aermacchiさんのレビュー
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海上護衛戦
大井篤 / 角川文庫
島国安保の宿命を学べる書
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島国日本が国防でどうしても避けて通れないはずのシーレーン(海上交通路)護衛について、旧軍は当初なんも考えて無くて、やっぱりそれが弱点となって負けちゃいましたよ、というのが当時の関係者だった著者のぼやき…とともに知ることができる。
現在の海上自衛隊は、イージス艦などばかりが目立っているが、実は対潜や掃海などが最も得意で、極東一、世界第二位の対潜・掃海戦力を整えいている。これもそれも先の大戦で米国潜水艦にゴボゴボ商船・輸送艦を沈められ、港という港に航空投下機雷を撒かれまくり、終戦が伸びれば本土決戦どころでなく、実は飢餓発生寸前まで国力が悪化していったという戦訓を反映したものだ。(飢餓寸前だったのは、日米ともに戦後調査でやっと分かったことらしいが)
一般にいわれるような兵器の質やら物量の差を云々する以前の問題が日本の戦争遂行能力上であったわけです。
こういった事実からも、現代にも通じるシーレーン護衛の重要性、日本の安全保障の根底条件に興味ある方は是非ともよんでいただきたい書です。
ちなみにこの書、元々は戦後7年目ごろに書かれた古いもので、今回で6回目の出版となります。戦史本としてはかなり有名なのだが、なぜかReader Storeではジャンルが「エンタメ・グラビア写真集」に分類されていてナンデ?と思ったが、どうも某ブラウザゲームとのタイアップ復刊とのこと。紙媒体ではそのゲームのキャラクターが入った帯が付き、プロデューサーの解説が追加されている。解説はこの電子版にも収録されている。ネットでは賛否あるみたいだが、こういうのは良書が復刊されたという事実が重要で、読めればどうでもいい。
続きを読む投稿日:2014.07.05
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侵略か、解放か!? 世界は「太平洋戦争」とどう向き合ったか
山崎雅弘 / 学研
アジア解放の裏側と、日本のアジア人観
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日本からじゃなくて、西欧諸国と被植民地の視点から見た太平洋戦争の書。当時の日本らしい、無計画な占領政策、帝国を核心とする共栄圏、家長と子のような接し方という日本的な善意が、逆に各国の親日独立派であった…ボースやラウレルすらも、その内心にひどく不信と落胆を植えつけていたかが分かる。大戦末期のアジア諸国の対日離反は、そういった日本のアジア諸国に対する無意識の見下し、無理解の積み重ねで、真の同盟国を日本がアジアに築けなかったことを示す。日本が「解放」したとする歴史の見方も、当時の各地独立運動家を無視しているものといわざるを得ない。 続きを読む
投稿日:2013.09.24
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富士学校まめたん研究分室
芝村裕吏 / ハヤカワ文庫JA
SF自衛隊装備開発話。+ラブコメ的な。
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2020年頃の近未来日本、重度コミュ障の30独身工学女の技官が、不当に閑職へ飛ばされた復讐に、新装備の研究開発で自分の有用性を証明してから辞表を叩きつけてやる、というかなり後ろ向きな出だしで物語が始ま…る。
普通科の一部代替を目指したロボットが開発されるのだが、、自衛隊の装備にまつわる独特の事情を織り交ぜた、装備開発の思考的な流れがとても面白かった。著者はそれなりにファンタジーが入っているというが、既存技術を寄せ集めて低コストを目指したりと、なんとなく実現しそうな余地がリアルさを感じた。何より単機では低性能だが、複数機の高度なネットワーク化による能力の相互補完は、ガ○ダムのような高性能ワンオフとは違うSFロボット像を感じられる。
終盤に期せずして実戦の機会に遭い、その際にロボットが相手だと心理的に呵責がなく、過度に反撃を受けたり、ロボットはロボットで呵責なく反撃して死傷者が多めに出たりと、戦場心理の描写がなされていて、著者はよくよく情報収集して作品を作っているな、と感心する。
作中は主人公の独白で進むが、主人公の性格が相当クセがあるので、そこで好みが分かれるかも。
ちなみに星海社の同著者によるマージナル・オペレーションと全く同じ世界と時間軸の作品。 続きを読む投稿日:2014.03.09
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強くないままニューゲーム Stage1 ―怪獣物語―
入間人間, 植田亮 / 電撃文庫
光と闇の主人公
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主人公らは何らかの「ゲーム」に巻き込まれ、何らかのモンスターとの対決を強要されてしまう。死んでしまうと記憶を保持したまま特定の時間まで巻き戻され、勝てるまで戦いを強要されてしまう。桜坂洋氏の「All …You Need Is Kill」と、奥浩哉氏の「GANTZ」を組み合わせたような世界観だが、主人公らが比較的無力であることと、コンティニュー回数に制限や変則があるところが相違点か?
