家族はなぜ介護してしまうのか――認知症の社会学
木下衆(著)
/世界思想社
作品情報
介護を頑張りすぎることへの問題提起――患者の人生や性格に合わせた介護が求められる現在の認知症。患者をよく知るからこそ、家族は悩み、憤り、反省する。認知症を理解し、介護へと導かれ、患者との関係を再構築するまでの家族の営みを丹念に描く。
――はじめにより
彼ら家族たちは介護保険サービスを利用しながらも、何らかの形で介護を担っていた。彼らは例えば、日常的にケアマネジャーと介護の方針についてすり合わせ、患者が通う通所介護施設(デイサービス)を訪問して日々の様子を観察し、サービス内容に意見を申し立てていた。……
これから事例として紹介するように、彼らは介護の中で、悩むこと、憤ることを繰り返す。頼れるプロがいながらも、そして「介護はプロに」と思いながらも、彼ら家族は介護に、いわば巻き込まれていってしまう。……
私が注目するのは、「認知症」という病だ。そこに、「家族はなぜ介護してしまうのか」という謎を巡る、重要な論点が隠されている。
鍵となるのが、患者個々人の「その人らしさ(personhood)」に関する知識だ。患者本人を介護の中心に据え、多様な専門職がかかわる介護の体制がつくられるからこそ、介護家族の知識が頼られ、介護にかかわらざるを得なくなってしまう。
……そんな彼らが、何を目指し、何に苦悩しながら介護をしていたのか。社会学の立場から、きちんと分析をしておきたい。
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この作品のレビュー
平均 4.8 (5件のレビュー)
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筆者が書いている通りこれは学術書なので、介護について学んだ経験がない自分には、専門用語や説明内容が少々読み辛いところもあった。
しかし各章の間に挟まれる、介護家族の会の方たちの対談はその前の章の内容を…受けた物であり、実際の現場の話なのでわかりやすく、第三者である読者にも問題点が掴みやすい。
また、介護をする家族の方たちのエピソードも丁寧に書かれていて、イメージしやすかった。その中で、ある介護者が中程度の認知症の自身の親の過去を振り返って、「今考えると、あの時点でやはり…」というようなことも語られていて、親の様子に引っかかりを感じて悩んでいる人には、とても参考になると思う。
認知症に対する考え方、介護環境の変化や、そうなったからこそ生じる家族間の齟齬や悩みも浮き彫りにされている。これから介護が始まるであろう自分にとって、この先の道標となる本だった。2019.11.1続きを読む投稿日:2019.11.01
家族介護が普通にあって当人の尊厳を尊重するのが当たり前の今の社会の一端を知れるだけでなく、規範や概念というものが日常社会のなかでどのように関わっていくのかが見えてくる面白さが良かったです。とくに黒澤明…の「羅生門」のような語り手によって真実が変わっていく構築主義的な内容は興味深かったです。
同居家族が介護の中心となったのは1970年代以降からで、それまでの身体拘束と投薬が中心となっていた認知症患者への対応が改められた現代。まさに「新しい認知症ケア時代」となった当節。
そこでは認知症患者の尊厳が重視され、そのために認知症という概念の理解やそこから生まれる適切なケアという規範が当事者のこれまでの人生歴と参照されながら介護が行われていく。そのときに当事者の人生をよく知る家族が介護のキーパーソンとなっていく。
この研究書の面白いのが、家族が当事者のライフヒストリーと認知症の知識を照らしながら介護していく過程で当事者の人生が家族によって再解釈され新たに構築されていく過程が如実に記されているところ。認知症概念やケアのなかで得られた情報がその人と家族の関係に影響を与え、それが次の介護にも影響していく相互反映的な関係性はとても面白かった。それに合わせて構築されていく規範もまた興味深く、個人の事柄が社会的なものとなる様相が介護の専門書としてだけでなく社会構築主義の学問書として魅力的な1冊でした。
介護の本としては小難しいところもありますが、社会的な生き物としての介護の面白さに触れられる良い1冊でした。続きを読む投稿日:2023.12.21
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