【感想】流星 お市の方(上)

永井路子 / 文春文庫
(19件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
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6
7
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  • お仕事ゆえの悲哀というのもある

    戦国時代の姫君といえば、政略結婚を強いられ、実家と婚家の間で翻弄される悲しい存在。
    が、永井路子はそれとは異なる戦国の姫君像を提示した。それが「女性外交官」というもの。
    あくまで実家側に属し、あるときは友好の使者として、またあるときはスパイとして働く、
    能動的で主体的な存在。

    作者は姫君たちについてこんなふうに語る。

    今の常識から言えば、彼女たちはたしかに孤独だ。
    が、それに行き過ぎた同情をしめすのは、決して歴史的な理解とはいえない。
    結婚が夫婦の合意に基づき、一つの単位、一つの原点とみなされるようになるのは
    近代社会がはじまってからのことなのだから。

    なるほど、そう言われればそうなのかもしれない。だが・・・

    それにしては、永井路子の描くお市はあまりに切なく、苦しい。
    外交官なのだろう、仕事をしているのだろう、
    でも、全然割り切れていないではないか。
    兄と夫の間で耐えがたい苦しみを味わっているではないか・・・?
    これは「仕事」なのか・・・?

    初めて読んだ頃は、何だか不思議な感じがした。

    が、社会人になってみたら、感じ方が変わった。
    「仕事」というのは決して無機質なものではない。
    仕事を通していろいろな人々に出会う。人間関係が生まれる。
    だが、あくまで自分の職務に応じた接し方をしなければならない。
    そこに葛藤が生まれる。泣きたくても泣けないこともある。

    「仕事」の中で、お市は自分の感情に「誇りをかけた抑制」を繰り返す。
    それがうまくできなくて自己嫌悪を感じたりもする。
    今なら、なんかわかる。それが、「仕事」というものだ。

    そうか、永井路子が描こうとしたのはこういうことだったのか。
    なんというか、巧いな。
    「同情するな」なんて作者に言われると、余計に悲哀を感じるではないか。

    この作品より後、姫君たちを「女性外交官」として見る本も多く出た。
    (特に大河ドラマ”江”の頃)
    だが、少々割り切りすぎているものも多く、違和感を感じた。
    仕事って感情でやっちゃいけないけど、仕事だから感情がないというわけでもない。

    やはり本書の描く「お仕事ゆえのつらさ」というのは、
    女性だけでなく、仕事の中でいろいろな悲哀を感じることのある男女にとって魅力のあるものではないかと思う。

    ある意味、歴史小説というより、現代小説のようにも感じる。
    続きを読む

    投稿日:2014.11.18

  • けっして道具ではなかった

    戦国の世に生まれた女はお家の為、政略結婚という形で他家に嫁いでいくのか
    と思っていましたが、そうではなかった。
    お家の為、あくまでもお家の代表として外交のような働きをしていたんだな。

    織田信長の妹として生まれ、浅井長政と結婚。
    織田と浅井の友好関係が崩れ姉川の戦いで浅井敗北。
    その後、柴田勝家と再婚。この再婚もお市は織田の家を守るため
    憎き秀吉を討つことができるであろう勝家との再婚を決めたようです。
    戦国の女として戦っていたんですね。
    勝家が賤ヶ岳の戦いで秀吉に敗北し、勝家と共に自害。
    お市は自分の戦いも敗北したと考えたようですね。

    武将側からの作品は多いけど妻側からの作品はなかなかありません。
    この作品は今まで知らなかった部分がわかったような気がします。
    続きを読む

    投稿日:2015.04.10

ブクログレビュー

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  • yappinkun

    yappinkun

    お市の方。戦国時代、お市は、織田家のお市として、またあの信長の妹として嫁ぎ、彼女なりに戦国の世で闘い抜いたのだということが、よくわかります。
    そうなんですよね、戦国時代では、今以上に、女性は、しっかりと自分の意志を持ち、強く生き抜いているんですよ。続きを読む

    投稿日:2020.12.28

  • 遥香

    遥香

    お市の方の感情がすごく細かく描かれてて、ほかの本とはだいぶ違った描かれ方でした!また、解説や現代的な例えもあり、分かりやすかったです☺︎

    投稿日:2020.03.22

  • 相模守

    相模守

    織田信長の妹。当然だがお市の方を中心にはじまる。勝家は暑苦しい信長の家臣程度、秀吉などは殆ど登場しない。当時のお市の方の立場からすれば秀吉の存在などこの程度なのかもしれない。兄信長、義姉濃姫も尾張時代はとても近い関係だったが浅井家に嫁いでからは心の中存在になり信長の意向を考えながら浅井、織田の橋渡し役をする。無理に有名武将などを登場させずお市の方の視点から描かれているので臨場感が出て物語に引き込む文章力は素晴らしい。下巻では勝家、秀吉がどう絡んでくるか楽しみです。続きを読む

    投稿日:2017.10.21

  • mi-key

    mi-key

    織田信長の妹お市の方の生涯を描いた、「乱紋」の前編ともいえる作品。
    お市の目線を通して、“うつけ殿”と囁かれていた信長が天下取りの志半ばにして謀叛に倒れるまでを細やかに、後の武勇伝に流されることなく描いていて、初めて知ることもたくさんありとても勉強になった。
    お市の2度の輿入れについても、戦国の世の女性の生き方に忠実に描かれているばっかりに少々期待を裏切られたが、最後の最後、柴田勝家と城内で果てることを選んだところでは、愛情や信頼ではなくとも、二人の間に確かに共感が生まれたことが読んでいて救いだった。
    続きを読む

    投稿日:2012.09.21

  • spigolina

    spigolina

    夏休みの読書。このごろ実用書ばかり読んでいたけれど、たまには歴史物でも読もうかなと思って手にした一冊。物語の世界に一気に引き込まれ、久しぶりに心から読書を楽しめました。。。

    織田信長の妹としてうまれたお市の方。戦国時代を生きる女性は、戦にこそ参加しないものの、政治的な駆け引きや情報戦において重要な役割を担っていたことを改めて思い知らされます。夫浅井長政と兄信長の争いが激しくなる中で、自分自身の役割を思い、覚悟を決めていくお市の方。
    彼女が「良く見える目」をもっていたが故の苦しさが描きだされています。

    上巻は、いよいよ追い詰められた浅井長政が、援軍を待って時間を稼ぎ、信長を返り討とうとするところまで。登場人物の複雑な心理戦にドキドキ。下巻に続きます。
    続きを読む

    投稿日:2012.08.19

  • Pei

    Pei

    いい!最後は京浜東北線の中で涙がこぼれそうになった。。。
    信長の「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス」というイメージが、ちと違う。
    お市の方も、「お江」の時のイメージと全然違う。
    ま、どんなに違うかは読んでのお楽しみ♪続きを読む

    投稿日:2012.06.18

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