勝つための状況判断学 軍隊に学ぶ戦略ノート
松村劭(著)
/PHP新書
作品情報
たとえば湾岸戦争のような、異なる国の軍隊が共同して戦う連合作戦は、いかに遂行されるのか。指揮系統の上下間や部隊間で、スムースな調整を行なうためには、ほとんど機械的とも思われるぐらいに、「見方、考え方」の順序を厳密に定めることが不可欠だ(「軍隊の思考過程」)。一方で、組織の上に立つリーダーの思考法はまったく正反対である。体験的知識をもとに「直覚」を活用し、電光石火、手を叩く間もなく決断し行動する(「プロの思考過程」)。本書では、古今の軍隊の豊富な事例と名将の言葉をもとに、状況判断における二つの思考過程を徹底解剖する。軍隊にかぎらず、日本の組織はますます専門化し、IT化している。人間のもつ決断の速さと創造性と総合性は、むしろこうした時代だからこそ必要とされるだろう。「『人生は決断の連続である』と覚悟することが必要なのだ。そして『決断』するには『クーラージ・デスプリ(精神的勇気)』が必要なのだ」。
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商品情報
- シリーズ
- 勝つための状況判断学
- 著者
- 松村劭
- 出版社
- PHP研究所
- 掲載誌・レーベル
- PHP新書
- 書籍発売日
- 2003.12.01
- Reader Store発売日
- 2013.04.19
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 216ページ
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この作品のレビュー
平均 3.4 (9件のレビュー)
-
・たとえば、一家で奥さんが、「子供によい教育を受けさせるためには、〇〇学校に入れてその後は海外に留学させなければなりません。そのためには、授業料が高くてもA予備校に入れなければ。このままでは将来の希望…がないのよ」といえば、一方で夫のほうは、
「そんなことをいったって、いま俺が稼げるのはこれが精一杯だ。会社の付き合いの飲み代にもこと欠く始末なんだから…。でもそれをしなければ、稼げるようになる人間関係もできないんだよ。少しづつしか進めないんだ」という。
…奥さんのほうは目標からアプローチするから、どうすべきかの道は見えるが、現実とのかい離が大きくて答えが出ない。一方、可能性からアプローチする夫のほうは、遠くに目標は見えるが到達する方法はなかなか見つけることができない。この夫婦の議論は永遠に結論が出ない。異なる国の軍隊が共同して戦う連合作戦が可能なのは、ほぼこの「見方、考え方」の手順が合っているからだ。
・それまで米軍は定型の状況判断の思考方法を実はもっていなかった。ドイツ軍もフランス軍も同様で、どちらかといえば、「目的に寄与するためには、何をしなければならないか」を考察し、それを達成する方法を経験則に当てはめて実行要領を定め、妨害する敵と戦い、戦闘環境を排除するという「演繹的思考過程」を使っていた。要は、「何をすべきか」を考える方法だが、これは米軍も日本軍も同じだった。
考え方が違っていたのは、英軍で、彼らは「遠くの目的に向かって何ができるか」の選択肢をかき集めて、最も容易な道を選択するという「帰納法的思考過程」を使っていた。「何をすべきか」ではなく、「何ができるか」を考える方法である。なるほどイギリスはゴルフ発祥の国といわれるだけあって、考え方はゴルフ的だ。ピンが立っている遠くのグリーンに近づくために、とりあえず最初の一打で、どのクラブを使ってどこを狙って打つのが合理的か、と考える。
・ある命題、つまり「何かのために」「どうすればよいか」という結論を得る考え方が適用される状況は、「かけ引き」を必要とするかどうかによって、二つに分かれる。
たとえば、前者は、東京から富士山麓の山中湖に行くときに、高速バスを使うか、電車を乗り継ぐか、レンタカーで行くかの三つの選択肢の中から最良案を選ぶようなケースであり、後者は、犯人(自分)が警察(敵)に捕まらずに東京から山中湖に逃れるのに、どの移動方法が最も危険が少ないか、を考えるようなケースである。
・フランス革命に命を賭けていたころのナポレオンは、ある人から戦略の極意とは何かと尋ねられて、
「一人の農民に『ジェノアに行く道は?』と尋ねたら、『ボビオの街を通って(もっとも判りやすい経路)を行け」と答えるだろう。そして、そうするのが最も優れた戦略機動である」と答えている。
・実際には、部下部隊は容易に実情を報告しないものである。それは悪意があって報告しないのではなく、部下の性格や直面している状況によって実情の認識や報告のタイミングが狂ってしまうのである。
気の強い部下なら、苦戦していても「大丈夫です」と報告するだろうし、慎重な部下なら、「敵の勢いが強くて、苦戦中」と報告するだろう。戦闘の最中にある部下なら、「報告は後回しだ」ということになり、戦況が不明なら「見込み勘定で報告」する。
だから、名将ロンメルは機関銃大隊を自分の直轄指揮下におき、味方の第一線の状態を報告させた。パットンは騎兵大隊を、モンゴメリーは”ファントム部隊”を臨時に編成して同じ目的に使った。
・「主敵はどれか?」の認識は、よほどのことがないかぎり間違うことはない。問題は主敵のなかの”打撃する弱点”をいずこと判断するかにある。続きを読む投稿日:2013.10.01
2003年に発刊された本書を2008年に購入。一度読んで、その後長いこと本棚にあったものを再読した。
松村劭(つとむ)氏(1934-2010)は防衛大学を卒業後、陸上自衛隊作戦幕僚、防衛研究所、イギリ…ス国際戦略研究所などで働いた、戦略・戦術の専門家である。
昔は本に書かれている内容の一言一句を理解したいと思っていたが、最近はそうではない。一つでも二つでも得るところがあれば良いと思って読んでいるが、本書はその読み方しかできないだろう。戦争の体験もなければ戦場に行ったこともない私が本書を理解できるわけあるまい。
しかし、本書から学べる点は多々ある。名将の状況判断は直観的だ。それは情報を総合し、知識と経験を総動員して導かれる直観的判断だ。それは名将の成せる技であるから、一般的には「演繹的帰納」を使う。目標を見定めた上で戦術を選ぶ思考法である。経営コンサルタントは所詮、この手法ではないか。MBAホルダーが敬遠される理由もここにある。科学的で論理的で一般的な手法。それが成り立たない世界では通用しない。続きを読む投稿日:2024.03.12
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