快楽としての動物保護 『シートン動物記』から『ザ・コーヴ』へ
信岡朝子(著)
/講談社選書メチエ
作品情報
ペットと家族同然に暮らしている人はもちろん、テレビやネットで目にする動物の映像を見てかわいらしく感じたり、絶滅が危惧される動物や虐待される動物がいることを知って胸を痛めたりする私たちは、動物を保護するのはよいことだと信じて疑いません。しかし、それはそんなに単純なことでしょうか――本書は、このシンプルな疑問から出発します。
子供の頃、挿絵が入った『シートン動物記』をワクワクしながらめくった記憶をもっている人でも、作者のアーネスト・T・シートン(1860-1946年)がどんな人なのかを知らない場合が多いでしょう。イギリスで生まれ、アメリカに移住してベストセラー作家となったシートンは、アメリカではやがて時代遅れとされ、「非科学的」という烙印を捺されることになります。そうして忘れられたシートンの著作は、しかし昭和10年代の日本で広く読まれるようになり、今日に至るまで多くの子供が手にする「良書」の地位を確立しました。その背景には、シートンを積極的に紹介した平岩米吉(1897-1986年)という存在があります。
こうして育まれた日本人の動物観は、20世紀も末を迎えた1996年、テレビの人気番組の取材で訪れていたロシアのカムチャツカ半島南部にあるクリル湖畔でヒグマに襲われて死去した星野道夫(1952-96年)を通して鮮明に浮かび上がります。この異端の写真家は、アラスカの狩猟先住民に魅了され、現地で暮らす中で、西洋的でも非西洋的でもない自然観や動物観を身につけました。それは日本人にも内在している「都市」の感性が動物観にも影を落としていることを明らかにします。
本書は、これらの考察を踏まえ、2009年に公開され、世界中で賛否両論を引き起こした映画『ザ・コーヴ』について考えます。和歌山県太地町で行われてきた伝統的なイルカ漁を告発するこのドキュメンタリーは、イルカを高度な知性をもつ生き物として特権視する運動と深く関わるものです。その源に立つ科学者ジョン・カニンガム・リリィ(1915-2001年)の変遷をたどるとき、この映画には異文化衝突だけでなく、近代の「動物保護」には進歩主義的な世界観や、さらには西洋的な人種階層のイデオロギーが反映されていることが明らかになります。
本書は、動物を大切にするというふるまいが、実は多くの事情や意図が絡まり合った歴史を背負っていることを具体的な例を通して示します。一度立ち止まって考えてみるとき、本当の意味で動物を大切にするとはどういうことかが見えてくるでしょう。
[本書の内容]
はじめに
序 論――東西二元論を越えて
第I章 忘れられた作家シートン
第II章 ある写真家の死――写真家・星野道夫の軌跡
第III章 快楽としての動物保護――イルカをめぐる現代的神話
おわりに
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商品情報
- 著者
- 信岡朝子
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社選書メチエ
- 書籍発売日
- 2020.10.09
- Reader Store発売日
- 2020.10.08
- ファイルサイズ
- 4.8MB
- ページ数
- 400ページ
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この作品のレビュー
平均 3.4 (7件のレビュー)
-
動物を保護することそれ自体は、素晴らしいことだと思うが、どこか商業的であったり、偏りがあったりする点が否めないのが、現代の動物保護の問題点なのかもしれない。
この本は、そんな「偏りのある動物保護」…を「快楽としての」という批判をしていて、シートン動物記から、写真家・星野道夫、そして、一時話題となった『ザ・コーヴ』の3点から考察していく。
一見、あまり関連性のない3つのテーマだが、話が進むにつれて、一つにつながっていく展開が、なかなか面白い。
(P358)『多様性を大切にする発想とは、多様なものの中には自身の嫌いなものも含まれているという事実を認めてそれを引き受けることだ』
本を含むメディアの情報は、全て切り取られた自然であり、自然そのものを体感することは難しくなっている。
「動物を守ろう」という運動は、その動物の、かわいさだとか、人懐っこいところだとか、そうしたアイコニックな部分が強調されるのはある意味では仕方がないのかもしれない。
「全て」を掬い取ることは難しいが、少なくとも一度は目を向けてみる必要性があることを、今後も忘れてはいけないと感じた。続きを読む投稿日:2022.05.20
悪くはないのだが・・・と、まずは言いたくなる一冊。
「マクロな視点に立つと、シートンの動物物語、星野の動物写真、そして映画『コーヴ』という三つの事例は、互いに関連性がないように見えて、実は20世紀と…いう大きな区切りの中で、一つの壮大なプロセスとして根底で深く繋がっている」
ということを解き明かそうと事実を積み上げるが、後半になってやっとこさ繋がっていきそうにみえるが、もどかしさが募る。
あれこれ、面白い事実、考察は述べられているが、とっちらかった感が否めず、読み終わっても、それら要素をうまく繋げられないでいる。
ともかく、本書の一番の収穫は、「シートン動物記」は、日本だけでもてはやされているという事実!? 小学生時代はほとんど読書なんぞしなかった自分でも、読んで感動した覚えのあるシリーズだ。それがっ!?
「シートンの物語が事実とフィクションの間にある「決して越えられてはならない」一線を越えているがゆえに非難されるべきだと主張した」(by バローズ)
まぁ、確かに当時も物語としてできすぎてるな、と思ったけどね。
あ、あと「コーヴ」は観ておかなきゃね。続きを読む投稿日:2022.08.29
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