キーオさんのレビュー
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嫌われる勇気
岸見一郎, 古賀史健 / ダイヤモンド社
青年のキャラクターがおもしろい!
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青年と哲人の対話形式で話は進んでいきます。
世界は矛盾に満ちた混沌であり、ましてや幸福などありえない!と現実や自分に嫌悪感を抱く青年と
「アドラー心理学」を修めた哲人との討論のような形です。
一般的…な対話形式だと一方が主張したいことを他方がいい質問をして
説明を補足していきます。二人で山を作るようにテーマを盛り上げていき、
結局は平和的に話が深くなっていくものが大抵のものです。
しかし、この本は違います!
青年は哲人の話の矛盾を突こうと、いつもスキをねらい、論破してやると若者らしく戦いを挑み続けるのです。
このやり方が上手いと思います。
なおかつ、この青年がどうも普通の人じゃないんです。失礼を恐れずに言えば「変な人」なんです。
そしてふと、これってドストエフスキーの小説に出てくる人に似ているなぁ・・・と感じました。
彼の小説の登場人物たちも変わった人たちが多く、狂ったように自分の世界に入り込んでしまいます。そこが魅力的ではあります。
この青年にも同じ性質があるのではないか、そう思います。
以下、著書からの引用(青年のセリフ)↓
「・・・・・・先生、あなたはわたしをペテンにかけようとしている!」
「ええい、くだらない!なんて馬鹿馬鹿しい考えだ!」
「先生、あなたは完全な自己矛盾に陥っている。世間で恥をかく前に、わたしがその鉄面皮をはがしてさしあげましょう!」
などなど、とても個性あふれるセルフです。この彼のキャラクターがこの本を面白くしているのではないでしょうか。
『罪と罰』では
主人公ラスコーリニコフと予審判事のポルフィーリと
また、ラスコーリニコフと聖なる娼婦ソーニャとの対話に似ていると思います。
ラスコーリニコフは対話相手をやり込めようとします。
本著の青年にエッジが効いているところが似ています・・・・・・
青年と哲人との対話は「信念の対決」であります。この戦いを青年の立場で読んでいけば、
なお、おもしろくなることでしょう。(ご拝読、ありがとうございました)
続きを読む投稿日:2015.09.14
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新・平家物語(十六)
吉川英治 / 吉川英治歴史時代文庫
常に大衆と共に!
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16巻もあったのか、と思うぐらいあっという間な感じがいたします。
振り返れば、平清盛の隆盛、源頼朝の旗揚げ、平家の没落、源義経の最期と
壮絶な歴史ドラマでした。書き上げた吉川氏には敬意と感謝の気持…ちでいっぱいです。
末巻ということで、義経の死に際があり、それぞれの登場人物のその後があり、
エンディング要素たっぷりで、感慨にふけってしまいます・・・・・・
吉川氏が描かれる義経はホントに美しいです。強く、切なく、愛されるべき人物です。
歴史的には諸説ありますが、落ち目の、今や打たれんとする彼に死地まで付き従った弁慶などの信頼する家臣たちがいたというのは事実であります。それだけを取ってみても、義経にはどこか人間的な暖かみがあったのではないかと思います。
そして、影の主人公・麻鳥!彼は全編を通じて、愚直に不器用なぐらい、人のために尽くしてきました。
善の集合体みたいな人です。超一流の医術を会得しながら、富や名声を求めることなく、一番大事にすべき家族を犠牲にしてまでおのれの生き方を貫きました。その生活はいつも庶民と共にありました。
きっと吉川氏の清らかな部分が表現された人だったのでしょう。いつも庶民の目線でお書きになることを忘れず、権力者たちを傍から見る客観的な視点、愚痴や貧しさ、ありきたりな日常生活、その中にささやかな幸せを見出すこと、
そのようなことが、麻鳥をという人物を通じて、人々への暖かさとして感じられました。
この物語も、麻鳥・蓬夫妻で微笑ましく、締めくくられます。吉川先生、ありがとうございました! 続きを読む投稿日:2018.03.30
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決闘の辻
藤沢周平 / 講談社文庫
武蔵敗れたり?!
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藤沢周平の斬り合いの描写が好きで購入しました。
5つの短編で構成され、その道では有名どころをそろえているようです。
一貫して流れているテーマは「老い」のように感じます。その対象になる人物は主人公で…あったり、師匠、仇、など様々です。1980年代にそれぞれの話が書かれているようで、著者が50代の頃と考えられます。1997年に他界、ということなので藤沢自身、その死の足音を、意図してか、無意識か、どこかに聞こえてきていたのかもしれません。少なくとも体力の衰えは日々感じていたことでしょう。それが物語の中に反映されているように思います。
【↓↓ここからネタバレです。ストーリーが気になる方は読まないでください】
やっぱり初っ端、宮本武蔵の話が一番印象に残ってます。
その著書『五輪書』では冒頭に、六十余度まで勝負したが一度も負けたことはない!と書かれてます。武蔵不敗伝説とでもいいましょうか。とりあえず武蔵はずっと勝ち続けていたと見られていました。そこに一石を投じたのがこの「二天の窟(あなぐら)」です。
鉢谷助九郎という無作法の若者が現れ、武蔵の生涯の最後に汚点を残すかと危ぶまれました。
「鉢谷助九郎!」と岩から飛び降りさま、剣を振り下ろす場面は迫力満点です!この本のなかで一番(私にとっては)心に刻み込まれたところでした。まぁ言ってみれば不意打ちです。でも・・・なぜか読後はさわやかなものでした。
吉川英治の武蔵は、自己鍛錬に終始した誰が読んでもカッコイイというイメージです。他方、司馬遼太郎などが描く武蔵は、勝つためなら何でもする、手段を選ばない戦略をめぐらす合理主義的なところがあります。どちらが真実、虚構だということはなく両者とも宮本武蔵、その人だと思います。それらをひっくるめ、私は武蔵が好きです。ただ、この短編は後者の司馬遼太郎の武蔵像に近いですね。しかし、あの一瞬の勝負にはしびれました!「勝利への執念」です。兵法者宮本武蔵ここにあり、って感じです。
『五輪書』執筆の経緯など合わせて書かれており、「晩年の武蔵」という変わった切り口で描かれております。若い頃の武蔵作品もいいですが、また違った面白さがありました。
続きを読む投稿日:2018.03.31
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あずみ(1)
小山ゆう / ビッグスペリオール
巧みな構成に圧倒されます
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第一話の仲間同士の対決という試練!
