なぜ、クリエイティブな人はメンタルが強いのか?
板生研一(著)
/クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
作品情報
昨今、メンタルに問題を抱える社会人は少なくありません。しかし著者は、「小さなクリエイティビティ(リトルC)」を発揮できれば、メンタル不調にならないと主張します。本書では、リトルCを発揮するにはどうしたら良いか、その前提となる「メンタル・リソース」をどう整えれば良いか、さらに「仕事のやりがい」を高めるためにはどうしたら良いかなどを、学術的エビデンスや私自身の実践経験、そして著者の会社が10年以上に渡って多くの人々の自律神経などの生体情報をウェアラブルセンサで測定してきた経験をもとにまとめます。
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平均 4.0 (4件のレビュー)
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今この瞬間を味わうこと。この時は二度と来ない芳醇な時間を味わうことがコツだ
フランスの哲学者アランの言葉
悲観主義は感情であり、楽観主義は意志である。
週1回以上声を出して笑笑それが大事
笑顔…には人をポジティブにさせる力がある。
だから作り笑顔でもその力が精神に作用するのだ。
だから意志の力で笑顔作り前向きな環境を自分で作る
やはり睡眠その力の源泉である。良質な睡眠は楽観主義に力をくれるようである。
物の見方ひとつでかわるのであれば口角を上げてニコニコする努力をした方が楽しくできるような気がする。
忘れてはいけないことがあった、自分の姿勢を正しく保つこと、これも前向きな気持ちになる力。続きを読む投稿日:2024.01.22
なぜ、クリエイティブな人はメンタルが強いのか?
序章 小さなクリエイティビティがメンタルの鍵になる
スウェーデンのカロリンスカ研究所のシモン・キャガ博士らは、117万人のスウェーデン人の職業データ…と精神疾患の罹患に関するデータを分析して、クリエイティブな矚業についている人金の術家や科学者など) が精神疾患を患っている割合を調査しました。
その結果、クリエイティブな職業の人は、双極性障害(そう状態とうつ状態とを反復する精神疾患) の罹患率は高かったものの、その他の精神疾患( 統合失調症、単極性うつ病、不安障害など) の罹患率は特別高くはありませんでした。ただし、クリエイティブな職業の中でも作家だけは、統合失調症、双極性障害、単極性うつ病、不安障害などの罹患率が高く、一般の人と比較すると自殺率が約2倍であることがわかりました。
アメリカの心理学者ジェームス・カフマン肆士が提唱した「4C理論」では、クリエイティビティを次の4 タイプに分類しています。
・ビッグC:天才が持つ優れた創造性で、社会を変える革新的な創造性を指しますが、誰もが発揮できるわけではありません。
・プロC:専門家が持つ創造性で、シェフ、 デザイナ—、伝統工芸の職人など特定の分野で一芸を持つプロが修行の過程で発揮する創造性です。
長い年月をかけてうまく行けばビッグCにつながります。
・リトルC: 日常的な創造性ですが、他者への貢献がある、つまり、 誰かの役に立っている創造性を指し、 その気になれば誰もが発揮できるものです。
・ミニC:学習プロセスの一部である個人内の創造性を指し、子どもが勉強中に発見したアイデアなどが含まれます。個人の中で起こるので、外からは認識できない場合もあります。
日々の小さいクリエイティブな行動(リトルC)は、私たちのウェルビ—イングを高めるのに効果的であることがわかってきました。ただし、クリエイティブな発想だけでは、ウェルビーイングを高める効果は弱く、行動に移すことが大事だと明らかになりました。
オランダのアムステルダム大学の研究者らは、過去25年間のクリエイティビティと気分に関する論文をレビューし、その結果、研究によってばらつきはあるものの、総じて次のようなことがわかりました。
・ポジティブな気分はクリエイティビティを産み出しやすいが、活性度が重要である
・ポジティブで活性度の高い、 興奮・や熱中の状態がクリエイティビティを生み出すのには最適である
