
プリンセス・トヨトミ
万城目学
文春文庫
映画の印象が強いですが・・・。
同名映画化されていますので、興味があって原作本を読了しました。実はずっと前に読了していますが、その時レビュー・ボタンが非表示になっていて書き込めなかったのです。当事者間の利害が一致しなかったのか、それとも管理者の怠慢なのか。 さて本作ですが、作者は子供の頃現在の大阪城の近くに住んでいたことから、こういう発想、構成を思い付いたのだと思いますが、大阪はそういう発想が出て来る条件が沢山揃っている街、都市なんだなぁと思いました。 「大阪国総理大臣、真田幸一」には面食らいますが、普段はお好み焼屋「太閤」のおっちゃんというところが大阪らしいし、息子の大輔が「女の子になりたいんや」と真剣に願っているところも変な設定ですがあまり違和感がないです。真田、蜂須賀、浅野、長宗我部など、豊臣家の家臣たちの名前を適度に散りばめてあるのも良いですし、橋場茶子という名前も上手く考えています。大阪の街が手に取るように分かる描写も良いです。 一方で政府機関独立組織の会計検査院第六局の副長松平元を筆頭に3人の調査官がOJOという組織を調査することになった理由がネタバレになっていて、実は何もかも初めから仕組まれた調査だったとは。お金に纏わるネタも商都大阪ならではのお話です。 本作は映画の印象が強くて読み続けていくと、その時の情景が頭の中に今でもぱぁーっと浮かんできます。赤く燃えるような大阪城、35年前の出来事、男の子なら誰でも一度は通る大阪城地下の議事堂。ミステリアスな雰囲気が良く描写されてました。本髄は大阪府庁玄関前のフロアでの討論。ここは映画の方が一枚上手のようで、ほろりと来ます。
1投稿日: 2016.01.11
利休にたずねよ
山本兼一
PHP文芸文庫
純真で無垢なネタバレはおかしい。
本作は作者山本兼一氏(故人)と田中光敏監督がタッグを組んで映画化してきた『火天の城』に続く第二弾ということで、DVDをレンタルする前に読了しておこうと思ったわけですが、茶道とか華道とか私は門外漢なので意味の良く分からない専門の言葉には想像の域を出ませんでした。 利休といえば秀吉の朝鮮征伐など、政治に首を突っ込みすぎて切腹させられた能ある茶人というイメージしかなく、本作から彼の美に対する緻密な感性を知り、大いに驚かされました。現在から過去に遡って行くという構成も意外で新鮮味がありました。 何故利休は一畳半の茶室に傾注していったのか、侘びとは何か?寂とは何か?私のような凡人には理解し難い部分があるものの、それを外国人から見た記述ではあまりにも覚めた現実的な描写だったので、思わず爆笑してしまいました。コミック『へうげもの』の古田織部やノ貫(へちかん)などの名前が上がっており、思わず気分が高揚しました。この時代、数寄者にとっての利休は、時の人だったことが良く窺えます。 ただ、冒頭から出てくる高麗の焼き物らしい平たい小さな壺。何やら曰く付きの謎めいたミステリー調の部分ですが、それを最後まで引きずって行って、若かりし日の堺の干魚商人の息子、千与四郎(利休)と拘束していた朝鮮王家の娘との駆け落ちに似た稚拙な行動とショッキングな結末が隠れていたとは、「おっと、そこかいっ!」ってな感じでバカらしいネタバレでした。
0投稿日: 2015.12.17
影武者徳川家康(下)
隆慶一郎
新潮社
成る程と思える作者の指摘が・・・
本作も最終章を迎えました。始めの目次部分に「大坂の役」があるのを見て、これまでの経緯からしてどのように豊臣家の滅亡を描いていくのか興味が湧きましたが、戦の切っ掛けとなった京都方広寺の一件を歴史の教科書どおりにさらりと流しています。 さて、下巻はご存知、二条城で家康が秀頼を謁見するため上洛するお話から始まっています。かつてテレビの時代劇ドラマで観たシーンでは、加藤清正が秀頼を守るためお膳の毒見をして落命していましたが、本作では積極的かつ過激な展開を描写しています。藤堂高虎と伊賀忍びの企みが秀頼暗殺という暴挙。そしてその裏で糸を引く秀忠の姿が見え隠れします。「豊臣恩顧の大名を殺していく」その第一号が加藤清正だと。この一大事件で甲斐の六郎が大怪我をするという辺りは大変悲しかったですし、声が詰まる思いでした。 