この作品のレビュー
平均 3.6 (6件のレビュー)
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思想だけでなく文体もベルグソンそのものだった
指名買いする読者はいないんじゃないかと思うくらい平凡なタイトルだが、読むと新たな発見を得られる。
著者は留学先に全集を持参するほど小林ファンの哲学者。
最初に小林独特の説得の手口の解説があり、彼の…思想だけでなく文体までがベルグソンの影響下にあることが解き明かされる。
ただ最後には、なぜ小林ほどの天才が非科学的で狭溢な世界に拘泥したのかわからないと泣きが入る。
しかし各章の冒頭で必ず著者が気に入った小林の著作からの引用をたっぷりと読ませ、全人生の年代記は魅力的なエピソードにあふれ文芸評論家も嫉妬するほど手際がよい。
小林秀雄がベルグソンの哲学書を繰り返し読んでいたのは知っていたが、その当のベルグソンが日本で紹介される際に、訳者がわざわざ「危険な思想家」と注意を促すほどの哲学者だとは知らず、ますますそちらも読みたくなった。
残念なのは、小林がいつ頃どのように原書に触れていったのかわからない点。
それと彼の思想上、若い頃の関西への遁走はもっと詳細な分析がなされてしかるべきだったと思う。
いくつもの小林のエピソードから分かるのは、彼が全人生においても自身の思想の実践者であったことと、敵対者も虜にするほどの憎めない横顔だろう。
授業にも出ず顔を出せば呼び捨てにされ金を貸せとたかられる指導教官や酒場で嫌みを言われカッとなって殴るのだが最後に懇々と説得され泣いてしまう生涯の批判者、これも酒で絡んで片腕を切り落とそうとやってきたのにあまりの安らかな寝顔に改心して帰ってしまう右翼など。
小林秀雄は書いたものは難解で退屈だが、話すとわかりやく面白いのは、文体がまるまるベルグソンのそれと同じで、まず結論ありきでそれを説明するための比喩はたくさんあるが至った理由は詳しくは明かさないためだとわかった。
対して喋るほうでは、明治大学の講義のように、即興のライブで論理を組み立てていくのでその過程がよくわかるのだ。 続きを読む投稿日:2021.10.04
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このレビューはネタバレを含みます
ある婦人が、遠い戦場で夫が戦死した同時刻に、夫の周囲の兵士の顔や塹壕の光景を夢見た。医者は、そのような夢の多くは現実とは無関係だが、偶然現実に対応する夢もあり、その一例だろうと答える。しかし、ベルグ…ソンは、「精神感応と呼んでもいいような、未だはっきりとは知られない力によって、直接見たに違いない。そう仮定してみる方が、よほど自然だし、理にかなっている」と考える。
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そして小林は、「経験科学と言う場合の経験というものは、科学者の経験であって、私達の経験ではない」という観点から、ベルグソンの考え方を擁護する。さらに小林は、ベルグソンと同じように「理智」によって「整理された世界」を拒否し、「世界が果して人間の生活信条になるか」という点だけが「興味をひく」ことを強調する。
《私がこうして話しているのは、極く普通な意味で理性的に話しているのですし、ベルグソンにしても、理性を傾けて説いているのです。けれども、これは科学的理性ではない。僕等の持って生れた理性です。科学は、この持って生れた理性というものに加工をほどこし、科学的方法とする。計量できる能力と、間違いなく働く智慧とは違いましょう。学問の種類は非常に多い。近代科学だけが学問ではない。その狭隘な方法だけでは、どうにもならぬ学問もある》(『信ずることとすること』1975年)。
ここまで書いてきて、どうしても不思議に思っていることがある。
それは、なぜ小林ほど知的に優れていて、感性の豊かな天才的人物が、現実の「科学」が解き明かしてきた「宇宙」や「生命」についての驚異的な発見や理論に興味を持たず、「オカルト」や「疑似科学」をナイーブに受け入れてしまうのか、ということである。
本書執筆に際して、改めて膨大な量の小林の全作品を読んでみたが、大自然や大宇宙に対する畏敬の念のようなものはどこにも感じられず、あるのは許なが許ながすべて、人間と人間の創作物への愛情か、自然といっても「花鳥風月」についての考察ばかりだった。
小林は、1961年4月にガガーリンが有人宇宙飛行を成功させた頃には『忠臣蔵』を書いていたし、1969年7月にアームストロングが月面に着陸した頃には『新宮殿と日本文化』について対談していた。おそらくこれが、興味のないことにはまったく目を向けない小林の「職人気質」なのであろう。
たしかに、文学や芸術もすばらしいが、なぜ小林が人間の「狭隘」な世界だけにしか興味を持たなったのか、私として、心底不思議に思う次第である。
逆に言えば、小林は自分の手の届く世界だけを愛し、その世界について真摯に考え続けたのである。晩年の小林がソクラテスについて語った言葉は、そのまま小林の人生「劇」を表現しようとしているようにも思える。
《どんな主義主張にも捕われず、ひたすら正しく考えようとしているこの人間には、他人の思わくなど気にしている科白は一つもないのだ。彼の表現は、驚くほどの率直と無私とに貫かれ、其処に躍動する一種のリズムが生れ、それが劇全体の運動を領している》(『本居宣長補記』1979年)。続きを読む投稿日:2020.03.08
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