【感想】福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇

辻野弥生 / 五月書房新社
(26件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • ゆき

    ゆき

    森達也監督の映画を観てから本を手に取った。この事件で生き残った太田文義さん(当時13歳)の証言がこの映画のもとになっているのだと知る。
    恐ろしさが蘇る。 想像しただけで思考停止に陥る。こんな恐ろしいことがあっていいわけがない。
    だけど、世界はそんな歴史にあふれている。

    森達也さんの文章から。
    「凶悪で残虐な人たちが善良な人たちを殺すのではない。普通の人が普通の人を殺すのだ。世界はそんな歴史にあふれている。ならば知らなくてはならない。その理由とメカニズムについて。スイッチの機序について。学んだ記憶しなくてはならない。そんな事態を何度も起こさないために。
    でも僕たちが暮らすこの国は、記憶する力が絶望的なほどに弱い。むしろ忌避している。殺す側は邪悪で冷酷。その思いが強いからこそ、過去に自分たちがアジアに対して加害下歴史を躍起になって否定しようとする。」(p236)
    「人は環境によって「けだもの」にもなれば「紳士淑女」にもなる。南京で虐殺にふけった大日本帝国陸軍の兵士たちも、家に帰れば妻や子を愛する父であり両親思いの息子だったはずだ。ナチスの兵士もクメール・ルージュの幹部たちも朝鮮人狩りに狂奔した村の自警団の男たちもサリンガス散布に加担したオウムの信者たちも、違う環境にいたら違う行動をしていたはずだ。しかし松井と河村も含めて虐殺などなかったとか慰安婦は商売だったとか強制的な徴用ではないなどと声をあげる彼らに、その認識は絶望的なほどにない。だから日本人は「けだもの」とは違うと必死に否定する。さらに、被害の側に過剰に感情移入するからこそ、加害の側をより強く叩こうとする。シオニズムの延長としてホロコーストの被害者遺族たちが建国したイスラエルが、なぜこれほど無慈悲にパレスチナの民を加害し続けるのか、その理由に気づかない。加害と被害は反転しながら連鎖することに実感を持たない。日本が今も死刑制度を手放せない理由のひとつは、人を殺した人は邪悪で冷酷で生きる価値などないとの思いが固着しているからだ。」(p237)
    「映画はフィクションだ。エンタメの要素も強い。だから実在していない人もたくさん登場する。物語を紡ぎながら事実を補強する。
    でもそれは史実とは微妙に違う。だからこそ、この本の位置は重要だ。もう一度書く。忘れてはいけない。忘れたらまた同じことをくりかえす。過去にあった戦争や虐殺よりも恐ろしいことがひとつだけある。戦争や虐殺を忘却することだ。」(p242)

    ほかに近隣住民の証言も。村山金一郎さん。
    「ひどいことに、川に入って水につかりながら日本人だと照明するために「君が代」を歌っているところを鉄砲で撃ったそうです。お巡りが来て中止になったらしいけど、残酷極まりないよね。仮に朝鮮人であっても、人間である以上殺すということは、とてもできないね。幼稚な群集心理でのぼせてしまうと、始末におえないですね。
    (略)
    東京が焼け野原になったのは、朝鮮人が方々に分かれて全部放火したというんですが、そりゃ震災ですから火災は起こりますよ。まったく迷惑したのは朝鮮人ですね。」(p174)
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    投稿日:2024.05.08

  • ゆー

    ゆー

    当たり前だが
    決して愉快な内容ではない
    ロッテ創業者の重光武雄は韓国人だったが(間違ってはいないと思うけど、違ってたらすみません)
    重光氏は日本人ほど差別する民族はいないと言っていたという
    これはまさしくその言葉を裏付ける内容である
    朝鮮民族は言われなき迫害を受け続けた
    黒人差別やユダヤ人差別のほうがボロクソに言われたりするが
    日本人の朝鮮差別もそれに勝るとも劣らない酷さ
    胸糞悪いことこの上もない
    つくづく戦争は恐ろしい
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    投稿日:2024.04.10

  • kuma0504

    kuma0504

    映画「福田村事件」は、昨年の邦画でマイベストワンだった。日本アカデミー賞でも、インディーズ映画としては異例の入賞を果たしていた。それと同じ題名を持つ本が昨年発行された。映画があったから発行されたのではない。むしろ、この本があったから映画ができたし、著者も企画協力をしている。10年前の著書を大幅に増補改訂した決定版である。

    100年前のことで、もはや生きている人は多分いない。生き残った(映画にも出てきた)当時13歳の男性からの詳しい証言も残っていた。それらを含めて、さまざまな証言を集めて、事件の基になった千人以上が犠牲になったという朝鮮人虐殺の「輪郭」がわかってきたのは、つい最近だ。本書は、前半でそれらのことも比較的わかりやすく紹介してくれている。

    震災翌日の9月2日に政府は「戒厳令」を発した。その日は警官による虐殺が堂々と行われたようだ。「戒厳令」は流言蜚語に踊らされ発せられた。発令は更に蜚語を強化し、発令取り消し後も、既に歯止めが効かなくなってしまった。僅かに残っている一つひとつの記録を見ると、警官や軍人は誰一人として逮捕されていない。千葉県内で検挙された一般人はたった90名ほどだし、牢屋に入ったのはたった17名である。福田村事件だけでも、その数倍の村人が関与していたという証言があるのに、である。その他多くの「事実」に唖然とし、怒りが湧いた。特に政府は、国家責任を一部自警団員に転嫁している。