家康の六男松平忠輝は奥州の名家伊達家と姻戚関係にあり、当主伊達政宗はその立場を上手く利用して徳川政権を転覆させようと目論んでいたのではないかという影の部分は、山岡荘八『伊達政宗』では如実に記述してあったのを思い出しましたが、本作でも秀忠を排除して忠輝を二代将軍にと、驚愕の目論見が描かれていました。 私事、やはり大坂の役の部分は何回読んでも悲しい出来事に思え、空しい限りです。かつて井上靖の『淀どの日記』を読了した時もそうでしたが、淀殿秀頼母子の最後の自刃。人は”滅びの美学”だとか、”悲劇のヒロイン”だとか持て囃していますが、殊更悲しい出来事です。しかし、後半の大坂夏の陣は興味をそそられます。後藤又兵衛基次の討死を始めとする大坂方対徳川方の壮絶な戦い。「八尾若江の木村長門守重成殿討死!」の声が聞こえてきそうです。また徳川本陣茶臼山に総攻撃を掛ける真田信繁(幸村)の雄姿が目に浮かんできそうです。ここは本髄、読みどころでしょう。終盤に掛けての世良田二郎三郎元信の行く末は如何に?という肝心な部分が尻すぼみで幕引きとなりました。 ※下巻も入力ミスと思われる語句があり、きっちり校正して下さい。
1投稿日: 2015.11.14
影武者徳川家康(中)
隆慶一郎
新潮社
歴史解説が多く中だるみか
封建制時代の頂点に立つ者、影武者二郎三郎が「道々の者」「自由人」とは面白いです。これで安定した君主になれるのでしょうか。二郎三郎、島左近、甲斐の六郎、風魔小太郎などが意気投合して大坂城の秀頼を守っていこうと団結していくシナリオがいいです。 一方の徳川秀忠の描写が個人的に抱いていたイメージとは全く異なり、意外でした。小心者の無能な人物だったとは。また配下に柳生又右衛門宗矩が仕えていますが、かつて山岡荘八の『柳生宗矩』を全巻読了しましたが、それとは異なる人物描写で、これもまた意外でした。 本作の影武者VS秀忠という構図を見るに、実際、家康と秀忠とは親子の仲があまり良くなかったんだなと推察します。時折出てくる二郎三郎とお梶の方を筆頭とする愛妾との房事がエロティックで、息抜きになって良かったです。 ※最後に少し気になる点として入力ミスがあります。「柳生兵庫助利厳」の助が脱落とか、島左近の娘と称する「お珠」を「お珠たま」と表記など。
0投稿日: 2015.11.01
影武者徳川家康(上)
隆慶一郎
新潮社
影武者の人物像に興味を覚える
数年前に地上波テレビでお正月に放映していた時代劇ドラマの原作本と知って購入しました。全三巻と、ボリュームがあり、全て読了できるか不安でしたが大変内容が面白く、意外な記述などもあってか、すらすらと上巻を読み終えることが出来ました。 お話は慶長五年の関ヶ原の戦で、何と本陣の徳川家康が石田三成方重鎮、島左近勝猛が放った刺客、甲斐の六郎に殺されるという、大変ショッキングなところから始まっています。戦場では家康に影の如く寄り添うような影武者がいたとは驚きです。彼の名は世良田二郎三郎元信。この戦の最中での突然の惨事にも関わらず、この影武者が采配を取って東軍を勝利に導くとはそれなりの御仁だということが後々分かってきます。 作者は影武者が存在していたのではないかという根拠を2点挙げていますので、満更の思い付きで本作を書いたのではないと知り、益々興味が湧きました。本多平八郎忠勝や井伊直政ら側近の下した判断は徳川家を守らんが為の苦渋の選択だったことが感じ取れます。後の二代将軍徳川秀忠。彼の政権時代が非常に短くまた、関ヶ原遅参の咎を受けていない点は私も以前から疑問があって、本作では大変楽しく勉強させて頂きました。
1投稿日: 2015.10.31
信長の棺 下
加藤廣
文春文庫
信長公の名誉は守られた
本作下巻に記述されている内容で一番驚いたのは秀吉が百姓の出身ではなく、「丹波人」だったということです。父、木下弥右衛門は丹波の竹細工師で蜂須賀小六や斎藤道三なども丹波の出身だったとは意外です。丹波の地は平安時代に落ち延びてきた京の貴族、藤原氏が住んでいたという内々だけの言い伝えも全く考えられないことはなく、興味深いです。 さて、謎多き「本能寺の変」ですが、信長公の遺骸はどこなのか?に対する落としどころ。そこに向かって徐々にストーリーは展開していきますが、個人的には結末に向かっての謎解きが少し出来過ぎているように思えます。実際、牛一は何もしていません。関係者へのヒアリングや金銭で雇った配下の者から得た情報を掻き集め、ひとり唸っていただけです。それよりもある日源兵衛が連れてきた父娘ほど年の離れた女、楓のうら若き柔肌にご執心だったんですよ(笑)。そしてその楓が謎の紐解きをしたと言っても過言ではないです。織田家の菩提寺、阿弥陀寺の清玉上人の弟子入りとなった清如(権兵衛)が楓の伯父というのも出来過ぎかと。 最終、信長公の亡骸があのような状態の中で守られてきたことが空しく思えて目頭が熱くなる思いでした。
