【感想】代替医療解剖

サイモン・シン, エツァート・エルンスト, 青木薫 / 新潮文庫
(63件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
27
24
5
2
0
  • サイモン・シン英国カイロプラクティック協会に勝訴

    2000年以上前にヒポクラテスはこう述べた。
    「科学と意見という、二つのものがある。前者は知識を生み、後者は無知を生む。」

    この本では「〇〇を試した所、元気になりました・・・」という体験談は全て意見として扱っている。ある人が何かを試して効果があったとしてもそれは科学ではなく意見だと。では、科学として取り扱われるのは何か?簡単に言うと証拠に基づいている事である。例えば統計的なデータに基づき効果が有ると言えるか。対象者はランダム化されているか。ブラインドテストをくぐり抜けたかなどで、特にランダム化とブラインドテストを経た者は理論がどうであれ医療効果が有るとされる。現代最高の科学ジャーナリストのサイモン・シンが代替医療(ホメオパス)における世界初の大学教授エツァート・エルンストと組んでいろいろな代替医療を検証している。

    鍼の真実 
    ーいくつかのタイプの痛みや吐き気に対して効果が有るという信頼性の高い臨床試験結果は有る。しかし、同様に効果を否定する信頼性の高い結果も出ている。ー
    経絡、経穴は存在しない。秘孔もなければケンシロウもいない。少し残念ではあるのだが。
    鍼が効いたという体験談ならいくらでもあるし、その体験が間違いだと言うのではない。
    治験者に知らせず、経穴の一定の深さに打つ鍼と偽物の鍼(皮膚表面をさすが押すと引っ込むので経穴には届かない)を使ったブラインドテストの結果それぞれの効果に差は出なかった。プラセボ効果(効くと思えば症状が緩和する)以上の効果はほとんど見られなかった。

    ホメオパシーの真実
    ー忘れましょうー
    インドではアユールヴェーダと並んであらゆる階層で用いられているホメオパシーだが別に神秘性はない。18世紀末のドイツの医師ザムエル・ハーネマンがマラリアの特効薬キナの木(キニーネの原料)を健康な人が飲むとマラリアにた症状が出ると言う事から思いついたのだ。健康な人に症状を起こす者は病気を治すと。そしてよくわからないのだが薄めれば薄めるほど効果は強くなるという。たとえばホメオパシーで百倍希釈をCで表し30Cと言うのはごく普通なのだがそこまで希釈するともとの分子はまず含まれていない。普通はここまでで証明終了だ。
    それでもいくつもの研究成果をちゃんと検証している。おつかれさんですな。
    フランス産の1羽のカモの肝臓と心臓から取られるホメオパシーのインフルエンザ・レメディ(治療薬と思ってください)は2千万ドル以上の売り上げが見込まれているのだが、その容器には薬剤1g中、蔗糖0.85gと乳糖0.15gと明記されている。

    カイロプラクティックの真実
    ー腰痛に効果があるケースはある。より安い通常医療で効果がなければ試してみてもいい。ただし首は絶対に施術させない事ー
    残念な事に腰痛に必ず効く治療法は無い様だ。カイロプラクティックでは無理に外的な力を込めて動かす技術を使う。1997年に治療を受けたカナダの女性は頸椎にマニュピレーションを施した結果、椎骨動脈を損傷し、できた血栓が脳につまり死亡した。骨がばきばきなると効いた気になるがあれは指の骨と同じで気体の泡がはじける音だ。ストレッチの際に言うように無理な力をかけない、反動を使わないやり方のほうが明らかにリスクが少ない。

    ハーブ療法の真実
    ー効果があるものとないものいずれも有る。近代薬のもとになった。ー
    普通の薬は天然物の中から薬効成分を抽出し、化学組成を少し変えてできるだけ効果に対し副作用が少なくなるように膨大な時間と金をかけた臨床試験を行っている。天然物が安全で、人工物が危険だという思い込みには何ら根拠が無い。それでも薬害は起こりえるのだが。また例えば漢方薬の重金属汚染などもニュースになったように薬効とそのものの安全性は少し異なる。
    ラベンダー「不眠には効かない」、朝鮮人参「基本的に効果なし」、ニンニク「高コレステロール血症に効果は有るが、血糖値を下げる可能性がある」等々。効果の例の割りに副作用の項目はたくさん並んでいるのではあるが化学屋からすると「毒は薬」効果は有っておかしくない。普通の薬との相互作用も注意すべきである。

