おでんbmさんのレビュー
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世界史の極意
佐藤優 / NHK出版
現代史の問題理解の導入に。
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優しげな名前に似合わずぬいかつい風貌の佐藤優氏。評者は同氏の主に国際政治・外交・情報機関などに関する発現・論説などを関心をもって読んでいる。古典的な意味でのいわゆる知識人として貴重な人でないかと個人的…には思っている。本書は現代の世界でのいくつかのいわゆる紛争地と呼ばれるような地域の問題を理解するための導入になる内容。決して深く掘り下げることができる分量ではなく,すでに知っている内容もあったが,理解を深めるための参考図書なども示されている。 続きを読む
投稿日:2015.04.05
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真っ赤なウソ
養老孟司 / PHP文庫
現代日本のあたりまえの日常が当たり前に見えなくなるあたりまえの本。
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「バカの壁」でベストセラーとなった著者の,続編のような書らしい。「バカの壁」を読もうかと思って某サイトのレビューで本書を先に読むことを進めていたので購入。読みやすい文章であるが,内容は決して浅くない。…自分の中でもやもやしていた感覚に一部形を与えられたと思った。一神教の論理が現代日本人の心性にどれだけ影響しているか,また仏教の現代的な価値についても言及している。個人的にわが意を得たりと感じたのは『「頭に個性がある」と困る』という章。昔の日本人は成長とともに名前が変わり,自分という人間も時間とともに変わるという感覚が普通だったが,現在の日本人には『変わらない私」なんていう前提がある』。それが末期の延命治療などとも関連しているという指摘は,個人的にはかなり興味深かった。現代の日本のいろいろな問題の根本には,日本人特有の心性の問題があるという視点はかなり刺激的である。憲法9条に関するコメントも,思わずにやりとさせられた。
作者の考えは,ごく平易で,複雑な論理や極端な飛躍はなく淡々と進む(ように思う)。あたりまえでないのは,自分を含めた現代日本の大多数なのかも,と思わせられる。平易な文章に込められた知的刺激。古くて新しい仏教が再び,日本人にとってもっと身近なものになればよいと思う。 続きを読む投稿日:2015.07.14
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ふたりの証拠
アゴタ・クリストフ, 堀茂樹 / ハヤカワepi文庫
痛切な,孤独
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『悪童日記』の続編。前作では,主人公の二人は自らの感情を一切記さず,あらゆる事柄を冷静に見つめ,冷戦下の世界の中で翻弄される人々の姿をいわば超越者の目で見つめていた。母や父の死も含めて人の死はショッキ…ングなまで軽く淡々と扱われた。本作では主人公の二人は別れ別れになっており,別の孤児とのかかわりから,超越者の座から地上に降りたように感じられた。孤児の死を通じて描かれる,救いのない孤独。人間の孤独ということをこれほどむき出しに,痛切に描いた作品を評者は知らない。『第三の嘘』も購入したが,読み終わるのがもったいなく,まだ読み始めていない。 続きを読む
投稿日:2016.08.23
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王妃の離婚
佐藤賢一 / 集英社文庫
時代は変わっても;男と女と愛と結婚。
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佐藤賢一の著作を初めて読んだ。これまでの本のタイトルだけを見て,雰囲気で重厚な歴史小説を書く人なのかしらと漠然と思って頭の片隅に入れつつ,これまで読む機会がなかった。海外出張の機内で読む本を探していて…,ふと思い立って購入。読みはじめ,モノローグの多い,悪く言うと言い訳がましいような女々しいような文体がやたらに鼻について,失敗かと思った。個人的にはもう少し自分語りの少ない文体が好きだなと。ただ読み進めるうちに文体はあまり気にならなく,内容にそれなりに入り込むことができた。ストーリーは,ブルボン王朝時代のフランスを舞台に,かつて天才学生の名をほしいままにしたひねくれ者の弁護士が,国王ルイ12世から離婚の訴えを起こされた王妃の弁護に立ち上がり,権力に華々しく立ち向かう法廷ドラマ・・・・・・というところ。合間合間に主人公の過去が少しづつ明かされ,最後には不思議な運命のめぐりあわせも明かされ(でもなんとなく予想がついた),という感じで,難をつけるなら話がそつなくまとまりすぎている感じがあること。上述の文体の問題は,主人公の姿勢(当初はひねくれて無気力だが,中盤から自分のプライドと王妃のために立ち上がり生き生きと法廷で闘う)と照応しているよう・・・・・・でもあるが,違うかも。著者の他の作品を読んで,結論は出そうと思う。 続きを読む
投稿日:2015.05.21
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BECK(12)
ハロルド作石 / 月刊少年マガジン
ロックのレジェンドに導かれて
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本巻の1話目の扉は『ヨシュア・ツリー/Joshua Tree』。全米チャートでNo.1を獲得し,U2を一躍ビッグ・バンドに押し上げたこの記念碑的なアルバムと,そのツアーを追ったドキュメンタリー『魂の…叫び/Rattle and Hum』(と同名のアルバム)でU2はアメリカン・ルーツミュージックへの傾倒を示し,B・B・キングと共演したり,プレスリーの墓参りをしたりしている。
グレイトフル・サウンドで傷だらけになりながら「最後の」ライブ・パフォーマンスを行い,そのまま分解してしまっていたBECKのメンバーも,竜介という水先案内人を欠いたまま,よちよち歩きの再出発を果たし,本巻からアメリカ・ツアーへ旅立つことになる。
U2が上述の2作品を経てまったく違う形に生まれ変わったように,この世を去ったロックのレジェンドたちの夢に導かれて,アメリカ・ツアーはいくつもの意味でBECKにとって再生の旅となる。
漫画という表現手段でここまで音楽を表現できるものか。どれだけ頑張って実写映画化しても,原作で心揺さぶられた読者の魂の中で鳴り響く自由なサウンドは表現できないと思ってしまう。毎回の名盤のパロディ扉絵にも現れる作者のロックへの愛情と深い造詣,そして何より漫画家としての力量によって生まれた,音楽を使わずに音楽を表現することが無限の自由を生む,稀有なシリーズ。 続きを読む投稿日:2015.07.09
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ユリウス・カエサル ルビコン以後──ローマ人の物語[電子版]V
塩野七生 / 新潮社
共和制ローマの極点
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作者にとって一番愛着のある人物がユリウス・カエサルであり,カエサルを描いた前巻と本巻はいわば作者からカエサルへのラブレターのようにも思える。実際以上に美化されているのかどうかは評者にはわからないが,確…かにここで描かれるカエサルはカッコいい。ここに至る共和制ローマを支えた人-多くは名もなき一人ひとりが,個々の能力は別として,共同体を重んじつつ,常に粘り強く前進し続けてきた,ある意味精華がカエサルという一人の人間であるとも感じられる。自分に反対するものを決して排斥せず,むしろ自由な意見を尊重するそのありようは,広く現代人も範とすべきである。凶刃の前に倒れる際の描写は思い出すだけで涙。暗殺者たちはカエサルを葬ったことで自らが恐れていた未来を開いてしまった。それはローマの転換点ではあるが,歴史の必然でもあったのだろう。
圧倒的な歴史の前に,その重みを知るものはけして饒舌にはならない。この作者の抑制された筆致でこそ描き出されたローマ人の,人間の物語。1巻だけで放り出してしまった人には,途中からでも是非おすすめしたい。 続きを読む投稿日:2015.07.09