1投稿日: 2015.09.23
信長の棺 上
加藤廣
文春文庫
歴史の周辺解説が多すぎる
私達は歴史の授業で「桶狭間の戦い」とか「本能寺の変」など、単なる結果だけを学びましたが、こんなにも深く考えたことはないと思います。作者加藤廣氏が参考とした文献の多いことを見ても分かるように、相当ご苦労されて完成したものと推察しています。 分かっているようで分かっていない「桶狭間の戦い」。頭を冷やして冷静に本作を読んでいくと「そういえばそうだ!」と、共感します。そしてその答えは意外な人物からもたらされるというネタバレが下巻に記述されています。「本能寺の変」にしても現に信長公や小姓の森蘭丸らの遺体が発見されていないと、何かで見聞きしたことがあるだけに興味津々となりました。 上巻では『信長公記』の筆者、太田牛一(信定)の信長公に対する尊敬の念が強く押し出されています。前半、ややミステリー調に描写されていますが、「何故?」ばかりで一行に答えは得られません。公家近衛前久と明智惟任光秀との密会も確証が得られないまま。 織田家弓衆から信長公の側近として書簡の管理や記録係を務めた太田牛一を、作者自身とオーバーラップさせている節が有ったりして、そこはちょっと苦笑してしまいました。
1投稿日: 2015.09.22
片倉小十郎景綱 独眼竜の名参謀
江宮隆之
学研M文庫
『伊達政宗』とセットで
伊達政宗の名参謀として戦国の世を駆け抜けた片倉小十郎景綱。その家庭環境は複雑で、彼自身孤独でもあり、異父姉弟の姉の喜多が唯一の心の支え。一方で伊達家の嫡男、梵天丸(政宗)は幼くして疱瘡を患い、それが祟って隻眼となり、全く自信喪失状態に陥っていました。冒頭から驚愕の事件が起こります。梵天丸の傅役(めのと)となった小十郎は、何と見えなくなった彼の目玉を抉り出します。 その後政宗に従弟である伊達成実が加わり、知の小十郎、勇の成実が両輪となって政宗を奥州の覇者に仕立て上げていくサクセスストーリーが、凄まじいスピード感と猛烈な勢いを持って展開していきます。父、輝宗の不遇の死により、若くして家督を継いだ政宗。ひとつ年下の成実、10歳年長の小十郎と、若さは疲れを知りません。相馬氏の旧伊達領を奪還したのを小手始めに、政宗、何と23歳の若さで奥州を統一!。しかし、ここに豊臣秀吉という強大な勢力が台頭し、対応に苦慮する小十郎。政宗もありったけの勇知を絞り、ぎりぎりの駆け引きが行われます。 近隣諸国の関係も複雑で、越後の上杉、常陸の佐竹、小田原の北条、三河の徳川と、先を読む洞察力が後の成功のカギを握ります。政宗と小十郎は、上杉景勝と直江兼続の関係に似た幼い頃からの主従関係であり、時として兄であり、友であるという小十郎との関係が好結果を生んでいます。 終盤、小十郎の嫡子、重綱は父を上回る猛将ぶりを大坂夏の陣で発揮します。対真田信繁(幸村)戦では、伊達勢の先陣を切っての勇猛果敢な働きが、敵でありながら天晴れと称賛されるほどの素晴らしさ。味方の討死8名、負傷者5名という素晴らしい采配ぶりに、かの家康も絶賛しますが、その実、ほとんど彼ひとりが暴れていたのではないでしょうか(笑)。片倉小十郎景綱享年59歳没。同重綱享年75歳没。 ※本作品に記載のある「淀君」という表現は、家康が秀吉の妾である茶々姫を蔑んでそう呼んだもので、通常は「淀殿」で良いのではと思います。これを機会に伊達政宗にも興味を覚えた方は、山岡荘八著『伊達政宗』を読了されることをお勧めします。小生は若い頃に当該小説に出会い、あまりに面白かったので繰り返し3回読んだほどです。またテレビの時代劇ドラマでも放送されており、当時は西郷輝彦氏が小十郎役でした。そのイメージも未だ強いです。
0投稿日: 2013.12.14
蜂須賀小六 野盗にあらず
大栗丹後
学研M文庫
蜂須賀小六、ここに有り!
