【感想】滅亡へのカウントダウン(上)

アラン・ワイズマン, 鬼澤忍 / 単行本
(15件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
8
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3
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  • 果たして地球上の最適人口は?

    1992年の地球サミット、国連環境開発会議では「気候変動枠組条約」「生物多様性条約」やアジェンダ21など持続可能性に関わる5つの重要な合意がなされた。しかし、例えばアジェンダ21では「人口動態と持続可能性」に1章を裂きながらも実施手段としては有効な方法あるいは言葉が協定案から削除されている。それが「家族計画」と「産児制限」だ。

    I=PAT(インパクト=人口x豊かさxテクノロジー)は生態学の規範となる式だが大事な点はこの式は時間とともに足し合わされるということだ。ビル・ゲイツの様な楽観派は持続可能性はイノベーションが解決する、またイノベーションで解決するしかないという。Tの値を小さくすれば人口と豊かさを保ちながら影響を抑えられると。それでもビル&メリンダ・ゲイツ財団は国連人口基金の資金の81%を拠出している。イノベーションとは新しい科学技術とは限らない。

    93年第一回世界適正人口会議である試算が出された。93年を基準にエネルギー使用量を3KW/人(貧困層は3倍使えるがアメリカ人は1/4という水準)に抑えたとすると人口が100億人になったとして総エネルギーは30TWになる。93年の13TWをグリーンテクノロジーの開発で6TWに抑えられれば持続可能かもしれない。ここから計算すると生きて行ける人口は20億人となった。1930年代の人口だ。当時は一人1KWのエネルギーしか使っていなかった。飛躍的なテクノロジーの発展がなくても4.75kW/人であればやっていける。この場合は15億人だ。

    ヨルゲン・ランダースの「成長の限界」は新たな油田の発見やノーマン・ボーローグの緑の革命で一旦は限界を超えたかに見えた。しかしノーベル平和賞の講演でボーローグ自身が言ったように「飢えとの闘い」では時間を稼いだに過ぎない。実際に緑の革命は地下水に頼っており世界中で井戸の深さはどんどん深くなっている。ランダーズ自身は続編の「2052」では世界人口は81億人で飽和すると楽観的な予測を建てている。それでも地球は今よりも住みにくくはなるのだが。

    足りないものは何か?食料、水、天然資源、生物の多様性は低下し、人口密集はパンデミックに弱い世界を作る。単一作物の大量栽培は生産量では優位に立つがこれまた病気に弱い。例えばイスラエルとパレスチナはヨルダン川西側の帯水層の地下水に頼っている。イエスが洗礼を受けたヨルダン川の水は畑や養魚場からの流去水になてしまっている、死海で浮いてみようなんて考えない方が良さそうだ。水が足りないのは人間だけではない。アフリカからの10億羽の渡り鳥がイスラエル上空を通過している。ジブラルタルやシチリア経由の鳥もいるがメインストリートはここだ。すでに多くの鳥が農薬や農地のためにつぶされた湿地のためにいなくなっている。一旦はつぶされたが水源のガリラヤ湖の濾過装置であることがわかり復活させたフラ湖は以前の1/10ではあるがかろうじて筒の宿営地として残されている。渡り鳥がいない世界で生態系の連鎖は何を引き起こすのか?大躍進政策の中国では落ちた稲を食べる害鳥としてスズメが目の敵にされ追い立てられた。結果としてはイナゴが大量発生し飢饉に輪をかけることになり3年間で最大4500万人が餓死している。

    どうみても非人道的な中国の一人っ子政策だがもしかするとその恩恵を受けたのは中国以外の国だったのかも知れない。一人っ子政策のおかげで4億人の中国人が生まれてこなかった計算になる。それでも水不足は深刻で南水北調という世界最大のー三峡ダムを超えるープロジェクトが進められている。それでも食料は輸入に頼り、不足するエネルギーを埋めるには当面石炭を燃やさざるを得ない。4省を覆うスモッグを生み出そうとも。中国の非人道的な社会実験は10年足らずで人口増加の歯止めをかけることができることは示したわけだ。男女比1.18という歪んだ人口比は若い数千万人の独身男性となり社会的緊張を生み、2040年には80歳以上の人口が1億人を超える見込みだ。現在6ポケットの中国の子供達は30年後6人を養うことになる。それでもさらに4億人を抱えるのに比べればまだましなのだろう。

