【感想】限界費用ゼロ社会 <モノのインターネット>と共有型経済の台頭

ジェレミー・リフキン, 柴田裕之 / NHK出版
(58件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
9
24
18
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0
  • 「稀少性」から「潤沢さ」へ、「所有」から「アクセス」への緩やかな転換

    単にあらゆるモノがインターネットにつながる、という話ではない。
    読む者の遠くない将来の姿を暗示する本だ。
    いまの職場や持ち家に別れを告げ、身の回りの自分のモノを手放し、これまでの人間関係や考え方さえ一変する未来の姿。
    著者にとっては年来の予言した未来の到来であり、ドイツのメルケル首相とともに積極的にこの社会の実現にコミットしている。
    どのような社会か?
    いまの成熟した資本主義経済がいよいよ最終段階を迎え、それこそ究極の勝利を手にしようとするまさにその時、体制の核心にある矛盾から主導権を失い、かわりに協働型コモンズの社会が表舞台に立つようになるという。
    資本主義体制が崩壊するという一時期さかんに喧伝された話ではない。資本主義市場は縮小し、より狭いニッチへと後退するが、生き延び続ける。それが経済の辺縁部であろうとも。
    「あらゆる人とモノを結びつけるグローバルなネットワークが形成され、生産性が極限まで高まれば、私たちは財とサービスがほぼ無料になる時代に向かってしだいに加速しながら突き進むことになる。そしてそれに伴い、次の半世紀の間に資本主義は縮小し、経済生活を構成する主要なモデルとして協働型コモンズが台頭してくる」
    「遅くとも今世紀なかばまでには、世界の雇用者の半数以上が協働型コモンズの非営利部門に属し、ソーシャルエコノミーの推進に尽力する一方で、必要とする財やサービスの少なくとも一部を従来の市場で購入するといった状況になるのではなかろうか。そして伝統的な資本主義経済は、少数の専門職と技術職が管理するインテリジェント・テクノロジーによって運営されることになるだろう」

    それにしてもなんとも皮肉な話である。「生産性を押し上げ、限界費用を押し下げるという、競争的市場に固有の起業家のダイナミズム」が、無駄を極限まで削ぎ落とすテクノロジーの導入を強い、それによって生産性は最適状態まで押し上げられ、最終的には生産にかかる費用がほぼゼロに近づく。生産コストが実質ゼロであるなら、その製品やサービスはほとんど無料になるということだ。「仮にそんな事態に至れば、資本主義の命脈とも言える利益が枯渇する」し、所有権は意味を失い、市場も不要になる。これは、旧来の経済学者の言葉を失わせる事態だ。
    「ほとんどのモノがただ同然になれば、財やサービスの生産と流通を司るメカニズムとしての資本主義の稼働原理は何もかも無意味になる。というのも、資本主義のダイナミズムの源泉は稀少性にあるからだ。資源や財やサービスは、稀少であればこそ交換価値を持ち、市場に提供されるまでにかかったコスト以上の価格をつけられる。だが、財やサービスを生み出すための限界費用がゼロに近づき、価格がほぼ無料になれば、資本主義体制は稀少性をうまく活用して、他者に依存される状態から利益を得ることができなくなる」
    稀少性ではなく、潤沢さやシェアを中心に経済生活を構成するという考え方は、従来の経済理論はとはあまりにもかけ離れているため、すぐに想像することはできないが、それこそが今まさに起こり始めていることなのだ。

    限界費用がほぼゼロの社会は、一般の福祉を増進するにはこのうえなく効率がよい。
    ・インターネット上での情報の大衆化
    ・エネルギーインターネット上での電力の大衆化
    ・オープンソースの3Dプリンティングを用いた製造の大衆化
    ・MOOCを活用した高等教育の大衆化
    ・ウェブ上での保健医療の大衆化

    GDPの一貫した下落の原因も、著者によれば、資本主義体制の緩やかな凋落と協働型コモンズの台頭によって説明できるとする。
    「財やサービスを生産する限界費用がさまざまな部門で次から次へとゼロに近づくなか、利益は縮小し、GDPは減少に転じ始めている。そして、しだいに多くの財やサービスがほぼ無料になるにつれ、市場での購入は減少し、これまたGDPにブレーキをかける。かつては購入していた財を、共有型経済の中で再流通させたりリサイクルしたりする人が増えたため、使用可能なライフサイクルが引き延ばされ、結果としてGDPの損失を招いているのだ。しだいに多くの消費者が、財の所有よりも財へのアクセスを選択し、自動車や自転車、玩具、道具といったものの使用時間に対してだけお金を払うことを好むようになりつつあり、これがまたGDPの減少につながっている。一方、自動化とロボット工学、人工知能(AI)のせいで、何千万もの労働者が職を失い、市場での消費者の購買力は縮小を続け、さらにGDPが減少する。それと並行してプロシューマーの数が増え、市場における交換経済から協働型コモンズにおける共有型経済へと経済活動が移るにつれ、GDPの伸び率はさらに縮まっている」
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    投稿日:2015.12.23

