【感想】「その日暮らし」の人類学~もう一つの資本主義経済~

小川さやか / 光文社新書
(54件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
6
16
15
2
0
  • これもまたグローバリゼーション

    Living for todayを身上としたインフォーマルで下からの新自由主義経済を回す仕組みを、徹底した参与研究により浮き彫りにしている。国民国家の管理から自由を獲得する逞しさや、サラリーマンとの価値観の違いが興味深かった。続きを読む

    投稿日:2022.06.15

ブクログレビュー

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  • afro108

    afro108

    このレビューはネタバレを含みます

     同著者の『チョンキンマンションのボスは知っている』が以前から気になっている中で先に新書を読んでみた。日本という枠組みで生きていると絶対に気づくことができない視座の連続。これぞ読書の醍醐味という感じで興味深かった。我々の当たり前が当たり前ではない世界から学ぶことがたくさんあるなぁと感じた。
     文化人類学者である著者がフィールドワークを含め研究してきたタンザニアの商売の状況を中心に「その日暮らし」=Living for todayをキーワードにして様々な論点を解説してくれている。具体的な仕事の中身もさることながら、仕事をする上での価値観や仕事の在り方が現状の資本主義社会と大きく異なり、そこがもっとも興味深い。たとえば時間の感覚。私たちは来たるべき未来に向けて備えるために現在を犠牲にすること(ローン、貯金など)が往々にしてあるが、彼らは1日をどう生きていくかに焦点をおく。つまり未来のことはほとんど考えないし、不安定であることを不安に思わず、場当たり的な対応を繰り返す。あらかじめ計画し生産性や効率性を追い求める社会に生きているので違和感しかないのだけども、社会全体が暗黙のうちにコンセンサスが取れているのであれば、弾力性のある社会が形成されることを知れた。と同時に社会が硬直していることが日本の今の息苦しさの要因だとも感じた。もっと思いつきとかノリでやれることを増やしていきたい。(隣の芝生が青く見えているだけかもしれないが…)
     また近年話題の負債論についてもタンザニアの事例から、負債を負債として取り扱わずに誰もがお互いに「借り」があると感じながら支え合う話に納得した。日本で金銭の貸し借りについて、タンザニアほどラディカルな考え方を持つことは難しいと思う一方、電車や公園などの公共空間ではお互いに「借り」があるという認識を持てれば少しは生きやすくなるのでは?と思う。信頼の概念は従来の資本主義社会の中でも変えていけるのではないかという希望を持ちたい。この言葉とかかっけぇっす。

    *「俺たちが困難なときに頼りにするのは、仲間の人間性( utu)だ。なぜなら、困ったときに『貸してくれ』と頼ることができる友とは、同じく困ったときに頼ることができる仲間がたくさんいる人だ。たくさんの仲間に助けてもらえる人間がいい友であることは、昔から変わらぬ事実だ」*

     コピー商品を中国から輸入してアフリカで販売するというビジネスの流れについて細かく解説されており、その話題の中心にあるのが香港にあるチョンキンマンション。その有象無象っぷりが未知のこと過ぎてめちゃくちゃオモシロかった。なので『チョンキンマンションのボスは知っている』も早々に読みたい。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2024.01.12

  • Sarah

    Sarah

    新たな世界観を拓いてくれた書。

    インドを旅行した時に、同じような店がずらりと並ぶ。差別化特になし。
    なぜなんだろうなーとずっと思っていた。


    あとで記載する

    投稿日:2023.11.20

  • reso100

    reso100

    朝日新聞出版の「一冊の本」に連載されていた「無条件の条件」で著者の視点がユニークだったので、本書を紐解いてみたが、大いに楽しめた. タンザニアのインフォーマルな交易に携わる人たちの独特の生き方が紹介されているが、この国ではそのような人が6割以上存在している由.試しにやってみる行動形態、変わり身の早い態度 など先進国の経済状態からすると理解できないものだが、彼らは生きている.中国への買い付けも行っており、タンザニアにも中国からの商人が増えてきている.下からのグローバル化という表現が何度も出てくるが、新自由主義の新しい形態になるのかもしれない.コピー/ゲリラ商品を主体とする山賽の紹介もあったが、中国人らしい発想には驚きより戦慄を感じる.続きを読む

    投稿日:2023.10.05

  • seiyan36

    seiyan36

    本作の内容は、次のとおり

    ---引用開始

    わたしたちはしばしば、「働かない」ことに強くあこがれながらも、計画的にムダをなくし、
    成果を追い求め、今を犠牲にしてひたすらゴールを目指す。
    しかし世界に目を向ければ、そうした成果主義、資本主義とは異なる価値観で
    人びとが豊かに生きている社会や経済がたくさんあることに気づく。
    「貧しさ」がないアマゾンの先住民、気軽に仕事を転々とするアフリカ都市民、海賊行為が切り開く新しい経済・社会……。
    本書では、わたしたちの対極にあるそうした「その日暮らし、Living for Today」を人類学的に追求し、
    働き方、人とのつながり、時間的価値観をふくめた生き方を問い直す。

    ---引用終了


    本作の書評が、本日(2023年5月9日)の聖教新聞に載っていました。

    書評を読んでの感想になりますが、今までの自分の生き方を考えさせられましたね。
    自分の将来のことを考えながら生きる、これは当たり前のことと思って生きてきました。
    実際、若い時分はそれで良いと思いますが、ある程度、歳を重ねれば、その生き方を修正するのもありかなと。

    そう言えるのも、世界的に見れば、日本が安定した良い国だからでしょうかね。
    続きを読む

    投稿日:2023.05.09

  • Yasu-M

    Yasu-M

    職業の選びかたも仕事の仕方も、ニセモノの位置付けも、私たち日本人が常識と信じている価値観を覆され、その社会の中で生き抜くための知恵としなやかさを持つことの大切さを改めて感じさせられる。
    既存の価値観にとらわれない先生のフィールドワークは、普通の人にはなかなかできるものではないですが、素晴らしいです!続きを読む

    投稿日:2023.04.11

  • anibey

    anibey

    副題にあるとおり、日本含む多くの国で前提とされている資本主義に乗っ取った経済をフォーマルセクターとすると、そこのルールでは違法とされる模倣品販売などがなされているタンザニアのフィールドワークを基に、インフォーマルセクターの成立論理、そこに息づく人間関係、人生への向き合い方を描く。

    この本で気付かされるのは自分達の当たり前は当たり前でないことと、現在までに適応した考え方であることに気付かされる。
    定職につく人の方が少ない、お金は貸し借りありすぎてもはやわからない。持っている人が持ってない人に貸す。金額よりその恩という贈与に意味が持たされる。

    屁理屈とも言えなくないが、インフォーマルセクターにもタブーはある。またタンザニアのインフォーマルセクターから見ても中国は良くない詐欺があるという理屈から見える事実もある。悪いことというのは、顔の見える小さな経済圏では、勝手に程度が規制される。しっぺ返しやクレームがくるからである。

    一方、携帯や自動送金システムによる利便性向上でタンザニアの人たちの個人主義化、先進国に蔓延する人に迷惑をかけずに生きているという錯覚が起こってきているということもまた、とても興味深かった。

    日本含む各国が利便性、効率性の先に幸せや豊かな人間関係を犠牲にしない次の仕組みを作れるか。今がまさに転換期だと思う。
    続きを読む

    投稿日:2022.10.15

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