考えるヒント2

小林秀雄 / 文春文庫
(3件のレビュー)

総合評価:

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  • 天という言葉と人生の意味

    小林秀雄の随筆は、深い思索に裏打ちされた、水墨画の筆致のような一度限りの作品だと感じます。文章はすらすらと流れて、著者が築き上げた思想が沈む精神世界の海底から表面に浮き出てくるものを下絵なしにさらさらと白い紙に描いているような印象を受けるのです。

    さらさらと文章は流れていくのですが、書かれている内容は難しい。天という言葉が出てきます。天とは何かとは定義もしませんし、説明もしていません。天という言葉についてどういう思索をめぐらしたかという、思考の過程が垣間見られるだけです。そこに現れている文章は一閃の輝きを持っていて、読者の心を掴み、読者自身による思索へと誘います。著者の文章には定義も説明も無いのですから、読者は自分で考えるしかないのです。しかも、著者の思索は、著者の器の大きさを現すがごとく、あちらこちらへと大きく移り行きます。

    我々現代に生きる者は、天というと、世界のことだとか、宇宙だとか、そんな事物的なものを考えます。しかし、古来から天はそんな浅薄なことを現すために使われてきたのではないそうです。我々はひどく無頓着な意識でもって生きていることになります。

    天という言葉は、人生の意味について問う者が、人々の内的な生活に横たわっている何か言い表せない微妙な心情を表現したものであると、著者は言います。この言葉ほどに、うまく表現できた言葉が他にはないのです。それは何を表しているのか、それは定義できなくて、うまく言い表せないものなのです。だから各人が自身で考え捕まえるしかないのです。

    「天という言葉が象徴的だったという意味は人生の意味を問おうとした実に沢山な人々の、微妙な言い難い心情に、この言葉は、充分に応じてくれたし、その点で、これ以上鋭敏な豊富な表現力を持った言葉は考えられないと誰もが認めていた、という事なのであり、従って、この言葉は、自覚の問題が、彼等の学問あり教養なりの中心部に生きていたことを証言していると、そういう意味だ。」

    表面的に言葉を使い、言葉を便利な道具としてしか認識せず、言葉を弄していないか。言葉の意味、人生の意味を感じる鋭敏さを失い、鈍重な精神で生きてはいないか。人生の意味について自問する者は、言葉についても鋭敏な精神を持っているのでしょう。
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    投稿日:2014.09.07

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  • Στέφανος

    Στέφανος

    考えるヒント(忠臣蔵;学問;徂徠;弁名;考えるという事;ヒューマニズム;還暦;天という言葉;哲学;天命を知るとは;歴史)
    常識について

    著者:小林秀雄(1902-1983、千代田区、文芸評論家)
    説:江藤淳(1932-1999、新宿区、文芸評論家)続きを読む

    投稿日:2019.06.14

  • むらけん

    むらけん

    この本は難しいです。
    徂徠などの江戸の儒者や孔子などの思想を著者の視点で解説した内容であるが、思考の後をたどることも難しいと感じた。
    著者が書く題材について、一定以上の知識がないと厳しいと思う。

    投稿日:2012.01.20

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