無垢なる花たちのためのユートピア
川野芽生(著)
/東京創元社
作品情報
舷(ふなばた)から墜ちていった少年の名は、白菫(しろすみれ)といった。船は純真無垢な少年たちと智慧ある導師を乗せ、楽園を目指して天空の旅をしていた。かれの墜落死は不運な事故とされた。この希望に溢れた船上に、みずから身を投げる理由などあるはずがなかったから。けれど、親友の矢車菊(やぐるまぎく)には気がかりなことがあった……。幻想文学の新鋭による初の小説集。/【目次】無垢なる花たちのためのユートピア/白昼夢通信/人形街/最果ての実り/いつか明ける夜を/卒業の終わり/解説=石井千湖
もっとみる
商品情報
- シリーズ
- 無垢なる花たちのためのユートピア
- 著者
- 川野芽生
- 出版社
- 東京創元社
- 書籍発売日
- 2022.06.24
- Reader Store発売日
- 2022.06.20
- ファイルサイズ
- 3.2MB
- ページ数
- 336ページ
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.1 (19件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
【連想】
レビューの続きを読む
誰それからの影響がある(はずだ)とか、知らぬ者に言われるのは、作者本人にとって傍迷惑なものだろうが、以下、ただの素人が連想したものの覚書。
凡人には、既知の似た作品をとっかかりにしながら感想を深めていくというやり方しかない場合もあるのです。とエクスキューズ。
・
稲垣足穂。
長野まゆみの作品群。
皆川博子の少女短編。
山尾悠子のいくつか(「傳説」とか)。
篠田節子「仔羊」。
岩井志麻子「女學校」。
・
カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」と映画版。
ルシール・アザリロヴィック「エコール」「エヴォリューション」。
・
萩尾望都「トーマの心臓」。
鳩山郁子の作品群。
PEACH-PIT「ローゼンメイデン」。
市川春子「宝石の国」。
石黒正数「Present for me」「天国大魔境」。
施川ユウキ「ヨルとネル」「銀河の死なない子供たちへ」。
ゲームだが、「FF9」のガーデン。
【一冊通しての感想】
川野芽生という作家を始めて見聞きしたのは、山尾悠子界隈。2018年とか2019年とか。
すげえ才気走った人がいるんだなと感じていたら、あれよあれよという間に活動の幅も広がり作品数も増え、歌集に続き小説集へと至ったわけだが、
この人は信頼できると思ったのは「夜想#山尾悠子」の「ラピスラズリ」評。素晴らしかった。
で、音声メディアや雑誌やSNSやで期待を高めた上での、本作。
素晴らしかった。
このペースで行けばきっと、傍流発でメインストリームに躍り出る、凄まじい作家になると思うし、野心に満ちている。楽しみ。
そして内容的には、やはり作者本人には迷惑な表現になるだろうと知りつつ敢えて書いてしまうが、皆川博子や山尾悠子や、さらに時空を遡ればヴァージニア・ウルフやルイーザ・メイ・オルコットやエミリー・ブロンテらが直面しては爪痕を残しながらも押しとどめられてきた穴ぼこから、強烈なジャンプを見せるはず、というか本作に収められた短編はすべてそう……回りくどい書き方をしたが、簡潔にいえばフェミニズム。
でもそれだけとは言い切れないのでは、とも思う。
ただその人がいるだけで心の平穏があるべきなのに、そうではない外界が、ある。
女性ならではとか言いたくないが、そういう歴史があり、そういう現状があるからこそ、書いている女性作家も多いだろう。
しかし作者がアセクシャルに言及している件があり、単に女対男という構図ではない。
もはや女対男という構図に回収しきれない戦いの場が、この世代の作者にはあるのだ。
作者がロリィタ短歌に関わりながらも、単純な少女趣味に回収されないよう気を配っているあたり、大変クレバー。
と、つい上から目線で書いてしまったが、こうやって慎重に生きなければならない世界を作ったのは誰よ、という告発が、作中に盛り込まれている。
上にも書いた通りだが、戦略的にならなければならない状況を作り上げてきたのは誰よ、と。
