【感想】新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで

審良静男, 黒崎知博 / ブルーバックス
(14件のレビュー)

総合評価:

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  • 惜しくもノーベル賞を逃した審良氏の解説

    一度かかった病気には二度かからない。かかったとしても軽くすむ。免疫の考え方は2500年前から知られていた。しかし、そのくわしい仕組みは19世紀の段階ではよくわかっていなかった。しかし最近新しい発見があり例えば2011年のノーベル賞は食細胞が病原体を認識するセンサーを持つことがわかった。著者の審良(あきら)静男氏も同じ発見をしていたのだが論文に時間をかけすぎ一歩遅れたそうだ。東大阪出身では江崎玲於奈、山中伸弥両氏がノーベル賞をとったが審良氏もあと一歩、他にはゴルフを始めて1年で89を出したOLEDの城戸淳二氏もいる。

    白血球の一種のマクロファージなどの食細胞は、病原菌だけでなく細胞の死骸や老廃物など何でも食べる。ただし正常な細胞表面には食べるなと言うサインがあるので手を出さない。これが自然免疫の基本になる。病原体を食べた食細胞はサイトカインと言う警報物質を出す。中には食細胞を呼び寄せるものがあり、食細胞を活性化するものもある。食細胞が集まって活性化した状態、それが炎症だ。

    細菌による感染症であれば抗生物質で菌を殺し、抗炎症剤で炎症を抑えるとことになるが、かぜの場合はウイルスに対する免疫ができるのを待つことになる。インフルエンザワクチンはウイルス表面のタンパク質を認識させるのが目的なのだが、変異が激しいため必ず効くとは限らない。ともあれ細菌を見分けるセンサーは細胞膜にありウイルスのRNAを見分けるセンサーは細胞内部にある。そして新しい発見があったのはこのセンサーが食細胞だけでなく全身の細胞にあることがわかったことだった。免疫は免疫細胞だけが関係しているのではない。

    抗原と抗体というのがよくある免疫のイメージだがこれに関係するのが樹状細胞で、病原体を食べた樹状細胞は活性化し最寄りのリンパ節に移動する。この時食べたタンパク質を分解してできたペプチドを樹状細胞の表面でキャッチし枝をいっぱいに広げリンパ節でこれが抗原だと宣伝するわけだ。活性化した樹状細胞の寿命は数日で抗原がいなくなれば免疫反応も治まる。過剰反応を起こさないための大事な仕組みだ。

    樹状細胞が提示したペプチドはナイーブT細胞の受容体が認識するのだがこの細胞は自己の細胞にはほとんど反応しない。病原体を認識すると増殖し、マクロファージを活性化させる。この時獲得免疫と自然免疫の双方が働くことがダブルチェックとなって病原体を攻撃する仕組みとなっており、同時に自己細胞には反応しない仕組みにもなっている。

    最近がん細胞にだけ提示されるペプチドをワクチンとして使う研究が進んでいる。もともとはがんとは言え自己細胞なので反応しないのだが、特異的にワクチンが効く人がいるらしい。マウスの実験ではある系統のマウスに自然免疫を活性化するアジュバントと言う物質と自己の心臓由来のペプチドを投与すると100%自己免疫性疾患が起こることがわかった。がんに効くワクチンと自己免疫性疾患の仕組みは同じ免疫反応の表裏のようなものらしい。他にも体の中で結晶を作る物質に対する免疫反応がいろんな病気の仕組みになっている、例えば痛風は尿酸結晶を食べようとして免疫が過剰に反応し炎症を起こした状態だ。

    わかりやすく書かれているがなかなか理解がついていかない。しかし免疫の仕組みが解明されれば世界が変わりそうだ。免疫を高めるXXはほとんど信じていないのだが。
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    投稿日:2015.07.11

ブクログレビュー

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  • hamakoko

    hamakoko

    https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000057363

    投稿日:2022.09.05

  • sibapucca

    sibapucca

    コロナ禍で免疫学を少しでも知りたく免疫学の本を初めて読んだ。生物が進化した過程でこれほどまで複雑な免疫システムを獲得したことが興味深かった。まだ未知な部分も多くこれからも発展する分野だが、自身や家族の健康に関わることであり、全ての人が基礎的な学問として学ぶ必要があると感じた。続きを読む

    投稿日:2022.02.04

  • koshinori

    koshinori

    素晴らしい。専門的に感じる人もいるだろうけど、とても分かりやすく面白かった。自分の免疫の知識は高校レベルに付け焼き刃の毛が生えた程度だったけど、いかに表面的、硬直的だったかを痛感。まだわからない部分も多いようだけど、動的かつ複雑な仕組みを解き明かしていく研究者たちを尊敬する。続きを読む

    投稿日:2020.05.26

  • H7NM

    H7NM

    大学の生物学の先生に課題としてお薦めされて読みました。文庫本ですが、内容は複雑で、何度も読み返したりノートにまとめたりしながら読みました。さらっと読むものではなく参考書を勉強するような感覚で読む本だと思います。免疫学について歴史や基礎的な仕組みについて詳しく書かれており、炎症や痛風、がんなどの病状にどう免疫が関与しているかなど病態の観点からも書かれています。少し専門的な内容まで突っ込んでいるので、初心者にはハードルが高いように感じました。続きを読む

    投稿日:2019.07.11

  • dekadanna

    dekadanna

    若干専門的だが、免疫の働きについて、詳しく解説してくれる本。免疫の働き方から、腸で細菌が活動できる理由や、がんの免疫療法治療まで幅広くカバーしてくれる。

    投稿日:2018.11.12

  • yoshio2018

    yoshio2018

    自然免疫は、病原菌を食べたマクロファージはサイトカインを出して好中球などの食細胞を呼び寄せる。獲得免疫は、樹状細胞が病原菌を食べて活性化し、抗原提示を行うことでナイーブT細胞を活性化させる。ナイーブT細胞はナイーブヘルパーT細胞となり、マクロファージをより活性化させるようにサイトカインを放出する。また同時並行的にB細胞も活性化される。B細胞は抗原を食べて抗体を産出する。そのほかキラーT細胞とか、いろいろな登場人物が現れる。やはり免疫は難しいな。でも体のなかでこのような仕組みが日々動いている。進化の結果とはいえ、すばらしい!続きを読む

    投稿日:2018.10.11

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