【感想】狗賓童子の島

飯嶋和一 / 小学館文庫
(8件のレビュー)

総合評価:

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  • 政治はいつの時代も自己保身だけ:松江藩の糞侍と現政治家

    大塩平八郎の乱に連座して追われた西村履三郎の子息・西村常太郎の前半生がテーマ。子息というだけで15歳で隠岐(島後)に島流しとなった常太郎が医者として活躍。海運が盛んになった江戸時代末期、人々の往来も激しくなり、傷寒・コロリ・麻疹が次々と島を襲う姿は、現在のコロナを見ているような気になる。島民との血の通った交流の一方で、飯嶋氏得意の松江藩の糞侍(ぶさ)どもの愚策と自己保身があぶりだされる。政治とはいつの時代もこんなものか。折しもTBSで仁が再放送。狗賓童子の島・仁・現在のコロナ;重なってるな。続きを読む

    投稿日:2020.04.27

  • 隠岐騒動の顛末の新解釈

    本土と隔絶した遠流の島、千年杉から舞い下りる狗賓、その警告を受け島の治安を守る選ばれし童子たち。
    タイトル通りの物語でも充分魅力的だったろうが、著者の視点はずっと大きく、幕末・維新期に起こったいわゆる「隠岐騒動」の顛末を虚実交えて語り尽くす。

    読者が最初に気づくのは、この頃の島民の置かれた状況が今日のわれわれといかに酷似しているかだろう。
    黒船来航だ、攘夷だ開国だと言っても、所詮は本島のことと安穏とは構えさせてくれない。
    島民たちは、猛威を振るう新たな疾病や突如現れる外国船に右往左往し、厳しくなる貢納に辛苦する。

    耐え抜いた末に立ち上がる義民を描かせたらまさに並ぶ者なし。
    始まったら止まらない蜂起や擾乱のスピード感も圧巻の一語。
    さらに大きな賞の期待も高まるだけに悔やまれるのが、本作の繰り返しの多さ。
    島を席巻しそうな病禍の存在に気づき主人公が大庄屋の家で切々と危険性を訴えたと思ったら、集めた村役の面々にも再度同じ話を繰り返す。
    他にも島民の結びつきの強さなど、何度か同じ説明の繰り返しが見られ、本作のボリュームをいたずらに大きくしている。
    続きを読む

    投稿日:2021.10.04

ブクログレビュー

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  • オールマイティ

    オールマイティ

    いやー参った。700ページを超える大作に、完読できるだろうか?と不安だったけど、最後の方になったら、読み終わりたくない、このままずっと読み続けたい、と思うようになった。それくらい凄い物語だ‼️

    投稿日:2022.08.18

  • 小野不一

    小野不一

    飯嶋作品は歴史的事実に基づく小説である。言わば事実と事実の間を想像力で補う作品である。それを可能にしてしまうところに作家の創造性が試されるのだろう。
    https://sessendo.blogspot.com/2021/12/blog-post_11.html続きを読む

    投稿日:2021.12.11

  • tanmen

    tanmen

    このレビューはネタバレを含みます

    西村常太郎、庄屋の西村履三郎の息子。
    時代はペリーが浦賀に来航した頃。

    物が乏しいことと貧しいこととは、同じではない。
    結局人に恵まれるだけの資質を持つ人間かどうか、確かめていたのはそれだけのことだ。
    文字の無いお初の世界では、伝説や伝承が現実のものとして、ずっと生気を帯びているようだった。
    飯嶋和一の文章、表現にはいつも惹きつけられる。
    「稲が起きました」これだけでも感動してしまった。

