デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する
カル・ニューポート(著)
,池田真紀子(訳)
/早川書房
作品情報
やらなきゃいけないことも、やりたいこともたくさんあるのに、SNSがとまらない・・・・・・。AppleやTwitterが巧妙に仕掛ける依存の仕組みに抗うには、もはや一時的なデジタル・デトックスじゃ足りない。これは生き方の問題で、僕らには新しい「哲学」が必要だ。すなわち、デジタル・ミニマリズム。スマートフォンとSNSから可処分時間/可処分精神を守り、情報の見逃しを怖れず、大切なことを大切にできる思考法=実践法。1600人超を対象に行なった集団実験から導き出されたメソッド――30日間の「デジタル片づけ」を実行し、あなたもデジタル・ミニマリストになろう。テック界の「こんまり」として話題のコンピューター科学者による、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー & Amazonベストブック。
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この作品のレビュー
平均 3.7 (83件のレビュー)
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【感想】
他に目もくれないほど何かに没頭したのはいつ以来かなぁ、と思い返してみると、ここ数年は全く無いことに気づく。長時間拘束される映画館には行かなくなり、ゲームをやっている最中にもロード時間で携帯を…いじる。こうして文を書いている今も、もう一つのディスプレイにはTwitterのタイムラインが映り続けている。
どれもこれも、SNSというものが便利過ぎてほどほどに面白いからだ。しかしその利便性と裏腹に、SNSから全く実のある内容を得られていないことに気づき、深く後悔してしまう。
本書は、こうしたデジタルコンテンツへの熱中が過ぎるあまり、人々が「デジタル中毒」を患っていると危惧し、自らの生活とデジタルとの距離感を見つめ直し「デジタル・ミニマリスト」となることを提唱する本となっている。
しかし、SNSなどの「楽しく」「有益」なコンテンツにハマることのなにが悪いのか?
その理由を端的に言えば、「情報を得るためにネットを巡回しているが、ほとんどは役に立たない無駄な時間である」からだ。
例えば、日本におけるインターネット利用時間は1日平均3時間45分であり、SNSは平均して30分使っている。10代、20代に限定すればSNS利用時間は75分前後まで跳ね上がる。原因はもちろんスマートフォンであり、人々はiPhoneを1日85回も手に取ってのぞき込んでいるという。ちなみに日本は世界の中でもインターネットを使っていない国であり、フィリピンはなんと1日におよそ10時間もネットにオンラインになっている。
だが悲しいことに、それだけの時間を費やすほどの価値をインターネットから得られていない。FacebookやTwitterを巡回してやることのほとんどは、友人の写真にいいねをつけたり目に留まったつぶやきをリツイートしたりするだけだ。手軽に誰かと繋がれることがSNSの魅力なのだが、手軽であるがゆえに、後には残らない。友人を褒めたければ電話したり直にあったりするほうが100倍も有意義だし、バズったツイートも3日経てば忘れてしまう。
そこで、SNSにこれほど費やしている時間を、オフラインでの有意義な趣味・活動に当てれば、心身ともに健康になるに違いない。しかし、デジタル機器とそのサービスには中毒性があり、ユーザーが依存し離れられなくなるよう設計されている。その誘惑を断ち切るのは想像以上に骨が折れるため、抜本的にデジタルを削減して「デジタル・ミニマリスト」になるしかない、と筆者は提唱しているのだ。
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本書でもっとも注目すべきなのは、「間を埋めるもっと価値の高い活動を積極的に探さなくてはならない」という哲学だろう。本書がデジタルデトックス(一定期間スマートフォンやパソコンなどのデジタルデバイスとの距離を置くことでストレスを軽減する活動)と一線を画しているポイントだ。
当然だが、SNS断ちをしたところで、空いた時間をダラダラ寝て過ごしていては全く意味が無い(身体は健康になるかもしれないが)。デジタルの穴には必ず「自分が心血を注いで成し遂げたい何か」を配置することが重要であり、くだらない時間をいかに有意義な時間に振り分けられるかが肝となる。
