村上タクタさんのレビュー
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69
このユーザーのレビュー
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公正的戦闘規範
藤井 太洋 / ハヤカワ文庫JA
近未来SFの俊英が描く、最新短編集! お勧めっ!
1
電子書籍で人気を博して実際に本の出るSF作家になったという、まるでSFの中の話しのような経緯でデビューした近未来SFの俊英、藤井太洋さんの最新短編集。
5つのエピソードが載っていて、インターネッ…トがなくなって、閉じたトゥルーネットのある世界のコンピュータに生まれた知性を描く『コラボレーション』。
量子コンピューティングをテーマに、近未来のフィリピンで展開される『常夏の夜』。
軍用ドローンがブンブン飛んで楽しいです。上海のゲーム会社を舞台に、主人公が昔持っていた中国が国策的に作っていたスマホHW7に入っていたアプリについて意外な秘密が明かされていく『公正的戦闘規範』。
今のトランプ政権下では笑うに笑えない、銃が持ててて、白人優位で、テクノロジーに肯定的でないもうひとつのアメリカが独立している未来を描く『第二内戦』。
そして、一番SFっぽい、木星系の資源採掘に携わる宇宙労働者の話『軌道の輪』。
どの話も、実現性がロジカルに考えられていて、最新のIT業界などに詳しい藤井さんならではの作品。SF好きは必読! 続きを読む投稿日:2017.09.08
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竜馬がゆく(一)
司馬遼太郎 / 文春文庫
新撰組側からの近江屋事件と、竜馬側からの近江屋事件
2
私は、HNKの大河ドラマ「八重の桜」から明治維新モノに入って、浅田次郎の明治維新もの3部作や、司馬遼太郎の「萌えよ剣」と、幕府側というか、新撰組、会津側から明治維新の物語を読んでいたので(普通と逆?)…、初めて薩長側からの話を読んで非常に興味深かった。
最後の巻では、まぁ、当然有名な近江屋事件で龍馬は世を去るワケですが、この物語では、そこをどう描くのか非常に気になりました。常に飄々として、諧謔に富み、剣の達人である龍馬が死ぬとは思えないストーリー運びだったからです。さて、本書で、近江屋事件はどう描かれるか、そこにどうやって至るのか……ぜひ、読んでみて下さい。 続きを読む投稿日:2016.05.02
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燃えよ剣(上)
司馬遼太郎 / 文春文庫
土方歳三は時代のあだ花だったのか?
2
旧幕府のあまりにも過激な治安維持組織としてスタートし、結局のところ薩長の倒幕派と徹底的に対立し、新しい時代を立ち上げた明治政府と徹底して敵対した組織だった。
本書はその新撰組を一貫して土方歳三を中心…に描いている。『信念』というものがあったわけではないのに、あまりにも戦争能力が高い戦屋としての側面と、女性に対して少年のように不器用な一面が描かれている。
本当にそういう人物だったのかは分からないが、池田屋から、鳥羽伏見、合津、箱館と戦い続ける土方歳三は、なぜ新時代樹立のための抵抗勢力であり続けたのか。そのエピソードの始めから終わりまでを追うことができる。
読み終わって思うのは、彼がいなかったら歴史はどう変わっていたのか? 新しい時代が早く来たのか? 彼がもっと聡明な志を持つ男に仕えられる位置にいたらどうなっていたか? だ。旧軍の元帥とかになっていたのだろうか? 続きを読む投稿日:2016.03.11
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火花
又吉直樹 / 文春文庫
未来がどうなるかわからないままに、朝方のラーメン屋で先輩の説教とか聞かされたよね
6
たまたま、Reader Storeのポイントが期限が切れそうだったので、芥川賞受賞作品ということで読んでみた。
簡単にいうと、若い売れない芸人の『スパークスの徳永』が『あほんだらの神谷』に出会って慕…い続けるっていう話。
読み始め、やたら一文が長い文体が気になったけど、それは最初の方だけだったので、ただ単に又吉さんが本当に文章を書き慣れなかっただけの話なのだろう。
『神谷』は天才芸人かも知れないって徳永は思っているけど、いわゆる偏り過ぎただけの人で、全然売れないし、評価されないし、女の人にぶらさがって生きてるし、なのに虚勢張って後輩の徳永にメシ奢ったり、借金がどんどん嵩んでいったり、どんどん後輩に追い越されていったりする。そして、次第に若干、より壊れていく。
『徳永』は、神谷より少し真っ当、少し売れたりするけど、結局お笑いでメシを食っていくほどのことはできず、現実に引き戻されていく。
酔いつぶれて神谷と吉祥寺の夜の道をを延々と歩くところとか、なんか若い人独得の閉塞感というか、未来の見えない感じとか、ダメな先輩の独善に振り回される感じとか、ああ、あるある……っていう感じ。自分の若かった頃とか、たしかに思い出した。未来がどうなるかわからないままに、朝方のラーメン屋で先輩の説教とか聞かされたよね……。
思いの外面白かった。 続きを読む投稿日:2015.09.27
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赤猫異聞
浅田次郎 / 新潮文庫
複数人の語りで描く『解き放ち』の多面性と、衝撃の結末
4
相変わらず面白かったですが、浅田次郎作品の中でもこのプロットの面白さは出色の出来。長い江戸時代が終わって、開明な世の中に移る直前の、まさにどさくさ紛れのストーリー。浅田次郎ファンなら必読!
投稿日:2015.09.15
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霞町物語
浅田次郎 / 講談社文庫
浅田次郎さんらしい秀作
3
戦後、高度経済成長期東京の青春時代。
刹那に生きる若者の時代と、去りゆく頑なな、しかししっかりした時代の矜持として、写真館を営んだ祖父が描かれる。
青春がどんな時代だったかは、振り返ってこそわかる…んだなぁ……と思う。 続きを読む投稿日:2015.09.06