imagawayakiさんのレビュー
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〈すべての夢|果てる地で〉 第3回創元SF短編賞受賞作
理山貞二 / 東京創元社
”SF初心者”の方に勧めたい。
3
この作品は過去のSF作品のオマージュやリスペクトに満ちている……そうだ。
なぜ、こんな曖昧な書き方をしたのかというと、わたしは”SF愛好家”を自称するほどにはSF小説を読み込んでいなかったからだ。
主…人公Kが小松左京、アーサーがアーサー・C・クラーク、アイザックがアイザック・アシモフ、ボブがロバート・A・ハインラインを其々、名前の元ネタにしているのが分かった程度で、それ以外にも存在するであろう”内輪ネタ”には気づくことができなかった。わたしはたぶん、作品の魅力の半分には依然として触れていないままなのだ。
ただ、もう半分の魅力は存分に堪能できた。
〈すべての夢|果てる地で〉は他のSF作品のオマージュやリスペクトを抜きにしても、質の高いサイエンス・フィクションだ。実在するSF小説と絡めて、独創的な要素を相対的に薄めてしまったのが惜しいとさえ感じられる。
物語の舞台は社会の歪みが顕在化し、破局の予兆が見え隠れしつつある近未来。主人公Kは世界の何処かにあるという量子コンピューターを求めて旅を続けている。だがKは知らず知らずのうちに恐るべき陰謀に加担させられていた。
この作品の最も独創的な部分のひとつは、その”陰謀”の内容だ。あまりにも壮大な陰謀で、ネタバレされるまで気づかないのは請け合い。また、そのときに奇妙なタイトルに込められた意味が分かるはずだ。
むしろ”SF初心者”の方に勧めたい。
わたしの場合はSFの知識が無かったことが、作品を客観的に評価する助けになった。
ただオーウェルの”1984”だけは読んでいても損はないかもしれない。
この作品はディストピア(悪夢のような世界のこと)のイメージを1984に強く依存していて、読者が1984を読んでいない場合を想定していないように思える。
わたしは前に1984を読んでいたために、謎が明かされたときに強烈な衝撃を受けた。しかし、そうでない人にとってはどうだろうか。 続きを読む投稿日:2014.02.04