【感想】Die革命~医療完成時代の生き方

奥真也 / 大和書房
(8件のレビュー)

総合評価:

平均 3.6
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  • お前はすでに死んでいる。いやまだだ

    ユヴァル・ノア・ハラリは新たな人類の課題は不死と幸福と神聖の獲得であり、ホモ・デウス(神)を目指すのだと予言する。2016年の世界の平均寿命は72歳、40年間で10歳伸びた。100年前には30代前半だったがスペイン風邪の大流行のため20代に落ち込んだこともある。現在の世界人口は76億、2100年には110億になると予想されているが子供の数は今と変わらない。現在女性1人あたりの子供の数は2.5人。すでに子供の数の増加は横ばいになっている。

    15歳ごとに区切ると30歳までの人口が40億、75歳までに15歳ごとに各10億というのが現在の姿だ。2060年、今の30歳はほとんど死なずに75歳になる。この時の人口が約100億だ。世界人口は120億で安定すると言われている。つまり平均寿命は90歳にはなるというのがごく一般的な見方だ。日本の平均寿命は84歳なので乳幼児死亡率の高い国の経済が発展し社会インフラが整えば現在の技術レベルでも90歳というのは普通に達成できるレベルということになる。

    Die革命はさらにその先の世界だろう。平均寿命が105歳になれば人口は140億に120歳になれば160億になる。「すべての病気を克服してしまうのが、『医療の完成』だとするならば、現在は9合目まで来ている」。エイズはすでに治療可能な病気になっている。がん治療では分子標的薬や光免疫療法などがんを克服する治療法が着実に成果をあげている。

    最後の1合には最も困難な3種類の病気が残る。
    1 発見・アプローチが難しい病気
    2 症例が圧倒的に少ない病気
    3 急死

    https://www.japan-who.or.jp/act/factsheet/310.pdf
    ファクトフルネスのレビューに同じことを書いたのだが2016年の世界の死者数5670万人のうち300万人が亡くなった感染症のトップは下気道感染症(気管支炎や肺炎)、次いで140万人が亡くなった下痢性疾患、130万人が亡くなった結核が死因のトップ10に入る。また道路交通障害140万人が最大の傷害となっている。自然災害は恐ろしいものだが死因の0.1%に過ぎない。高齢者が恐るべきは誤嚥性肺炎ということになる。年寄りは歯を磨こう。

    Die革命の最初の課題は最大の死因である虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)、脳卒中などの急死を防ぐことだろうか。「近くに人がいない孤立した環境は容易に『急死』を呼び込んでしまう」日本では奥さんの書いているように医療を支える財政の方が問題だろう。ITの発展で急死の原因を自動で通報できるようになったとしても物理的な移動手段が維持できるかと言った問題は残る。またAIによる診断が実際には生身の医者を超えていたとしても誤診を許せるかは社会が受け入れられるかだ。自動運転が当たり前になれば急死にも効果的に思えるがこれも同様だ。

    この本でも紹介されていた遺伝子を編集する「神のハサミ」クリスパーcas9を発見したジェニファー・ダウドナは自書で「科学者よ、研究室を出て話をしよう」と結んでいる。遺伝子編集という画期的な技術を社会全体が受け入れられるのかはまだわからない。そして人生150年となったとして長寿を積極的に受け入れるには個人と社会の財政的な裏付けが必要だ。それでも最初の一歩はそれがすでに起こった未来だと知ることからだろう。本書もその一つ。
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    投稿日:2019.05.26

ブクログレビュー

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  • Dr.(読多ー)あんころ猫

    Dr.(読多ー)あんころ猫

    医療の完成度はすでに9合目まで来ており、ただし最後の1合を登りきるのは困難な問題が山積みで時間はかかると言っています。

    しかしそれでもなお病気は治るものではないとも言い切っており、その発言には作家の五木寛之氏が言っている「病気は治るのではなく治める」といった言葉が思い出されます。

    医療が進むことで「死ねない」時代の到来すると言っていますが、これは今でもすでに起きている気がします。
    一般的な寿命と健康寿命の格差がそれを物語っています。

    そんな時代をむかえつつあるからこそ自ら死を選ぶという選択に関しての法整備についてはもっと議論が早く進める必要があると思います。

    これから数十年、きっと医療的な面だけでなく人生の生き方の選び方も大きく変わってきそうです。
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    投稿日:2021.03.15