私も自覚があるが、いわゆる「マンスプおじさん」が跋扈する出版業界(編集長とか!)で、頑張らなければいけないサバイバル作家生活なのだ。
でも作者は負けないと思う。
かわしたり、歯向かったり、しながら作品を重ねてくれると思う。
【一作ずつの感想】
■無垢なる花たちのためのユートピア
まずは花尽くし。
確かPodcastフクロウラジオで米地さんんだったと記憶しているが、個人が感じる屈託や鬱屈を言語化したものよりも宮沢賢治の鉱物を図鑑式に列挙する姿勢のほうが読んでいて嬉しいと言っていた。
まったく同意。
作中人物のネーミングに法則性を持たせるのは「ドラゴンボール」でも同じだが、本作の花尽くしには作者の美意識が透徹している。
連想したのは「宝石の国」。鳩山郁子。
冬薔薇が好きだ。
■白昼夢通信
この作品、ラジオドラマで聞きたい。
朗読は中尾幸世で。
■人形街
少女に着目するか、初老の司祭にフォーカスを当てるか、は読者の年齢や性別や特性によるだろう。
もちろんどちらの視点にも寄り添える読者になるのが理想だろうけれど。
■最果ての実り
SF式仕立てでここまで美しい描写ができるとは。
■いつか明ける夜を
正直とらえどころのない作品だと感じた。
山尾悠子「傳説」も、地蟲というからには宮崎駿「風の谷のナウシカ」も思い出したが、かなり視覚に拠った描写だと思った。
■卒業の終わり
この短篇集、最初と最後が最も力作というか、ある意味で対になっている「勝負作」だと思う。
外界からの隔絶という感覚は、10年以上学校に通った多くの日本人に共通する感覚だし、その壁を出る前と出た後のギャップの感覚もまた、共感を呼ぶはず。
うっかり百合だとか無垢だとか幻視してしまいがちな中年男性としても、感じ入るもの多い。
中年男性すら巻き込む磁場を、20代の女性作家が作ってくれているのだから、なるべく邪魔にならないように読み続けたいと思う。
そんな中に描かれる、メールの文面の、短い重みよ。投稿日:2022.09.09
真っ白な、それでいて少し仄暗いような世界に小さな銀色のホログラムの花びらが散っているような、
読んでいるとそんな感覚に包まれる、とっても惹き込まれる作品集。
とくに表題作と、対になる「卒業の終わり」…が好き。
「最果ての実り」もお気に入りです。
全ての作品を通して、ことばも文章もとにかく美しい。
歌人として活躍されている川野さんの詩的な文章は、最初馴染むまで少し読みづらくも感じたけれど、物語や世界観にぐっと引っ張られて何度も目を通していくうちにすっかり没入していた。
(私はその美しいことばたちの辞書を持っていないので、すっと入ってこない文章もあって少し悔しかった。)
表題作 無垢なる花たちのためのユートピア
歳を取らない少年たちのユートピアは果たして本当に楽園か。
1人の少年の死から徐々に明らかになる真実はあまりにも救いがなく残酷、そしてこの物語、全て語られないところで終わる。
彼は、彼らはどうなってしまったのかと思いを馳せるも、どうにも幸せな結末は思いつけない。
だけれども美しい。宝石の国を読み進めている時の気持ちに近いものを感じるし、宝石の国が好きな人はこの作品も好きだと思う(私がそうなので、という理由でしかないが)
特に冬薔薇には幸せになって欲しいんだけどな……
「卒業の終わり」では、現実離れしたディストピア的世界のなかで、現実で確かに感じたことのある女の子の友達への嫉妬や羨望や執着のような感情がまざまざと描かれる。
そしてそんな絶望的な世界の中、男性たちの人生を支え彩り散っていくためだけに社会に存在させられる女性たちの姿に、そんな一生を教育によって納得させられている姿に、主人公共々怒りを覚えずにはいられない。
希望のあるラストを迎えたことはせめてもの救いだったが、でもこの物語の「私」はもう助からないのでは……
6作すべて、幸せ円満ハッピーエンドなどではなく、なんとも救いがない。
「最果ての実り」なんてもう本当に救いがない。でももうため息が出るほど美しい。
美しく残酷な世界と耽美なことばたちにうっとり。私はとても好きです。
著者のエッセイ、「かわいいピンクの竜になる」も読んでみたいと思う。
続きを読む投稿日:2024.03.26
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。