世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか
川口マーン惠美(著者)
/KADOKAWA
作品情報
新型コロナウイルスの先にある経済の形を自動車という「窓」を通して探る一冊。ガソリン車から電気自動車へのシフトが推し進められ、将来的には、自動車がITとつながり、自動車革命が起きることが予想されている。そうなれば、その市場を狙うべくさまざまな新興企業が参入し、これまでの自動車を頂点とした構図はあっさりと崩れさってしまうだろう。今、「新たな市場」を目指して、各国の争いが熾烈化している。電気自動車で国の根幹産業を育てたい中国。米中戦争の手を緩めないアメリカ。電気自動車が遅れ、中国にすり寄るドイツ。この波乱の時代を果たして日本は生き残れるのか?本書では、ドイツ在住であり、世界のエネルギー政策に精通する作家・川口マーン惠美氏が熾烈化する世界「新」経済戦争に迫る。目次第1部 自動車の産業化に欠かせない国家の力 第1章 それは二人の「夢」から始まった 第2章 大衆化に成功したアメリカの戦略 第3章 世界から日本のGDPが羨まれた時代 第4章 ドイツにとって自動車とは自由の象徴 第5章 冷戦の終結は世界経済をどう変えたのか第2部 「電気自動車シフト」の裏側を見抜く 第6章 ディーゼルゲートをめぐるドイツの事情 第7章 「地球温暖化を止める」という理想主義 第8章 電気自動車が世界に広がらない理由 第9章 電気自動車は本当に「地球にやさしい」のか第3部 「新」経済戦争はどの国が制するのか 第10章 ITシフトした大国・アメリカの野望 第11章 激化する米中戦争と変わる世界地図 第12章 ITと自動車が新たな巨大市場を生む 第13章 「新しい生活」は自動車革命から始まる 終章 熾烈な「新」経済戦争を日本は勝ち抜けるか
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この作品のレビュー
平均 4.0 (4件のレビュー)
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未来がガソリン車から電気自動車に置き換わるという単純な話ではないことが、本書を読むとよく理解できる。
これについては、よくよく歴史の流れを紐解いて考えれば理解できるはずなのだ。
しかしながら、我々は生…まれた時からこの車社会の環境で当たり前のように暮らしていたため、大きな変化が訪れることになかなか気付けない。
それは「地球で普通に暮らしていたら、まさかその地球が動いているなんて気が付かない」ということと似ているかもしれない。
当たり前のことに感じるが、やはり物事の事象は「点」だけで捉えてはいけない。
過去からの歴史を「流れ」として見なければ、本質が見えないのである。
この自動車・石油・エネルギーがどういう流れで今のこの状態に至ったのか?
過去を紐解くと、電気自動車の歴史は、思った以上に古いというのも驚きだ。
ポルシェ社は1900年開催のパリ万博に電気自動車を展示したらしい。
世界で初めて時速100kmを達成したのもガソリン車ではなく電気自動車で、それが19世紀だという。
それではなぜ、この約100年間、電気自動車でなく、ガソリン車やディーゼル車が主流となったのか。
もちろん技術的な優位性があるのも事実だが、それだけでは決してない。
様々な政治や利権が絡み合い、この形式に結実したのが100年間という時間軸だったと言える。
自動車が国家を代表する産業であることに全く異論はない。
日本を含めた先進国が自国で自動車を製造し、国内の物流の足となり、国内経済を活性化させていく。
さらにそこで自動車製造の技術的なノウハウを蓄積し、他国へも販売することで外貨を得ていた。
そこにはガソリンという化石燃料を使用することが前提で、石油国とも、石油会社とも足並みを揃えて世界の市場が開拓されていった。
石油はズバリ、エネルギーの源であり、今でも「電気」の生産には欠かせない材料である。
他にも原子力や水力風力太陽光など様々クリーンなエネルギー製造方法はあるが、現時点でもこの化石燃料に一定以上頼らなければ成り立たないというのが、世界の実情なのである。
この複雑に絡み合ったしがらみの中で、地球温暖化が叫ばれ、電気自動車へのシフトを強引に進めようという人たちがいる。
しかし「CO2削減は必須だ」と声高に主張したとしても、現実的には電気自動車を作るのにも走らせるのにも化石燃料で発電していては身も蓋もない。
EUがガソリン・ディーゼル車の新車を2040年にはゼロにするという宣言も、紐解いて見るとどうも辻褄が合わない点が多過ぎる。
そもそも、充電ステーションの設置が目標の2040年までに間に合うのか。
さらに、電気自動車に最も必要なバッテリー製造はEU内では行っておらず、すべて東南アジアからの輸入に頼っているというリスクをどう見積もるのか。
そしてこれもよく指摘されているが、バッテリーの材料となるコバルトやリチウムなどレアメタルの採掘については、産出国が非常に限られており、供給が確実に追い付かないことも指摘されている。
それら課題点がすでに見えている状況にも関わらず、電気自動車への流れを止めようとはなっていない。
EUの中で、ガソリン・ディーゼル車が基幹産業のドイツ政府すらも「ガソリン車を廃止する」と宣言してしまった。
ドイツ人のアイデンティティとも言えるガソリン自動車を失くすことは、国民の反発を大きく買ってしまい、後戻りができない状況になっている。
そもそもドイツ国民は電気自動車よりもガソリン車を好んでおり、税金から補助金を出そうが何をしようが電気自動車の普及が一向に進んでいないという。
そしてドイツは日本とエネルギー事情が似ており、国内の消費電力を原子力やクリーンエネルギーで賄えず、化石燃料に頼っている状態なのである。
これらの現実を正面から見てみると、電気自動車の普及を促進するのは矛盾だらけということなのだ。
一体誰の利益を考えて、話が進んでいるのだろうか?
