歴史の教訓―「失敗の本質」と国家戦略―(新潮新書)
兼原信克(著)
/新潮新書
この作品のレビュー
平均 4.4 (6件のレビュー)
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著者は絶賛された安倍外交の屋台骨を7年に渡り支えてきたという元外交官。
本書に卓越した識見がちりばめられております。
15世紀にスペイン、ポルトガルが大航海を始めたあたりから現在までの「世界史」や「日…本近現代史」のエッセンス、今後の「国際政治」で知っておくべき要点などをざっくり学びたいという方には是非、読んで欲しいです。
以下、本書より。
【二十世紀から掬い取るべき教訓は何か】
世界史の中の日本の来し方を振り返って見ると、昭和前期の日本が、あそこまで意地を張って頑張る必要があったのだろうかと、首をかしげたくなる。
人間は考える動物であるから、よほど頭に血が上った人でなければ、殺し合いや果し合いはなかなか決断しないものである。
人類社会は、弱肉強食の社会から自由と民主主義、平和と繁栄へと向かって徐々に成熟してきた。
それが十九世紀から二十世紀にかけて起きたことである。
二つの世界大戦の後、核兵器の登場もあり、総力戦の愚かさは誰の目にも明らかになった。
植民地支配も人種差別も、みな廃れていった。
日本人が戦前、心の底から腹を立てたのは、欧米のアジア支配と人種差別であったはずである。
国際秩序の根源的な不義こそが、日本人が最も悩んだことであったはずだ。
戦後の日本人は戦争に負けたので口をつぐみがちだが、戦前の日本人はこれが不満だった。
しかし、戦後になると植民地支配も人種差別も消えてなくなった。
アジアやアフリカの植民地はほとんど独立した。
そうするとやはり、なぜ日本人はこの新しい人類社会の実現を忍耐強く待っていられなかったのか、という疑問が出て来る。
二十一世紀に生きる私たちは、昭和前期の日本はどうしてあそこまで性急だったのか、どうしてもう少し待って様子を見ることが出来なかったのかということを、突き詰めて考える必要がある。
政策的な過ちなのか、道徳的な過ちなのか。
戦略的な過ちなのか、戦術的な過ちなのか。
軍事的な過ちなのか、外交的な過ちなのか。
それとも日本の統治機構に根本的な制度的欠陥があったのか。
当時の日本人には、歴史の流れが見えない。
私たちには二十世紀の世界史の流れがくっきりと見える。
戦後、日本人は生まれ変わったと信じ、そう諸外国に言ってもきた。
しかし、何をどう間違えたのかを分析し、今の安全保障政策や制度に生かすことができなければ、本当に反省したとは言えない。
それでは日本の未来を私たち生き残り組に託して無念に死んでいった三百万の英霊や同胞に対して、そして希望の欠片もなかった終戦直後の混乱の中で家族を守り、生きぬいて、今日の繁栄の基礎を築いてくれた私たちの祖父母、父母の世代に対して、あまりにも申し訳ないと思う。
本書は、その問いに答えを与えようと言うささやかな試みである。
ここまで描いてきたように、世界史の中での近代日本の振る舞いを見た上で結論を言えば、日本が誤った根本にして最大の原因は、憲法体制の脆弱さ、特に「国務と統帥の断絶」である。
それによって軍部の暴走に歯止めがなくなり、正しい政軍関係が破壊され、シビリアン・コントロールが全く効かなくなった。
軍が政府と切り離され、政治も外交も壟断するようになれば、大局的な国益を見据えた外交戦略の視点は失われる。
国家は統一された意思を持ちえず、自壊する。
それだけではない。
戦前の日本は、人類の理性や霊性が徐々に覚醒し、それが地球的規模で広がり、普遍的な価値観が歴史を突き動かしていく姿が見えなかった。
それでは国際社会を味方につけ、世界史を牽引するような外交戦略は出てこない。
日本は、欧米諸国の一部が工業化に先駆けて激しい権力闘争に入った際、ただ一人アジアから遅れて先行組に入り込んだ国であった。
米国の主張する戦間期国際協調主義は、米国自身が孤立主義の殻に籠り、力によるコミットをしなかったために、絵に描いた餅になった。
また、人種差別や植民地主義が横行している中で、国際政治における普遍的な価値観を信じろと言われても難しかった。
更に日本人は、世界恐慌の後、悲惨な社会格差是正のための急進的社会変革と全体主義的な独裁政権待望の熱に冒された。
日本人は、十九世紀から二十世紀後半にかけて進んだ、剥き出しの力の政治や革命や戦争と言った暴力を、古典的な自由主義、或いは普遍的価値観がゆっくりと繭のように包み込んでいく過程を、信じることができなかったのである。
第二部では、第一部で得られた知見を踏まえ、二十一世紀の日本外交の戦略について考えてみたい。続きを読む投稿日:2020.05.23
もしかすると今年読んだ本の中で最も勉強になる本になるかもしれない。これまでの歴史本は日本人が主人公として書かれたものが多かったが、ヨーロッパ、ソ連、アメリカの思惑も冷静さをもって描かれており、とても良…い。続きを読む
投稿日:2024.02.06
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