【感想】兵士は起つ―自衛隊史上最大の作戦―

杉山隆男 / 新潮文庫
(13件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
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  • 「日陰者」自衛隊から見たあの日(3.11)

    第一部では地震直後に所属部隊(多賀城駐屯地)へ駆けつけようとしていた彼らに津波が襲いかかり、流された先で他の被災者を助ける自衛官たちと有事の際にすぐに被災地に出動できるよう準備していたにもかかわらず、自身も被災したため機材が駄目になり、交通網が寸断され初動に時間を取られた部隊が如何にして現場に向かったのかが語られます。普通の人間であれば自分自身が生き残るのに精一杯の状況で、自身の生かしながら同じく津波に呑まれた・流された人々を救うという強靭さには感嘆します。

    第二部は要救助者と遺体の捜索・救助の話で、特に「ご遺体」の章では読んでいて不覚にも泣いてしまった。72時間という生存時間リミットを過ぎて生存者よりも亡くなった方を発見する機会がどんどん増えていく絶望的な状況で警察だけでは対処できない数の遺体の捜索・搬送を担った彼らの奮闘振りが描かれている。初年から古参の隊員に至るまで連日連夜、不眠不休で「ご遺体」に対応する姿は涙なくしては読めない。何故そこまでできるのか?と思うぐらいの献身ぶりには本当に頭が下がる。  

    そして第三部は、未だに先が見えない福島原発での命がけの注水活動の話。核・生物科学兵器を対処する「中特防」102防護隊とCH47チヌークを運用する104飛行隊による福島第一原発・三号機の炉心プールへの海水注入による炉心冷却オペレーションが描かれている。これはNHKでも放送され当時全国民が見守る中、行われたあのシーンの裏でどのように作戦が遂行されたのかが語られている。

    「日陰者」である彼らが唯一人々から感謝される災害救助という場面で自身も被災者になりながら「他を生かすため」に活動する姿を賛美するわけでもなく淡々としかし一人の人間として、同じ被災者としてあの日の彼らの行動を追った自衛隊員たちから見た震災レポート。これは自衛隊を何十年も取材してきた作者だからこそ書ける本だと思う。(再掲)
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    投稿日:2016.02.11

ブクログレビュー

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  • takahiro

    takahiro

    父は自衛官でした。私は今”フクシマ”に住んでいます。大きな災害の時は、たとえ自宅が被災していようと父は家にいませんでした。
    この本はかなりきれい事としてかっこよく書いてはいますが、おそらく事実として当時はこのとおりだったのだろうと思います。本来の任務は戦争での人殺しのはずの軍隊ですが、災害派遣とは「これ以上揺るぎなく正々堂々としていて誰からもうしろ指をさされることのない目的」であり「現場に立ったとき隊員たちは自衛官としての日頃の慎みと寡黙を打ち捨てるかのようにここぞとばかり人命救助という任務遂行に邁進」したのでしょう。
    ですが宮城や岩手はそのとおりでも、原発が爆発し放射能がばらまかれた福島の原発立地自治体の町々には軍隊である自衛隊ですら入り込めず、核専門部隊が原発対応を行うだけで、通常の自衛隊員による地域住民の救助活動は一切行われませんでした。原発のリスクを放置した東京電力と政府、経済産業省によって数多くの被災者全員が見殺しにされました。生きていた人たちも、福島県選出の議員が国会で言っていたように東電職員の家族だけはいち早く逃げ出しましたが、東電職員の家族以外の地域住民も自らの家族の救助はできませんでした。
    地震と津波は天災ですが原発の爆発は人災です。東日本大震災以降、戦後、自民党や官僚がついてきた嘘や悪事が次々と暴かれ、この国を全く信じられなくなりました。
    能登半島地震では東日本大震災などの教訓は全く生かされず、被災直後の72時間は陸路がだめなら海からでも空からでも大規模に人員を投入し救助を行うべきところを、新年会に浮かれたバカな自民党政府に邪魔され、犠牲者、被害者は増えたのではないでしょうか。
    国に対する不信感はこの13年間、今でもどんどん募るばかりです。
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    投稿日:2024.03.19

  • Shogo  Fujita

    Shogo Fujita

    何度も涙が出て来そうになった。
    自衛隊員の方々の『覚悟』には本当に頭が下がります。
    皆様のお陰で今もなんとか平穏に過ごせている日常に感謝致します。本当にありがとうございます!

    投稿日:2023.08.09

  • こたつ

    こたつ

    ほんまに、こんな風な気持ちで活動してくれとるんかと思うと、頭が上がらへん。しかも、それやのに感謝されることにそれでも葛藤しとるってのは、なんて報われへんことなんやろう。ほんまに。

    投稿日:2022.01.11

  • ほさかずん

    ほさかずん

    東日本大震災の時に実際に被災しつつも救助活動等にあたった隊員への取材結果をまとめた本。

    その他、普通に隊員に取材した結果をまとめた本もシリーズ化されている。
    彼らの「普段の生活」を知るには良いかも。

    「軍隊またはその他の実力組織」というのは何十万人、何百万人で構成される「自己完結型組織」だから、ある意味「運用要領がマニュアル化されている社会そのもの」なところがあって、それについての知識を得るというのは、ミリタリー関係なしに面白い。
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    投稿日:2019.02.16

  • ラビ

    ラビ

    その存在の是非を常に問われてきた組織の中で、最前線に立って「戦う」人たちのノンフィクション。
    彼らの戦いは奪うことでなく救うことで、であればこそ未曾有の大災害の中、危険を省みず救命にあたった自衛隊の皆さんには本当に頭が下がる。
    彼らの仕事が「奪う」ことに変わらないよう願うばかりです。
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    投稿日:2017.01.29

  • kinya3898

    kinya3898

    抑制された筆致が余計に津波の凄絶さを物語る。あまりにも凄惨すぎて何度か本を閉じた。果敢に救助活動に立ち向かうも、そこに存在するのは遺体累々。過酷過ぎる現場で幾度も嗚咽しながらも、これ以上傷まぬよう、細心に遺体を運ぶ自衛隊員。

    ひとりの自衛隊員が呟く。
    ◉「来るか来ないかわからない<いつか>のために備えている。その<いつか>が今日遭っても明日遭ってもいいように」
    ◉「自衛官は活躍しないまま退官することが一番いいんです」

    震災から5年。あの衝撃や記憶が薄れていく中、今日も明日も「有事」に備え、激しい訓練に励む自衛隊員がいる。どうか、その訓練が徒労に終わることを祈るのみ。
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    投稿日:2016.09.13

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