meatmanさんのレビュー
参考にされた数
72
このユーザーのレビュー
-
十角館の殺人〈新装改訂版〉
綾辻行人 / 講談社文庫
一行で語られる真相
20
****************************************************************************************************…************
(あらすじ)
有名な作家名をあだ名としてお互いを呼び合う程、推理小説にどっぷりはまった大学のミステリー研の面々7名が、十角形の館の立つ孤島での合宿を行う。館を立てた建築家、中村青司は、同島の別の屋敷の火災事故で一家もろとも無くなったというが、そこにはいくつもの懐疑点があったという。
そして、唐突に始まる謎の連続殺人事件。犯人は7人の中にいるのか?それとも、8人目が潜んでいるのか?彼らの命を狙う理由は何なのか?
時同じくして、島の外では、本土に残ったメンバーが、過去のメンバーでもあり研究会の歓迎会の最中の事故により死亡した中村青司の娘"千織"の死に関する怪文章を受け取り、偶然にも、中村青司と千織の、過去に起こった事故の真相を追う事となる。
はたして、現在人知れず島で起こっている怪奇な大惨事と、過去に起こった事故による中村青司、千織の死との関係は?
****************************************************************************************************************
外界との交信手段が途絶えたクローズドサークルで発生する事件と、同時に本土で行われるの過去の事故の調査とが、約1週間の出来事としてリアルタイムに並行して描かれていく本格派推理小説。
どんでん返しの、たった一行の真相が面白い!
一見ずるいようでいて、実はその全てに矛盾なく、ヒントとなる場面もしっかり描かれているので、終盤におけるたった一行での種明かしまでその事に気づけなかったのが、また悔しい。種明かしを読んだ時、全ての事件が一気に繋がります。
なるだけ素直な気持ちで、犯人が誰なのか類推しながらゆっくりと読む事が、この物語を最高に楽しむコツだと思います。ひたすら先が気になり、スラスラと読み進んでしまった自分は惜しいことをしました。 続きを読む投稿日:2013.09.24
-
ドグラ・マグラ(上)
夢野久作 / 角川文庫
閲覧注意
7
――ン、ヴ――……ン、ヴゥゥ――……ン――
何処かの部屋で目覚めた「私」
一見、肩透かし、ご都合主義でご法度とも言えるようなタネにして、そのタネの現実的な信憑性を確立し得る程、厳密に記述されたディテ…ィール。
単調でありながら、実は何層にも積み重なる複雑怪奇なプロット。
今しがた自分の読んだ話は、“いつ”、“どこ”で“何”について描かれた物語なのか?
物語のみならず、今自分がこうして手にしている書物までもが、この奇想天外な物語の一端を担っているのか?
全てが解明されると同時に、何も解明されずに終わり、始まる。
混沌とした雰囲気抜群の、傑作ミステリー小説です。しかしながら、単なるミステリー小説にとどまらない上、一般的な幻想小説とも、まただいぶ異なる趣です。
さらに、その奇妙な印象を、作中の表現などで抱かせるのではなく、ストーリー全体を通した、この“本”そのものに抱かせる辺りが、日本探偵小説三代奇書の一つに選出される所以だと感じました。
これを読むと、一度は精神に異常をきたすと言われているそうですが、確かに、私もこれを読んでいる間に3度ほど悪夢を見ました。…その当時は、はたして「あれは夢だった」と認識していいのかすらわからず、混乱させられた悪夢を。
若干、読みにくい文体も出で来ますが、物語の表層自体は複雑ではないので、時間をかけて少しずつゆっくり読んでいっても差し支えないと思います。
複雑でないのは、あくまでも表面だけですが・・・。 続きを読む投稿日:2013.09.24
-
星を継ぐもの
ジェイムズ・P・ホーガン, 池央耿 / 東京創元社
アンリアル科学を超リアルに表現
6
______________________________________________________
(あらすじ)
人類の生活圏は月へと拡充され、他の太陽系惑星の開拓も始まりつつある近未来。月…で宇宙服を着た1人の死体が発見された。
放射性炭素年代測定法の結果、なんとその死体は5万年前の人間であることが判明する。
原始時代の人間がなぜ月に!?しかも宇宙服まで装着して!!
