EXPO'70さんのレビュー
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合本 64(ロクヨン)【文春e-Books】
横山秀夫 / 文春e-Books
半分過ぎたら、もう止まらない。単行本から更に、全面的に細部に手を入れた文庫版。
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連載⇒連載中断⇒単行本のための再執筆⇒出版直前に「これではお金を取れない」と中止を決断⇒さらに全面改稿の上で単行本出版と、ここまででもかなりの難産だったという『64 ロクヨン』。
ドラマは5時間、(「…ラストが違う」どころではない、その後編における展開が原作既読者をも驚愕させ、感動させた)前後編の映画も合計で4時間ほど、でもそれでも足りないという、堂々とした超大作です。
著者の横山秀夫さんが本格的な作家活動に入る前、『マガジン』で原作を書かれていた時期につかんだ「“面白さ”に上限なし」というそのスピリットは、この、テーマも重い、主人公に与えられた負荷もきわめて重い、そして紙の本としてもけっこう重い『64』を、難しいコトバこそ出てくるものの面白くて読みやすく、半分来てしまうともう止められない、第一級のエンタテインメントとして昇華させました。
この原作は、あくまで主人公の三上視点で進んで行くため、一般的な映像作品として制作するためには、いずれにしても「同じストーリーのまま、いっぺんバラして組み立て直す」作業が必要なので、ドラマにせよ映画にせよ、決してラクな作業ではなかったはずですが、それをするだけの価値があった、ということは、間違いなく言えると思います。
「どんなか、ちょっと読んでみたい」という方には、上下巻の(上)だけでも十分だと思いますが、実際読んでみると、ページをめくるとすぐ(下)が読めるというのは、非常に快適です。
また、あまり大きく宣伝されてはいませんが、実は文庫化に際し、横山さんは本文をさらに全面的に見直し、ストーリーはそのままながら細部にわたって手を入れており(映画でいうところの《ディレクターズ・カット》、それも新しい要素抜きでブラッシュアップに徹したような感じ?)、単行本で読まれた方も、文庫版を試し読みすると「微妙な違和感」に襲われ、また読みたくなるかもしれません。
というわけで、既に単行本で読まれた方にとっても、この『64』文庫版は要チェックと言えます。
最後にひとつ。
念のため、(特に後半を)読む時には、ハンカチか箱ティッシュをご用意ください。 続きを読む投稿日:2016.05.21
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僕だけがいない街(1)
三部けい / ヤングエース
目を離すな。
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きっかけはアニメ版だったけれど、ただならぬ緊迫感と、序盤、30分枠1回でコミックス1冊分をほぼ消化してしまうという驚異のハイペースで、俺の心をすっかりわしづかみにしてしまった『僕だけがいない街』。
掲…載誌の2016年3月発売号での(ひとまずの)完結が告知されており、アニメ版監督の「(原作の)最後までやるっぽいです」というコメントもあり(共に主人公を演じている満島真之介さん・土屋太鳳さんの好演もポイント高し)、加えて藤原竜也さんが、大規模公開作では久々に“クズじゃない役”に挑む実写映画版も公開、ということで、気になっている方も多いのではないだろうか。
作者の三部けいさんは、荒木飛呂彦さんのアシスタントを(《ジョジョ》第2部終盤~第5部中盤ぐらいまで)経験されているということだが、そのタッチはのびのびとしており、擬音の描き文字の書体(?)を含め、そこはかとなく懐かしさを感じさせるものだ。
個人的には“「その先」を知りたくない派”なので、現時点ではアニメ版を追い越さないように読み進めているのだけれど、画の密度や分かりやすさではアニメ版が勝っている部分もあるものの、情報量においてはやはり、この原作コミックに一日の長があり、頭の中を整理しながら読むのもいいと思うし、先回りしてというか、単独で読んでしまうのも、もちろんアリだと考える。
「目を離すな」と言われても、一度読みはじめたら、きっと止められないことだろう。 続きを読む投稿日:2016.02.12
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【大活字シリーズ】太宰治 後期傑作選
太宰治 / ゴマブックス
又吉直樹さんもハマッた、太宰治という作家の魅力に触れてみて。
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《収録作品》
◆人間失格
◆パンドラの匣
◆薄明
◆冬の花火―――三幕
◆ヴィヨンの妻
◆斜陽
◆桜桃
◆グッド・バイ ※未完・遺作
実は、同じゴマブックスから配信されている『太宰治 後期傑作選 人…間失格/パンドラの匣/ヴィヨンの妻/斜陽/グッド・バイ』と収録内容は同一で、より大きめの活字を選んで読むことができ(普通の大きさで読むことも可能)、しかもこちらの方が若干、お安くなっています(2015年8月31日現在)。
終戦直後、自分の地元・宮城県の新聞『河北新報』に連載されたという「パンドラの匣(はこ)」も読むことができる、という興味から購入してみましたが、どの作品でも一読すれば、“暗い”“破滅的”といったようなイメージだけでは、太宰治という作家は語れないことが、きっとおわかりいただけることでしょう。
『火花』で一躍時の人となった、ピース・又吉直樹さんが思春期に読み、多大な影響を受けた……ということも、文中フッと漂うユーモアなど、読んでみれば「なるほど!」、と思えるのではないでしょうか。 続きを読む投稿日:2015.08.31
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セトウツミ 5
此元和津也 / 別冊少年チャンピオン
「何も起こらない」んじゃなかったの? 衝撃の(?)第5巻。
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ここまで『セトウツミ』を読んできた方なら、この第5巻もまた例によって例の如しな感じで流れて行くんだろうな……と、思うことでしょう。
だが、しかし。
ページが終わりに近づくにつれて、「なんかちょっと、違…う」感じに、微妙に不安を覚えてしまう、かもしれない。
でもって、少しずつ次第に、なんだかよくわかんないけど、なんかスゴいことになっちゃってしまっているので「一体どうなるんだ、『セトウツミ』は?!」と、一瞬気をもんでしまうかもしれません。
具体的に「『◯◯◯』みたいな感じ」とヒント的なことを書いてしまうと、未読の方の楽しみをそいでしまうので、何も書きませんが。
そこへ至るまでの高揚感も含めて、この第5巻で起こることは、作者の此元和津也(このもと・かづや)さんが、ただものではないことを証明している……、そう申し上げても差し支えないのではないでしょうか。
でも、最後まで読めば、“ボーナス・トラック”のおかげもあって、いつもと同じような読後感が残ることでしょう。
そして(紙のコミックスの方では、『別冊少年チャンピオン』2016年8月号(もちろん、通常の雑誌バージョン)に実写版映画の“瀬戸と内海”が同じポーズをキメている“着せ替えカバー”が付録としてついている)第6巻ではまた、例によって例の如し、ただし少しバージョンアップしているように思えなくもない、いつもの世界が展開されているのです(野良猫“ニダイメ”の出番が減って、ちょっと淋しいけど)。 続きを読む投稿日:2016.07.29