・ポジティブだが活性度の低いリラックス状態では、 クリエイティビティはあまり高まらない
・ネガティブな気分でも活性度が高ければ、 テーマによってはクリエイティビティを生み出しやすい
本書の内容は、以下の体系図がベ—スになっており、私はこの体系を「クリエイティブ・メンタルマネジメント法」と命名しています。
この体系図について少し言葉で説明すると、「小さなクリエイティビティ( リトルC) 」が鍵となって、「仕事のやりがい」、そして最終的には個人の「ウェルビーイング(幸福) 」につながることを示しています。このリトルCを発揮できるようにするための土台になるのが、「メンタル- リソI ス」です。
メンタル不調を来しやすい人は、もともとの気質が繊細であるケースが多いのですが、実は繊細な人ほど観察力に優れ、他人が気づかないポイントにもよく気付くため、リトルCを発揮するのが得意な傾向があります。
つまり、メンタル不調になりやすい気質の人ほど心がけ次第で「クリエイティブな人」になることができ、 結果としてメンタル不調を予防できる可能性が高いのです。
1章 ポジティブ感情編
人は進化の過程で、様々な外敵から身を守るために、ネガティブなイベントをいち早く察知し、それを未然に回避するように脳が発達したと考えられています。これを「ネガティビティ・バイアス」といいます。そうであれば、私たちがネガティブ思考になってしまうのは、やむを得ないともいえますね。
ポジティブ感情には、クリエイティビティを高めることにつながる様々な効果があることが研究で明らかになっています。その1 つが、注意の範囲を広げ、思考や行動の選択肢を増やしてくれる効果です。
ネガティブな出来事が起きて、交感神経が興奮し、心血管系の反応(心拍数、血圧) が高まっても、ポジティブな感情になると素早く元通りになる可能性が、科学的に示されたのです。これをフレドリクソン悟士は「元通り効果」と呼んでいます。
ネガティブ感情に襲われたときは、この「元通り効果」を意識して、自分がボジティブになれる動画(例えば、動物の赤ちゃんの動画や、お笑い動画など) を見て、交感神経の興奮を短時間で元に戻すことを心がけてみましょう。
先述の通り、私たちはネガティビティ・バイアスにより、放っておくとネガティブ思考になりやすいわけですが、これは日常の行動の中で、ポジティブな感情が生まれやすい習慣をつくることで変えていけます。
第一歩として、まずは「味わう」ことの大切さです。
「味わう」という概念は、アメリカの社会心理学者フレッド・ブライアント博士によって提唱されたもので、学術的には、ポジティブな出来事に対する自分の感惜をしっかり意識し、それに対して心を込めて関与することとされます。つまり、ポジティブな出来事をしっかりと嚙みしめるのです。それにより、ウェルビーイング(幸福感) が高まるという研究結果が多数あります。
「心ここにあらず」の状態です。その状態で、目の前の課題や出来事から注意が逸れて、無関係な思考を行う現象を「マインドワンダリング」(心が彷徨っている状態) といいます。私たちは思っている以上に、普段、このマインドワンダリングの状態にあるようです。
ブライアント博士によると、「味わう」には主に3 つのタイプがあります。
1つ目は、未来に期待することです。近い将来に予定している楽しいことに対して、ポジティブな出来事が起こると期待することです(例えば、来週見にいく映画を楽しみにする) 。
2つ目は、現在に浸ることです。現在のポジティブな体験に浸り、それをじっくり味わうことです(例えば、顧客からの感謝の言葉や商品・サービスに対する髙・評価を嚙みしめる)。そうすることで、ポジティブな体験が強い記憶として刻まれます。
3つ目は、過去を思い出すことです。過去のポジティブな体験の記憶を呼び起こして、再びポジティブな感情を味わうことです(例えば、先週上司から褒められたことを思い出す) 。
楽しいことを考えるマインドワンダリングであっても、今この瞬間に集中しているときの幸福度には敵わないことが明らかになっていますので、現在に浸ることが最も大事といえるかもしれません。現在のポジティブな体験に浸り、じっくり「味わう」ということですね。
「マインドフルネス" イ1 ティング食べる瞑想) があります。
