金建さんのレビュー
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特装版 シュヴァルツェスマーケン 7 克肖導く熾天の大地へ
吉宗鋼紀, 内田弘樹, CARNELIAN / ファミ通文庫
あいとゆうきのおとぎばなし
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第6巻まで読み進めた同志がこの最終巻を手に取られずにいられるとも思えないので、このレビューは本の売れ行きに何一つ貢献しないだろう。が、敢えて言おう。安心して欲しい。間違いなく期待以上のものである。
…人の想いを踏みにじり、心を砕き続けた本作にあっても、最後に力となるのは愛と勇気である。
アイリスディーナの語ったおとぎ話は人々の愛と勇気によってのみ、現実になるのだ。 続きを読む投稿日:2016.06.22
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シュヴァルツェスマーケン Requiem -祈り- #1
吉宗鋼紀, 内田弘樹, CARNELIAN / ファミ通文庫
轟け115mm、唸れよシルカ!
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シルヴィア、アネットとイングヒルト、クルトの過去でそれぞれ1編ずつ、そして半ばおふざけ回としてのアネットお色気話1編。
どれも読み応えはあるが、手放しで褒めたいのはクルトの話。
地上を這いずる戦車兵…達から見た666への忌憚ない意見が込められている。「666は評判が良いのか悪いのかよく分からない」という諸氏はこれを読めばなんとなく空気感がつかめてくるのではないだろうか。
それはこの際どうでもいいとして、やはり見所は戦闘シーン。T-62主力戦車、ZSU-23-4対空機関砲、BMP-1歩兵戦闘車と、「当時」の主力兵器たちがカンプフグルッペを編成してBETAに立ち向かう様は感涙必至である。 続きを読む投稿日:2016.06.22
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シュヴァルツェスマーケン Requiem -願い- #2
吉宗鋼紀, 内田弘樹, CARNELIAN / ファミ通文庫
同志中尉、意外とチョロい疑惑
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親愛なる同志中尉の他、リィズ、ファムの過去でそれぞれ1編ずつ。そして前巻と同じく「おふざけ」回が1編、今回の犠牲者はキルケ。
さて、今回注目していきたいのは言うまでもなく同志中尉なのだが、それ以上に…リィズの話が重すぎて正直コメントに困る。苛烈などという言葉では済まされない壮絶さである上に、何より恐ろしいのは登場する拷問や政治工作は脚色されていても、似たようなことが彼らによって現実に行われていたという事である。
一体、どれほどの人民が国家保安省に痛めつけられたのだろうか。考えたくもない。
残念なのは、ヴァルターの過去に関する話が登場しなかったこと。
おそらく月光の夜事件の際はシュトラハヴィッツに近い位置におり、アイリスディーナの面倒を見る立場にあったと思うのだが、だとすれば彼が如何にして粛清を免れたのかが不明であり、とても気になる。
彼については隻影のベルンハルトで描かれることになると思うので期待したい。 続きを読む投稿日:2016.06.22
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シュヴァルツェスマーケン 隻影のベルンハルト1
吉宗鋼紀, 内田弘樹, 木菟あうる, CARNELIAN / ファミ通文庫
すべての始まりへ
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マブラヴシリーズで最も古い、1972年から始まる物語。
主人公はアイリスディーナの兄、ユルゲン・ベルンハルトである。
彼は1978年の月光の夜事件でアイリスディーナの手によって粛清されるので、その間わ…ずか6、7年ほどが描かれる事になるのだろう。
キーとなる人物はもう一人。11年後テオドール達の前に立ち塞がる巨大な敵、ベアトリクス・ブレーメである。物語が始まった時点ではベルンハルト兄妹、ベアトリクスとも年相応の少年少女である。彼らが如何にして政治に飲まれていくのか、目を離せない。
特にいいと感じたのは新疆へのオリジナルハイヴ建設の様子。おそらく、現実に地球の果てで天変地異が起きると、我々はこういった知り方をするのだ。