    牛痘種痘による疱瘡の予防に成功。

    コレラが外国船から日本にもたらされる。
    立ち向かう常太郎と妻のお幾。

    長編ですがオススメの一冊です。

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    投稿日:2021.01.23

  • korisu3964

    korisu3964

    歴史小説家で好きなのは司馬遼太郎さん、隆慶一郎さんと飯嶋和一さん。司馬さんと隆さんはすでに故人。したがい、新刊は飯嶋さんしか読めませんが、飯嶋さんは寡作家として有名です。83年に小説現代新人賞を取って以来、世に出た作品は本書を含め12冊しかありません。しかし、出る作品が全て傑作で、「飯嶋和一にハズレなし」と言われています。私自身、飯嶋さんの作品は新作の「星夜航行」以外は全て読んでいますが、どの作品も、単に「面白い」とだけでは片付けられない重厚かつ濃厚さがあるという点で共通します。

    舞台は、弘化三年(1846)日本海に浮かぶ隠岐「島後」。主人公は、大坂から流された15歳の少年、西村常太郎。流されたのは、大塩平八郎の挙兵に連座した父・履三郎の罪により、6つの年から9年に及ぶ親類預けの果ての「処罰」でした。
    本作品は、後に医術を学び、島に医師として深く根を下ろし、島の人々からも慕われる常太郎の37歳までの出来事を描きます。

    まず、この作品は書き出しがいいです。
    「水平線から現れ出てくる帆影さえも、何の希望も、喜びすら、もたらすことはなかった。(中略)あの陰暦5月の終わり、東風が波しぶきと雨とを混ぜ入れ下から吹き上げてくる日に、数え15歳の痩せて小柄な少年がやってくるまでは」。

    本作品は島民が苛酷な年貢に苦しみ、希望もない島民がお上に対して蜂起する過程が中心になっています。しかし、本作品の読みどころは、常太郎を含めて、人々が真摯に日々の困難に向き合い、それでも他人に対しては思いやりを持ち、自然に感謝しながら精一杯生きていく日常です。稀有な美しい小説と思います。この幸せな読書体験の中で、私は完全に主人公に感情移入してしまいました。単行本で555ページを読了した段階で、ラストの数行に得た感覚は主人公の感覚とあまり変わらないかもしれません。

    555ページという長さ、登場人物の多さから、軽い小説ではありません。それでも、読む価値は十分あります。一気に読むよりも時間をかけて読む方がいいかもしれません。
    続きを読む

    投稿日:2020.09.13

  • 俊郎

    俊郎

    いわた書店選書
    驚くほど綿密な調査を積み重ね
    リアリティーあふれる幕末の歴史を描いている
    文句なしに面白い

    投稿日:2020.04.15

  • hocco21

    hocco21

    江戸時代後期、日本海に浮かぶ隠岐島に、はるばる大坂から流された一人の15歳の少年がいました。
    この西村常太郎という少年は父・西村履三郎が大塩平八郎の挙兵に連座して起こした一揆の罪により、
    隠岐島に流されてのです。
    しかしながら島民に畏敬の念をもって迎えられ、やがて医師として島に根を下ろすようになります・・・
    解説書にもありますように
    「断言してもよいが、本書の著者は並の学者には到底及ばないほどの綿密な
    調査を積み重ね、島をあるき尽くしている」のが手を取るようにわかります。
    彼の作品は全て読みましたが「飯嶋和一にハズレはなし!」と言われことに納得がゆきます。
    所で、「狗賓」は「ぐひん」と読み、天狗のことだそうです。
    でも著名な霊山を拠点とする大天狗や小天狗に対し、
    狗賓は日本全国各地の名もない山奥に棲むといわれる天狗の一種だそうです。

    ここで面白い話を拾いました。
    「ちなみに広島県西部では、他の土地での低級な扱いと異なり、
    狗賓は天狗の中で最も位の高い存在として人々から畏怖されていた。
    広島市の元宇品に伝わる伝説では、狗賓は宮島の弥山に住んでいると言われ、
    狗賓がよく遊びに来るという元宇品の山林には、
    枯れた木以外は枝一本、葉っぱ一枚も取ってはならない掟があったという」
    広島県学校図書館協議会・編『読みがたり 広島のむかし話』より
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    投稿日:2019.10.22

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