例えば、レーズンを対象にした実験が有名ですが(レーズンは人の好みが中立のため実験に適している) 、食べる前にレ—ズンの色や形を眺め、次にその香りをゆっくり堪能してから、口の中にレ—ズンを入れ、 レ—ズンと触れた舌や粘膜の感触を感じる、といった具合です。
座っているときや歩いているときに、 背筋を伸ばして正しい姿勢を取ることで、ネガティブな感情になることを防げることが示唆されました。
これは自律神経の働きからも説明できます。自律神経は脳の視床下部から出された命令に従って働きますが、背骨には交感神経、首と骨盤には副交感神経がありますので、悪い姿勢でそれらが圧迫され続けると、自律神経の働きが悪くなり、呼吸や体温、ホルモン調節、内臓機能に影響が出てくるため、感情にも悪影響が生じるのです。
ポジティブな感情を維持するには、腕を大きく振ることを意識しながら速めに歩くように心がけましよう。
さらに、歩いているときに持つ荷物の重さも感情に影響することが研究からわかっています。
私たちは、身体が重いと感じると心も重く感じてしまい、目の前の坂が実際よりも険しく感じられたり、あるいは目標地までの距離が実際よりも遠く感じられたりするのです。
ストレスを感じる場面に直面したとき、「このストレスは自分を強くしてくれるものなんだ」と自分に言い聞かせてみましょう。初めのうちは難しく感じるでしょうが、少しずつ思考の癖を付けていくことで徐々に変化が生まれます。
「社会的孤立」とは、友人や親族、近隣の住人など、身近な人との接触頻度が少ない状態を指します。一人暮らしをしていても、友人や知人、親族、ご近所さんとの付き合いが盛んな人は、社会的に孤立しているとはいえません。
「孤独」とは、寂しさや心細さといった情緒的な感情を抱いている状態を指します。したがって、仮に社会的に「孤立」していても、ネガティブな感情を抱いていない人は「孤独」には該当しません。逆に、他人とよく接していても、人間関係に満足しておらず、寂しさを抱いているような人は、「社会的孤立」には該当しませんが「孤独」に該当します。
「不安」を「落ち着き」に変えるには、図の横軸の「感情価」を「ネガティブ」から「ポジティブ」に変えるだけでなく、図の縦軸の「覚醒水準」も「高い」から「低い」に変えないといけません。それに対して、「不安」を「ワクワク」に変えるには「覚醒水準」を変える必要はなく、「感情面」のみ変えれば良いので、そのほうがハードルが低いのです。
一般的に プレセンの前には、「落ち着け」と念じる人が多いように思いますが、これからは「ワクワクしてきたぞ」と念じるようにしましょう。私もよく試しますが、この方法は非常に効果的だと感じています。
第1章まとめ
・クリエイティブ・メンタルマネジメント法の土台となるメンタル・リソースを充実させるために、 まずは「ポジティブ感情」を増やす必要がある。
・「ポジティブ感情」には、 視野を広げ、選択肢を増やす効果や身体の回復を早める効果があり、ストレスの緩衝材の役割も果たす。
・「ポジティブ感情」が生まれやすい習慣をつくるために、注意散漫にならず、 今この瞬間を「味わう」ことが大事である。さらに、普段の姿勢や歩行スピードを意識したり、ストレスに対するマインドセットを変えたりすることも重要である。
・「ポジティブ感情」を増やすために、感情を発散する機会を持ち、声に出して笑うことが大事であるが、つくり笑いや「かわいい写真」を見て微笑むことも効果的である。
・不安をコントロールするために、孤独や座りすぎを避け、不安を書き出したり、解釈を変えたりすることが有効である。また、マインドフルネス瞑想を取り入れてみると効果的である。
2章 活性度編
呼吸注といっても世の中には様々な呼吸法がありますが、ここでおすすめするのは、「心拍変動バイオフィードバツク呼吸法」というやや小難しい名前の呼吸法です。
しかし、やり方は至ってシンプルで、「息を吐く」と「息を吸う」の1サイクルを10秒で行う(つまり、1分間に6サイクル) だけです。「息を吐く」方を長くしたほうが良いので、「7秒吐いて、3秒吸う」がおすすめですが、個人差がありますので、7秒吐くのが苦しいと思う人は、「5秒吐いて、5秒吸う」から始めても良いです。
バイオフィードバックがなくても、スマホのタイマーなどで「吐く」と「吸う」の1サイクルが10秒になるように、時間を計測しながら呼吸するだけでも効果が得られます。