    千葉県内で発生した自警団・民衆が朝鮮人を殺害し、或いは朝鮮人と誤認して日本人を殺害した一覧表がある(裁判になった事例のみ)。「誤認して日本人殺害」が22例中10例もある(福田村事件もそのうちのひとつ)。概要しかわからないが、暗澹たる気分になる。

    福田村事件は、9月6日、香川県から薬の行商に来ていた一行15人が地元民に襲われ、9人が命を落とした事件である。讃岐訛りを咎められ、もはや君が代を歌っても警官が確認するから待っておれと言っても効かなかった。被害者の中には幼児3人と妊婦も含まれていた。

    ある程度(ことの本質という)フィクションを含みながら経過は、映画では具体的に描かれている。「福田村事件」監督の森達也氏の特別寄稿が載っていた。
    「善良な人が善良な人を殺す。その理由とメカニズムについてずっと考え続けてきた」
    オウム信者を追い続けてきた森監督は、しかし監督でさえ、「虐殺が始まる瞬間の人々の表情について」「さんざん煩悶した」と告白する。いわんや、私にはわからない。でもだからこそ、加害する側、被害側、両方を知ろうしなくてはならない。

    辻野弥生さんは主に博物館・美術館の紹介本を書いてきたライターさんではあるが、本書は丁寧な記録の掘り起こしを基に、(一般的にはタブーと言われる)朝鮮人・部落民被害者のこの事件への、自らの感想を臆することなく語っている。ノンフィクションはこうでなくてはいけない。なかなかの力作、良書である。

    2024年3月15日読了



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    投稿日:2024.03.19

  • dokutoku

    dokutoku

    恐怖のためか、やるせない怒りをぶつけるためか、矛先は弱いものに向かう。凶行は正当化された。審判が下った後さえも。人間の性は恐ろしい。克服してきたのが文明の発達。本当に怖いのは、忘れ去ること、なかったことにしてしまうこと。学びは止まり、過ちは何度でもくり返される。…1923年9月1日。震災は起きた。「流言蜚語」。半島からの移住者が標的になる。一方、福田村で起きたのは、日本人への虐殺。長く埋もれてきたのは、認めたくない史実だから。書籍の復刊。映画化。学ばねばならない。予期せぬ禍。人の価値はそのとき試される。続きを読む

    投稿日:2024.03.12

  • ナオ

    ナオ

    歴史の裏側に隠された真実が明かされていく。この本を読み、書き残さずにはいられなかった著者の思いを知った。

    「朝鮮人なら殺してええんか!」2023年公開の映画の中で、被害者となった行商の親方が加害者らに向けて吐いた言葉に、立ちすくむ思いがしたという著者、辻野弥生さん。
    「殺していい命などあろうはずがない」

    どうしてこのような悲惨な事件が起こってしまったのか。
    背景に植民地支配の歴史や部落差別があるという。当時の新聞や雑誌の記事、聴き取り調査の内容が提示されることにより、次第に事件の全貌が見えてきた。

    関東大震災後の流言飛語で民衆は不安、恐怖にさらされる。「朝鮮人に間違われて虐殺された人達は、香川県から薬の行商にやってきた被差別部落民」だった。闇に葬られたままだった真実を綿密に調べ上げ、本にまとめた著者の取り組みに敬意を表したい。
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    投稿日:2024.02.07

  • アムアム・プー

    アムアム・プー

    全く知らない事ばかりで、正直自分の阿保さ加減に呆れてしまった。そんな1冊でした。

    関東大震災直後に、千葉県野田、柏、流山の当時の村人が、薬の行商で香川から来ていた15人を集団で襲い、内9人を惨殺。川に流した事件。その後、殺害した側の人間は、裁判で裁かれるものの、村のヒーローとして金をもらい、出所後議員にまでなった人もいたとか(このくだり、最近読んだ本によく出てくるので、いい加減に嫌になるが)。
    そして、村をあげ、県をあげ、そして、国をあげての「知らぬ存ぜぬ」の歴史的な隠蔽工作。さすがに、呆れるを通り越し、同じ日本人として、恥ずかしい。

    この事件自体も非常に衝撃的であり、かつ恥ずべき黒歴史ではあるが、それより、関東大震災直後の混乱に乗じて、国の施策で、ザイニチ、在日中国人、社会主義者、アナーキスト集団を、軍隊や警察組織を導入して惨殺していた事実。これを、私は全く知らなかった。関東大震災では、単に地震と火事でたくさんの日本人がなくなったかとばかり思っていたのだ。
    おそらく、私の様な日本人は少なくないのではないかと思う。

    この本は、そんな私達に非常に衝撃的な、私達の100ねんまえの先祖の悪行を突きつける1冊である。我々は、これから逃げることなく、しっかり受け止め、記憶と記録に残して、未来の子孫達に伝えていかねばならない。同じ間違いを我々か2℃と犯さない為に。それが、我々に少なくとも出きること。
    非常に重い1冊です。
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    投稿日:2024.02.05

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