そのため、有意義な活動であるなら、オフライン/オンラインを問わないと私は思っている。液タブで絵を描いてSNSにアップロードしてもいいし、パソコンで小説を書いてサイトに投稿してもいい。筆者は代替案としてオフラインでの活動を強く推奨しているが、これは生理学的な理由からであり、人間の脳と身体はアナログ活動がベースとなっているからだ。
究極のところ、SNSが悪者なのは「SNSを使うのが誰しも下手」だからであり、テック企業はそうした「下手くそから金を巻き上げる技術」を研究して依存患者を増やしている。彼らの思惑に乗らない形でテクノロジーを使えば、メリットだけを享受しながらデジタル世界を満喫できる。
ただ、SNSの代わりに打ち込むようになった別の趣味が、「SNSと比較して、本当に高尚で精神的に健全なものなのか?」という疑問は、当然付きまとうことになる。手近に行える趣味を鞍替えしたところで、所詮時間つぶしの範疇を超えることがないというのなら、SNSに滞在しているときと何も変わらない。
創造性・社会性を養う活動がこれに当たりそうだが、いずれにせよ、筆者の教えは「自分の人生の意義を再発見しなさいよ」ということに他ならない。ただデジタル断ちをすればいいという考えとは違う、かなり難易度の高い哲学である。
加えて、現代を取り巻く環境がコロナによって様変わりしてきたことも考慮しなければならない。
他人との接触が減り、ますますオンラインの価値が増した。リアルとデジタルの区別が切り分けられないほど曖昧化してくれば、もはや「デジタル依存症」などと言っていられないのではないか――「リアル依存症」という言葉が存在しないように――という心配もある。コミュニケーションの定義が人々の価値観ごと変革せざるを得なくなれば、「デジタルは人の精神に悪影響を及ぼす」といった前提も崩れてくる可能性は考えられるだろう。
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本書と似た題材を取り扱ったものとして、文中でも頻繁に引用される「僕らはそれに抵抗できない」や「スマホ脳」といった本がある。
前者はスマホとデジタルコンテンツの構造を「依存症」の観点から考察し、企業が人々を依存させるべくどのようにコンテンツを構築しているのかを解き明かしている。後者は、「人間の脳は狩猟採集時代の本能を宿したままであり、ここ数十年におけるコンテンツの驚異的加速に順応できるよう設計されていないため、様々な障害を引き起こす」という生物学的なアプローチからスマホの危険性を論じている。どちらも面白い書なので是非オススメだ。
僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた
https://booklog.jp/users/suibyoalche/archives/1/4478067309
スマホ脳
https://booklog.jp/users/suibyoalche/archives/1/4106108828
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【まとめ】
0 まえがき
デジタル・ツールの過度の使用がもたらす疲労感。主体性を弱め、幸福度を低下させ、負の感情を増幅し、より大事な活動から注意をそらさせる力。スマートフォンが一般化した現代において、人々はますますデジタルの世界に注意を取られるようになり、それに伴う弊害もあちらこちらで起こっている。
「夜はスマートフォンをいじらない」といった、ちょっとした工夫や漠然とした決めごとだけでは力不足である。必要なのは「デジタル・ミニマリズム」という抜本的な削減だ。
1 スマホ依存
なぜ我々は日常の中のオンラインに振り回されるようになったのか?それはスマートフォンが人々から注意を奪うだけでなく、スロットマシンのように刺激に依存させるよう「設計」されているからだ。
依存にはアルコールや麻薬といった「物質依存」から、ギャンブルやインターネットといった「行為依存」まで幅広くある。テック企業は「間歇強化」と「承認欲求」をデザインすることで、行為依存に拍車をかけている。
・間歇強化
「ランダムで予測のつかない報酬」によって快楽がますます強くなること。いいねやリツイートはユーザーの脳内にドーパミンを分泌させ、人々をSNSから抜け出せなくする。また、あちこちをネットサーフィンし、強烈な感情をかきたてる記事を見つける行為も間歇強化に当たる。