時間があるときは、木々に囲まれた公園など少しでも自然の多い場所でウォーキングをして自律神経の活動量を増やし、活性度を高めるようにしましょう。
有酸素運動を続けることで、 年齢にかかわらず、 自律神経のバランスを保てる可能性が示唆されました。私の経験上、クリエイティブな人は、有駿素運動を習慣的に実施している人が多いと感じます。
私たちの注意力や集中力は、体力と同様、限りがあることを示しているのが、注意資源という目に見えない概念です。プレゼン資料の作成に振り向けていた注意や、パソコンの資料を探していたときの注意、つまり、1 つの方向にだけ向ける注意のことを、方向性注意(ディレクテッド・アテンション)といいます。
リエイティビティを重視する会社ほど、オフィス環境を快適にすることに熱心です。特に、人は自然とつながっていたいという本能的欲求を持っていることを説明する「バイオフィリア」という概念を取り入れた、バイオフィリツクデザイン(建物内の環境で自然との触れ合いを実現するデザイン) を採用するオフィスが増えており、アマゾンやグーグルのオフィスはその代表例です。
近年はハイレゾ音楽を聴くためのサービスやヘッドフォンも充実してきていて、自然界に近い音を日常で体感できます。ハイレゾ音楽によって自律神経を活性化し、注意資源を回復する時間をつくってみましょう。
前夜きちんと睡眠をとっていても、午後の早い時間帯に眠気やだるさに襲われ、仕事のパフォーマンスが低下する現象を「ポストランチ・ディツプ」あるいは「アフターヌーン・ディップ」といい、この時間帯には、作業ミスや居眠りによる事故などが発生しやすいことがわかっています。
クリエイティビティの高い会社は、このパワーナップを積極的に社員に推奨し、 ポストランチ・ディッブを回選して、活性度を高め、クリエイティブな仕事ができるように後押ししています。
ピクサーには、このような理念を支える様々な制度がありますが、その中でも「プレイントラスト」と呼ばれる、制作中の映画に関する社内レビュ—会議は、とても優れた仕組みになっています。
その2 時間ほどの会議では、制作チームが制作中の映画を参加者(レビュアー) にお披露目するのですが、参加者からは率直な意見やアドバイスがたくさん出てきます。ただし、参加者の意見やアドバイスは「誰かを傷付けるようなものになってはならない」という明確なルールがあります。
さらに、制作チームはそこで出た意見やアドバイスを参考にしつつも、それらを聞き入れて、制作中の映画を修正するか否かは、完全に制作チームの自由意志に委ねられているのです。つまり、意見やアドバイスはありがたく頂戴しつつも、無視してしまっても何ら問題はないのです。
「エンパワーメント・リーダーシップ」についてもう少し説明すると、これはチームメンバーがビジョンや戦略に基づいた意思決定を主体的に下せるように、権限委讓を行っていくタイプのリーダーシップで、具体的には、
①メンバーに仕事の意義を理解させる、
②メンバーに意思決定への参加を促す、
③メンバーのパフォ— マンスへの自信を示す(例えば、「君ならできる! 」と伝える) 、
④管理せずに自律性を与える、といった内容になります。
第2章まとめ
・クリエイティブ・メンタルマネジメント法の土台となるメンタル・リソ—スを充実させるために、「活性度」を高めることも大事である。
・自律神経の状態を知り、 自律神経の活動量が最も低下する「木曜日」を、呼吸法で乗り切ることが大事である。また、 自然環境の中でのウォ—キングや有酸素運動によって副交感神経を活性化させることが肝要である。
・アテンション・エコノミ—の時代、 マルチタスクによる注意資源の消耗を避け、自然環境に触れたり、 自然画像や「ハイレゾ音楽」をうまく活用したりすることで、注意資源を回復することが大事である。
・活性度を高める習慣をつくるために、 サウナやシャワ—を活用すること、音楽に触れること、 パワ—ナップや「うまくいったことエクササイズ」を活用することが効果的である。
・活性度を高める組織とは、心理的安全性が確保され、公正なリーダーがチームメンバ—に積極的に権限を委譲する組織である。
3章 小さなクリエイティビティの実践
