金融世界大戦 第三次大戦はすでに始まっている
田中宇(著者)
/朝日新聞出版
作品情報
第三次世界大戦がすでに始まっている! ?
そもそも世界大戦とは世界覇権を賭けた戦争だ。
第一次世界大戦は英国覇権に対して独墺が、
第二次世界大戦は英米覇権に対して独(日伊)が挑んだ。
今回の大戦は兵器を使った従来の軍事戦争ではなく、
ドルと金融システムによる覇権を米国が守るか失うか、
中露やEUが覇権を分割するかどうかの金融戦争である。
史上最高値を更新するNY株式市場や債権市場は、
一見米国の独り勝ちを思わせるが実際は違う。
その実態はリーマン危機に始まる金融システムの崩壊を、
QEによって辛くも凌いできた結果のバブル経済にすぎない。
現在、この米国・ドル覇権を見限る動きが世界各国で始まっている。
そしてそれを決定づけたのが、
OPECによる原油減産見送りだった・・・。
水面下で火蓋を切った金融世界大戦の主役は?
その勝敗は?
リーマン危機を超える金融のシステム崩壊とは?
大戦後の世界はどうなるか?
そして、米国のQEに替わるべく
追加金融緩和をしたアベノミクス日本の運命は?
国際政治ジャーナリスト田中宇が世界情勢の真相を分析する話題作!
【目次】
第1章 ドル崩壊が近い!
●アメリカ 虚像の好景気
●ドル崩壊の兆候
第2章 覇権の世界史と「多極化」
●世界の根幹にある覇権の変動
●覇権の起源:パックス・ブリタニカ
●「多極化」で読み解く政治史:1914~
第3章 米国金融覇権の時代
●レバレッジ型金融革命
●金融覇権の仕組み
第4章 第三次世界大戦はすでに始まっている
●「世界大戦」とは覇権をめぐる戦い
●中国と手を組みロシア
●BRICの覇権戦略
●対米従属に固執する日本
●金融世界大戦の新局面
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商品情報
- 著者
- 田中宇
- 出版社
- 朝日新聞出版
- 掲載誌・レーベル
- 朝日新聞出版
- 書籍発売日
- 2015.03.01
- Reader Store発売日
- 2015.05.11
- ファイルサイズ
- 0.7MB
- ページ数
- 272ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (7件のレビュー)
-
この本は300ページ足らずの分量ですが、内容が濃く考えながら読んだせいもあり読むのに随分とかかりました。世界の金融はドル体制が変わる可能性があるという印象を受けました。その引き金を引くのが、日本も実施…している量的緩和策(QE)行く末なのでしょうか。
その原因としては、ポンドから基軸通貨の地位を得たアメリカのドルの位置が、中国とロシアを中心としたグループに移行しつつある様です。湾岸戦争(1991)の本当の原因も、イラクが原油をドル以外で決済しようとしたことに始まり、その動きは今まで抑えられてきたようですが、中国とロシアが戦略的に結びつくことで、元、を中心とした貿易が今後行われる予定です。
あと5年もすればすっかり世界が変わっているかもしれないと、この本を通して感じました。戦後、米国に追随することで繁栄を享受してきた日本は分岐点に差し掛かっているのかもしれません。
第一次、第二次世界大戦では、実際の戦闘が行われ多くの人が犠牲になりましたが、今回の第三次世界大戦は金融戦争なので、直接的な犠牲者は出ないものの、大きな影響を受ける人の数では今までとは比較にならないほど大きいと思われます。
この本では金価格は上昇すると予想していますが、果たしてどうなのでしょうか。その根拠として、先物を制御して異様に金価格を抑えつけていることを具体的に解説している点は興味深かったです。
特に、アメリカの経済成長のポイントとなっている、シェールガス革命を支えているジャンク債を、原油安を続けることで、崩壊させようとする考え方(p10)は目に留まるものでした。
実際に起こっている問題として、アジアでは、韓国・インドネシア・台湾・マレーシア・シンガポール・タイが、事実上、元と為替固定されている(p145)という事実は驚きでした。
以下は気になったポイントです。
・日米当局は、QEがデフレを解消して景気テコ入れすると宣伝しているが、実際には国際金融システムの延命を狙った債権金利の引き下げ策であり、デフレや不景気は長期化する(p4)
・今回の金融世界大戦で漁夫の利を得るかもしれないのは、中国かも。中国はBRICS諸国と組み、貿易決済をドル建てから元建てに替えたり、格付け機関を作るなどの試みをしている(p9)
・米覇権を潰すなら、軍事ではなく債権金融システムの崩壊を誘導するのが得策であること、中露は知っている。原油高を前提に巨額のジャンク債を発行しながら運営されているシェール石油産業を破綻させて金融システムを崩壊させる動きもある(p10)
・2014.10末にアメリカがQE3を終了した際に、元FRB議長のグリーンスパン氏は、金相場が5年以内に上昇しそうだと発言した(p20)
・影の金融システムである債券金融システムの総規模は、2013年1年間で5兆ドル増えて、75兆ドルとなり世界GDPよりも2割大となった(p24)
