福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇
辻野弥生(著)
/五月書房新社
作品情報
「辻野さん、ぜひ調べてください。......地元の人間には書けないから」
その時から、歴史好きの平凡な主婦の挑戦が始まった。
「アンタ、何を言い出すんだ!」と怒鳴られつつ取材と調査を進め、2013年に旧著『福田村事件』を地方出版社から上梓したものの、版元の廃業で本は絶版に。
しかし数年後、ひとりの編集者が「復刊しませんか?」と声をかけてきた。
さらに数年後、とある監督が「映画にしたいのです」と申し入れてきた──。
福田村・田中村事件についてのまとまった唯一の書籍が関東大震災100年の今年2023年、増補改訂版として満を持して刊行!
【福田村・田中村事件】
関東大震災が発生した1923年(大正12年)9月1日以後、各地で「不逞鮮人」狩りが横行するなか、9月6日、四国の香川県からやって来て千葉県の福田村に投宿していた15名の売薬行商人の一行が朝鮮人との疑いをかけられ、地元の福田村・田中村の自警団によって、ある者は鳶口で頭を割られ、ある者は手を縛られたまま利根川に放り投げられた。虐殺された者9名のうちには、6歳・4歳・2歳の幼児と妊婦も含まれていた。犯行に及んだ者たちは法廷で自分たちの正義を滔々と語り、なかには出所後に自治体の長になった者まで出て、事件は地元のタブーと化した。そしてさらに、行商人一行が香川の被差別部落出身者たちだったことが、事件の真相解明をさらに難しくした。
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商品情報
- シリーズ
- 福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇
- 著者
- 辻野弥生
- 出版社
- 五月書房新社
- 書籍発売日
- 2023.07.10
- Reader Store発売日
- 2023.08.01
- ファイルサイズ
- 18.8MB
- ページ数
- 272ページ
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この作品のレビュー
平均 4.1 (26件のレビュー)
-
映画「福田村事件」は、昨年の邦画でマイベストワンだった。日本アカデミー賞でも、インディーズ映画としては異例の入賞を果たしていた。それと同じ題名を持つ本が昨年発行された。映画があったから発行されたのでは…ない。むしろ、この本があったから映画ができたし、著者も企画協力をしている。10年前の著書を大幅に増補改訂した決定版である。
100年前のことで、もはや生きている人は多分いない。生き残った(映画にも出てきた)当時13歳の男性からの詳しい証言も残っていた。それらを含めて、さまざまな証言を集めて、事件の基になった千人以上が犠牲になったという朝鮮人虐殺の「輪郭」がわかってきたのは、つい最近だ。本書は、前半でそれらのことも比較的わかりやすく紹介してくれている。
震災翌日の9月2日に政府は「戒厳令」を発した。その日は警官による虐殺が堂々と行われたようだ。「戒厳令」は流言蜚語に踊らされ発せられた。発令は更に蜚語を強化し、発令取り消し後も、既に歯止めが効かなくなってしまった。僅かに残っている一つひとつの記録を見ると、警官や軍人は誰一人として逮捕されていない。千葉県内で検挙された一般人はたった90名ほどだし、牢屋に入ったのはたった17名である。福田村事件だけでも、その数倍の村人が関与していたという証言があるのに、である。その他多くの「事実」に唖然とし、怒りが湧いた。特に政府は、国家責任を一部自警団員に転嫁している。
千葉県内で発生した自警団・民衆が朝鮮人を殺害し、或いは朝鮮人と誤認して日本人を殺害した一覧表がある(裁判になった事例のみ)。「誤認して日本人殺害」が22例中10例もある(福田村事件もそのうちのひとつ)。概要しかわからないが、暗澹たる気分になる。
福田村事件は、9月6日、香川県から薬の行商に来ていた一行15人が地元民に襲われ、9人が命を落とした事件である。讃岐訛りを咎められ、もはや君が代を歌っても警官が確認するから待っておれと言っても効かなかった。被害者の中には幼児3人と妊婦も含まれていた。