不安や恐怖などに関連が強いセロトニンという神経伝達物質の伝逹に関わる遺伝子を「セロトニントランスポーター遺伝子」といい、これにはS型とL型がありますが、S型がある人は、L型がある人に比べて不安傾向が強いようです。
日本人は、S型を有している割合が、98.3%にもなるのです。アメリカ人の場合は、S型を保有している人は全体の約3分の2 になりますが、LL型が約3分の一を占めているのは、日本人の状況とは大きく異なります。
ジョブ・クラフティングとは、 働く人が自ら仕事に新たな意味を見出したり、仕事内容の範囲を変えたりすることを意味します。つまり、「やりがいを持って働けるように、働き方を工夫する手法」ともいえます。また、ジョブ・クラフティングは、仕事において「リトルC」を産み出す方法ともいえます。
私たちは退屈を感じると心が彷徨いはじめ、 いわゆる「マインドワンダリング」な状態になります。ハーバード大学の研究によると、アメリカ人は日中の時間の46.7%がマインドワンダリングの状態であることが明らかになっています。
反芻思考になりがちな人は自分の内面を見つめ、様々なことに思考を巡らせる癖がついているため、たくさんのアイデアを発想しやすいのですね。アイデアをたくさん出せると、その中には、オリジナリティの高いユニークなアイデアが含まれる可能性も高まります。
反芻思考が強い人は、頭の中であれこれ考えすぎてしまい、脳のエネルギーをたくさん消費してしまうため、疲労感につながり、ウェルビーイング(幸福) を低下させてしまいますが、ネガティブ思考にならないで、クリエイティブな発想のためにうまくその特性を活用することができれば、プラスの効果を得ることができます。
社会心理学の理論によると、人間は心理的距離が遠くなると考え方が抽象的になり、それによって、目の前のタスクの難しさが軽減されるのです。 このように後傾姿勢をとることで、タスクから身体的な距離をおくという経験(身体的な感覚経験) と、抽象的な概念( 心理的距離) を結び付けて認識してしまう現象を、身体化認知といいます。私たちは、心理的距離が近いほど具体的に考え、遠いほど抽象的に考えることがわかっています。
仕事中にリトルCを生み出したいときは、後傾姿勢をとって、タスクとの身体的距離をとったり、少し先(1年先) のことを考えたり(時間的矩離) 、遠い海外での出来事を考えたり(空間的距離) すると効果的です。これなら、いつでも簡便に実行可能ですね。
自分の裁量で意思決定できる自律性の高い人は、クリエイティビティを発押し、自己表現ができていることが多いのですが、自律性は健康への影響が限定的である一方、クリエイティビティが高いと健康に良い影響があることが示唆されたのです。
第3章まとめ
・充実したメンタル・リソ—スを土台にすれば、 誰でも小さなクリエイティビティ(リトルC)を実践することができる。
・日本人の仕事に対する熱意やクリエイティビティに対する自信は諸外国の人々と比べて低い。
・リトルCを生み出すために 、「ジョブ・クラフティング」を実践し、 今の仕事にひと工夫を加えることが大事である。
・ルーチンワ—クも実はクリエイティビティを高めるには役に立つので、 仕事の順番を工夫することが大事である。
・ToDoリストは定型業務をこなすには良いがクリエイティビティにはマイナスになる可能性もあるので、「やらないことリスト」をうまく活用する。
・デスクワークで行き詰まったら適度な距離を取り、 思考を抽象化させることで、注意範囲を広げ、 クリエイティビティを高められる。
・適度な環境音や快適な服装で仕事をすることはクリエイティビティを高めるのに効果的である。また、仕事でクリエイティビティを発揮することは健康にも良い。
4章 仕事のやりがいとクリエイティビティ
チクセントミハイ博士は、フローが起きやすい主な条件として次の7つを挙げています。
1 目標が明確である(何をすべきか理解している)
2 どれくらいうまくいっているかを知る(ただちにフィードバツクが得られる)
3 挑戦と能力の釣り合いを保つ(活動がやさしすぎず、 難しすぎない)
4 注意の散漫を避ける( 活動に深く集中し探求する機会を持つ)
5 自己、 時間、周囲の状況を忘れる(現実から離れ、我を忘れる)
6 活動に本質的な価値がある(活動が苦にならない)
7 行為と意識が融合する(自分はもっと大きな何かの一部であると感じる)