最も、個人的には第1巻はこれまでの「シュヴァルツェスマーケン」に匹敵するクオリティを有しているかと言えばそうでもない。ただ、これを踏まえた上で第2巻へと続くことが重要なのだ。 続きを読む投稿日:2016.06.22
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シュヴァルツェスマーケン 隻影のベルンハルト2
吉宗鋼紀, 内田弘樹, 木菟あうる, CARNELIAN / ファミ通文庫
受け継がれるドクトリン
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政治に左右されない立場を求めて空軍に入隊したにも拘わらず、BETAの侵攻により戦術機部隊の創設を任され、政治に関わらざるをえなくなるユルゲン。ソ連留学で目にした本物の戦場を前に、もはや政治と距離を置く…ことは不可能と、軍の改革を決意する。新設兵科であることを利用して、新任幹部でありながら装備調達や戦術研究に積極的に関わり、陸戦力を大きく削減し戦術機へ転換することを主張する。既存兵科の高級幹部たちから白眼視される中、彼は如何にして戦うのか。
第1巻は拍子抜けするほどに「大人しかった」隻影のベルンハルトも、いよいよ本巻から本領を発揮する。
とはいえ、まだまだ本編のように血飛沫舞い散るような展開ではなく、全ページにわたって続くのは新設兵科の苦労話である。何しろ、こちらは入隊数年目の中尉、あちらは将軍様と、発言力から支持者数、握っている予算についてまで既存兵科の方が圧倒的に上である。戦車屋さんや大砲屋さんが100年以上かけて磨き上げた戦術論を青二才が根拠も無く否定するのだからひねり潰されて当然である。仮に現代日本で、自衛隊に丸腰のサイキッカー部隊を創設するため既存部隊の人員を半分になんて言われたら、私だって反対するだろう。本巻のユルゲンはそれを党と軍に納得させなければならないのである。人死にこそ出さずとも、政治的な攻防が繰り広げられるのは想像に難くない。戦術機に最適な新戦術の考案、戦術機先進国ソ連でそれが実現できない理由の研究、可能にするための装備品改良、浮動票となる文官への根回しなどなど、細かい話をきちんと描きながら決して冗長でなく、面白く読めるというのが素晴らしい。
シュヴァルツェスマーケン本編にも言えることだが、設定について評価したいのが時代の繋がりと流れを感じられることである。2001年の「オルタネイティヴ」では明確な用兵思想が描かれてはいないが、なんとなく色んな事をしている国連軍の戦闘スタイルをあえて分解し、1983年の「シュヴァルツェスマーケン」では東の光線級吶喊と西の機動防御として特徴を持たせた。明言されてはいないが、おそらく東ドイツ革命後に西へ流入した国家人民軍出身者による指導の結果、西欧が複合的な戦術を実施するようになったということなのだろう。
では、東ドイツの光線級吶喊はどこから来たのか、といえばこの「隻影のベルンハルト」なのだ。光線級吶喊が如何にして生まれたかが本巻の最大の見所と言っても過言ではない。
時代を駆け抜ける戦士達が必死に考え出した彼らなりの最適解が、実戦を通して磨かれ収斂していく様は、長大な大河ドラマとなりつつある「マブラヴ」シリーズ特有のものであり、それを意識的に描いた内田先生には脱帽である。
続きを読む投稿日:2016.06.24
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スワロウテイル人工少女販売処
籘真千歳 / ハヤカワ文庫JA
苛烈な恋愛小説
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人が自らの伴侶として生み出した「人工妖精」。人を愛し、人に愛されるために生まれてきた彼女たちとの不器用な愛の話である。主人公の揚羽は出来損ないとして社会から疎まれる人工妖精であるが、人と人工妖精の共存…のために尽くす健気な少女である。人工妖精はヒトなのか、モノなのか、当事者にも分からない葛藤が彼ら・彼女らを激情にも似た愛へと駆り立てていく様は、一読の価値がある。
この作品は少々不思議な作品である。
ライトノベルと呼ぶにはいささか表紙が質素であり、並ぶのはあまり人通りのないSFや海外小説のコーナーである。が、SFと呼ぶにはポップなキャラクターが幅をきかせ、軟派な印象を受ける。
しかしながら、超科学によって支えられる社会の在り方、人間の認識能力、人とモノの境界など、平易な文体ながらも扱う話題は意外と硬派であり、何よりも随所に感じられる先人達への敬意はまさしくSF小説のそれである。
本作の魅力は、読み方に合わせて姿を変える事である。すなわち、純粋なエンターテイメントとして楽しめる「華」がありながら、深く掘り下げていけばいくらでも沈んでいける奥深さも併せ持つ、その二面性がたまらない。 続きを読む投稿日:2016.09.09