サンフレッチェ広島を愛するサッカー好きさんのレビュー
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火花
又吉直樹 / 文春文庫
全てを投入した作者の結集
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芥川賞受賞作品。更に作者がお笑い芸人。それだけでこの作品の宣伝は完結されたようなものである。実際この本は売れた。出版不況の現代、この本の存在は業界にわずかながらの活気を与えた。
が、そのフィーバーが冷…めた今、読む動機に欠けてしまうのは仕方がない。最初のページを読んでみてグイグイ引き込まれるかというとそこは好みが分かれるのではなかろうか。ただそこを過ぎれば読破までの時間はさして掛からないはずだ。
文章として、確かに芸人にしては上手い。そして芸人だからこそ書けた内容とも言える。それだけにこれが名もなき作家の作品だったとしたらその評価の度合いはちがっていただろう。
作者自身、次回作へ向けての苦悩があったようである。それが頷けるくらいこの作品で作者は全てをつぎ込んでいる。そんな余裕のなさが逆にこの作品を引き立ててくれてるのかもしれない。 続きを読む投稿日:2017.04.09
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最強伝説黒沢(2)
福本伸行 / フクモトプロダクション
独身男性の背伸び
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中年独身男性。その生活を表すのが冒頭の自宅アパートでの朝食。華やかさも何もない、ただ空腹を満たすだけの食事。主人公の黒沢は当たり前のようにそんな生活を続けてふとそれに疑問を持ったのがこの漫画の始まりだ…った。
どんなに努力しても注目されることはない。それでも建設作業員として働いてるので少なくとも生きてはいける。でもそれでいいんだろうか。ふと立ち止まった黒沢には賛辞を送りたくもなる。多くの人がそこで現状を受け入れてるがそれを変えようとするとこに共感を得る。それなのにことがことごとく裏目に出るとこに笑いを誘う。応援したい気持ちとは裏腹にそれらのハプニングに腹を抱えてしまう福本作品の異色作だ。 続きを読む投稿日:2015.09.05
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三国志全八冊合本版
吉川英治 / 吉川英治歴史時代文庫
圧巻されるスケール感
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三国志。そのタイトルを知りながらも手に取ってない人はその圧倒的なボリューム感に敬遠してしまっているのだろう。確かに全8巻からなる本書はそう簡単に読めるものではない。だが逆に言えばこのスケール感はこれだ…けの冊数に見合ったものがある。凄い時代、凄い人物、凄い歴史があったのだなとただただ圧倒されるのだった。
だが正直なところ最初の展開では劉備元徳が少し偽善めいた印象を受けそれでやめてしまう人もいるかもしれない。だがそれはほんの序章、以後の展開は策略あり、武勇あり、計略ありで息つく暇もない。登場してくる武将も数多く読み手にとって自分のお好みの人物が出てくるだろう。そして中にはこの武将とこの武将は戦ったらどっちが強いだろうか、この時この作戦が成功していればこの期の展開はどうなっていただろうかなどというまるでゲームの世界のようなイマジネーションを駆り立ててくれるのも魅力である。確かにこのタイトルでゲームや漫画になるのも頷けるのだった。
読後の感想はただただ圧巻だった。そしてこれを読まずに一生を終えるのは勿体なかったと思い、全て読み切ったことを誇らしくなったものである。時間が掛かってもいいので一度は手にして損はないはずである。 続きを読む投稿日:2015.03.05
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紙の月
角田光代 / ハルキ文庫
隣り合わせの踏み入ってはならない領域
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最初は恐る恐るだった。そしていけないことだと気付いていた。だけどそれは回数を重ねる毎に次第にエスカレートしていった。そしていつしかそれは取り返しのつかないとこまで来ていたのである。気付いた時にはもはや…一人の人間が返すことのできない金額を横領してしまっていた。
この怖ろしさは本来踏み込んではいけない領域に踏み込んでしまったが為に転落し続けることである。これは何も銀行員の横領に限った話ではない。ちょっとした誘惑、寄り道、すれ違い。色んなとこに危険は潜んでいる。平凡な日常生活を送ってるようで我々は常にそういう危険と隣り合わせなのだと気付かせてくれる。 続きを読む投稿日:2015.03.05
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日本サッカーの未来地図 【電子特別版】
宮本恒靖 / 角川学芸出版単行本
未来を切り開く序章となるか
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サッカー選手引退後のキャリアとして思いつくのが監督・コーチ業。もしくはTVなどの解説者の仕事。そのどちらもプロとしての選手経験がないと入れない枠でありましてやW杯出場経験のある著者ならばそこに入る権利…はあったはずだ。だがそこには目もくれずFIFAマスターというスポーツビジネスの大学院を目指すことは語学に堪能な著者だからできたことだろう。だが単に語学ができればいいというものでもなくそこに入学、卒業するまでの過酷さは選手時代以上の苦難が伝わるのだった。
だがそこを卒業した著者は後に各世界に散らばる同期生とパイプを持つことになる。それは本人にとっても大きな財産であろうが日本のスポーツ界にとっても大きな意味合いを持ちそうだ。現在のところ日本で唯一のFIFAマスターを卒業した元プロサッカー選手。その可能性と未来について著者と夢を共有したい。 続きを読む投稿日:2014.09.12
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モダンタイムス(下)
伊坂幸太郎 / 講談社文庫
この世界の姿
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陰謀、謀略、それらのものが単純にある特定の人物によるものならまだ楽だった。ぼくらの世界は往々にして往々にして目に見えないものによって動かされてる。もはやこれは現代社会を生きるにおいて避けては通れないも…のだった。
誰もが歯車の一つとなってしまうとその行く先で何が行われてるのか知る由もない。一体世の中はいつからこうなったんだろう。そういう不可解さから解放されたいならもはや未開人のような暮らしをするしかないのではなかろうか。
ぶつけることのできない怒りや悲しみ。最後にほんの少しの復讐をしたもののそれは単に関係ない第3者を困らせるだけの行為になった。普段生きてるこの世界はそんな仕組みにぼくらは踊らされてるというのに気付くことだろう。 続きを読む投稿日:2014.09.12