脳はある情報を受け取ると、強いニューロンネットワークがあるほうのパターンで考える傾向があるため、人間の思考は1つに偏る傾向があるのです。
別の言い方をすると、過去の経験に基づいて強い結合のニュー ロンの領域があると、新しく与えられた(情報の) 刺激も既存の強い結合のパターンを辿ることになります。また、同一でなくても、類似の刺激を受けると、同じパターンの活性化領域をつくり出すことになるのです。
つまり、新しい情報を脳は容易に既存の情報と同じように処理してしまうため、私たちは既成概念に囚われてしまい、新しいアイデアを生み出すのが困難になるのです。このため、特定の分野に対してあまり知識がない人のほうが、かえってクリエイティブなアイデアを生み出せることがあります。なぜなら、知識のない人は脳のニューロンネットワークがまだパターン化されていないので、ゼロベースで考えられるからです。
アメリカの心理学者ロバート・エプスタイン博士は、以下の4つの行動特性(研究者は創造性コンピテンシーと呼んでいます) を実践することで、誰でもクリエイティビティを発揮できるようになることを実証しています。
・保存:新しいアイデアをすぐに保存 (メモ) できるようにする
・挑戦-:難易度の少し高い仕事に取り組み、ストレスや恐怖をコントロールしながら、高い目標に挑戦する
・拡張:専門分野に限定せず、様々な知識や経験を積む
・環境:環境を定期的に変えることによって、刺激を求める
クリエイティブなアイデアが生まれる過程については、長年にわたって研究が行われていますが、社会心理学者のグラハム・ワラス博士が提唱した「創造性が生まれる4段階説」が有名です。この説によると、創造性が生まれる4 段階とは、下図に示すように、①準備期、②あたため期、③ひらめき期、④検証期となります。
「準備期」にたくさん考え、いろいろなアイデアを保存しておいた後、煮詰まった頭をー度リフレッシュさせ、問題から意図的に距離をおく「あたため期」を経て、「ひらめき期」を迎えるのです。
集中力を要するのは、1つの正解を見つけるようなタスクである場合が多く、このときに必要なのは収束的思考です。一方、頭を柔らかくして発想を広げ、アイデアをたくさん出すようなときに必要なのは拡散的思考です。
クリエイティブな職業の人の内面の特徴の1つとして、情報の解釈に際して、判断を急がず、状況を見て、その意味や意義を自由に解釈する傾向が強く見られました。つまり、結論を急がず、時間をかけて本質的な意味を考えるため、混沌とした状況も苦にならないのです。この研究の対象は建築家でしたが、これはクリエイティブな起業家にも大いに当てはまります。
起業家は日々ビジネス判断を下す必要性に迫られるため 、本来、この「判断を急がない」というのは、あまりなじまない状況です。しかし、自分のビジネスの根源的価値、あるいは、他社が真似できない核となる能力(コアコンピタンス) など、本当に重要な事項については、「判断を急がない」ことが価値を生むと考えられます。
常にストレスに晒される起業家は、ありのままを受け入れる「自己受容」の習供を身に付けることで、日々のビジネス判断を離れ、「判断を急がない」状態をつくることができ、クリエイティビティの向上とストレスの軽減という一石二烏を達成できるのです。この「自己受容」の訓練に最適なのは、今この瞬間に次々に生じている感覚や感情や思考などに対して、ありのままに気づく洞察暝想です。
クリエイティブな起業家は、マルチタスクを同時並行的にこなさなければならない状況に日々直面しています。そのため、タスクの切り替えが頻繁に起こるので、このワーキングメモリ(作業記憶) が自然に鍛えられます。それによって、タスク切り替えによる無駄を極力排除して、クリエイティブに考える時間を確保しています。
第4章まとめ
・リトルCを日々実践することで、仕事のやりがいを高める効果もある。
・時間感覚を失うほど仕事に没入し、「フロ—」を体験することが仕事のやりがいを高めるための鍵である。そのためには、 自分のスキルを磨き、 少し難易度の高いタスクに挑戦する姿勢が大事である。
・クリエイティビティを鍛えるために、4つの行動特性(保存、 挑戦、拡張、環境) を意識して行動することが大事である。例えば「環境」に関しては、カフェや「駅ナカオフィス」、そしてワーケーションなど、仕事の場所を意識的に変えることや「慣れ」を回避することで、集中力やクり工イティビティを高めることができる。