円熟したゲーム文化を背景にした小説で、そこかしこに古今のゲームやエンターテイメントのネタが会話で交わされる。
今時の絵柄の挿絵に、ラノベ・レーベルではあるが、血なまぐさくバンバン人が死ぬし、主人公等も楽に死ねない死に方や傷つき方をした際の描写は容赦ない。「みーまー」や「トカゲの王」の著者でもあるので、特段おかしくはないが・・・
彼らが巻き込まれている「ゲーム」にはクリア時の評価でルート分岐があるようで、本小説1冊の中にそれぞれの分岐が別編で描かれている。両編の間には記憶など直接的な繋がりはなく、パラレルワールドのような扱いだ。
そして両編の違いは対決するモンスターの種類もさることながら、最も大きな差異は戦いのイニシアチブを主人公である藤アリッサか、ヒロインである敷島弓子のどちらが握るかであろう。主人公は自己の悲観すべき状況にもかかわらず、ヒューマニズムを保ち、なるべくモンスターの戦いで起きる周辺被害を極力抑えるように努力しようとする(クリアすると時間が流れ続け、主人公等の負傷や周辺被害は回復しない)のに対し、ヒロインは冷徹に勝ちの効率にのみ注力する。物語は主人公の一人称で語られるので、前者がイニシアチブを握っている場合は無力ながらも努力してヒロイズムを発揮していいが、ヒロインが主である場合はその冷徹かつ吹っ切れすぎた行動と戦術に主人公は振り回され、時に疑心暗鬼すら抱く・・・と、かなり読み味の違う内容となる。片やヒューマニズムを保ちながらも生き延び続けられるのか、それともダークサイドに身を落としても生き延びるか・・・なかなか着地点の読めない独特な空気の作品となっている。
続きを読む投稿日:2014.09.29
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死神少女
吉野匠 / 幻冬舎単行本
ボーイ・ミール・キラーガール
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始業式に遅れ、すぐ後ろに並んだ気になるあの子。彼女は殺し屋だった・・・。典型的なラノベ調ボーイ・ミーツ・ガールというべきか?
ヒロインは知能・能力は無駄に高いのに、潜入先の風習・風俗、人間関係に無…知・無関心であったり、「仕事着」はメン・イン・ブラックばりの黒スーツ、意味もなく火器を携行しているといった、今時少年コミック調の国際的な非合法組織の戦闘エージェント。任務のために主人公と同じ高校に偽装入学するのだが・・・。
その正体を隠したいのかどうなのか分からない振る舞いに加え、最初はバックの組織の動きがあまり見えず、鉄火場が始まるまで、ヒロインは自分を殺し屋と思い込んでるイタい子なのでは?と心配になってしまった。もちろんそんなことはなかったが。
他にもやや設定にアラが見え隠れするが、全てはヒロインをキャラ立てるためのものとすれば納得。中盤以降の主人公とヒロインの距離が縮まってからは、章題の「史上最強のツンデレ」どおりのやりとりを楽しめる。 続きを読む投稿日:2014.11.03