
シュヴァルツェスマーケン 2 無垢なる願いの果てに
吉宗鋼紀,内田弘樹,CARNELIAN
ファミ通文庫
運命が動き出す
第1巻でカティアと信頼関係を結びながらも、保身第一のスタンスを崩さないテオドール。しかし国家保安省の陰謀が彼らを引き裂き彼女を窮地に追い込んだとき、彼が生来持っていた正義感に火が付く。 この第2巻以降、巻き込まれる側でしかなかったテオドールが自らアクションを起こす側に廻る。そのきっかけは決して大きなイベントではないが、だからこそ彼の繊細な心理描写が際立つ。 戦闘描写の緻密さは健在。 本編で唯一、BETAと歩兵が交戦するシーンが描かれておりその泥臭さがたまらない。
0投稿日: 2016.06.20シュヴァルツェスマーケン 1 神亡き屍戚の大地に
吉宗鋼紀,内田弘樹,CARNELIAN
ファミ通文庫
格の違い
本作の見所は、マブラヴという特殊な世界観に準拠しながらも東ドイツという国を自然に描ききった所にある。 会敵以前に凍死しかねない戦場の吹雪、人を信頼できぬ閉塞感、合理が道理を超えた時に産声を挙げる狂気、その中で尚も消える事なき心の灯火。政治将校の同志中尉がかわいい。 戦闘描写も圧巻だ。20、30を超える梯団による無停止進撃、それに対抗すべく編み出された浸透突破戦術とエアランドバトル、戦車に群がる敵を薙ぎ払う対空機関砲の水平発射、そして100を超える対艦ミサイルの同時着弾。政治将校の同志中尉がかわいい。 作者は「本職」の仮想戦記作家、内田弘樹先生である。従来のマブラヴ作品がいくら緻密に制作されようとも、あくまでミリタリーを「趣味」としてきた方々の作品だったのに対して、本作はミリタリーで命を繋いできた先生の作品なのである。その重み、格の違いを同志諸君は読み進めていくうちに思い知ることになるだろう。 さて、記念すべき第1巻は主人公テオドール君が「西」からやってきた少女カティアにうっかり関わってしまう話である。かつて壁越えに失敗して一家もろとも始末され人間不信に陥ったテオドールは日々生き残る事しか考えておらず、「西」的理想論を振りかざすカティアを嫌悪する。カティアの言動はテオドールと部隊を政治的窮地に追い込み、テオドールは保身と人間としての矜恃の間で苦悩する。 この時点で、状況は彼の与り知らぬ所でしか動いていない。しかしながら、この出会いが彼に勇気をもたらし、ひいては東ドイツの運命を変えていくのである。
1投稿日: 2016.06.20