・起業家は不確実な環境の下で常にリトルを実践する必要性に迫られているが、「判断を急がないこと」「ワーキングメモリを鍛えること」「良質な睡眠をとること」を心得ており、これらを実践することで自身のクリエイティビティの質を高めている。
5章 ウェルビーイングになる
アマビール博士は、こう表現しています。「クリエイティビティは、 銃口にさらされると死んでしまう」
重要性や意義がわからない状態で、時間のプレッシャーを感じながら次から次へと、まるで「トレッドミル」の上を走っているかのように仕事をこなしているようなときは、高いクリエイティビティは期待できません。
どんなに時間に追われて慌ただしくても、無意識の時間をつくることで、クリエイティビティを喪失しないようにしたいものです。
「心理的ディタッチメント( 離脱) 」とは、仕事を終えたら、物理的に仕事(職場) から離れるだけでなく、心理的にも仕事から離れることが重要であるという考えであり、日本では勤務終了後から次の勤務開始まで一定時間のインタ— バルを設けることが努力義務になっています。つまり、仕事を離れたら、仕事のことは考えないことが大事です。
「ユーダイモニック」とは、古代ギリシアの哲学者アリストテレスが提唱した概念で、「徳のある人生を生き、価値ある行為をすることによって得られる真の幸福」といった意味があります。
「ヘドニック・エンターテインメント」は、仕事のストレスや疲労からの回復をもたらし、仕事から完全に離れること(「心理的ディタッチメント」) を可能にしてくれるので、活力が高まるという関係性が示されました。一方、「ユーダイモニック・エンターテインメント」は、困難な状況にも対処できる自信やコントロール感をもたらし、人生の意味を考えさせてくれるので、やはり活力が高まるという関係性が示されました。
中国の春秋戦国時代の思想家、老子の名言の1つに、「足るを知る者は富む」という侦莱がありますが、「足るを知る」ことはストレスを低減し、人生を幸福に導くことを科学的に示した研究があります。
アメリカの心理学者バリー・シュワルツ博士は、坡良のものを求める欲求の碰さによってて人のタイプを分類しており、常に最良の選択を追求する人をマキシマイザー、自分の中の基準が満たされた時点で、選択肢の比較をやめる人をサティスファイサーと呼んでいます。
そして、選択肢が多くて迷う場面では、最良の選択肢を求めるマキシマイザー(迫求者) よりも、満足できるものを求めるサティスファイサー(満足者) のほうが、より満足度の高い決定ができることを実験で明らかにしています。
サティスファイサー(満足者) は、自分の中の基準が満たされた時点で、選択肢の比較をやめるため、選択したものに対する満足度が高く、後伽が小さいことがわかりました。シュワルツ博士は、「究極を追い求めるのはやめて、大切なニーズが満たされているなら、その選択肢を良しとしなさい」と述べています。まさに、「足るを知る」ことが余計なストレスを低減させ、ウェルビーイングにつながることを示した研究といえます。
第5章まとめ
・クリエイティブ・メンタルマネジメント法を実践することで、ウェルビーイング(幸福感) を実現できる。
・日本人は諸外国と比べて慌ただしい国民であるが、タイムプレツシャ—を受けるとクリエイティビティが阻害されてしまうので、意識して「無意識の時問」をつくることが大事である。
・日常から脱却するために、エンターテインメントの力を活用することや、自然環境にどっぷり浸かって自分を取り戻すことが重要である。
・感謝の気持ちを持つことは、クリエイティビティにとって重要な忍耐力を養うのに有効で、感謝の気持ちは心拍の波形にも表れ、 心身に影響を与える。
・「マキシマイザー」をずっと追求するのではなく、「サティスファイサー」になること、 つまり、「足るを知る」ことがウェルビ—イングの実現にはとても大事である。クリエイティブ・メンタルマネジメント法を実践しながら、 その境界線を自ら見つけてほしい。
続きを読む投稿日:2023.10.12
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