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伊谷原一, 三砂ちづる / 亜紀書房 (3件のレビュー)
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総合評価:
ABAKAHEMP
サルの社会を通して人間の社会を見る
サルからヒトへの進化は森ではなく乾燥帯で始まった。 チンパンジーやゴリラも、いったんは森から出て、乾燥帯で生活を始めたが、何らかの理由で森に逃げ帰ったのではないか。 同じ共通祖先をもつヒトは逆に、…そのまま乾燥帯に残った。なぜ食糧が豊富な森ではなく、少ない乾燥帯で住み続けることができたか? それは彼らが肉食を始めていたから。 彼らは森の中で肉を食べるようになり、その肉を得るためだけに乾燥帯に出ていったのだ。 こう仮説を立てると、次の謎も説明がつく。 謎1 なんでアフリカのチンパンジーは、森に棲んでるのに肉食もするのか? 謎2 なんでアフリカの類人猿だけがナックルウォーキングをするのか? ヒトと類人猿の共通祖先が、森から出て乾燥帯で本格的に肉食や、二足歩行を始めていたからだ。 何らの理由で類人猿が森に戻った時、それまでの肉食の習慣が引き継がれた。 そして森では二足歩行はしにくいため四足歩行に戻ったが、それまでの掌をつく歩き方から、拳をつける歩き方に変わったのだ。 なぜか? 掌をつく方が樹上でも安定するはずなのに。 それは、ナックル姿勢の方が立ち上がりやすいから他ならない。 陸上の短距離走者や相撲取りの立ち会いを思い出せば合点がいく。 つまり、従来の仮説ではヒトの祖先もナックルウォーキングを経て二足歩行に進化したと考えられていたが、そうではなく普通の掌をつける四足歩行から進化して二足歩行になり、その後で四足歩行に戻った者たちがナックルウォーキングになったのだ。 いや四足ですらない。 それぞれ掴めるんだら四本手と言うべきか。 いわゆるミッシングリンクと呼ばれる空白の250万年の間に、われわれの共通祖先は立ち上がった。 しかし立ち上がらなかったのが類人猿系統に進化したのではなく、彼らも一度は立ち上がって二足歩行になっていた。 「共通祖先はすでに立ち上がっていて、人類系統に進化したものは立ち上がったまま行動し始めたけれど、類人猿の系統に進化したものは、迫害や圧力を受けたのか、気候変動、地殻変動が起きたのか、何かヒト系統とは違う要因によって、四足方向に戻らざるを得ない環境に戻された」 その戻った先が森なのだと。 「共通祖先が乾燥帯のサバンナにいて直立歩行をしていたとして、そのままサバンナに残ったものたちが直立歩行を保ったヒトになって、そうでないグループは森林に入ってナックルウォーキングをし、森林環境に適応した」 本書は、2022年の京大霊長類研究所の終焉を一つの区切りとして、日本の霊長類学の始まりから終わりまでを見てきた当事者へのインタビューだ。 日本の霊長類学者たちは、欧米とは方法論が始まりから違っていた。 「先ほどお話ししたように、日本の霊長類学というのは動物行動学や動物生態学と違い、そもそも社会学なんですよ。それはサルの群れの研究からつながっていることですが、もっと細かいこと、群れ内の個体間の関係や交渉など、動物の社会が知りたいわけです」 猿に社会やコミュニケーションなんてないし、文化なんてあるもんかっていう固定観念は、海外だけでなく日本にも根強かった。 ジェーン・グドールでさえ、チンパンジーに集団という枠組みはないし、強いきずながあるのは母親と子どもの間だけと信じていた。 世界中がサルの中に、安定的な集団構造を見、社会や文化の存在を認め始めるのは、幸島のサルのイモ洗い行動からだ。 個が集まるから自動的に社会ができるのではない。むしろ社会があるから、個の存在が認められるのだ。 島中のサルがイモを海水で洗い始めたのは、確かに最初は、若い雌ザルの偶然の出来事から始まったものだが、彼女の行動が周りに広がるためには、そこに社会という枠組みができあがっていないと文化は生まれない。 社会学的にサルを見ようという発想を持ったのは、今西錦司がいたから。 彼の仮説のほとんどはデタラメだったけど、目の付け所が抜群に良かった。 そもそものスタートがヒトの社会を見るためにやり始めたこと。 サルそのもののことを知りたいわけじゃなくて、それを通じて人間のことを知りたかった。 霊長類学というのは人間のことを見るためにやっておりサルの社会を通して人間の社会を見ようとしていた。続きを読む
投稿日:2023.09.10
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root3
対談形式にして読みやすくしたのかもしれないけど,学者と学者の,研究の進め方の話になっていって~タイトルの答え乃至仮説はP12「類人猿やヒトの共通祖先は乾燥帯,あるいは森と乾燥帯の境界あたりで生息してい…て,ヒトの祖先はそのまま乾燥帯に残り,類人猿はモリに入り込んだのではないか。私はヒトが乾燥帯にいられたのは,肉食が始まったからだと思います。移動しながら植物を採集し炊いたのが,動物タンパク質に依存できるように進化したからこそ,乾燥帯で住み続けることができたのではないでしょうか。」~まあ,好き勝手なことをやってきて,それを許す環境があって,金を引き出す能力があって,彼の人生が成り立ってきたような気がするな。父親もほぼ同分野の研究者で,父と呼んだり,伊谷さんと呼んだりで分かり難い。この企画を持ちかけた三砂さんは疫学・母子保健の研究者。京大の霊長類研究所は不正経理や論文捏造で解散されたというのは初耳だ。日本モンキーセンターは名鉄が金を出したらしく,そのほかにも資金提供してくれる会社がいるんだ。へぇぇ。ボノボとピグミーチンパンジーが同じものだと確認できて良かった続きを読む
投稿日:2024.02.24
きあもと
ヒトの成り立ちよりも日本の霊長類学の成り立ちや現在についての比重が多め。それはそれで面白いが期待していた内容と違うのは少し残念。あとがきの卒直さがいちばん面白かったかもしれない。
投稿日:2023.06.04
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