・承認欲求
自分が社会的に求められていると感じることで精神が高揚すること。SNSへの投稿に多くのリアクションがつけばつくほど、人はハマり抜けられなくなる。
2 デジタル・ミニマリズム
デジタル・ミニマリズムとは、「自分が重きを置いていることがらにプラスになるか否かを基準に厳選した一握りのツールの最適化を図り、オンラインで費やす時間をそれだけに集中して、ほかのものは惜しまず手放すようなテクノロジー利用の哲学」である。
デジタル・ミニマリストは、通常の意識、すなわち新しいテクノロジーが目に止まったときほんのわずかでもメリットがありそうなら使ってみようという姿勢ではなく、自分が考える「本当に大切なこと」を基準に、それを支えてくれる重要なテクノロジーだけを選ぶ人々のことである。
デジタル・ミニマリズム哲学の有効性を担保するのは、次のような論拠によってである。
・あればあるほどコストがかかる
私たちの生活に散らかっている、不可欠とは言い難いことがらに注意と時間を向けるだけのコストと、その一つひとつから受け取っている小さな利益の総計とを比較すると、コストのほうがはるかに大きい。
・最適化が成功の鍵である
自分が利用するテクノロジーの最適化を図ることは、どのテクノロジーを利用するかを最初に決めるのと同じぐらい重要である。多くの人は、どんな情報を手に入れるかに関心を向けるが、逆に「取得した情報を見やすくまとめるアプリ」「後で読むために広告を排除してクリッピングするサイト」といった、「情報をどう効率的に利用するか」には関心を向けていない。新しいテクノロジーを取捨選択して活用できれば、アグレッシブに最適化を開始することができる。
・テクノロジーとの関わり方に自覚的であることが充実感につながる
利用するツール類を意識的に選択する行為「そのもの」が幸福感につながる。自分の時間と注意を奪おうとするものに対して主導権を握ることで、価値ある輝きがもたらされる。
3 デジタル片付け
デジタル片づけのプロセス
①30日のリセット期間を定め、かならずしも必要ではないテクノロジーの利用を休止する。
②この30日間に、楽しくてやりがいのある活動や行動を、新しく探したり再発見したりする
③休止期間が終わったら、まっさらな状態の生活に、休止していたテクノロジーを再導入する。その一つひとつについて、自分の生活にどのようなメリットがあるか、そのメリットを最大化するにはどのように利用すべきかを検討する。
デジタル片付けの成功率を上げるコツは次の通りだ。
①テクノロジー利用のルールを決める
→現在利用中のどのテクノロジーを「必須ではない」カテゴリーに分類すべきか判断する。無駄なコンテンツは、SNSやゲーム、ネットフリックスなど多岐にわたるため、取捨選択の判断は難しいかもしれない。
コツは思い切ってやることだ。つまり、一時的ではあっても排除してしまうと、仕事やプライベートな日常生活にデメリットや支障が生じるものだけ残し、他のもの全てを排除することが望ましい。ただ、そのテクノロジーが生活に必須または潤いを与えてくれると言うなら、運用規定を定めて「いつ、どのような場合なら利用を許可するか」を決めるといい。
②30日間、ルールに従って休止する
デジタル片付けは最初はとてもきついが、次第に慣れてくる。
ひと月のリセット期間中に、間を埋めるもっと価値の高い活動を積極的に探さなくてはならない。そして、リセット期間の完了までに、真の充実感を生むような活動を再発見し、より意義深い目標の達成を後押しするためだけにテクノロジーを活用するような生活を作り上げる準備をする。
③30日経過後、テクノロジーを再導入する
白紙の状態から、「大切な事柄を後押しするテクノロジー」「最善の方法であるテクノロジー」を見つけ出す。「なんらかのメリットがありそう」という漠然とした基準ではだめだ。また、「いつ、どのようにそのテクノロジーを利用するかを定めた運用規定に沿って生活する」ことを意識し、慎重に再導入を行っていく。
4 孤独な時間を持つ
孤独とは、物理的に隔たっているという意味を指すのではない。自分の思考が他者の思考のインプットから切り離された意識の状態を指す。他者から生まれた情報に反応せずにやり過ごし、自分の思考と体験にのみ集中する。
孤独は新たな発想、自己理解、他者との親密な関係を生む。他者と離れて落ち着いた時間を過ごすことにより、いざ他者と交流する機会が訪れたとき、そのありがたみを実感できるだろう。
孤独を排除し続ける、つまりネットワークに繋がり続けると、望ましくない影響が起こる。
