【感想】死の淵を見た男

門田隆将 / PHP研究所
(182件のレビュー)

総合評価:

平均 4.5
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2
0
  • 吉田昌郎さんへの感謝を込めて。

    主人公は吉田氏だけではなくいわゆるFUKUSHIMA50と言われる人たち。東電本社はともかく現場の人たちは限られた条件の中で出来ることはした。よくあの状況の中で自発的に必要な判断を出来たと思う。

    例に挙げると福一を最悪の事故から救ったのは津波と全電源喪失直後に1号炉に冷却ラインを作り消防車の応援を呼んでいたことだった。事故直後の報道ではわからなかったが吉田所長の最悪の想定はチェルノブイリの10倍の規模の放射能漏れであり、班目氏はさらに福島第二と東海原発への連鎖まで想定していた。彼らは専門家でありその想定は重い。しかし、全電源喪失については防げる事故でもあったのが残念だ。

    一号、三号が爆発した3月15日の明け方席に戻った吉田所長はゆらりと立ち上がり、机と椅子の間に胡座をかき目を閉じて座り込んだ。その時周囲の人間はプラントの「最期の時」を感じたのだが、吉田は腹を決めている。「私はあの時、自分と一緒に”死んでくれる”人間の顔を思い浮かべていたんです」「やっぱり、一緒に若い時からやってきた自分と同じような年嵩の連中の顔が、次々と浮かんで来てね。頭の中では、死なしたらかわいそうだ、と一方では思っているんですが、だけど、どうしようねぇよなと。ここまできたら、水を入れ続けるしかねぇんだから。最期はもう、(生きることを)諦めてもらうしかねぇのかなと、そんなことをずっと頭の中で考えていました」
    その吉田にテレビ会議で管が言う。「事故の被害は甚大だ。このままでは日本国は滅亡だ。撤退などあり得ない! 命がけでやれ」「撤退したら、東電は百パーセントつぶれる。逃げてみたって逃げ切れないぞ!」
    逃げる?誰に対して言ってるんだ。いったい誰が逃げると言うのか。(なに言ってんだ、こいつ)

    厳しい批判を受けた中では班目氏はどうやら限られた情報の中で想定される事態を把握していたようだ。少なくとも官邸に対しての助言は間違ってはいない。しかし、どうしようもなく当事者意識が無く官邸が自分の言うことを理解しなければどうなるか薄々わかっていながら怒れる管に何も言えないでいた。伝わらなければ正しいことを言っても意味が無い。

    最終段階では出来ることはないとわかっていても残ろうとした若者もいた。残ってくれると信じていたが退避したものもいた(彼らを責めるのは筋違いだが)。そして新潟から応援に来てそのまま残った協力業者もいた。一旦退避してから戻って来たものも多い。「ヤクザと原発」によれば協力業者の中には必ずしも使命感だけで残ったのではなく、その場のノリで残ったものもいる。それもこれも含めて彼らに救われたんだろうと思う。

    個人的には今でも使える原発は使うべきだと思っています。例えば原発安全神話と温暖化は怖くないというのは対象が変わっただけで構造的には変わらないし、石炭は私の理解では原発以上に明らかに健康や安全に対してマイナスだし(例え高効率の発電が出来、PM2.5が解決できたとしても採掘事故の問題は残る)、単純に燃料費が上がるという経済的な損失も人によっては直接健康や安全に危害を及ぼす。それでも原発を無くしたいと言う素直な感覚は理解できるし、それを否定する気はない。いろんな問題をイノベーションが解決するかもしれないがまだ時間はかかるし、その上で何を選択するかということだろう。今後日本で新しい原発が稼働できるとは思えないので当面は天然ガスに頼り再生可能エネルギーのイノベーションを待つというのは一つの答えだと思う。その間のトレードオフを理解した上で原発を止めるというのはそれも一つのもっともな選択だ。
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    投稿日:2016.05.18

ブクログレビュー

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  • 革ジャン

    革ジャン

    当時の現場状況がよく分かリました。
    筆者が指摘している慢心、日々の仕事でも教訓としたいと思いました。

    投稿日:2024.03.16

  • pop

    pop

    こんなことがあったなんて。
    想定外で済ませてしまうけど、原発は一度事故を起こしたら、国が滅ぶかもしれない。
    こんなのはやめなくてはいけない。

    投稿日:2024.02.07

  • yoshi1004

    yoshi1004

    フォローしてる方のお勧めで。Netflixでもやってるドラマの原作。
    ただ、ここに描かれてるのは事実、とてつもなく重い事実と言う事で読み進めるのが怖くなる程。
    放射能との戦いだけでなく、無策な政府、東電の幹部、、、命を賭して福島を守った男達に感謝。続きを読む

    投稿日:2023.11.28

  • kitakitapon

    kitakitapon

    あの時あの場所にいた人達留まった人達そして向かった人達。その覚悟と決意にただただ頭を下げるしかない。
    何も知らずに電気を空気のように使う毎日。彼等の努力があってこそのこの毎日なのだと痛感した。ならばせめて福島の復興に役立つことがしたいと素直に思う。私にできることは微々たることだが…しないよりは私自身が救われる。

    現場の話とは別にこの国の行き当たりばったり、採算性だけを考えて突き進んできた原発事業というものはおかしいと考えざるおえない。原発というものがどういうものなのか、一度暴走が始まったらどうなるのか、今も続く処理水などの問題。エネルギーを得たいという巨大な欲望は飽くことをしらない。私自身今電気がなくなったらと思うとどうしようもない不安しかない。どうしたらこの欲望と折り合い安全なエネルギーを生み出せる方向に向かえるのだろうか。
    続きを読む

    投稿日:2023.09.02

  • 00kozu00

    00kozu00

    言わずもがなですが、フクシマ50の原作。
    映画を見たことがあったけど改めて手に取る。
    映画では知り得なかった事実が色々あり、まさに人間の究極の状況における葛藤などの中、揺るぎなき信念で、たまたま私たちは救われたのだと思いました。
    吉田所長をはじめ、みなさまの働きに 感動するとともに深く感謝いたします。
    続きを読む

    投稿日:2023.07.30

  • daichan

    daichan

    とても小説に入り込んで、引き込まれて読みました。特に最終部分の原発にて津波で亡くなられたご家族のお話には涙が出ました。門田さんは本当によく取材されてれいると思う。あの時福島原発で何が起きていたか。必死で原発を守った方々の勇姿が描かれている。
    それにしても、政府の対応は良くなかっただろう。
    続きを読む

    投稿日:2023.04.28

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