ある程度(ことの本質という)フィクションを含みながら経過は、映画では具体的に描かれている。「福田村事件」監督の森達也氏の特別寄稿が載っていた。
「善良な人が善良な人を殺す。その理由とメカニズムについてずっと考え続けてきた」
オウム信者を追い続けてきた森監督は、しかし監督でさえ、「虐殺が始まる瞬間の人々の表情について」「さんざん煩悶した」と告白する。いわんや、私にはわからない。でもだからこそ、加害する側、被害側、両方を知ろうしなくてはならない。
辻野弥生さんは主に博物館・美術館の紹介本を書いてきたライターさんではあるが、本書は丁寧な記録の掘り起こしを基に、(一般的にはタブーと言われる)朝鮮人・部落民被害者のこの事件への、自らの感想を臆することなく語っている。ノンフィクションはこうでなくてはいけない。なかなかの力作、良書である。
2024年3月15日読了
続きを読む投稿日:2024.03.19
森達也監督の映画を観てから本を手に取った。この事件で生き残った太田文義さん(当時13歳)の証言がこの映画のもとになっているのだと知る。
恐ろしさが蘇る。 想像しただけで思考停止に陥る。こんな恐ろしいこ…とがあっていいわけがない。
だけど、世界はそんな歴史にあふれている。
森達也さんの文章から。
「凶悪で残虐な人たちが善良な人たちを殺すのではない。普通の人が普通の人を殺すのだ。世界はそんな歴史にあふれている。ならば知らなくてはならない。その理由とメカニズムについて。スイッチの機序について。学んだ記憶しなくてはならない。そんな事態を何度も起こさないために。
でも僕たちが暮らすこの国は、記憶する力が絶望的なほどに弱い。むしろ忌避している。殺す側は邪悪で冷酷。その思いが強いからこそ、過去に自分たちがアジアに対して加害下歴史を躍起になって否定しようとする。」(p236)
「人は環境によって「けだもの」にもなれば「紳士淑女」にもなる。南京で虐殺にふけった大日本帝国陸軍の兵士たちも、家に帰れば妻や子を愛する父であり両親思いの息子だったはずだ。ナチスの兵士もクメール・ルージュの幹部たちも朝鮮人狩りに狂奔した村の自警団の男たちもサリンガス散布に加担したオウムの信者たちも、違う環境にいたら違う行動をしていたはずだ。しかし松井と河村も含めて虐殺などなかったとか慰安婦は商売だったとか強制的な徴用ではないなどと声をあげる彼らに、その認識は絶望的なほどにない。だから日本人は「けだもの」とは違うと必死に否定する。さらに、被害の側に過剰に感情移入するからこそ、加害の側をより強く叩こうとする。シオニズムの延長としてホロコーストの被害者遺族たちが建国したイスラエルが、なぜこれほど無慈悲にパレスチナの民を加害し続けるのか、その理由に気づかない。加害と被害は反転しながら連鎖することに実感を持たない。日本が今も死刑制度を手放せない理由のひとつは、人を殺した人は邪悪で冷酷で生きる価値などないとの思いが固着しているからだ。」(p237)
「映画はフィクションだ。エンタメの要素も強い。だから実在していない人もたくさん登場する。物語を紡ぎながら事実を補強する。
でもそれは史実とは微妙に違う。だからこそ、この本の位置は重要だ。もう一度書く。忘れてはいけない。忘れたらまた同じことをくりかえす。過去にあった戦争や虐殺よりも恐ろしいことがひとつだけある。戦争や虐殺を忘却することだ。」(p242)
ほかに近隣住民の証言も。村山金一郎さん。
「ひどいことに、川に入って水につかりながら日本人だと照明するために「君が代」を歌っているところを鉄砲で撃ったそうです。お巡りが来て中止になったらしいけど、残酷極まりないよね。仮に朝鮮人であっても、人間である以上殺すということは、とてもできないね。幼稚な群集心理でのぼせてしまうと、始末におえないですね。
(略)
東京が焼け野原になったのは、朝鮮人が方々に分かれて全部放火したというんですが、そりゃ震災ですから火災は起こりますよ。まったく迷惑したのは朝鮮人ですね。」(p174)続きを読む投稿日:2024.05.08
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