【感想】中国汚染の真相

富坂聰 / 中経出版
(3件のレビュー)

総合評価:

平均 3.3
0
1
2
0
0
  • 政府と企業の癒着、そして普通の人たちは自分たちが汚染源だとは気がつかず

    中国の空気と水のひどさについては確かにこの本に書かれている通りなのだが、真相というにはつっこみ不足の気がする。日本でも有数の中国ウォッチャーなので微信とかのニュースはよく見てるのだろう。しかしサイエンスベースの裏付けは中国以外の情報と照らし合わせた方がいいんじゃないか。

    例えば「広東省の大気状況が良好になった?』という章がある。中国で起きる変化は、最初に広東省で見られる。という一つの見方とともに香港の100万ドルの夜景を奪ったのは改革開放政策で最初に進出した企業だと仮説を立て、2007年に現副総理の汪洋が広東省書記時代に労働集約型産業から高付加価値が他産業への変換を計った際に資本力のない企業が逃げ結果として汚染が北上したと展開している。むしろ単純に広東省は環境負荷が高い重化学工業が比較的少なかったから経済発展の割に汚染が増えず、東北三省や重慶などの重化学産業に基盤を置く地域の方がひどくなっただけでは。中国奥地でも鉄や石炭の産地で工業化した都市、例えば蘭州などは汚染がひどい。一般に中国では自動車、暖房、発電、重工業あたりが空気汚染の主役とされている。中国腫瘤登記センターの年報によると中国では肺がんが肝臓がんを押さえてがんによる死亡原因の第一位になっており、喫煙者は増えていないのに罹患率も死亡率も増えている。北京では肺がんが2001年からの10年間で56%の増加、中国全土でも平均27%の増加という結果が出た。(全国腫瘤防止弁公室による)

    90年代から重慶ではすでに大気汚染が深刻だったという記事の紹介がある。wikiによると90年代初頭の北京や上海の大気汚染物質濃度は60年代ー70年代の東京と同程度だという。

    自動車の影響も当然大きいと思われ、北京の渋滞を空気汚染の原因にあげている。中国の自動車保有台数は2013年末に1億3741万台といわれている。国交省がまとめた資料では2010年の自動車保有台数は中国78百万台(うち乗用車34百万)に対し日本75百万台(同58百万)4年で倍増とすごい増加だが面積あたりで見れば日本の方が遥かに高い。今ある車は2000年以降発売のものと見ていい。つまり乗用車については外資系がメジャーなので欧米並の排ガス規制も問題なくクリヤーできる。問題はガソリンの質の悪さとトラックなのだろう。北京の空気に文句を言う住民が同様にガソリンの値上げにも文句を言うし、汚職まみれの石油会社のトップをなんとかしないと値上げも精製設備の更新も先に進まない。

    紹介されているように発電や暖房だけではなく調理にも使われている石炭の質の悪さも問題だ。空気汚染の健康被害については開発途上国では家庭内での空気汚染が深刻なのだ。この場合は煤塵以前に一酸化炭素中毒が多いのだが。高い煙突をつければ家庭内は解決できてもばらまくだけなので設備を更新して集中暖房にするしかないのだろうがその費用を払える人がどれだけいるかだ。

    産業では鉄鋼、セメントなどが大量の石炭を消費している。毛沢東の大躍進政策で大失敗した土法炉はまともな農具をくず鉄に変え、文革では企業のエンジニアを追放した。鄧小平の改革開放の初期もまだ鉄道がまともに動かないため鉄鉱石と石炭はあってもまともに鉄は作れなかった。これを助けたのが宝山鉄鋼に技術を提供した新日鉄などだ。中国の鉄鋼工場が大気汚染源なのは確かに石炭の品質の悪さもあるがそれ以上に煤塵処理に金をかけない企業の方針やそれを許した政府との癒着などが原因だろう。

    後半は水資源の話だがダムが原因で黄河が枯れたという様な書き方をしてあるのだがこれは全く理解できない。土砂が流入して河床が高くなるからといって流入する水が減るわけではない(どこかよそへ流れれば別だが)。上流の取水量が増えるから下流が断流するだけだろうに。水の蒸発が増えるから利用できる水資源は増えないというのであればまだわかる話だけど。三峡ダムが地震の原因になるというのもよく分からない話だ。貯水量39億tは中国最大の鄱陽湖の25億tを遥かに越える。この水量は膨大ながらダムのある三峡の地形は山がちなので同じ様な重量物はそこらにあるとも言える。(Googleマップの地形図がわかりやすい)

    最後の方に書いてあるのだが「水資源が足りない」ことは多くの人が共有している認識でありながらエネルギー使用量だけでなく水使用量も非効率だという話に焦点を当てた方が良かったのでは。GDPあたりエネルギー使用量は日本の7倍、米国の6倍でインドと比べても2.8倍だという。排水量は同じくGDP当たりで先進国の4倍。中国の老百姓(庶民)はおそらく自分が汚染源だということには無頓着だ。
    続きを読む

    投稿日:2014.11.10

ブクログレビュー

"powered by"

  • whitesheep11

    whitesheep11

    中国は、大気汚染と心の汚染に蝕まれている。心の汚染、その心は、汚職。越後屋と悪代官のような存在がいて腐敗を撲滅しようと中央政府がいろいろ手を講じているが、心の闇を一掃するのは難しい。

     中国のエネルギー事業を一手に担っているのが国営企業で金も力もあるが、環境に優しい社会づくりに関心がない。カネカネカネと利益大好き星人なだけに始末が悪い。

     ここの所、香港で行政長官の直接選挙を求めるデモ隊が話題になっていた。その香港の人たちを悩ませているのが中国本土から来る公害だ。対岸の景色がぼやけて見えるようになったとある。ぼやけると言えば、印象派の画家クロード・モネの作品にロンドンの国会議事堂を描いた作品がある。その絵は、霧に包まれていて議事堂がぼんやりとしている。この当時のロンドンも工業化で公害がひどくなっていた頃だ。霧に包まれたロンドンならぬ香港の現状に対して中央政府の管理職のような香港の行政長官は、「喝だ!」などと言えるわけがなく、小手先の政策でしのごうとしている。

     GDPで言えば世界第2位になったが、環境汚染と少子高齢化が忍び寄っている。その上貧困の格差は広がっていく一方だ。いくら反日教育に力を入れて日本を仮想敵国に仕立て上げても、自分たちの生活がよくなるわけでもなければ、きれいな空気や水が手に入るわけでもない。そのうち大規模な暴動が起きるのではないかと一番おびえているのは、中央と地方政府の高級官僚かもしれない。

    国会議事堂の絵 

    http://www.polamuseum.or.jp/collection/006-0235/
    続きを読む

    投稿日:2014.12.09

  • seihuu

    seihuu

    13億人を豊かにする装置はどこにもない

    環境問題を通じて見る中国

    貧困の壁 経済成長を優先

    膨大な人口がいまだに満足する暮らしを手に入れていない

    投稿日:2014.10.08

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。