その前の、なち、とあずみとの会話では
彼らがどんなに外の世界での活躍を夢に抱いているか、
そして、一緒にそれを分かち合うことを胸に描いております。
しかし、…この試練により、敗者はこの世の夢を奪われ、
勝者には、その加害者であることをしいています。
爺の心、いかばかり?よく手塩に掛けて育てた子どもたちを
半分も失ってしまうという命令を下せたものだなと思います。
子どもたちの名前は孤児であった彼らが拾われた地名からとったらしく
そこから爺が本当に日本各地を渡り歩き、素質を見ぬいた子であったことが分かります。10年という歳月をかけて、ようやく修行を終えさせた子供たちでありました。
実はこの試練で一番つらかったのは育ての親である爺だったのではないでしょうか。
下谷の村の襲撃の際も、わざわざ前日に見学に行かせて、村人たちと交流をもたせてうえで、命令を下しています。これも情に流されず、感情の問題を乗り越えて、いかに徹頭徹尾、使命を果たせるかを試しています。
なぜ、このような試練を与えたかは、言わずもがな、ですが
やっぱり戦闘能力よりも「心」、「精神的な葛藤」にいかに打ち勝つことができるかが、もっとも大事だと考えていたのだと思います。爺は戦国の世を生き抜く中でそれを学んでいたのでしょう。
また下谷の村での成功により、子供たちに自信をつけさせ、最初の指令へと
向かわせる親心のような優しさをも見せております。 続きを読む投稿日:2020.09.08
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あずみ(2)
小山ゆう / ビッグスペリオール
あずみ怒り爆発!(ネタバレあり)
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第九話 彼ら・・・・・・
第十話 柳太朗無残
第十一話 祭
第十二話 枝打ち
第十三話 野伏せり
第十四話 怒りと悲しみ
第十五話 御前試合
第十六話 加藤清正
第十七話 甲賀忍者
…ーーーーーーーーーーーーーーーーー
・柳太朗の強さ
・女友達との関係
あずみの攻撃を一、二度致命傷を
免れただけでも、柳太朗は相当の手練れであったことがわかります。
彼が命を捨てても、あずみに伝えたかった思いに
グッと来るものがあります。
また、あずみと同性の女友達(すえちゃん)が登場します。
あずみは男と出会えば惚れさせて、女と出会えばすぐ友達になるという
魅力あふれた存在ですが、この子は最初の女友達です。
野伏りによって、すえの姉が斬られてしまったことが、あずみたちを守ろうとしたことであり、あずみ自身がそのことに、責任を感じてしまったのでしょう。
終始、すえに謝り続けています。しかし、その思いに答えることもできず、あずみに怯えきっています。
別れ際にあずみが小さなコマを投げるところは、すえへのまっすぐな思いを表現しています。
人一倍仲間思いで、優しいあずみに、野伏り襲撃の罪悪感を与える
ところはなんとも言えません。
飛猿の登場
加藤清正編の始まり
ほか見所多数。 続きを読む投稿日:2020.10.04
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あずみ(3)
小山ゆう / ビッグスペリオール
女であることを受け入れられない、あずみ
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漫画夜話[あずみ]で語られてましたが↓
https://www.youtube.com/watch?v=pQJw5wiDkGQ&t=5077s
小山先生が描く人物は、眉毛が太く濃いほど善人だそうで…す。
それを参考にするならば、登場してくる「加藤清正」「井上勘兵衛」などは
眉毛が立派に描かれており善人となります。
しかし、彼らは徳川政権下では敵方となり、あずみたちの標的となっています。
本編の中でもこの「豊臣」方は戦を起こそうと企てているのですが
なぜか悪いことをしようとは感じにくくなっています。(佐敷三兄弟は別です)
逆に「徳川」方のほうが人相が陰鬱で悪人のようで、読者に単純な勧善懲悪ではないことを伝えています。
この巻では二人目の女友達である「やえちゃん」が登場します。
彼女はこの先の「左近」が出てくるとこでも活躍します・・・
悲しみに沈むやえちゃんを慰めようとする箇所で、爺の「ほいほい踊り」をやれとひゅうがに言われ、人通りがあるからと恥ずかしがる、あずみ・・・
前の話で全裸で人前で戦っていたあずみなのになぁ、と少し変に思うのですが
あずみのその頃の人となりを感じさせます。
女性の身体になる兆候を示すあずみに、爺はその所作を教えるのですが
「なんで今までどおりじゃいけないんだ―――っ!?」と
あずみは、めずらしく爺に反抗します。この辺からもまだ女としての自分を喜ばしく思えない、葛藤のさなかであることが伺えます。
・あまぎ、あずみの胸の中へ
・2場面同時進行で見せる対照の妙(佐敷三兄弟に襲われる箇所)
・家康初登場
・勘兵衛の過去
・どうなる加藤清正?
ほか、見所多数。 続きを読む投稿日:2020.10.09