無垢なる花たちのためのユートピア
川野芽生(著)
/東京創元社
作品情報
舷(ふなばた)から墜ちていった少年の名は、白菫(しろすみれ)といった。船は純真無垢な少年たちと智慧ある導師を乗せ、楽園を目指して天空の旅をしていた。かれの墜落死は不運な事故とされた。この希望に溢れた船上に、みずから身を投げる理由などあるはずがなかったから。けれど、親友の矢車菊(やぐるまぎく)には気がかりなことがあった……。幻想文学の新鋭による初の小説集。/【目次】無垢なる花たちのためのユートピア/白昼夢通信/人形街/最果ての実り/いつか明ける夜を/卒業の終わり/解説=石井千湖
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商品情報
- シリーズ
- 無垢なる花たちのためのユートピア
- 著者
- 川野芽生
- 出版社
- 東京創元社
- 書籍発売日
- 2022.06.24
- Reader Store発売日
- 2022.06.20
- ファイルサイズ
- 3.2MB
- ページ数
- 336ページ
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この作品のレビュー
平均 4.1 (19件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
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本書は第65回現代歌人協会賞を受賞した歌人、川野芽生さんの初の短編小説集です。表題作『無垢なる花たちのためのユートピア』のほか、『白昼夢通信』『人形街』『最果ての実り』『いつか明ける夜を』『卒業の終わり』の6篇が収録されています。いずれも鉱物的な美しさを感じさせる幻想小説で、山尾悠子さんや皆川博子さんに似た系統の作風となっています。
美点を挙げればきりがありませんが、やはり第一に言及すべきは圧倒的な文章力でしょう。殊に私が好きな『いつか明ける夜を』などは、一文一文の文章どころか一節一節の文節が知らざれる叙事詩の一部のようで、トールキンの研究家でもあるという作者の経歴にただただ頷くばかりでした。
第二に独特の世界観です。古今東西の文学を参照しつつ緻密に構築された幻想世界は、失礼ながら30歳そこそこの方が書いたものとはちょっと思われません。年齢不詳の完成度であり、同世代の作家を飛び越して近代文学の系譜にダイレクトに連なる印象を受けました。
とはいえ、古典の枠組みに大人しく収まって満足している作家ではなさそうです。表題作と対になる書き下ろし『卒業の終わり』では、男の人生に彩りを与える存在としてしか女性を認識せず使い捨ててゆく社会に対し、ディストピア小説の形式を借りて「否」を叩きつけています。女性だというだけで才能を摘まれ個性を剥ぎ取られ、性的対象としてしか扱われない悔しさ、悲しみ。満腔の怒りと少女特有のリリシズムが静かに同居する秀作です。カズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』や空木春宵さんの『徒花物語』に似ていますが、出す結論が前者が諦め、後者が復讐であったのに対し、本作では革命の予兆で幕が閉じられているところが新しいと思います。好みを別としてこの本の代表作を選べと言われたら、この作品になるでしょう。
ただ(ここからネタバレ&個人の感想です)、物語として完成しているとはいえ、全員で無菌室に立て籠る以外に革命の手段はないのだろうのか――と考えさせられる結末ではありました。外界に出ないという選択は大きな一歩ですが、全員がそこに留まるとなると早晩別の問題にぶつかりそうです。誰も卒業しなかったら定員はすぐ満員になってしまいますが、そのとき卒業生が産んだ子どもたちはどこに行ったら良いのでしょう。仮に彼らを全員保護できたとして、以後新しい世代が生まれなかったら、どうやって学園を維持してゆけば良いのでしょう。人間そのものがいなくなれば社会問題は解決するーーというのでは悲しすぎます。それほどの虚無を抱えて生きられるほど人間は強くない。物語のその後を想像するに、子どもたちを守るため、かりそめの楽園を後世に繋ぐために、在校生の大半はどこかの時点で卒業を決意することになるのではないでしょうか。治療法の確立と免疫の獲得という、わずかな可能性に賭けながら。
ですが、それは本稿の趣旨から外れるのでこのくらいに。オープンエンドになっていますので、気になる方は是非ご一読のうえ、ご自身でも想像してみて下さい。
ともあれ、文学史のどこに位置づけられることになるのだろうと考えてしまうような作家さんでした。鬼才とはこのような人のことを言うのでしょう。投稿日:2023.08.23
多くの装丁画を手掛ける山田緑氏の表紙があまりにも素敵。
やっぱり綺麗な青色は、目を引く。
表題作、その青にふさわしい無垢な少年たちのユートピアのような世界、と見せかけて…という物語。
先生的立ち位置…の老人たちのおぞましさ、残酷な世界、不確かさでコーティングされた真実に翻弄される主人公…。
結局誰が好きで、誰を守りたくて、誰に心を奪われていたのかなんて、自分にだって分からない。
「白昼夢通信」人形、竜の血、幻想的なヴェールに包まれたまだ見ぬうつくしいひと。それだけでは終わらないのが、川野芽生文学のようだ。
「人形街」うつくしい彼女を、人形にしてしまいたくないがために、傷つけ続ける男の欲望は許されるのか。
”生”を投げ出して物言わぬ人形になりたがる彼女は、幸せなのだろうか。
誰にも分からないし、きっとどれも正解には足りえない。
「最果ての実り」機械の男と、植物の少女の邂逅と、永遠の別離。
世界の終わりに描かれた、誰も覚えていない神話、って感じですごいな…。
「いつか明ける夜を」一番断片的だし、際立って幻想小説してる気がする。
馬と少女なんてオタクはみんな好きでしょ。
「卒業の終わり」表題作が一種BLの様相を呈しているのに対して、こちらはちょいと百合風味。
女子高設定だし。
しかしてその女子高の真実とは…うーんディストピア。
搾取されるために生き長らえさせられるのは、知性を持ってしまったゆえに幸福とは限らなくなってしまった。
思考停止した瞬間に、生きることもできず、死に方を選ぶこともできなくなってしまう。
ただの幻想小説だけではない、若い”現代”を生きる女性の描く物語群だなあと思った。続きを読む投稿日:2024.01.27
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