【感想】家族はなぜ介護してしまうのか――認知症の社会学

木下衆 / 世界思想社
(5件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • 4614

    4614

    家族介護が普通にあって当人の尊厳を尊重するのが当たり前の今の社会の一端を知れるだけでなく、規範や概念というものが日常社会のなかでどのように関わっていくのかが見えてくる面白さが良かったです。とくに黒澤明の「羅生門」のような語り手によって真実が変わっていく構築主義的な内容は興味深かったです。

    同居家族が介護の中心となったのは1970年代以降からで、それまでの身体拘束と投薬が中心となっていた認知症患者への対応が改められた現代。まさに「新しい認知症ケア時代」となった当節。
    そこでは認知症患者の尊厳が重視され、そのために認知症という概念の理解やそこから生まれる適切なケアという規範が当事者のこれまでの人生歴と参照されながら介護が行われていく。そのときに当事者の人生をよく知る家族が介護のキーパーソンとなっていく。

    この研究書の面白いのが、家族が当事者のライフヒストリーと認知症の知識を照らしながら介護していく過程で当事者の人生が家族によって再解釈され新たに構築されていく過程が如実に記されているところ。認知症概念やケアのなかで得られた情報がその人と家族の関係に影響を与え、それが次の介護にも影響していく相互反映的な関係性はとても面白かった。それに合わせて構築されていく規範もまた興味深く、個人の事柄が社会的なものとなる様相が介護の専門書としてだけでなく社会構築主義の学問書として魅力的な1冊でした。

    介護の本としては小難しいところもありますが、社会的な生き物としての介護の面白さに触れられる良い1冊でした。
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    投稿日:2023.12.21

  • ロニコ

    ロニコ

    筆者が書いている通りこれは学術書なので、介護について学んだ経験がない自分には、専門用語や説明内容が少々読み辛いところもあった。
    しかし各章の間に挟まれる、介護家族の会の方たちの対談はその前の章の内容を受けた物であり、実際の現場の話なのでわかりやすく、第三者である読者にも問題点が掴みやすい。
    また、介護をする家族の方たちのエピソードも丁寧に書かれていて、イメージしやすかった。その中で、ある介護者が中程度の認知症の自身の親の過去を振り返って、「今考えると、あの時点でやはり…」というようなことも語られていて、親の様子に引っかかりを感じて悩んでいる人には、とても参考になると思う。

    認知症に対する考え方、介護環境の変化や、そうなったからこそ生じる家族間の齟齬や悩みも浮き彫りにされている。これから介護が始まるであろう自分にとって、この先の道標となる本だった。2019.11.1
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    投稿日:2019.11.01

  • 乱読ぴょん

    乱読ぴょん

    ▼本書が明らかにするのは、私たちが新しい認知症ケアの時代にあるからこそ、家族のケア責任が強化されるという事態だ。こt認知症介護において、他の立場の人びと(介護専門職など)が、あるいは介護家族自身が、介護家族の知識を重視する場面がある。それは、私たちが「痴呆を生きる一人ひとりのこころに寄り添うような、また一人ひとりの人生が透けて見えるようなかかわり」(小澤2003:195)が重要だと知っているからだ。(p.27)

    ▼…本書があらためて強調したいのは、その多様な「私たち」の経験の中でも、今だからこそ「介護家族」の経験に注目する重要性だ。序章でも述べた通り、患者一人ひとりのその人らしさを尊重することが、現在の認知症ケアの目標となる。だからこそ、介護福祉士が患者の生活歴に根ざした環境を整えようとするとき、看護師が患者の行動への対応を考えるとき、あるいは医師が患者の発症時期を特定しようとするときでさえ、患者のライフヒストリー、つまり患者の人生が重要な知識として参照される。しかし、その患者の人生に関する知識は、専門職にない。そこで家族の知識が重要なものとして頼りにされる。家族は、こうして特徴的な形で介護にかかわり、独特のケア責任を負っていく。(p.38)
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    投稿日:2019.09.22

  • ひまわり

    ひまわり

    認知症の親の介護に悩む中でこの本に出会いました。
    本人の横暴な言動、それにどのように応じたらいいのか。
    毎日悩んで苦しんでいたことが、この本を読むことでずいぶんと楽になりました。
    様々なケーススタディが織り交ぜられており、説得力があるし腹落ち感のある内容でした。続きを読む

    投稿日:2019.06.08

  • mishuranman

    mishuranman

    このレビューはネタバレを含みます

    今の介護の在り方がそう前からあるものではないこと、「端的に認知症というカテゴリーが強調される「新しい認知症ケア時代」において、疾患であることも本人の思いに配慮することの重要性も共に含みこんだ認知症という概念が、相互作用に何をもたらすかということを検討」したい」というテーマが社会学の見方らしい。
    リアリティの緊張関係が介護家族にとって大きな負担、というのが概念としてであることがどれほど救いになることか。
    新しい認知症時代が介護家族に深い悩みをもたらす困難な取り組みである。早く気づけないこと、思いをくみ取れないこと、怒ること、ケンカすること、、、が誰にもなんともできない構造的な問題であることを介護者がそれでも支えていくのが「新しい認知症ケア時代」という結論になるのかなあ。その人らしさの価値は、どのあたりから重要になってきたんだろうか。

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    投稿日:2019.04.05

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