身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論
鈴木涼美(著)
/幻冬舎文庫
この作品のレビュー
平均 3.3 (6件のレビュー)
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「飽き」こそ我が救世主
日経記者がAVに出演していたと話題になった鈴木涼美さんの記事を最初に見たのはBLOGOSの記事だったか、週刊文春で火がついたようなのだが在職中に「AV女優」の社会学と言う東大大学院時代の論文を加筆修正…して出版しており、この記事以前にAV女優としての経験を語っているというのでどうも隠していたのがバレたということではないらしい。BLOGOSのリンク先に本人の緊急投稿が載せてありそこで書いていることがなかなか興味深いので覚えていた。著書の中で「AV業界をうろうろしながら」と意図的に自身のAV出演経験を隠していたことについて、「AV出演の経験を持っていることは、AV業界の魅力や問題点を知るのに、圧倒的に有利だったのではないだろうか。その自分の優位性を1行目で告白しないことは、研究者倫理に照らし合わせててどうなのか、少なくとも書き手の姿勢としてどうなのか。読者への敬意にかけるのではないだろうか。」「日経記者がAV女優であることよりも鈴木涼美がAV女優であることのほうが余程大きな問題をはらんでいる、と私は思う。」
ここだけ取り上げるとすごく論理的なのだが本書の中ではもっとくだけている。高校時代はブルセラショップに通う渋谷のギャルが1年間勉強して慶応のSFCに入学。しかし在学中はキャバ嬢として働きついでにAVにも出演した。モラトリアム期間が欲しくて東大大学院に入りその時の研究テーマが「夜のオネエサン」、卒業後は地味な日経記者になり今では文筆業というような経歴だ。この本では主にキャバ嬢時代から日経記者時代(仕事の話はないが)の自分と周囲の夜の世界の話が中心になっていてとりとめはないが文章は読みやすい。
ネタバレにならない程度に少し紹介するとこんな感じ。
「どんなに偉いオヤジが、「魂に悪い」と言っても私たちはキズつかないけど、好きな人がゲロまみれになっている光景には、それなりにひるむ。
問題は、そこで得られるオカネや快楽が、魂を汚すに値すると思えるかどうかであって、いいか悪いかではない。好きな人にゲロ吐かせてまで手に入れたいものだって、私たちにはあると思う。言い換えれば、少なくともそれに値すると思えないんであれば、そんなはした金、受け取らない方がいい。」
「私たち、結構ごみみたいな生活が嫌いじゃなくて、むしろ積極的に汚れることが、どうしても必要な時期ってあるのよね。オトコは、クソであればクソであるほど、たまに私たちのごみ生活を飾る、最高のごみになる。」
「私は極度にハマりやすい性格である反面、極度に飽きっぽいらしい。そしてハマりやすい性格によるあらゆる人生の罠から、飽きっぽい性格によって救われてきたのである。「飽き」こそ我が救世主。スカウトマンとの破滅的な同棲生活からも、夜のオネエサンとしてのくだらない生活からも、ホストとの実らぬ生活からも年収1億円の投資銀行家との勘違いセレブ生活からも、ドラマみたいでちょこっと楽しいってこと以外は何も生まない社内恋愛からも、大学院生としての国会図書館に引きこもった生活からも、いつもぎりぎりのところでアイツがやってきて、私を救い出してくれたのだ。」
こうして見ると感覚的な文章にはほど遠いな。
母親との会話が時々出てくるのだがこの母親がなかなかかっこいい。調べればわかるがある世界では有名な人らしい。週刊誌的には父親の方が話題なのだが。
「あなたって割と安っぽいよね。私は確かに自分にとって魅力的ではないオトコからの評価も欲しかったけどそれに応えて与えちゃったらダメなのよ。彼をショボいというなら、そんなどうでもいい小さなメリットのために彼と付き合ってるあなたこそショボい。」
「でもママも、どうしようもないショボい勘違い男とか、馬鹿な男とか、鼻をへし折って、ヒールの先っちょで自尊心をぐりぐり踏みにじりたい、とか思うこともあるでしょ?」
「それは生き様で見せればいい。そもそもそんな男が寄り付けないくらいにすごくなれば?あなたはさ、そういうバカな男を相手にしながら、中途半端にぐりぐり虐めて、それで買わなくていい反感を買って、結局自分がいちばん割を食ってるイメージ」
著者紹介は自分で書いてる様だ。
1983年、東京都生まれ、蟹座。
慶応義塾大学環境情報学部卒業。2009年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。大学院修了後、会社員時代に出版した著書「AV女優の社会学」は小熊英二サン&北田暁大さん強力推薦、「紀伊国屋じんぶん大賞2013 読者と選ぶ人文書ベスト30」にもランクインし話題に。夜のオネエサンから転じて昼のオネエサンになるも、いまいちうまくいってはおらず、2014年秋、5年半勤めた新聞社を退社。続きを読む投稿日:2019.12.12
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私の知らない世界の「お話」であって、分際が違えば理解しがたい相容れないということを、とにかく思ったことだ。そしてオンナの複雑さと。文章は、読んでいて楽しいのと鬱陶しいのが紙一重な文体であった。母親を書…いている箇所は落ち着いた調子で書いていて、いっそ、しんみりしてしまうのであった。続きを読む
投稿日:2022.01.07
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