・QEの副作用の一つは、投資・ストックオプションで設けている大金持ちをますます富ませるので、格差が拡大する(p25)
・今回のアメリカバブルは、金融機関が直接に住宅を買っている(p36)
・金価格は13年4月以来、二度に渡って先物主導で暴落させられている、中国では国際相場よりも10%近く高い金地金でも安売りになっている(p37)
・2002年には、アメリカ企業は調達した資金の50%を本業投資、15%を自社株買であったが、今では40%しか投資せず、30%以上を自社株買いをしている(p45)
・購買力平価で測定した経済規模は、14年中にアメリカは中国に抜かれた、日本はインドに抜かれて4位(p46)
・サウジアラビア、クウェート、イラン、イラク、ロシアなどが結託して、アメリカのシェール産業を潰そうとしていることが確実になっている(p54)
・オランダの東インド会社は、200年間の平均株主配当率が18%、英仏西は国営であった。徳川幕府は領土野心の少ない貿易共和国のオランダを選んだのは世界情勢をかなり理解していたことを意味する(p76)
・ドイツ統一の中核となったプロシアは、18世紀後半からユダヤ人の移民を受け入れ、経済を発展させて国家財政を黒字化した(p85)
・コロンブスらが15世紀に中南米まで出かけたのは、スペインがキリスト教を強化する目的でユダヤ人に追放令をだし、ユダヤ資本家は探検費用を出して新天地を探す必要があったから(p89)
・国際連盟を提唱したウィルソンに対して、イギリスはフランス等の欧州諸国を巧みに誘い、議論をイギリス好みの方向に誘導した結果、英国主導になった。なので米国は国際連盟に入らなかった(p97)
・米英は、大西洋憲章を締結する1か月前にソ連を引き入れて、ソ連が連合国を支援する見返りに、ドイツの影響圏だった東欧をすべてソ連の影響圏として認めた(p103)
・アメリカの軍事産業が望む「儲かる戦争」とは、空軍と海軍の新兵器を使って圧勝する短期決戦(p115)
・EU誕生により、欧州内で敵対しがちな、ドイツとフランスは恒久的に統合され、イギリスの歴史的な大陸分断戦略は永久に無効化された(p116)
・韓国ウォンは事実上、すでに人民元にペッグ(為替固定)している、そのほか、インドネシア・台湾・マレーシア・シンガポール・タイが、ドルよりも人民元に対して自国通貨をペッグしている。ドルを重視している
のは、日本・ベトナム・モンゴルくらい(p145)
・ドイツ金融監督庁長官は、金地金と為替に関する国際銀行界による不正操作は、LIBORの不正操作よりも悪質だと述べている(p178)
・金が2000ドルを超えて上昇すると、ドルと米国債の崩壊の引き金になりかねなかったので、先物売りをして相場を引き下げた(p179)
・JPモルガンやスタンレー等の大手銀行が金の現物取引から撤退しているのは、地金の在庫が減っているから(p181)
・FRBはQEで購入した4.5兆ドルの債券を保有しているので、それを再投資することで非公式に縮小版QEを続行できる(p187)
・CICA(アジア相互協力信頼醸成会議)は24か国が加盟して、中国ロシアが全面にでているが、アメリカ・欧州・日本は参加していない(p197)
・中国の住宅価格は年平均9%上昇しているが、都市住民の名目所得は13%増加している(p208)
・米国は公式統計の季節調整値の算出方法を毎月変更して失業者を低く見せている。出生死亡モデルを操作して、雇用が増えていなくても6.2万人の雇用増となるように調整している。これらの粉飾を除くとアメリカの失業率は30%くらいだろう(p218)
・アルゼンチンはデフォルト(2014.7.31)によって、米国覇権下の金融システムから離脱し、BRICSが作る相互通貨建て金融システムに移行した(p228)
・銀行救済は公的資金をつぎ込む、ペイルアウトではなく、大口預金者や株主の債権を没収して使う、ペイルイン方式に転換することを2014年にG20が正式決定している(p267)
2015年4月4日作成続きを読む投稿日:2015.04.04
このレビューはネタバレを含みます
過去の金融危機の解説まではフムフムと内容を追えたが、本題の「第三次世界大戦が金融の世界ですでに始まっている」とする仮説に入ってから話が壮大過ぎて、かつどこまで事実で何が憶測かの境界線が曖昧になって付い…て行けなくなった。
レビューの続きを読む
大まかには『米国覇権構造が崩れて多極化する』仮説に沿って金融関連の出来事を憶測含めて解説している。本書は2015年に書かれているようだが、ロシアを孤立させプーチンを怒らせて、ウクライナが米国の代理戦争をするシナリオも本書の仮説に沿った流れに見える。
しかし注意が必要なのは、この手の本はまず「表のストーリー」をしっかり理解しておかないと「陰謀論」という迷宮にハマりがちなこと。自分の中では「教養としての金融危機」という書籍が直近100年の国際金融市場の歴史解説本としての「表のストーリー」なので並べながら再読しようと思った。続きを読む投稿日:2022.08.05
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