ブクログレビュー

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  • K.A.Z1001

    K.A.Z1001

    資本主義から協働型コモンズに世の中が変化していくこと、またそれによって、テクノロジーによるコミュニケーション、エネルギー、輸送に関する変化、それによりビジネスや人の生活が変わっていくこと、その上でどのように生きていかなければならないのかを少し考えさせられる本。
    第一次産業革命から、世界の革命による変化の歴史を知ることができること、今すでに限界費用が限りなくゼロに近づいている教育などの具体的事例なども解説されており、勉強になった。
    読んでいてまだ理解が難しい点、読みにくい点も多かった。また改めて読み返したい。
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    投稿日:2024.02.14

  • rafmon

    rafmon

    所有しない経済。クラウドから好きなコンテンツを楽しみ、3Dプリンタによるインフラに居住し、シェアリングされた車で移動。ユニバーサルアクセス可能な電力やネットワークを使い、バーチャル空間で人間関係を満足させ、性欲を満たす。

    資本主義の跡継ぎとして共同型コモンズで展開されるシェアリングエコノミーがある。そうする事で過剰な生産が抑えられ、地球にも優しい。人間の労働にもゆとりが生まれ、貧富の差も縮小する。

    理想は分かるが、これだとグローバル公共経済を実現した共産主義にならねばならず、プラットフォーマや、そのシェアリングインフラを保守、提供する側のモチベーションはどのように保たれるのか。脱成長論は究極的にベーシックインカム民族と、インフラ維持民族に二分される?ような印象だ。インフラ維持勢のみ子作りトークンを配る?面白そうだが(この本には、そんな事書いてない)、結局、経済モデルが示されないと、社会が緩慢にしか動いていかない。現状資本での利益を獲得できるだけ、その転換を引き伸ばそうとするからだ。

    確かに、世界のGDPの伸びが鈍り続けている。エコノミストはその原因を高いエネルギーコストや人口動体、労働人口の伸び悩み、消費者と政府の負債、世界の収入のうち富裕層に回る額の増加、出費を嫌う消費者による買い控えといったものを指摘するが、財やサービスを生産する限界費用が様々な部門でゼロに近づくと言う理由も関係している。だが、段階的にだ。車を所有する人がある時からゼロ、とはならないように。

    そしていまだに、人口の2割が電力の使用に不安があり、他の2割は電気のない生活を送っている。女性の解放に必要なものは、電力。電力へのユニバーサルアクセスが可能になれば、女性が勉学に勤しみ、家事から解放されることで出生数は下落。これにより、最貧国の人口の急増にも歯止めがかかり、先進国とのアンバランスな、ヤンキー子沢山問題のワールドワイド現象に片がつく。

    変化は、徐々に徐々に。しかし、間に合わないなら、一気に価値観を変えるカタストロフィ。このチキンレースのサーキット場が、社会資本のあり方について、という事だと思う。
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    投稿日:2023.07.29

  • Move Four Earth

    Move Four Earth

    全く図表が出てこないのでなかなか読むのに疲れます。IoTしかり太陽光しかり限界費用ゼロの世界観が詳述されます。他方でネットゼロ排出の世界に向けては水素や二酸化炭素の吸収のような途方も無いコストがかかる分野への研究開発・インフラ投資も必要な訳で分野に応じたメガトレンドの見極めは大事になるでしょう続きを読む

    投稿日:2022.07.18

  • えぬたん

    えぬたん

    モノのインターネットと共有型経済の台頭による経済パラダイムの大転換について、3Dプリンター等の事例をもとに変革のメカニズムと未来展望を説明。

    メルケル独首相のアドバイザー等を務めるジェレミー・リフキン氏による2015年の書。続きを読む

    投稿日:2022.02.26

  • ひろす

    ひろす

    歴史上のあらゆるインフラシステムの3要素は①コミュニケーション、②エネルギー、③輸送マトリックス。

    歴史的には以下のように変遷してきた。
     ・第一次産業革命以前 活版印刷+水車+馬車
     ・第一次産業革命 蒸気印刷+石炭+蒸気機関車
     ・第二次産業革命 TV・ラジオ+石油+自動車
     ・第三次産業革命(現在)インターネット+再生エネ+自動運転

    第二次産業革命は希少資源がベースであったため、中央集権的社会を構築。

    歴史的に見て、人間の意識の変遷は、神話→神学→イデオロギー→心理→生物圏(他者や他の生物と地球を共有)のように変わっていく。
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    投稿日:2021.05.09

  • oldcat31

    oldcat31

    限界費用ゼロのコモンズ型経済が、教育、環境、エネルギー、格差の問題を解決しうる、という希望にあふれた1冊。実際には、今の資本主義社会の既得権益を受けている「抵抗勢力」に阻まれて実現は容易ではないと思うが、コロナで中央集権的な国家・企業の必要性が問われる今、著者の展望は意外と早く実現するかもとも思う。
     限界費用ゼロ社会により、モノの交換価値ではなく使用価値が重視され、物欲主義が克服されるとき、人の「幸福」の在り方も問われていくだろう・・・ということも考えさせられた。
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    投稿日:2020.10.25

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