    カウントダウンは下巻へ続く。
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    投稿日:2014.05.01

ブクログレビュー

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  • ottersho

    ottersho

    地球の人口が増えすぎて、この先大丈夫だろうか。という問題に取り組んでいる。
    それはまるで、ダン・ブラウンの作品「インフェルノ」にでてくるゾブリストの思想のようであるが、本当にこのまま人口を抑制しなければ、未来はどうなるのであろうか。続きを読む

    投稿日:2017.06.13

  • dancerinthedark

    dancerinthedark

    前作で人類が消滅した世界はどうなるかを解明しようとした筆者による、人類が存続できる世界を維持するにはどうしたらいいか? が主題になった著書。

    最重要に位置付けられているのは人口問題。
    20世紀初頭には15億程度だった世界の人口は、100年と少ししか経過していない現在では70億。このままの増加傾向が続けばあと半世紀で世界の人口は100億を越えると予測されている。

    そうなった場合どうなるかは実際のところわからないんだけど、暗い見通しのほうがまあガチ。
    とはいえ、統計だけを見てああだこうだ言うよりも、実際に世界中の社会の中でどういうことが起こっているかミクロ視点で丹念に洞察しながら疑問の答えを追求していこうというのが本書の基本的なスタンス。
    「法律が守ってくれない以上、頼れるのは家族しかいない」「少しでも子供を多く作ることが、自分達の身を守ることに繋がる」と語る、パレスティナのある女性の姿を皮切りに、先進国も途上国も含めた各地の社会で生きる人々の声を拾い上げていく。

    読んでいて好感を持ったのは、特定の誰かの声に肩入れしようとするのではなく、あくまでも人々の姿を出来る限りありのままに映し出そうと試みている点。それぞれのチャプターはノンフィクション群像劇のようで、点景の記述は(多少論旨の明確さやテンポを犠牲にしつつも)冷徹な姿勢で為されている。
    人口問題といえば基本的には多いか少ないかという話でしかないんだけど、そこに至る導線がどういうものなのかは地域によって様々なのだなあということを思わされる。
    若干疲れるけど、読み応えのある一冊だった。
    続きを読む

    投稿日:2016.08.06

  • kingasia722

    kingasia722

    読了。
    地球の資源、エネルギー、食糧のキャパシティーは平準化すると僅か20億人。
    其れを是迄は一部の人間が情報格差を武器に占有してた訳だが、70億人に増えた人類に情報格差が無くなったら何が起こるか?限られた資源、水、食糧を確保するためのハレーションが起こるのは必然な訳だ。平和を称えるのは正しい事だが、生き残りを賭けて闘うのは、矮小な人間の必然であり、その中で我が身を守る為に何が必要か…。難しい時代である。続きを読む

    投稿日:2015.09.10

  • kohamatk

    kohamatk

    フリッツ・ハーバーは、1905年に窒素と水素を鉄触媒に通すとアンモニアが生産できることを発見した。BASFはその技法の権利を取得して、エンジニアのカール・ボッシュが産業規模に拡大する溶鉱炉を設計し、1913年からアンモニア合成プラントを稼働させた。アンモニアは窒素肥料である硫酸アンモニウムの原料のほか、合成硝石に転換して火薬や爆薬の生産にも用いられた。

    国際コムギ・トウモロコシ改良センター(CIMMYT)の所長を務めたノーマン・ボーローグは、病気に強く収穫の多い小麦を開発し、収穫量を6倍に増やした。

    途中撤退。
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    投稿日:2015.02.04

  • yuge-hokkaido

    yuge-hokkaido

    デリケートな問題だから言葉を尽くさなくてはいけないのは理解できるけれど、これではたくさんの人に読まれないのではないかと危惧してしまいます。

    できるだけ簡単に書かれたものが出回れば、あまり本を読まない人にも広まるのかな。広まればいいなと思います。続きを読む

    投稿日:2014.07.24

  • okadata

    okadata

    1992年の地球サミット、国連環境開発会議では「気候変動枠組条約」「生物多様性条約」やアジェンダ21など持続可能性に関わる5つの重要な合意がなされた。しかし、例えばアジェンダ21では「人口動態と持続可能性」に1章を裂きながらも実施手段としては有効な方法あるいは言葉が協定案から削除されている。それが「家族計画」と「産児制限」だ。