  • highlen

    highlen

    このレビューはネタバレを含みます

     本書は、医療の進化により、病気は死ぬ原因ではなくなりつつあり、将来は、どのようにして有意義に生きるか?という点が重要になるだろうという、将来の展望を示している。

     確かに、多くの疾病は、治療法が確立してきており、治らないかもしれないが、QOLを低下させずに生きながらえられるようになってきている。一方で、生活の質や高額な医療費などの観点が問題になってきている。
     
     したがって、病気をただ直すことだけではなくて、生活の質をどのように維持していくか、また、不必要な医療費の支出をどのように抑えるか、または、死ぬ権利といったところまで踏み込んで問題提起をしている。

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    投稿日:2019.08.04

  • 全ての本

    全ての本

    近いうちに病気による死はなくなるのではないか、という話。不調になったら調べるのではなく、常にウェアラブル機器などで体調を監視し、取り返しがつかない状態になる前に発見できるから、ということらしい。医療技術もロボットやAIによって進歩する・・など。
    しかし、仮に死ななくなっても、逆に無駄に長く生きて死ねないことについて、心がついていけるのかという新たな問題がでてくるとのこと。なんでもそうだけど、良かれと思って技術を進歩させているのに、それのせいで別の問題が生まれるね。
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    投稿日:2019.07.03

  • kuwataka

    kuwataka

    このレビューはネタバレを含みます

    「医療技術✕ロボティクス(Ai、サイボーグ工学、ニューロロボット工学など)」を広く横断的に、しかもそれらを利用する側(消費者・患者など)の視点でわかりやすく、一気に理解する方法を探してた。
    これまではそれぞれのキーワードでアンテナ張っていた(ニュースを拾って未知の用語をその都度理解していく)が、この本がその目的を満たしてくれた。

    著者はこの領域の池上彰さんのような存在だと思う。

    先端分野に職を得ると、立場上、何かと公言しづらくなってしまうので、筆者にはぜひとも今の特異なポジションで情報発信を続けていただきたいと願う(Facebookグループで読者らと対話もしている!)。この本を池上さんの「知らないと恥をかく~~」シリーズのように数年ペースで出したら毎回読みたい。

    「(病気による突然)死」がほとんどない長すぎる人生を孤立せず充実した時間にするためには、周囲の人たちから必要とされるよう「利他」を意識し続けること。それが「アクティライフ」という利己的な充実感になっていく、と結んでいるのにも共感する。

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    投稿日:2019.05.05

  • ken1maeda

    ken1maeda

    医師でもあり,ビジネスや大学やその他複数の経歴を通して医療に造詣が深い著者が,「死ななくなる」将来を語った本.各所に著者の深い洞察が表れており,興味をかき立てられる.

    投稿日:2019.04.15

  • yukisaito

    yukisaito

    近い将来実現するであろう「不死の時代」を見据え、それをもたらすべく進化し続ける様々な医療関連技術の内容と、その恩恵を受けるはずの我々が直面するであろう課題がまとめられた一冊。

    著者は、iPS細胞の実用化やAI、ビッグデータ分析、ロボティクスといった技術の活用などにより、予防・診断・治療の全てにおいて劇的に進化している今日の医療は、その「完成」に向けて「山の9合目」まで来ており、難病や急死といった「病気のラスボス」を突破すれば、人類は実質的に不死、即ち病気によって志半ばで不慮の死を遂げることが無くなり、一部の学説で寿命の理論上の限界とされる120歳まで生きることも可能になる一方、我々自身の意識改革がなければ、単に長期化した人生を「リビング・デッド」として送ることになると警告する。

    所謂「人生100年時代」を幸せに生きるためには、無病息災ではなく「多病息災」を前提に病気と上手く付き合うことや、表面的な健康ブームに踊らされることなく定期的な受診や生活習慣の改善といった予防の取り組みを継続することに加え、“いつ死ぬかわからない”という強迫観念からある程度は利己的に生きるしかなかったこれまでの我々の人生を根本から見直し、利他の精神によって生きがいや充足感を形成し、アイデンティティを再構築することが必要と説く。著者ご自身のこれまでのプロフェッショナルとしてのキャリアとプライベートでの様々な経験に裏打ちされた、実用的でありながらも自己啓発的側面も備えた良書。
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    投稿日:2019.03.31

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