    科学的な手法を用いて大きな成果を上げた有名人は誰か?候補はいろいろ挙がるが知らなかったのがナイチンゲールだった。戦場病院で一生懸命手当てした人と言うイメージだったのだが実際には統計に基づき病院の衛生管理をする事で死亡率を大きく下げた科学者でもあった。一方で伝統的なやり方が明らかに間違っていた例もある。瀉血といって病人を傷つけ悪い血を抜くという治療法は今では考えられないが19世紀までは通常の医療だったため、結果としては治療をしない方が長生きできた例は多い。

    原題はTrick or Treatment ?
    続きを読む

    投稿日:2017.04.14

ブクログレビュー

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  • m788

    m788

    代替医療そのものを信じるかどうかよりも、
    そのために受けられる治療を遠ざけてしまうことが怖い。

    ジェット浪越が懐かしい。

    投稿日:2023.12.17

  • largeaslife

    largeaslife

    このレビューはネタバレを含みます

    鍼やお灸、整体など普段の生活に溶け込んでいるものから、ホメオパシーなどのそれっぽいものにちぃて、科学的見地から見て、医療としての効果があるものなのかどうかという検証をまとめた本。

    とても面白かった。

    どれも薬効という面での効果はなく、プラシーボ効果がほとんどというのはある意味痛快でもある。

    まさに「病は気から」ということが証明されたとも言えるのではないかと思う。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.06.24

  • 文音こずむ@『はじめての』文芸部1期生

    文音こずむ@『はじめての』文芸部1期生

    伝統的な医療だからといって効果があるとは限らない。では代替医療をどう評価すべきか?
    医療の歴史を通して効果のある治療とは何かを学べる。貴方が医者じゃなくても大事な人がいるなら読むべき。付録が秀逸。ふと陰謀論が頭を過ぎった。続きを読む

    投稿日:2023.06.17

  • かとまる

    かとまる

    医療分野に格段興味があるわけではない私でも新しい知識、知らないことを知るのはいいものだと思わせてくれる本でした。
    結構ボリュームはありますが、読みやすいと思います。

    ライミーの話に始まり
    臨床試験がどれだけ画期的か
    「瀉血」とは何かすら知らない私からしたら
    全ての知識が新しく感じました。

    究極の問い、プラシーボ(プラセボ)効果を
    発揮する(そして実際症状が良くなる)のであればその効果のみでも薦めていいのではないかというところまで突き詰めてある所がよかったです。
    続きを読む

    投稿日:2022.05.31

  • kaine131

    kaine131

    何かもやもやした気持ちを抱えつつ、カイロプラクティックを受けていた折、この本の存在を知りました。

    少し難しい内容で目的のカイロプラクティックにたどり着くまで時間がかかりましたが、少なくとも第1章は必須だったと思います。
    各代替医療の章の重み付けがされていました。

    この本を読む前は、たとえプラセボ効果でもしないよりマシ、と自分を納得させていましたが、読了後には次のカイロプラクティックの予約を取り消していました。

    何もしないよりはマシかもしれないけれど、お金も時間も掛けています。
    それなら通常医療の方がマシだと思えるようになりました。
    通常医療へ復帰すべく病院を受診します。
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    投稿日:2022.03.22

  • ogn

    ogn

    科学的思考の素朴な重要性を改めて突きつけてくる。自然科学の高等教育を受けて、分かっているつもりでも、ふとした瞬間に非科学的な思考に陥ってしまう。ことが健康に及ぶと尚更である。漠然と「そうかもしれない」と思っていた具体的言説についてもバッサリ目を覚まさせてくれる。
    カール・ポパーの「客観的知識」にくどくどと分かりにくく書いてあった科学の在り方について、具体例を交えて非常に分かりやすく理解することができる書とも言えないだろうか
    続きを読む

    投稿日:2021.09.26

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