩序を重視する人物

    p452 キッシンジャーの田中邸訪問 ちょうど現場にもどる犯人のような心理状態で

    p468 刎頸の友 首を切られても悔いのないほどの、生死を共にする親しい友

    p503 佐々木秀世 ロッキード事件の永遠に明るみに出ない部分での深い関与があり、そのへんを検察につかまれて、因果をふくめられたのではないか

    p518 ロッキード事件は、3ルートで強制捜査が行われた。田中角栄を頂点とする民間用旅客機売り込みこう先の贈賄事件が断罪されたのは、そのうちの2ルート、「丸紅ルートと全日空ルートである。3つ目の児玉ルートとダグラスグラマン事件はまさに、未解明の安保利権の争奪戦だった

    p519 国産化を白紙撤回した理由は、田中の政治判断とする立場の再確認であり、日本政府はP3Cの購入を求めたニクソンからの圧力を認めたことになる

    p538 児玉誉士夫のネットワークと、米中央情報局(CIA)の対日工作が重なり合う部分がチャーチ小委のとっきー度事件調査で露出し始めたら、調査終了

    p549 ロッキー事件の脇役 シグ片山、鬼俊良、福田太郎、川辺美智雄

    p563 中曽根は巨悪側の人
    続きを読む

    投稿日:2021.04.16

  • bigblock

    bigblock

    面白くよんだ。読みやすい構成と思う。キッシンジャーの陰謀から児玉ルートへと話は白熱していく。あの頃の時代がよみがえる。巨悪によって現代日本が形作られているわけだな。角栄は巨悪でもなく、単に利権にまみれて葬られてしまった。続きを読む

    投稿日:2021.03.20

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。