【感想】データを紡いで社会につなぐ デジタルアーカイブのつくり方

渡邉英徳 / 講談社現代新書
(21件のレビュー)

総合評価:

平均 3.5
2
6
6
2
0
  • 「データを紡いで社会につなぐ」とは、データ収集が重要なのではない。「社会をつなぐ」ことにこそ重きがある。

    著者は現在、首都大学東京システムデザイン学部准教授だが、もともとは建築家であったらしい。とはいえ、学生時代から「建てない建築家(アンビルト・アーキテクト)」のほうに惹かれていたという。本書で紹介されている名前を挙げれば、次期東京オリンピックの新国立競技場の設計者ザハ・ハディド、あるいは、ベルリンの「ユダヤ博物館」を設計したダニエル・リベスキンドといった建築家。いまでこそ実作を手がけているが、彼らは〈ドローイングのみで作品を発表する「建てない建築家」〉であったらしい。

    著者の場合、ちょうど設計にCADが入り始めた頃に学んだということもあって、作品の建築場所はもっぱら「コンピュータの中」となった。そこからゲーム制作の手伝いをするうちに(PS『アディのおくりもの』)、「フォトン」というゲーム会社の代表取締役となる。そこで作った「リズムフォレスト」というゲームは〈仮想世界に樹を植えると、現実世界にも樹が植えられる〉をコンセプトにしていて、それが著者と「グーグルアース」とを結びつけるきっかけとなった。ある日、ユーザーのひとりから、実際に「植林されている場所をみてみたい」という声が届いたのだ。

    グーグルアースには、例えば写真や動画などの〈ユーザー独自のXMLデータを重ねあわせる〉ことができる。これはつまり、仮想と現実とをつないだ、これまでにない空間を作り出すことを意味する。これが著者の「建てない建築家」という志向と合致し、そこから現在の「情報アーキテクト」という肩書が誕生した。「情報アーキテクト」とは、現実世界の情報を仮想空間に移し替えて、再構築するひととでもいおうか。

    例えば、著者の仕事のひとつに「ツバル・ビジュアライゼーション・プロジェクト」というものがある。地球温暖化の影響で国土が沈んでしまうとされるツバルだが、そこで暮らす人々は必ずしも悲嘆に明け暮れているわけではない。プロジェクトサイトではツバルの老若男女のポートレートとメッセージを見ることができるが、多くの人たちは僕たちと同様に、平凡な日常を送っている。グーグルアースという仮想世界に現実世界を重ねあわせることで、僕たちの知らない(あるいは見ようとしない)ツバルのほんとうの姿が浮かび上がる。

    また、仮想空間では時間をさかのぼることもできる。過去に起きた惨劇を写し取ることもできる。それが「ナガサキ・アーカイブ」や「ヒロシマ・アーカイブ」、そして「東日本大震災アーカイブ」である。そこには被爆者や被災者たちの証言が、マップ上に重ねあわされる。「ナガサキ・アーカイブ」であれば、1945年8月9日午前11時2分。その時間に長崎の人々がどこにいて、建物や街の風景がどのように変貌してしまったか。その一瞬が仮想空間に再現されている。もちろん過去の証言や写真にはGPS情報など埋め込まれていないから、マッピングは地道な手作業による。新しい証言の収集などは、地元の有志が動く。

    「ビッグデータ」や「オープンデータ」などと聞くと、最先端のスマートな印象をもつが、本書で紹介される作業はずいぶんと泥臭い。技術は道具に過ぎないからやがて寿命が来る。グーグルアースとて、10年後には古びて使いものにならないかもしれない。著者はその点を自覚していて、〈人間のつながりそのものを生かして、未来に向けて記憶を語り継いでいく人々を育てることにも、力を注げれば〉と記す。「ヒロシマ・アーカイブ」で被爆者の証言を取材したのは高校生たちだ。彼らだったからこそ、初めて証言をしたという被爆者もあったという。「データを紡いで社会につなぐ」とは、データ収集が重要なのではない。「社会をつなぐ」ことにこそ重きがある。
    続きを読む

    投稿日:2014.03.13

ブクログレビュー

"powered by"

  • hayataka

    hayataka

    筆者は GoogleEarthに様々なデータを重ね合わせた作品を創出している情報アーキテクト。 オープン・ビッグデータ…本質はオープンやビッグではなく、何を伝えたいかという人々の想いだと実感する一冊。

    投稿日:2020.12.20

  • hironakaji

    hironakaji

    2017年37冊目
    ちょっと前まで騒がれていたビッグデータ。
    今世の中にはデータがあふれかえっている。それは、テキスト情報だけでなく、画像などもそうだ。
    著者はそんな溢れかえるデータと社会をつなぐ環境を作ったり、教えたりしている。

    興味深かったのが、Google Earthをその基盤としていること。
    Google Earth上に自分の息子の成長記録をマッピングさせるとか、
    長崎、広島の過去の原爆の記録写真、体験者のインタビュー動画をGoogle Earthに重ねていく。
    非常に面白い試みだと思った。
    ただ、著者も言っているがよいコンテンツを創るには、デジタルなプラットフォームだけではだめ。そこに掲載するものについては、人間的なアプローチが必要だと言うこと。
    デジタル社会において、記録を残すということについて非常に興味深いきづきを教えてくれる一冊でした。
    続きを読む

    投稿日:2018.10.28

  • sh1gram

    sh1gram

    データジャーナリズムとはまた違ったアーカイブ「作品」の話。Googleに落とし込むってところは変わらない。Googleがビッグデータを抑えてると同時にオープンデータとのマッシュアップにもGoogleのツールはちょうどいいという現実。データはあるが故に見せ方が重要で、人伝いのデータもジャーナリズム的には重要。そこまでは現実味あるけど実際には一握りのプロフェッショナルしかできない技術。続きを読む

    投稿日:2018.08.18

  • ドラソル

    ドラソル

    Google Earthを使ってサービスを提供してる人の話。

    実際にサービスを作ってるだけあって、その内容は非常に具体的な反面、自分が想像するデジタルアーカイブの話とは若干違った。

    投稿日:2018.07.26

  • horinagaumezo

    horinagaumezo

    「情報アーキテクト」である著者による、データと社会の関わりについて知るための入門書。具体的には、「ビッグデータ」「オープンデータ」「デジタルアーカイブ」等について、「東日本大震災アーカイブ」など実例を豊富に紹介しながら、解説している。
    ビッグデータやオープンデータについて、それを活用するとどんな良いことがあるのかというゴールを具体的に示すことが重要ということを理解した。オープンデータの活用例としての「税金はどこへ行った?」の試みが非常に面白いし、有意義だと感じた。記憶を後世に伝える媒体としてのデジタルアーカイブの可能性についても認識した。
    続きを読む

    投稿日:2017.08.29

  • hsgcros

    hsgcros

    広島と長崎の原爆。東日本大震災。歴史や大災害の記憶のデータを、時代や国境を超えて伝える“新しいデジタルアーカイブ”とは。注目の“情報アーキテクト”が、現代におけるデータと社会の関わりを考える。

    投稿日:2016.04.08

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。