    I=PAT(インパクト=人口x豊かさxテクノロジー)は生態学の規範となる式だが大事な点はこの式は時間とともに足し合わされるということだ。ビル・ゲイツの様な楽観派は持続可能性はイノベーションが解決する、またイノベーションで解決するしかないという。Tの値を小さくすれば人口と豊かさを保ちながら影響を抑えられると。それでもビル&メリンダ・ゲイツ財団は国連人口基金の資金の81%を拠出している。イノベーションとは新しい科学技術とは限らない。

    93年第一回世界適正人口会議である試算が出された。93年を基準にエネルギー使用量を3KW/人(貧困層は3倍使えるがアメリカ人は1/4という水準)に抑えたとすると人口が100億人になったとして総エネルギーは30TWになる。93年の13TWをグリーンテクノロジーの開発で6TWに抑えられれば持続可能かもしれない。ここから計算すると生きて行ける人口は20億人となった。1930年代の人口だ。当時は一人1KWのエネルギーしか使っていなかった。飛躍的なテクノロジーの発展がなくても4.75kW/人であればやっていける。この場合は15億人だ。

    ヨルゲン・ランダースの「成長の限界」は新たな油田の発見やノーマン・ボーローグの緑の革命で一旦は限界を超えたかに見えた。しかしノーベル平和賞の講演でボーローグ自身が言ったように「飢えとの闘い」では時間を稼いだに過ぎない。実際に緑の革命は地下水に頼っており世界中で井戸の深さはどんどん深くなっている。ランダーズ自身は続編の「2052」では世界人口は81億人で飽和すると楽観的な予測を建てている。それでも地球は今よりも住みにくくはなるのだが。

    足りないものは何か?食料、水、天然資源、生物の多様性は低下し、人口密集はパンデミックに弱い世界を作る。単一作物の大量栽培は生産量では優位に立つがこれまた病気に弱い。例えばイスラエルとパレスチナはヨルダン川西側の帯水層の地下水に頼っている。イエスが洗礼を受けたヨルダン川の水は畑や養魚場からの流去水になてしまっている、死海で浮いてみようなんて考えない方が良さそうだ。水が足りないのは人間だけではない。アフリカからの10億羽の渡り鳥がイスラエル上空を通過している。ジブラルタルやシチリア経由の鳥もいるがメインストリートはここだ。すでに多くの鳥が農薬や農地のためにつぶされた湿地のためにいなくなっている。一旦はつぶされたが水源のガリラヤ湖の濾過装置であることがわかり復活させたフラ湖は以前の1/10ではあるがかろうじて筒の宿営地として残されている。渡り鳥がいない世界で生態系の連鎖は何を引き起こすのか?大躍進政策の中国では落ちた稲を食べる害鳥としてスズメが目の敵にされ追い立てられた。結果としてはイナゴが大量発生し飢饉に輪をかけることになり3年間で最大4500万人が餓死している。

    どうみても非人道的な中国の一人っ子政策だがもしかするとその恩恵を受けたのは中国以外の国だったのかも知れない。一人っ子政策のおかげで4億人の中国人が生まれてこなかった計算になる。それでも水不足は深刻で南水北調という世界最大のー三峡ダムを超えるープロジェクトが進められている。それでも食料は輸入に頼り、不足するエネルギーを埋めるには当面石炭を燃やさざるを得ない。4省を覆うスモッグを生み出そうとも。中国の非人道的な社会実験は10年足らずで人口増加の歯止めをかけることができることは示したわけだ。男女比1.18という歪んだ人口比は若い数千万人の独身男性となり社会的緊張を生み、2040年には80歳以上の人口が1億人を超える見込みだ。現在6ポケットの中国の子供達は30年後6人を養うことになる。それでもさらに4億人を抱えるのに比べればまだましなのだろう。

    カウントダウンは下巻へ続く。
    続きを読む

    投稿日:2014.04.30

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