【感想】狼(ウルフ)のユーコン河(リバー)

西村寿行 / 光文社文庫
(1件のレビュー)

総合評価:

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  • 読後、西村寿行氏の偉業に頭を垂れ、そして泣きました!

    ハードロマンと称された巨匠の全てが注ぎ込まれている。そう断言してもいい。まさに渾身の書き下ろしである。
    本作は、R18指定不可避ながら、辛うじて映像化可能であろう。ただし、映像とは別次元の端倪すべからざるものが描かれている。表現化不可の世界を仮借なく直截的に綴っていると換言できる。これは、映像化不可能よりもはるかに重い。
    舞台は、第二次世界大戦開戦時のアラスカ。冒険的要素の濃い幕開けである。戦時下においてロマンはない。生殺与奪をめぐる悪鬼のハードさだけが顕在化してくる。そんななか、極限状態に追い込まれた人間模様が写実的に描かれている。死界に通じるしじまの描き方がことさら秀逸。これでもか、これでもか、というくらい威迫の連続となり、気の休まる瞬間がない。跳梁跋扈する偏執狂のねばい追撃を、おのが肌に感じてしまうリアリティがあり、ノンフィクションなのではないかとのおびえが全身を覆い尽くしてくる。
    できれば簡単な予習をお薦めしたい。Googleマップを軽く眺め、全体の土地勘を軽く会得しておくくらいで十分だ。アラスカ狼、グリズリー熊、ムース、カリブー、カンジキ兎などの動物も画像で確認しておくとよいだろう。
    ユーコン河が織りなす大自然、ひしめき合う無数の湖沼、峨々たる山脈、累々と重なる岩塊だらけの高原、鳥も通わない峡谷、さらには延々と続く永久凍土……。そんなアラスカの景色が網膜に焼き付いて離れなくなった。自分の意識が完全にアラスカの大地へ溶け込んでしまっていた。
    筆の力は偉大なり。そう感じずにはいられない傑作長編であった。迷わず★満点!! もっと付加したいくらいだ。
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    投稿日:2013.12.30

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