ある日ふと「蜂須賀小六の小説ってあるのかな?」と思い、リーダーで検索したらこのタイトルの読本がひとつだけ出てきました。そのタイトルの「・・野盗にあらず」の部分を見た途端、ぷーって吹いてしまいました。過去、テレビの時代劇ドラマで、とある俳優さんが小六の役を演じておられるのを見て、野盗、野武士、山賊、土豪などのイメージが強く印象に残っていたからです。しかし、大昔の話で恐縮ですが、私事、コミックで『戦国猿廻し』というのを書店で見つけ、その画風と時代背景が気に入り、予約を入れて次号が発刊されるたびに書店から連絡を頂き、順次購入して最終回まで全巻読み終えた経験があります。そのコミックに出てくる小六像は誠実で男前で体格のある男らしい姿であり、まだ名も無いころの秀吉と共に乱世をどちらかといえば楽観的に生き抜いていくサクセスストーリーでした。本作ではそのコミックと重なるイメージもあって良かったです。 小六が少年の頃、曼陀羅寺の境内で偶然出会った生駒家宗の娘、谷乃(ひろの)と吉乃(きつの)。そして若き日の織田信長、吉法師。ここから小六の恋愛感情が密かに進行していくとは意外で面白かったです。小六は吉乃が好きでしたが、吉乃は信長の御手付きになってしまい、愕然とする小六。また、小六と秀吉との出会いが印象的でした。こんな出会いをしたのかと思うほど運命的なものを感じます。戦略では小六の妙案でありながら秀吉の発案とさせる辺りの会話のやり取りが滑稽で、二人は本当に相性の良い名コンビだったことが窺えます。 敵地、木曾川と長良川の合流点に三日で完成させた、かの有名な”墨俣一夜城”を皮切りに、出世街道を歩んでいく小六と秀吉。ここに竹中半兵衛、黒田官兵衛の著名な軍師が加わり、上げ潮に向かっていく秀吉丸を、縁の下の力持ちならぬ、縁の下の知恵持ちとして支え続け、一足早く燃え尽きました。秀吉の義弟となる浅野長政の出自や藤堂高虎との出会い、商人から武家に転向した肥後24万石小西行長の記述も加わり、大変楽しく読了させて頂きました。最後に小六の往生際、妻のまつ、嫡子家政を枕元に座らせての描写や台詞はちょっと作者の肩入れしすぎかと思いますが・・(笑)。 ※当該電子書籍の中に2か所誤植がありましたので、ここに加えて報告します。 稲葉城(誤) 稲葉山城(正)
1投稿日: 2013.12.06
毛利元就(2)
山岡荘八
山岡荘八歴史文庫
学者肌で倫理観の強い国主像か
元就は3人の子宝に恵まれます。嫡子である情の隆元を筆頭に、二男は勇の吉川元春、三男は知の小早川隆景として毛利家をサポートします。毛利家の教えでもある”三本の矢”も、本作で正しく知ることが出来ました。 私事、事前期待が大きかったのか、山岡節はあまり発揮されていないように感じました。資料が十分に得られなかったのか、作者の感情移入が少し浅いような気がします。 さて、元就は先ずは尼子氏攻略に知恵を絞ります。何せ軍勢の数では明らかに不利は明々白々。これを如何にして敵にダメージを与えるかということ。嫡子隆元を大内氏へ人質に出し、尼子3万の兵に対し、僅か500の兵を車掛りの戦法で大軍のように見せかけ、援軍大内氏をこれまた上手く活用して加勢させます。頭脳明晰に加え、世間の辛酸をなめつくした長者の知恵が発揮されます。 終盤は毛利元就、屈折46年の長きに亘って忍んできたハングリー精神が発揮されます。「一介の土豪では終わりたくない・・」と。大内氏の内部統制の弱さに目を付け、内部崩壊を目論見ます。以前から山口に送り込んである元就配下の間者、成田小五郎とその妻を装う堺の間者、於仙。思惑は異なるも目的は同じということで同居するふたり。彼らの活躍は蟻の一穴の如く、大内氏の屋台骨を揺さぶっていきます。大内勢2万の大軍に対し、毛利勢4300。これが厳島神社を舞台とする、人を食ったような作戦が滑稽で、ここだけは笑ってしまいました。尼子氏に付いての結末には触れておらず、別途ネットで調べて捕捉しました。
1投稿日: 2013.11.30