95年以降生まれのデジタルネイティブ世代の不安障害が急増し、10代の鬱と自殺率が急上昇している。各年代における精神面での健康の度合いを数値化してみると、アメリカ人の多くがスマートフォンを所有するようになった時期と、若年層の不安障害の増加が見られた時期がぴたりと一致するという。
●スマートフォンを置いて外に出てみよう
→「携帯電話が手もとにない状態はピンチ」という思い込みを捨てるきっかけを作る。また、他者の思考のインプットから解放された時間を作る。
●自分に宛てて手紙を書いてみよう
→困難や不安に直面したら、自分に向けて手紙を書いたり、日記をしたためてみたりする。
5 社会性
人間の脳は、認知の休止時間に入ると、自動的に社交生活について考え始めるよう順応している。他者とのつながりに強い関心を持つように進化してきたからだ。
しかし、現代の技術革新――会話情報の何百分の1の短さと何百倍もの頻度からなるテキストメッセージ群――は、旧来の神経システムと折り合いがつかず、その結果世界中の人々の健康が脅かされている。
もちろん、ソーシャルメディアを利用するとただちに幸福度が下がるということではない。それどころか、肯定的な研究論文によると、ソーシャルメディアにおける特定の活動は、実験でそれだけを取り出して見た場合、控えめながら幸福度を向上させる。ここで重要なのは、ソーシャルメディアを利用すると、それよりもはるかに価値の高いリアルの世界での社交の時間が減ることだ。私達の脳は、オフラインで相手と顔を合わせてする交流が唯一のコミュニケーションだった時代の産物であるため、デジタルな会話はアナログな会話よりも幸福度の上昇に寄与しない。
●テキストメッセージやSNSから離れるか、営業時間を厳格にする
このルールを前にすると、人とのつながりを薄くすると人間関係まで薄くなってしまうのではと不安がる人が多い。しかし安心してほしい。あなたが心の底から大切にしている人との関係は、弱まるどころか強靭になる。彼らにとってあなたは、日常的に会話らしい会話ができる唯一の相手になり、彼らとの関係は、!や絵文字をいくつ並べようと手に入らない、深いニュアンスに満ちたものになっていくはずだ。
6 質の高い余暇活動
すばらしい人生には質の高い余暇活動が不可欠だ。質の低いデジタルの娯楽を先に片付けた後に空白を埋めようとするのではなく、まず質の高い余暇活動についてじっくり考え、時間の使い方を意識するよう心掛けてからデジタル娯楽を手放そう。
●受け身の消費よりも体を動かす活動を優先しよう
●スキルを活かし、物質的な世界で価値のあるものを作り出そう
●親睦を支える枠組みが用意された、リアルな世界での交流が必要な活動を探そう
避けるべきは、スクリーンから提供されるものを漫然と受け取る行為がそのまま余暇活動であるような状態だ。
●スポーツチームやボランティアグルーブなど、何かの集まりに参加する
●余暇の活動計画を立てる
7 情報との付き合い方
●SNS「アプリ」を削除する
退会しなくてもいい。出先からアクセスできなくするだけで(使うときはPCのみからにするだけで)、劇的に使用頻度が減る。
●スローメディアを活用する
「メディア消費を徹底的に排除する」というアプローチも有効だが、もう一つ別の方法、つまり「メディア消費を質の高い経験に変える」のも有効だ。速報系のニュースメディアではなく、ジャーナリストがある程度の情報を分析してから書くニュースをチェックする。また、間違いなく最高と確信できる少数の書き手だけをフォローする。ニュースを集中して消費するために、専用の時間を別に設けて習慣化することもおすすめだ。
デジタル・ミニマリズムをうまく維持していくためのカギは、問題はテクノロジーではなく自分の人生の質なのだという事実を受け入れることにある。デジタル・ミニマリズムとは一連のルールであるだけでなく、魅力的なデバイスだらけのこの時代に、生きる価値のある人生を築いていくことなのだ。続きを読む投稿日:2022.01.15
デジタルデトックスではなくデジタルミニマリストの考え方は、ただ単にデジタルなものを総排除するのではなく自分になにが必要なのか主体的に考えるため、長期的に続くと思ったし有効的だと思った。
日記をつけて考…えをまとめること、趣味を継続すること、趣味をスケジュールに組み込むことを改めて大事だなと思い今後も続けたいなと思った。続きを読む投稿日:2023.12.29
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