チャーリーと名づけられたその死体の謎の解明と、遠い過去の真実を紐解く調査プロジェクトが始動する。
______________________________________________________
まさにハードSFの金字塔と呼べる作品です。
物語の大半がチャーリーの謎の解明に向けたデータ収集、解析、議論で構成されており、最終的に導き出される真実を除き、目を見張るような展開はほとんど見られません。
しかし、その真実の解明に至る科学的アプローチが非常にリアリスティックに描かれている点が、この物語の大変面白い所。
各々の見解に対する論理的・科学的な根拠が常に求められ、突然それまでの解釈と矛盾するデータが取得され、そのせいで進展といえば3歩進んで2歩下がるような具合で、時に地味で退屈な議論が長々と繰り広げられる。こう言った、なかなか思うように事が運ばない困難さも含め、現実世界の探索調査や研究開発の様子がものすごく生々しく描写されている作品だと感じました。
最終的に導き出される結果に期待を膨らませる事もさることながら、そこに至る泥臭いプロセスも楽しむ事が出来れば、大変読みがいのある物語です。じわりじわりと真相に迫っていくさまに、いつしか我々読者の興味が引き込まれていくことでしょう。
なお、連作の第一巻に相当する本作ですが、本作のみでも十分に満足する完結を迎えられます。 続きを読む投稿日:2015.03.25
-
イニシエーション・ラブ
乾くるみ / 文春文庫
"超"現実派 恋愛小説
6
大学4年生の鈴木は、人数合わせとして参加した合コンで、成岡繭子に一目ぼれをする。。。
理系男子と、愛嬌のある小動物系女の子の、昔懐かし青春ラブストーリー。
ドラマティックな展開や描写はないけれど、恋…が始まり、仲良くなって、付き合って…と、平凡だった僕たちの、若かりしあの頃がよみがえる、そんなお話。
その平凡さ故、読んでいる間は「なんと陳腐な物語か!」と思われるかもしれないが、侮るなかれ。
最後の最後まで読んだその時初めて、この恋物語が、あたかもフィクションとして着飾った夢に浸らせるだけの、そんぞそこらのラブストーリーとはわけが違う事に気づかされる。
読み終えたその瞬間、ストーリー展開としてのエンターテインメント性を持たせると同時に、非常にリアリティのある形で、男と女の恋の成長、作中の言葉を借りれば「イニシエーション(通過儀礼)」が、しっかりと描かれていたことを知る。彼氏である鈴木にのみ視点が向ていると思っていたが、決してそのようなことはなく、繭子側のイニシエーションも存分に描かれていた事に気づく。
ラブストーリーの常套手段である、嘘っぱちな涙や、過剰な演出とは比べ物にならない、予想だにしない結末が私達の心に衝撃をもたらす。
それと同時に、彼らのイニシエーションを覗き見る事によって、私自信の恋愛観が、若かりし頃の純粋な形から成熟し尽くし、腐りかけてしまっている事に気づかされ、一抹の寂しさを感じた。
ちなみに、2004年に書かれた作品ですが、時代背景は1986,7年あたり。当時の流行りなども多々出てきます。ですが、その年代を若者として生きた世代でなくても十分ついていけます。
また、本書はミステリー小説として評価が高い様ですが、個人的には、ミステリーの部類に入るものなのか判断が付きかねます。確かにミステリー的な展開はありますが、「怪奇」「幻想」「オカルト」「事件」「推理」をミステリーの定義とすると、やはりどれにも当てはまらないと思います。
この物語は、あくまでラブストーリーです。 続きを読む投稿日:2014.10.09
-
新装版 相対論のABC たった二つの原理ですべてがわかる
福島肇 / ブルーバックス
時空の歪みをカンタン理解!
