【感想】新装版 虚無への供物(下)

中井英夫 / 講談社文庫
(103件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
21
34
30
6
0
  • 虚無感脱却への執念と、まさかの真相

    ______________________________________________________
    (あらすじ)
    宝石商として栄えた氷沼家には、先祖代々より、人生を全うできない死の呪いがかけられているといった言い伝えがあった。
    1955年のとある晩、氷沼家の末裔、氷沼藍司は、窓の外に不自然に佇むアイヌ装束の男を見かける。そして、まるでそれを何かの暗示とでもしたかのように、氷沼家一族の連続怪死事件が始まる。
    氷沼家と親しい友人達、光田亜利夫、奈々村久生、藤木田誠、牟礼田俊夫、そして氷沼藍司の5人は、氷沼家の呪いに託けた連続怪死事件の真相を暴き、今なお続く怪死事件に終止符を打つべく、推理を繰り広げる。
    ______________________________________________________

    シュールな物語は、下巻で更に拍車がかかります。
    架空と思われていた人物が突然現れたり、反対に架空の殺人事件に対して真剣に推理を行ったり、まるで突っ込みのいないコメディでも読んでいるかの如く、滅茶苦茶な物語が大真面目に展開されていきます。

    しかし、それら支離滅裂な出来事や考察は終盤ですべて理論的破綻なく収束し、最終的に一つの結論に至ります。
    その結論を読んだとき、すべての出来事に対する合理性を理解すると同時に、上巻のレビューで述べた、物語のテーマである『虚無への供物』 ― 無意味な事象に“人間性”という意味を与えること ― に対する一貫性があった事に気づかされる事でしょう。冒頭から結論までを思い起こすと、作中の登場人物一人一人が、あらゆる事象に対して意義を求める人間臭さに溢れていました。


    そして、この物語の面白い所は、結論のもう一歩先に、事件、推理、手がかり、動機、物語全ての根源たる真相が語られている点にあります。
    無意味な死、無意味な事件、無意味な推理...。虚しい時代の虚しい物語。
    その真犯人は私達読者であるという真相が。
    続きを読む

    投稿日:2014.12.28

ブクログレビュー

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  • 左京ぴろ

    左京ぴろ

    日本三大奇書という情報だけを知り、読み始めた作品だった。話の入りを読んでいき長編推理小説か!と話にのめり込んでいった。話が二転三転としていき一体どういうオチに繋がるのだろうと不安になるほどであった。最後まで読んでいくと話はきれいに纏められ、現実なのか夢なのかと思っていた分からなくなっていた気持ちが急に現実へと引き戻された。終章で訴えられていたことは50年以上経った今、情報の拡散性が向上し、より受け取り手の解釈に左右されるようになっている。奇書って一体なんだろうと読み始めた一作だったが、改めて考えさせられる一冊になった。続きを読む

    投稿日:2024.03.24

  • kratter

    kratter

    つまりはこの作品は、"「ミステリ読者がこうなるだろうな」と言う想定を予め意識してハズす"、それ自体をミステリ小説にしました。

    と言うお話なんだろうな、と言う感想。

    舞城王太郎の「煙か土か食い物」を読んだ時と似た読後感を持ちました(あっちはミステリを下書きに家族愛を、こっちはミステリを下書きにミステリ論を)。

    さて、一般読者として読む価値は無くは無いけど、僕にとってミステリはお勉強の要素もありつつ、あくまで娯楽なのでこればかりをやられると時間の消耗になってしまうな、と言うのが偽らざる本音では有ります。

    "ミステリ評論を自分でも書く作家の作品以外とつまらない説"を象徴するような作品。
    続きを読む

    投稿日:2023.08.11

  • みい

    みい

    小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」は、どうにか読み終えたものの、理解出来ずに撃沈!
    次は、日本三大ミステリのもうひとつ「虚無への供物」。
    「推理小説史上の大傑作が大きい活字で読みやすく!!」の言葉に励まされて読んでみました。うん、確かに読みやすかったです。しかし、ミステリの醍醐味だと思う「すっかり納得できる」と言うものとは全然違うんですね。解説でも、アンチミステリーだと書かれていました。何か胸の中にモヤモヤを抱えたまま最後を迎えてしまいました。とくに、重要な探偵役と思われた牟礼田俊夫の行動(謎はすっかり解けた、それを君たちに話す前に云々…)にはモヤモヤ、モヤモヤ。
    やはり私は沈没でした。
    続きを読む

    投稿日:2023.08.09

  • Rita

    Rita

    不幸が相次ぐ氷沼家の事件の謎を自称探偵達が推理する話。上下巻なんやけど、上の推理が割とぶっ飛んでてこの先どうする気や、と思ったら下巻で繋がってくるの凄い。下巻がまじでどう転ぶのか楽しみすぎて一気に面白くなった。最後の批判は現代にこそ刺さる。続きを読む

    投稿日:2023.08.06

  • しなこ

    しなこ

    このレビューはネタバレを含みます

    めちゃくちゃ面白かった。

    想像は時として現実をも凌駕し、新しい物語を生み出す。蓋を開けてみれば、なんだ、こんな感じ?
    なんだけど、時代の背景と相まって、なんとも言えないスカッとしない感じが底にあって面白い。

    読んだ本と知識が半端なくすごいと思うのだが、
    『黄色い部屋の秘密』なんかも、あ、犯人言っちゃうんだ…

    『現実に耐えられなくて逃げこんだ非現実の世界は、現実以上の地獄で、おれはその針の山を這いずるようにして生きてきたんだ。』

    終章の蒼司の告白が最高だった。考えて考えて考え出した答えは歪曲し、別の方向へ怒りとして矛先をかえる。自分が納得した形があれだ。
    無責任な好奇心の創り出すお楽しみ...
    どうやって自殺を食い止めるのか。

    真犯人は私たち御見物衆。ちょっとだけ無責任な好奇心の先にある物語。まさに虚無への供物。

    この本は読めてよかった。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.07.16

  • MO-FU

    MO-FU

    日本三大奇書のひとつであり、アンチ・ミステリの金字塔とも言える作品。
    探偵達の永遠に続く推理合戦に、現実と虚構が混ざり合い、一気にワンダランドへ連れてかれました。
    犯人の独白が痺れたしミステリファンには刺さるんじゃ無いかなぁ続きを読む

    投稿日:2023.05.09

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