電気自動車を進めることで、果たして誰が得をするのだろうか?
そういう部分も様子見ながら、既存の自動車メーカー各社は生き残りを懸け「戦略」という名のカードを切らざるを得ない。
歴史的に見てもドイツと中国は蜜月であると言われるが、ドイツ自動車メーカ―の今の中国依存の状況は大きなリスクを孕んでいる。
さらにそこに、アメリカと中国の対立が絡んでくる。
かつてのアメリカこそ、自動車産業の栄華を誇ったが、今やその影は薄い。
しかしながら、近い未来ではGAFAが開発する自動運転車が一発逆転で世界をひっくり返す可能性が残されている。
すべてがコンピューター化され、ネットワーク化された自動運転車は、それこそ圧倒的にGAFAなどのプラットフォーマーが有利な状況である。
人々の生活自体も大きく変化するが、産業の勢力図も大きく変わることが当然のように予想できるということだ。
アメリカの思惑、中国の動き、さらにEUやその中でのドイツの考えなどで交錯し、事態はより複雑な様相を醸し出している。
著者の言う通り、答えはそんな単純な話ではない。
本当にガソリン車が全く無くなる世界が実現したら、どうなるのだろうか。
これだけでも相当に複雑で先が読めない状態だ。
ドイツ同様に、日本国の基幹産業でもある自動車業界。
もちろん、そのまま外国の意のままに指をくわえて見ている訳にはいかない。
虎視眈々と生き残りを懸けて対策を練っている訳であるが、果たしてどうなるのか。
確かにすべてが電気自動車となり、更にそれらがすべて自動運転化されたとしたら?
生活は一変するはずであるが、それだけでは済まされないことも、我々は心に留める必要がある。
あらゆるデータはプラットフォーム企業に益々牛耳られ、AIなどを駆使して骨の髄まで活用されていく。
もしそのプラットフォームを中国企業が握ったらどうなるだろうか?
プライバシーも何もかも無いに等しいという状況になりながら、あらゆる物事は「便利だ」という名の最適化に向かっていく。
一見ユーザにとって便利に見えても、実はプラットフォーム企業がデータを利活用して益々肥え太っていくだけなのだ。
巨大企業トヨタですら、プラットフォーム企業に対して、モーターで動くおもちゃのような自動車を提供するだけの会社に成り下がってしまうかもしれない。
貧富の差は益々拡大していくことになるだろう。
そしてあらゆるデータは、本当に正しく活用されるのだろうか?
行動や嗜好の情報がすべて他人に握られたら、一体自分の身を守るにはどうすればよいのだろうか。
考えただけでも末恐ろしい未来が待っている。
しかし時計の針は止まることがない。
本当にエネルギー問題がどうなるか次第で様相は大きく変化する。
もちろん資源の採掘権をどう持つかでも変わってくる。
あまりにも変動要素が多いために、未来の予測は難しいだろう。
だからこそ現時点の正確な情報を掴んでおく必要がある。
点で見るのではなく、きちんと歴史の流れで俯瞰して見ること。
そうしないと確実に流れに乗り遅れる。
私個人は自動車産業と全く関係ない業界にいるが、対岸の火事とは到底思えない。
我々の生活そのものが大きく変わることになる。
日本が生き残るために、自分自身が生き残るために。
本書の終章は「この新経済戦争を日本は勝ち抜けるのか?」という切り口だった。
勝ち抜かなければ未来はないし、今はまだ辛うじて勝てそうな分野が残されてる。
最後は「日本頑張れ」で締めくくられているが、心の底から同意する。
何もせず、指をくわえて負ける訳にはいかないのだ。
(2023/7/12水)続きを読む投稿日:2023.08.05
各国の国民性、自動車の捉え方から見える車作りの成り立ち、経済成長や環境の変化に伴う自動車への影響が、時系列を追って解説されている。
日本とドイツはキャッシュレス化がうまく進まない点や、高度なものづくり…が繁栄してきた背景に引っ張られ、新しいものに乗り遅れる傾向があるようだ。
今や車は、ドライバーが制御する機械ではなく、自分で考え、動き回る新しい電気機器とかしている。
ドイツは制限速度がない=丈夫、速い、快適、安全がベースになっている。
続きを読む投稿日:2024.05.01
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