5
かの有名な、アインシュタインによる「相対性理論」の解説本。高校の先生が、分かり易く説明してくれます。
前半は主に特殊相対性理論(移動物体と時間の遅れ)の説明がメインで、後半は、一般相対性理論(重力と時…間の遅れ/光の歪み)や量子論(粒と波の同一性)、そして核兵器開発の話へと展開され、転じて科学エッセイといった作り。
走る物の中で遅れる時間。タイムワープ。重力による光の歪み・・・。
SFファンタジーのような世界が、たかだか中学生の数学の知識で、現実となって現れてきます。
堅苦しい専門書とは異なり、難しい数式や予備知識も一切必要なく、学生時代に数学や理科がチンプンカンプンだった方でも本当に大丈夫。
ちょっとした雑学を身につける感覚で、少し不思議な時空の歪みの話が楽しめるはず。
科学だって、歴史や文学、哲学みたいに話半分で知るのは面白いです。
科学エッセイ的なパートも、科学従事に対するつまらないキレイごとで終わるかと思いきや、最後にはなかなか的を得たことも書かれていると感じました。 続きを読む投稿日:2014.11.27
-
新装版 虚無への供物(上)
中井英夫 / 講談社文庫
推理小説界のシュルレアリスム
4
______________________________________________________
(あらすじ)
宝石商として栄えた氷沼家には、先祖代々より、人生を全うできない死の呪いがかけ…られているといった言い伝えがあった。
1955年のとある晩、氷沼家の末裔、氷沼藍司は、窓の外に不自然に佇むアイヌ装束の男を見かける。そして、まるでそれが何かの暗示であるかのように、氷沼家一族の連続怪死事件が始まる。
氷沼家と親しい友人達、光田亜利夫、奈々村久生、藤木田誠、牟礼田俊夫、そして氷沼藍司の5人は、氷沼家の呪いに託けた連続怪死事件の真相を暴き、今なお続く怪死事件に終止符を打つべく、推理を繰り広げる。
______________________________________________________
推理小説界のシュルレアリスムとでも呼ぶべきでしょうか。
推理小説の体を様しながら、推理は疎か、事件そのものに捉えどころがなく、物語の大半が、読んでいて“虚無感”に付きまとわれる作品でした。
上巻では、捉えどころのない事件と、捉えどころのない推理が繰り広げられていきます。読んでいて飽きる事はないのですが、釈然としない気分に苛まれ続けることでしょう。
しかしながら、この「虚無的な事象」に対し「虚無的な解釈」を加えてく登場人物5人の姿に、人間としての性を感じました。
思えば、宗教、風習、マナー、現代科学等々、私達の文明/文化的発展は、類まれない人類の想像力によってもたらされてきました。仮え根拠がなかったり、虚構であったとしても、無意味、無秩序な事柄に対し、大それた理由や意義を与える事、あるいは、与えようとする事はとても人間的な行為です。
それと同じ様に、「虚無的な死(事件)」に対し、先祖代々の曰くや地理に纏わる暗示なといった「虚無的な解釈(推理)」を付加しようとする登場人物たちの行為が、人間の性を感じた所以です。さらに、作中で牟礼田俊夫も言っていた事ですが、こういった行為は事件その物にも人間性をもたらし、「無意味な死」から犠牲者を解放する供養にも値します。これがまさに『虚無への供物』なのかもしれません。虚無に虚無を重ね、有意義な事とする。まるでマイナス同士の掛け算の様です。
こうして、捉えどころない推理小説は、犠牲者の供養という人間ドラマ的な結末へと形を変え、無事幕を閉じる。
……かと思いきや、浮世離れした推理が実は合っていたと思われるような事実が、最後の最後に発覚します。
混迷を極めるナンセンス推理劇の様相が、再び鎌首をもたげた所で、上巻は終わります。 続きを読む投稿日:2014.12.28